蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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第41話 この子達はうちの子にします。文句がある奴はかかって来い

 ブタ野郎は逮捕された。

 俺がヤツを殴り倒した後、物音を聞いて船員達が船長室にやって来たのだが、彼らと一緒に海上警備隊の副長、グレイグ=バーンスタインがやってきたのだ。

 俺はその場で、彼らにブタ野郎を殴った事とその理由を話したところ、大騒ぎになった。

 

「クソ野郎なのは分かっていたが、まさかそこまでのゲスだったとは」

 

「あんな奴に雇われていた事が恥ずかしい」

 

 等と悲嘆にくれる彼らを宥めている間に、グレイグがブタ野郎を拘束していた。

 手加減したとはいえ、俺の必殺エルフパンチを顔面に食らってブタ野郎が死にかけていたので、回復魔法で最低限の治療を施してやる。

 

「アルティリア様。この男が運んでいた積荷ですが、違法な密輸品の可能性がある為、調査をさせていただきたいのですが」

 

 それに関しては別に俺の許可とかは要らないと思うので任せると答えて、グレイグや後から入ってきた海上警備隊の人達が調査をしている間に、俺はアレックスとニーナを連れて、船内の食堂へと向かった。

 

「この子達にスパゲッティを食わせてやりたいんですが構いませんね!」

 

「「「!?」」」

 

 船員に断りを入れてから、俺はかまどの前に立った。

 まずは寸胴鍋に水をたっぷり入れて、お湯を沸かしたら作り置きしておいたパスタを投入して茹でる。

 さて、スパゲッティと一口に言っても様々な種類があるが、その中から何を作るかが問題だ。

 まず、食べさせるのが小さなお子様なので、辛くて刺激の強いのは避けるべきだろう。後は複雑な味わいの物よりは、シンプルにわかりやすく、子供にも食べやすくて美味しいのが望ましい。

 というわけで、今日使うのはこちら。トマトやバジル、挽き肉などを使って作っておいた自家製ミートソースだ。パスタを茹でている間に、これを隣のかまどでフライパンを使って温める。

 パスタが茹で上がったら皿に盛りつけ、その上に温めたミートソースをかけて完成だ。

 俺はアレックスとニーナの兄妹を食卓につかせて、彼らの前にミートソース・スパゲッティの皿とフォークを置いた。

 

「さ、どうぞ」

 

 美味しそうな料理に目を奪われる二人だったが、どうやって食べればいいのか分からないのか、手に取ったフォークをじっと見つめている。どうやらスパゲッティを食べるのは初めてのようだ。

 俺は予備のフォークを取り出すと、ソースの絡んだスパゲッティを、彼らの前でフォークにくるくると巻き付けて見せる。

 

「こうやって食べるんだ。はい、あーん」

 

 アレックスの前にスパゲッティを巻いたフォークを差し出すと、しばらくそれを見つめた後に食い付いた。

 ミートソース・スパゲッティが口の中に入ると、アレックスはその味に驚いた様子で目を見開いて固まっていたが、やがて咀嚼し、飲み込んだ後に一言、

 

「うまい」

 

 とだけ呟いて、凄い勢いでスパゲッティを食べ始めた。

 そこで隣のニーナを見てみると、彼女は俺が持っているフォークをじっと見つめていた。

 ……もしかして、食べさせてほしいのだろうか。そう思ってニーナの皿からもフォークでスパゲッティを取って、彼女の前に差し出してみると、嬉しそうな笑顔を見せて、ぱくりと口に入れた。

 俺は今世は勿論だが、前世でも結婚はしておらず子供も居なかったので、小さいお子様の相手をするのは、あまり慣れていないのだが……

 こうやって自分のした事で子供を笑顔にさせられるのは、うん……なかなか良い気分である。

 

 あっという間に山盛りのスパゲッティを平らげて、口元にトマトソースを付けた二人の顔を拭いていると、グレイグと警備隊員が食堂にやって来た。どうやら調査が終わったようだ。

 

「どうでした?その様子だと聞くまでもなさそうですが」

 

「クロですな。積荷は一見ただの石像でしたが……」

 

「石像……ふむ、中が空洞で、粉でも入っていましたか?」

 

「流石のご明察でございます」

 

 まあ常套手段だからな。しかし違法薬物か……俺に使おうとした媚薬もその類の物だったりするのだろうか。

 

「ひとまず奴を逮捕し、グランディーノまで連行します。船員達にも事情聴取を行なう必要がありますので、彼らにも同行して貰う必要があります」

 

「わかりました。しかし彼らは積荷については知らない可能性が高いので、手荒な真似はせずに任意同行という形にするといいでしょう。必要ならば私が説得します」

 

「かしこまりました。もしも必要になった時はよろしくお願いいたします」

 

「ええ。それと昼食にパスタを茹でたので、貴方達も今のうちに食べておきなさい。町に戻ったら忙しくて食べる暇もないでしょうし」

 

「なんと……! ありがたく頂戴いたします!」

 

 俺は船員達と警備隊の面々にも、ミートソース・スパゲッティを振舞った。

 

「こっ、これはあああああ! うまい、うますぎる……!!」

 

 グレイグは一口食うなり椅子から立ち上がり、口からビームでも出しそうなくらいのオーバーリアクションで料理を絶賛していた。

 

 さて……その後どうなったかといえば、まずブタ野郎は違法薬物の密輸で1アウト、俺に対して媚薬&睡眠薬入りのお茶を飲ませて事に及ぼうとした罪で2アウト、最後にローランド王国……というか大半の国で禁止されている奴隷を国内に連れ込み、奴隷として取り扱った事で3アウト、ゲームセットだ。

 本人に重い罰が下されるのは当然として、奴の所属する商会に対してもローランド王国からの正式な厳重抗議がされるようなので、それに加えて俺からも遺憾の意を表明するお手紙を出しておいた。

 

 船員達は事情聴取を受けた後に、知らなかったとはいえ違法行為に加担した罪によって厳重注意を受けた上で奉仕活動を命じられ、グランディーノの港で労働に勤しむ事になった。

 キツい肉体労働ではあるが最低限の給料は出るし、宿泊場所も手配されているので食うのに困る事はないだろう。

 むしろ本人達は、グランディーノで働ける事を喜んでいるようだった。今までの職場はそんなに劣悪な労働環境(ブラック企業)だったのだろうか。

 

 そして最後に、アレックスとニーナの兄妹だが……

 まず、モグロフが所有する奴隷という身分からは解放された。

 二人が着けていた黒い首輪は、『隷属の首輪』という奴隷契約を行なうためのマジックアイテムで、それによって彼らは奴隷の身分に縛り付けられていたのだが……その首輪は、俺が『解呪(ディスエンチャント)』で契約を破棄した後に全力の『物品破壊(ブレイク・オブジェクト)』によって消滅させた。

 こうして、二人は晴れて自由の身となったわけだ。

 しかし、ここで問題がひとつ。

 二人はまだ幼い子供であり、他に家族も居ないのだ。

 聞くところによれば、物心ついた頃には既に親は居らず、無法都市と呼ばれるダルティの町にある、スラム街でストリートチルドレンのような暮らしをしていたそうだ。

 残飯漁りやスリ等をしてその日の糧を得ながら、兄妹二人きりで何とか生きていた彼らは、ある日ドジを踏んで捕まり、奴隷として売られてしまい、モグロフに買われたそうだ。

 

 そういった次第で、自由の身になったのは良いが家族も行き場所も無い二人が、その後どうなったのかと言うと……

 

「というわけで、今日からこの二人はうちの子になりました。皆も仲良くしてあげるように」

 

 と、今まさに神殿に常駐している水精霊(ウンディーネ)達に紹介しているように、俺が引き取って育てる事にした。

 なんか懐かれちゃったし、放っとくわけにもいかないし、何より俺がこの二人の事を好きになっちゃったので、そういう事になった。

 

「なるほど。何故そうなったのかは分かりませんが分かりました」

 

「一応聞きますが、犯罪性は無いのですね?」

 

「ほう……ケモ耳幼児ですか。大したものですね」

 

「これで勝つる」

 

 ええい、うるさいぞ水精霊共。

 こいつら最初の頃は真面目っぽかったのに、最近はだんだん俺への態度が適当になってきたし言動がアホっぽくなってきているのは何なんだろうか。

 

「いいから子供部屋の用意と歓迎会の準備をしなさい。はよ」

 

 そんなわけで我が神殿に、新たな住人が二人加わったのだった。

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