蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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第64話 大型新人加入!?※

 ロイド=アストレアは、女神アルティリアに仕える海神騎士団の団長を務める、神殿騎士である。

 紆余曲折の末に海賊に身を堕とした彼とその部下達はある日、女神に命を救われた。それ以来、改心した彼らは世の為人の為、そして敬愛する女神の為に、身命を賭して戦ってきた。

 そして、心身共に成長したロイドは先の魔神将との戦いでは、魔神将の腹心であるA級魔物(モンスター)、『紅蓮の騎士』を一対一の決闘の末に討ち破るという大手柄を上げたのだった。

 とはいえ、手放しで喜んでばかりもいられない。肝心の魔神将との戦いは女神に全て任せる事になってしまったし、彼女の話によれば、あのフラウロスとはまた別の魔神将が、虎視眈々とこの世界を狙って裏で動いているらしい。

 

 また、紅蓮の騎士を倒した際に女神に授かった愛刀を折ってしまったのも、ロイドにとっては痛恨の極みであった。非常に優れた性能の武器である事も勿論だが、女神に下賜された品を破損させてしまったという事実、それ自体が許し難い事である。

 しかし、それを隠し立てする等という不誠実な真似は、尚更許されない。ロイドは意を決して、女神にそれを告白したのだが……

 

「いいでしょう。私に任せなさい」

 

 懺悔じみた武器破損の報告を受け、折れた村雨を受け取ったアルティリアは、事も無げにそう言った。

 

「修理できるのですか!?」

 

 刀身の真ん中あたりから、真っ二つに折れた刀である。ロイドは正直、修復は不可能であると思っていた。

 

「修理……とは違いますね。完全に折れていますし、元通りにするのは不可能です」

 

「そう……ですよね。いえ、それでもまた使えるのであれば……」

 

 アルティリアの言葉を聞いて落胆しそうになるが、気を取り直してロイドはアルティリアに、可能な限り修理して貰うように頼もうとしたが、

 

「なのでこれを(ベース)にして、もっと強い刀を作ります」

 

「えっ」

 

「それに、これを貴方に与えた時には、武器の性能が貴方の力量(レベル)よりも相当上でしたが……今はその逆で、武器の性能が今の貴方の力量に対して、やや物足りない感じになっています。交換する頃合いとしては丁度いいでしょう」

 

 ロイドはこれまでの数多くの激闘や、過酷な訓練、そして決闘によって紅蓮の騎士に勝利した得難い経験により、大幅なレベルアップを果たしていた。

 それによってレベルも110を超え、LAO基準でも一線級の実力に達している。村雨も決して悪い武器ではないが、このまま成長を続ければ、いずれロイドの力量に追いつけなくなるだろう。それを見越して、アルティリアは新たな武器を作る事を提案したのだった。

 

「というわけでロイド、材料は貴方が用意するように。購入しても良いし、自分で採集しても構いません。そこは貴方に任せます」

 

 そんな命令を受けて、騎士団の宿舎に帰ったロイドは団員達を集めて話し合い、その話し合いの結果、次の日には……

 

「みんな鶴嘴(ピッケル)は持ったな! 行くぞォ!」

 

 ロイドの号令と共に、鶴嘴を担いだ数十人の男達が、洞窟へと突入した。彼らはロイドの部下である神殿騎士と、グランディーノの町を拠点とする冒険者達である。

 武器を作る為の素材をどうやって調達するかを話し合った際に、海神騎士団の団員達の中にも、武器や防具を強化・新調する為の素材を欲している者が多く居た事が判明した。

 ついでに冒険者組合に顔を出し、冒険者達に話を聞けば、やはり彼らも装備を強化したいと考えていた為、それならばと合同で素材探しの冒険に出かける事になったのだ。

 海神騎士団の約半数と、冒険者のパーティーが数組という大所帯となった彼らが向かったのは、レンハイムの町の南にある火山洞窟であった。ほんの数週間前に女神と共に進入し、紅蓮の騎士との決闘を演じたあの洞窟だ。

 

「頭上や足元に注意しろよ、溶岩に落ちたら助からんぞ。それと中は相当暑いから、水属性の魔力でシールドを作って熱気を防ぐんだ」

 

 紅蓮の騎士やフラウロスを打倒し、この地方を襲っていた火属性の異様な活性化が無くなった事で、気候は元に戻り、この火山洞窟もかつてのような異常な暑さではなくなった。

 しかし、溶岩の流れる洞窟内が他の場所よりも高温である事は間違いない為、暑さ対策は必須であった。

 

 このダンジョン内の壁や通路に希少な鉱石が点在していたのは、以前探索した時に確認済みである。その時は先を急いでいたので残念ながら無視して進んだが、今回こうして採集する機会に恵まれたというわけだ。

 道中の魔物もなかなか強力であり、希少な鉱石を採取しつつ経験値稼ぎ(レベリング)も出来る為、しばらく通うのも良いと彼らは思った。

 

 魔物を討伐して採集物(ドロップ品)を拾いながら、彼らは鉱石のある場所まで辿り着くと、おもむろに鶴嘴を振るって採掘を試みた。

 その結果……

 

「鉄だ! 良質な鉄鉱石がボロボロ出てるぞ!」

 

「ふっ、甘いな。こっちはレアな銀鉱石を見つけたぞ」

 

「うおっ、何だこれは!? 赤みがかった色の、透き通った水晶みたいな石が出てきたぞ! しかも中から強い火属性の魔力が感じられる!」

 

「何ぃ!? ちょっとよく見せてくれ!」

 

「う、うわああああああ!?」

 

「どうした!? 魔物か!?」

 

「ち、違う! ミスリルだ! 地面を掘ったらミスリル鉱石が出た!」

 

「何だとぉぉぉ!?」

 

 アルティリアの加護によって採集スキルにプラス補正がかけられている事もあって、彼らは良質な鉱石を大量に入手できたのだった。

 更にダンジョン内の魔物からのドロップ品や、ダンジョンに流れ着いた財宝の入った宝箱からも多くの有用なアイテムを入手する事が出来た。今回の遠征は大成功といって良いだろう。

 しかしそれも、無事に戻れたらの話だ。最後まで気を抜かないように指示し、ロイドは彼らを率いてダンジョンの奥へと向かった。

 

 そしてロイド達は、大きな扉のある部屋へと辿り着いた。そこは以前、紅蓮の騎士と決闘をした大部屋だった。

 その部屋の中心には、一本の剣が地面に垂直に突き立てられていた。赤い色の金属で出来た、ブ厚く長い刀身を持つ両手剣だ。刀身に罅が入って損傷しており、持ち主は不在であるが、それでもなお強い存在感と威圧感を放つ大業物。紅蓮の騎士が使っていた大剣だった。

 

「あいつの剣か……。むっ、これは?」

 

 その大剣が突き立てられている場所のすぐ近くに、掌に丁度収まる程度の大きさの球体が転がっていた。傷一つない、真っ赤な球だ。金属のように堅いが、それとは違う未知の材質で出来たそれは、淡い赤色の光を放っていた。

 

「クリストフ、これが何かわかるか?」

 

「……いえ、私もこのようなものは初めて見ました。魔石と似ていますが、中に込められている力は比べ物になりません。恐らくはあの、紅蓮の騎士ゆかりの品と思われますが……」

 

「そうか……」

 

 悩んだ末に、ロイドはその球と、紅蓮の騎士が使っていた大剣を持ち帰る事にした。

 無事にダンジョンを脱出し、希少な鉱石とダンジョン内の財宝を持ち帰った彼らは、レンハイムの町で一泊する事にした。

 レンハイムの町は、空前のお祭りムードだ。魔神将が現れた時の、この世の終わりのような光景を目にした住民達は、最早これまでと諦めに心を支配された。しかし女神がただ一人で魔神将に立ち向かい、彼らを逃がした。

 孤立無援の状況で絶望的な強敵に立ち向かう女神の姿を目にした彼らは、その優しさに応える為にも、誰一人として死なせず、石にかじりついてでも生き延びようと必死に逃げ延びながら、女神の無事と勝利を祈り続けた。

 

 そして、奇跡が起きた。魔神将は女神の手によって討ち滅ぼされ、半月ほど時間は空いたが、女神も無事に戻ってきた。

 魔神将討伐から女神の帰還までの期間は、住民達は彼女の身を案じつつも、それを押し殺して復興に精を出していた。しかしグランディーノに再び女神が降臨したとの知らせを受けた時、彼らは弾けた。

 戦勝&女神復活のお祭り騒ぎでテンションがMAXまで振り切った彼らによって、レンハイムの町は王国内の他の都市がちょっと引くレベルの速度で急発展していた。そしてグランディーノの町は勿論、周辺の町や村も同じような状態になっている。

 それによってケッヘル伯爵領は、GDPが去年の数十倍で王都に迫るレベルという、ちょっと頭がおかしい事になっているのだった。

 ちなみにアルティリアと魔神将フラウロスが戦ったレンハイム近郊の草原は、アルティリアが最後に放った攻撃の影響で巨大な湖になっており、新たな観光名所として話題となっていた。今後その湖は遠方からも多くの観光客が訪れるようになり、それによってレンハイムの町は更に潤うのだった。

 

 レンハイムの町で一泊し、翌日の早朝に出発したロイド達は、数時間後にグランディーノへと帰還した。

 冒険者達と別れ、騎士団宿舎へと戻ったロイドは風呂で身を清め、旅の汚れと疲れを落とした後に、騎士団の制服(騎士団長バージョン)をしっかりと身に付けて、神殿へと足を運んだ。

 

「アルティリア様、ロイド=アストレア以下、神殿騎士十六名、只今戻りました」

 

「お帰りなさいロイド。それで収穫はありましたか?」

 

「はっ、希少な鉱石を数多く入手する事が出来ましたので、これから金属に加工いたします。また、それとは別に……このような物を見つけました」

 

 ロイドはアルティリアに、大剣と赤い球体を差し出した。

 

「……これは」

 

 大剣については、壊れかけてはいるが紅蓮の騎士が愛用していただけあって中々の性能で、修理さえすればまた使えるようになるだろう。重さや大きさが相当な物なので、使える者は限られるだろうが。

 しかし、そっちは言ってしまえばただの剣なのでどうでもいい。問題は真っ赤な球体で、アルティリアはそれに見覚えがあった。

 

「やはり、魔物の核(モンスター・コア)か」

 

 魔物の核(モンスター・コア)は、モンスターという存在の根幹となる物で、人間でいえば心臓や脳のような物である。

 核さえ残っていれば、死んで肉体を失った魔物もいずれ再生は可能である。

 とはいえ、大抵は死亡時に核も同時に砕け散る為、これが残る事は滅多に無いのだが……ごく稀に、強力なモンスターが死亡した時に、無傷のままの核がドロップする事があった。

 そして、その使い道を、アルティリアは知っていた。

 

「では、これらは私が預かりましょう」

 

 ロイドから魔物の核を受け取ったアルティリアは、それを持って神殿の奥へと戻っていった。

 

 退出したロイドは、自室に戻って作業服に着替えた後に、騎士団宿舎内にある工房にて、溶鉱炉で採ってきた金属を精錬する作業に没頭していた。アルティリアの教えにより、彼らは一通りの生産活動が出来るように教育されており、宿舎には立派な工房がある。それを使って騎士達は日夜、自分達が使う装備やアイテムの製作や強化を行なっている。

 その作業を終えて、シャワーを浴びた後に、騎士達と一緒に食堂で夕食を食べた。

 本日のメニューは山菜やキノコを使った炊き込みご飯と、脂の乗った秋刀魚の塩焼き、大根おろし、野菜の漬物、そして豚汁であった。フラウロスが倒されて以降、気候は元通りになって、すっかり秋らしくなった。そんな秋の味覚をふんだんに使った和食の献立に舌鼓を打ち、少し休憩したら訓練でもするかと考えていると、騎士団の宿舎にアルティリアが訪ねてきた。

 慌てて身なりを正して集合する騎士達に、アルティリアは言った。

 

「突然ですが新入りを紹介します。入ってきなさい」

 

 その言葉に従い、一人の人物が宿舎に入ってきた。その姿に、ロイド達は見覚えがあった。

 

「なっ……紅蓮の騎士!? アルティリア様、これは一体……!?」

 

 そう、入ってきた人物とは、赤い全身鎧と顔全体を覆い隠す兜を身に付け、背に巨大な両手剣を背負った巨漢。見間違える筈もない、あの紅蓮の騎士であった。

 しかし以前見た時とは少々、鎧のデザインが異なっており、赤色がベースになっているのは共通しているが、所々に青色のラインが入っているのが分かる。

 

「違います。彼は新人騎士のスカーレット=ナイト君です。貴方達の後輩になるので仲良くするように」

 

「新人のスカーレット=ナイトである。よろしく頼むぞ人間達よ」

 

 仁王立ちしてこちらを見下ろしながら、臆面もなく堂々と宣言するその声は、紅蓮の騎士のものであった。そしてこの自称新人、身長と武器と態度がでかい。

 

「アルティリア様、これは一体どういう事でしょうか」

 

「えっ? だから新人だって……」

 

「いやどう見てもあいつ紅蓮の騎士でしょう!? 何をどうやったら奴が新人騎士などという事になるのですか!?」

 

「チッ、流石に誤魔化されないか……まあいい、ならば説明しましょう」

 

 アルティリアの説明によれば、ロイドが持ってきた赤い球体……死んだ魔物が残した核は、魔力を注ぎ込む事でその魔物を復活させ、仲間にする事ができるレアアイテムであり、それを使って紅蓮の騎士を復活させたとの事だ。

 

 そして復活させた彼と話をしたところ、最初はアルティリアや、この町の者達と敵対した自分が仲間になる訳にはいかないと断ったのだが、そんな彼にアルティリアは、人を傷つけたんならその何十倍、何百倍もの人を護って幸せにすればええやろがい! それが騎士ってモンだろ!(意訳)と説得し、紅蓮の騎士はその言葉を受けてアルティリアに仕える騎士となる事を選んだのだった。

 それを聞いたロイドは、かつて紅蓮の騎士と呼ばれていた男に問う。

 

「問おう。人間達に害する意志や、敵対した俺達に対する怒りや憎しみは無いのか?」

 

「無い。今の我は女神アルティリアによって再構築された存在である故、かつてのような人間に対する敵対心は失われている。また、かつての敗北は騎士として正々堂々と戦った結果。恨みなどあろう筈もない」

 

「続けて問おう。お前の望みは何だ? 何の為にお前は再び生を受け、戦う事を選んだのだ?」

 

「騎士道に殉じ、騎士として正々堂々と戦い、そして今度こそ、騎士として死ぬ為に」

 

「ならば最後に聞こう。女神アルティリア様の忠実なる信徒として、力無き民を守護する騎士として、己が信じる騎士道に恥じない生き方をする事を誓えるか」

 

「誓おう。我が名はスカーレット=ナイト。女神アルティリア様に仕える騎士にして汝らの同胞、天下万民を守護する騎士として生まれ変わる事を、ここに宣言する」

 

「ならばよし! 海神騎士団団長ロイド=アストレアの名に於いて、神殿騎士スカーレット=ナイトの入団を正式に許可する! 異議ある者は今すぐに名乗り出よ!」

 

「「「「「異議無しッ!!」」」」」

 

 こうして、海神騎士団に紅蓮の騎士改め、新人神殿騎士スカーレット=ナイトが加わったのであった。

 

 後日、そんな彼を紹介する為に、ロイドが冒険者組合へと連れていったところ、かつて町を襲撃しに来た紅蓮の騎士を目にし、実際に戦った事のある冒険者達の間で軽くパニックはあったものの……

 

「えっ、ちょっ、紅蓮の騎士……!? 何で……!?」

 

「違います。新人のスカーレット=ナイト君です。紅蓮の騎士じゃないです」

 

「……マ?」

 

「他人の空似です」

 

「………………」

 

 冒険者達はしばらくロイドとスカーレットを交互に見比べた後に、まあ実際に戦って倒したコイツが言うんなら、そういう事でええか……と、考えるのをやめた。

 

「「「「「冒険者組合へようこそスカーレット君! はじめましてよろしくね!!」」」」」

 

 そういう事になった。


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