蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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第68話 どけ! 俺はお母さんだぞ!

 巻物の効果で転移した俺は、見知らぬ場所へと転移していた。周囲を観察すれば、すぐ近くに立派な城が建っているのが見えた。

 ニーナの気配を探ってみると、どうやらあの城の中に居るようだ。俺は早速、城に足を進める。急ぎ足で城門に向かうと、そこには門を守護するトランプの兵隊と、彼らと対峙するようにして門に視線を向けている、動物型の魔物達の姿があった。

 

「止まれ! 何者だ!?」

 

 槍を構えたトランプ兵達が俺を見つけ、そう言って俺の行く手を阻んできた。

 

「ニーナの母親だ。うちの娘が迷子になったようなので、引き取りに来た。門を開けてくれ」

 

 俺はそう言って、通すように要求したのだが、それに対するトランプ兵達の反応は……

 

「ならぬ! 何人もここを通すなという命令が出ており、女王様は現在取り込み中だ!」

 

 という、強硬なものだった。

 

「ならば今すぐニーナを返してもらおうか。娘を返してくれるなら用は無い。大人しく引き返そうじゃないか」

 

「……そのような娘は知らぬ!」

 

 改めてニーナを返すように要求したが、兵士は知らぬ存ぜぬと言い張った。しかしニーナがこの城に居る事はわかっている。

 よって、こいつらは悪意をもって俺に嘘をついている、敵である事が明白となった。

 ならば実力行使だと、俺は三叉槍を取り出して構えたのだが、その前に、

 

「グルァアアアアアッ!」

 

 魔物達が、一斉に怒号のような咆哮を上げながら、兵士達に襲い掛かった。

 いきなり魔物に噛みつかれた事で、兵士達はパニックになりながら悲鳴を上げている。

 

「お前達、もしかしてニーナと一緒にここに来たのか?」

 

 ニーナのメイン職業(クラス)魔物調教師(テイマー)である事や、この魔物達が兵士達と敵対しているように見えた事、そして兵士の嘘に反応して襲い掛かった事から俺はそう推測し、魔物達に訊ねてみた。すると、魔物達は俺の問いに対し、喉を鳴らしたり、鳴き声を上げたりしながら頷いた。

 

「ならば一緒に来なさい。ニーナを迎えにいくぞ」

 

 言いつつ、俺は槍を振るう。目にも留まらぬ高速の穂先が生み出す真空波と共に、水を薄い刃状にして放ち、城門の扉を切り刻んでバラバラに解体する。

 

「行くぞ」

 

 城門を超え、城内へ。俺は広いエントランスホールへと足を踏み入れた。すると、

 

「曲者!」

 

「ものども、であえ、であえ! 侵入者を捕えよ!」

 

 どこから出てきたのか、トランプ兵の大群がワラワラと集まってくる。

 

「どけ! 俺はお母さんだぞ!」

 

 槍を横薙ぎに一閃し、突っ込んできた十数人の集団を纏めて吹き飛ばし、同時に後ろで弓を構え、番えた矢をこちらに向けていた部隊の頭上に大水球を落として壊滅させる。

 

「馬鹿な、一瞬だと!?」

 

「なんという強さと乳のでかさだ……数字の小さい兵士では相手にもならぬ……」

 

「くっ、こうなったら仕方がない、絵札の皆様をお呼びしろ!」

 

 次に出てきたのは、ハートのジャック、クイーン、キングのトランプが胴体になった、一回り大きなトランプ兵達だった。

 

「侵入者よ、なかなかやるようだがここまでだ」

 

「我らが来たからには、貴様の命運ももはやここまで」

 

(ナイン)10(テン)。お前達も来い。あれをやるぞ!」

 

 ハートの9と10も戦列に加わり、5体のトランプ兵が横一列に並んだ。

 

「くらうがいい、我らの最強の奥義! 『ストレート・フラッシュ』!!」

 

 赤、青、黄、緑、白の五色の光線をそれぞれが放ち、それを一つに束ねた虹色のぶっといビームになった。それが俺に襲い掛かってくる。なるほど、5体のモンスターによる合体技であり、ポーカーでも最強クラスの役の名を冠するだけあって、なかなか大した威力のようだ。

 

「はい『水鏡反射(リフレクト・ミラー)』」

 

 だが無意味だ。

 そんな出が遅い上に反射無効も付いてない技が俺に効くわけがなかろう。

 

「「「「「グワーッ!!」」」」」

 

 魔法で跳ね返された自分達のビームが直撃し、5体の上級トランプ兵が無惨に爆発四散した。

 

「ば、馬鹿な……絵札の方々があっさりと……」

 

 それを目撃した下級トランプ兵が絶望に膝を付き、これで終わりかと安心しかけた時だった。

 

「やれやれ、情けない奴らだ」

 

「しかしこうなった以上、我々が出る他あるまい」

 

「トランプ兵の中でも最強の我らがお相手しよう」

 

「侵入者よ、覚悟するがいい!」

 

 現れたのは、スペード、クラブ、ダイヤ、ハートの図柄を持つトランプ兵が1体ずつ。それぞれの図柄はバラバラだが、数字は統一されていた。その数字はトランプの中でも最強……すなわち、(エース)であった。

 四体のエースが、俺を四方から取り囲む。

 

「待ちな! この敵はお前達四人をもってしても厳しいだろう。ここは俺も手を貸すぜ」

 

「あ、貴方は……ジョーカー隊長!」

 

 更にジョーカーの絵柄を持つ、特に強そうな1体のトランプ兵が増援として現れた。

 

「行くぞ! 皆の心と力を一つに合わせるのだ! そうしなければ奴には勝てぬ!」

 

「はい、隊長!」

 

「「「「「『ファイブ・オブ・ア・カインド』!!」」」」」

 

 まるで戦隊ヒーローみたいなやり取りの後に、合体技を繰り出してくる四体のエースとジョーカーだったが、

 

「『激流衝(アクア・ストリーム)』!」

 

 残念ながらこいつらはただのモンスターであり、何百匹集まろうが俺に勝てるような相手ではない。上級魔法一発で吹っ飛ばして終わりだ。

 まあ俺に上級使わせただけでも大したもんじゃないかね、うん。

 

「無駄に時間を使わせられたな。急ぐぞ」

 

 周りの雑魚共も纏めて吹き飛ばし、無人となった大広間を後にして、俺は城の奥へと進んだ。

 時々、散発的に襲ってくるトランプ兵を瞬殺しながら進撃し、やがて俺はニーナが居るであろう部屋まで辿り着いた。

 扉にかかっている施錠の魔法を解除し、勢いよく開いた。その瞬間、俺の目に映ったものは……

 

「玉兎破岩拳!」

 

 両サイドから襲い掛かろうとしていた地獄の道化師(恐らく分身体)に奥義を放つ、白い兎の着ぐるみであった。

 

「う、兎先輩……!?」

 

 特徴的すぎて見間違えようもないその姿は、俺がよく知る超一級廃人、兎先輩に間違いない。しかし、どうして兎先輩がここに……?

 

 小兎化した地獄の道化師をケージに納めた兎先輩は、そこで部屋の入り口に立つ俺へと視線を向けた。

 

「やあ、久しぶりだねアルティリア君。だが旧交を温める前に……ニーナ君、お母さんが迎えに来たよ」

 

「あ、ママー!」

 

 ニーナが俺を見て駆け寄ってきて、胸にダイブしてきたのをしっかりと受け止める。どうやら怪我は無く、無事な様子を見てほっとした。

 

「助けに来るのが遅くなってごめんな。でも今度からは、一人で変なのについて行ったら駄目だぞ。せめて誰かに声をかけて一緒に行くように。いいね?」

 

 ニーナが俺の胸に顔を埋めたまま頷くのを見て、俺は兎先輩に向き直った。

 

「兎先輩、この度はうちの娘が大変お世話になりました。なんとお礼を言えばいいか……」

 

「気にする必要はないさ。後輩を助けるのは先輩の役目だからね」

 

 頭を下げて謝意を伝える俺に、兎先輩は気にするなと言い、着ぐるみを着ているので表情は変わらないが微かに笑ったように見えた。

 

「しかし兎先輩、どうしてここに?」

 

 どうやってここに来たのかはあえて聞かない。この人は恐らくキングと同類で、常識が通用しないタイプの御方だ。

 

「キングだからだ!」

 

 という、キングがよく口にするあれと同じで、

 

「先輩だからね」

 

 と返されるのがオチである。だが、手段はともかくとして理由は気になるところだった。

 

「うみきんぐ君のところに依頼の品を納品しに行った時に、困っているようだったからね。聖域から動けない彼の代わりに、先輩が動いたという訳さ。久しぶりに君にも会いたかったしね」

 

「そうでしたか……キングにも世話になりっぱなしだな。今度改めて礼をしないと……」

 

「彼にとっては、君達が元気でいる事が一番のお礼だろう。仲間と離れて見知らぬ土地で神様として頑張っている君の事を、気にかけているようだった」

 

 そこで兎先輩は、どこからか1メートル四方ほどの大きさの、なかなか大きい黒い立方体を取り出した。どうやら機械製品のようで、幾つもの細かい部品の集合体のようで継ぎ目がある。

箱の正面には、兎と歯車をモチーフにした絵……兎先輩がギルドマスターを務める、ギルド『兎工房(ラビットファクトリー)』のギルドエンブレムが描かれていた。

 

「兎先輩、その四角いのはいったい」

 

「折角会えたことだし、君にプレゼントだ」

 

 兎先輩は四角い金属の箱のような物を床に置き、次にタブレット端末のような薄い板状の機械を取り出し、着ぐるみの手でそれを器用に操作する。

 すると、ウィーン……ガシャコン! プシュー! ブッピガァン! という音をたてて、謎の立方体が変形した。

 十数秒後、そこにはコンロやオーブン等が一通り揃った調理設備が姿を現していた。

 

「更にこうだ」

 

 続けて兎先輩が端末を操作すると、今度は同様の工程を経て、鍛冶用の溶鉱炉や金床になった。更にミシンや裁断機、挙げ句の果てには印刷機や旋盤、溶接機といったハイテクな物にまで姿を変える。

 

「これは万能製作ツール『Rabbit 3.0』。本来はうちのギルド専用の製作ツールであったRabbitシリーズを、一般販売用に小型化・低コスト化した物さ」

 

 兎先輩のギルド『兎工房』は前々から謎の技術で変な機械製品を作って販売したり、他にはない兵器の製造・運用を行なっていたのは知っていたが、まさかこんな物まで作っていたとは……

 兎工房のギルドハウス(という名の工房)は部外者が一切立ち入る事は禁止されている為、中がどうなっているのかは不明だったが……恐らくはこれと似たような設備が大量にあるのだろう。恐ろしい事だ。

 ちなみに、兎工房のメンバーは全員が兎の着ぐるみor兎耳のヘアバンドを着用おり、そして何らかの製造技術を極めた変態技術屋集団である。

 

「しかし兎先輩、こんな凄いの貰っちゃっていいんです?」

 

「うむ。実はさっき言った、うみきんぐ君への用事というのはね……これを彼のギルドである、OceanRoadに納品していたのさ。遠くにいるとはいえ、君もそのメンバーの一人だ。受け取る資格はあるだろう。お代は既に彼から貰っているので、遠慮なく受け取ってくれたまえ。マニュアルは操作端末に入っているので、一緒に君の神殿に送っておこう」

 

 兎先輩が手をかざすと、再び元の箱型に戻ったRabbit 3.0はその姿を消した。グランディーノにある俺の神殿へと転送されたのだろう。

 

「では、さらばだ。兎先輩はいつでも君達を見守っているよ」

 

 最後にそんな事を言い残して、兎先輩は手を振りながら大きく跳躍し、空へと消えていった。向こう側へと帰っていったのだろう。

 

「私達も家に帰ろうか、ニーナ」

 

 俺もニーナを連れて神殿へと戻り、こうしてニーナ誘拐未遂事件は終わりを告げたのだった。

 ニーナが手懐けた動物型の魔物達は、結局そのまま神殿で飼う事になり、飛竜(ドラゴン)のツナマヨを筆頭(リーダー)にしたニーナ親衛隊が結成された。

 


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