蒼海のアルティリア   作:山本ゴリラ

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第97話 自家製オイスターソースが決め手※

 アレックスは中華鍋の次に、おたま、包丁、まな板……と、料理道具を、続いて食材を取り出していった。

 食材はご飯、長ネギ、タマネギ、鶏卵、そして叉焼(チャーシュー)だ。この食材と中華鍋を使う事から、アレックスが作ろうとしているのは炒飯に間違いないだろう。

 

「俺達も飯にしよう」

 

「食ってる場合ですの!? あの豚さん達、変な奴を見るような目でこっちを見てますわよ!?」

 

 突然料理の準備を始めたアレックスに、カレンが思わず大声で突っ込みを入れた。

 

「あいつら、おれ達に興味ないみたいだからな。あれじゃ話のしようがない。だからこっちを見てるなら、おれ達に興味を持ったってことだ。良い調子だな」

 

 そう言って、得意げに頷くアレックスだったが、

 

「狙いはわかりましたわ。けどあの目、どう見ても不審者を見るそれですわよ。大丈夫なんですの?」

 

「何とかなるだろ、多分」

 

「多分て……」

 

 大丈夫かコイツ? とカレンが目を細めてアレックスを見ていると、彼の服の裾をニーナが引っ張るのが見えた。

 

「お兄ちゃん、あのね」

 

「どうしたニーナ」

 

 いいですわよ! ニーナさんも言ってやってくださいまし! と、カレンは心の中で叫んだ。しかしニーナが次に発した一言は。

 

「ニーナ、前にママが作ってくれたオウカ風オムライスがいい」

 

「わかった。カレンはどうする?」

 

「……美味しそうなので、わたくしもそれで」

 

 ずっこけながら、カレンはそう呟いた。

 そしてアレックスは調理に入る。一定のリズムで調子よく、トントントンと包丁が具材を切り刻む音がこだまする。その間にニーナが道具袋から、薪と固形燃料と火打石がセットになったキャンプファイアキットを取り出し、薪を組んで火を起こす。

 

「お兄ちゃん、火の用意できた」

 

「よくやったニーナ」

 

 焚き火を使って、アレックスは炒め工程に入った。まずは大きめに切られたネギ、次に細かくみじん切りにされたタマネギを油をひいた中華鍋で炒め、ある程度火が通ったところで叉焼、そしてご飯が投入される。

 塩、胡椒、おろしにんにく、そして固形化された中華スープが中華鍋に入り、炒飯を味つけする。アレックスは更に、母親(アルティリア)が作った特製のオイスターソースを投入し、最後にそれを半固形になるまで加熱した溶き卵で包んだ。

 

「できたぞ。炒飯の卵包み……オウカ帝国風オムライスだ」

 

 出来上がった人数分の料理を皿に盛りつけ、食べる。

 

「美味しいですわ! 味もさることながら、フワフワトロトロの卵の中から現れた、シャキシャキのネギとパラパラのご飯が織り成す新食感! たまりませんわ!」

 

 パクパクですわ! とカレンが夢中で食べ続けている間……

 

「ブヒィ……なんかすげぇ美味そうな匂いがするブヒィ……」

 

「見た目も綺麗で美味そうブヒねぇ……」

 

「奪い取るブヒィ?」

 

「やめろブヒィ。ガキから食べ物盗むとか恥知らずってレベルじゃねーブヒィ。俺達は小鬼(ゴブリン)食人鬼(オーガ)のような蛮族とは違うブヒィ」

 

「その通りブヒ、すまんブヒィ」

 

「じゃあ分けてもらうブヒ?」

 

「でもさっき冷たくあしらっておいて、それはちょっと恥ずかしいブヒィ」

 

「でも美味そうブヒよ」

 

 オーク達が大猪の丸焼きを食べながら、巨体を寄せ合ってそんな事を話していると、そこに再びアレックスがやって来た。ただし先程と違い、その手には巨大な皿を持っていた。

 皿の上には、オークが食べても満足できるであろう、特大サイズのオウカ帝国風オムライスが乗っていた。

 

「作り過ぎた。食うか?」

 

「……ありがたくいただくブヒィ!」

 

 アレックスが切り分けた料理を、オーク達はその大きな手に対して小さすぎるスプーンを慎重に使って、逸る心を抑えながらゆっくりと口に運んだ。

 

「ブヒィッ!? 美味すぎるブヒィ!」

 

「人間共の飯やべぇブヒィ!」

 

「これに比べたら今まで食ってきたモンとか全部クソだブヒィ!」

 

 オーク達は、奪い合うようにして残りの料理を貪り食った。そして完食後、

 

「さっきは悪かったブヒィ。話を聞くブヒィ」

 

 美味しい物を食べて上機嫌になったオーク達は、子供達の話を聞いてくれる気になったようだ。

 子供達はオークに、この森から逃げ出した獣型の魔物が近くの村を襲っている事と、その原因を調査しに来た事を説明した。

 

「マジかブヒィ」

 

「俺達は少し前にここに来たブヒが、そんな事になってるとは知らなかったブヒィ」

 

「来た時に襲い掛かってきたからブッ殺して食ったブヒ。そしたらビビって襲って来なくなったと思ったら、そんな事になってたブヒか」

 

 やはり、魔物達が森から逃げ出したのはオーク達が原因のようだった。

 

「おまえら、どこから来たんだ?」

 

 アレックスの質問に、オーク達はこう答えた。

 

「俺達は元々、こことは違う世界に住んでたブヒィ。俺達が居た場所は大地が荒れてて、草や木も生えてない、魔物しか居ない世界だったブヒィ」

 

「ついでにいつも薄暗くて、辛気臭い場所だったブヒィ」

 

 どうやら彼らは、魔物ばかりが生息する魔界のような場所の出身らしい。そんな彼らが、何故ここに現れたのか。それは……

 

「少し前に俺達の前に、変なやつが現れたんだブヒィ」

 

「そいつは俺達を変な魔法でこの世界に送って、人間を襲えとか、女神を倒せとか言ってたブヒィ」

 

「俺達の事を、耳が長い女の天敵とか意味わかんねー事を言ってたブヒねぇ」

 

 その言葉を聞いて、アレックスが拳をきつく握る。オーク達をこの世界に送った犯人……それは間違いなく、魔神将に連なる者に違いない。

 そして、そのような手段を取りそうな者に、アレックスは心当たりがあった。

 

「そいつ、派手な色の服を着て、背が高くて痩せてる、気取った喋り方をする男じゃなかったか」

 

「そうだブヒィ。口調は丁寧だけど胡散臭くてゲスそうな奴だったブヒィ。知ってるのかブヒ?」

 

 その男は地獄の道化師という、魔神将の配下の魔物である。これまでも様々な魔物を支配下に置いて手駒にして、グランディーノへの侵攻やニーナの誘拐未遂などを行なって暗躍してきた敵だ。

 個としての強さはそこまで強力でもない――それでも並の魔物に比べれば遥かに強いが――が、地獄の道化師の厄介なところは、自身のコピーを作り出す分身能力や、変身能力といったいやらしい技能を所持している点だ。

 最近は姿を見せなくなったが、直接戦うのは不利と見たのか、その能力を活かして、また裏でコソコソと暗躍しているようだ。

 

「それで、おまえらはそいつに従ってるのか?」

 

 問題はそこだ。もしもそうであるなら、戦わなければならないと決意して、アレックスはそう訊ねた。

 しかしその質問に対して、オーク達は一斉に首を横に振った。

 

「なんで俺達があんな奴に従わなきゃいけないんだブヒィ」

 

「従う理由がないブヒ。俺達は自分より強い奴にしか従わないブヒィ」

 

「第一めんどくせぇブヒィ」

 

「何日か前に人間の街を襲いに行けとか言いに来たから、囲んでブン殴ってやったブヒィ。なかなか強かったけど、5人に勝てるわけないブヒィ」

 

「殴り倒して、ついでに顔面に向かって屁をこいてやったブヒィ」

 

 その時の事と、悶絶する地獄の道化師の姿を思い出してオーク達はゲラゲラと下品な笑い声を上げた。

 どうやら、彼らに人間を襲う意志は無いようで一安心といったところだ。

 

「それならおまえら、俺達と一緒に来る気はないか?」

 

 アレックスは、オーク達にそう提案した。

 このまま森に居座られるよりも、連れて帰って監視下に置いたほうが良いと判断した為だ。魔物ではあるが、既にニーナ親衛隊という名の魔物達が大勢仲間になっている為、問題はないと考えた。

 その提案に対して、オーク達は答えた。

 

「確かに悪くない話ブヒ」

 

「お前、美味いメシくれたし、あの胡散臭い奴よりはだいぶ話がわかる奴ブヒ」

 

「小さいけどよく鍛えてるし、俺達に囲まれてもビビらない勇敢なガキだブヒィ」

 

「しかし、さっきも言った通り、オークは自分より強い相手にしか従わないブヒ」

 

「だから俺達を仲間にしたいなら、力を示すがいいブヒィ」

 

 その言葉に対して、アレックスは力強く頷いた。

 

「わかった。勝負だ!」

 

 こうして、アレックスはオークに己の力を示す為、戦いを挑む事になった。


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