異形   作:ドラゼイド

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起きる獣

無機質なアラームの音で強引に意識を覚醒させられる。

このよくわからない施設に連れてこられてから何年がたっただろう。

ここに連れてこられてからというものの毎日変なチューブにつながれよくわからない液体を注入され、そして俺がここに来る前の実験の失敗作として生まれた怪物と幾度となく戦わされた。

もちろん何度もここから逃げようとした。

しかし首に巻かれたチョーカーには発信機が取り付けられており逃げることはできなかった。

連れ戻された後には電気ショック、鞭打ちなどを躾としてよくわからない液体と一緒にやらされた。

それも今では慣れてしまったわけだが。

 

「起きろ被験者番号10586」

「チッ……」

 

 看守の乱暴な声で今日もこの監獄のような部屋から出ていかざるを得なくなる。

ため息をつきながら部屋を出ると横には同じような部屋につながれたたくさんの人が嫌でも視界に入る。

中には部屋の中で死んでいった人もいる。

さながら地獄のようなこの場所で俺は今日も実験に耐えるしかないのだ。

 

 ────────────────────

 

「ハァイ、調子はどう?」

「いつも言ってるだろ、今日も最悪だよ」

「ふふっ、つれないわね」

 

 いつものようにチューブにつながれながら答える。

白衣を着たこの女は難波と言っていた、この施設にさらわれた俺たちに対して実験をしている張本人だ。

見た目は若そうに見えるがこの施設の所長を務めているらしい、どうやってこの施設の設備や莫大な電力を補っているのかはよく知らない。

結局のところ俺にとっては知る必要のないどうでもいい話に過ぎなかった。

 

「準備整いました」

「オッケー。じゃあ始めて行くわ」

「……勝手にしろ」

 

 合図とともに仰々しい音を立てながら薬液がチューブを通して注入される。

どうせいつものように変な効果がしばらくすれば現れるはず。

そう思っていると

 

「!?」

「ほっほ~う?もう効果が出てきたか」

「アン、タ……何入れやがった……!?」

「何って、君を強くするクスリ。まぁ副作用で激痛が走るんだけどね」

「ふざけんっ!うッ、ぐゥッ!」

「ふふふ、あははははははははは!激痛にもがき苦しみながらもしっかり拘束されて逃げ出せない状況のあの表情、もうたまらない……ッ!」

「見せもんじゃ、ねぇんだ、よ……」

 

 表面上は強気でいるが、この薬液は普段のものとは明らかに違った。

体中の血液が沸騰するように熱くたぎり、耐えられないほどの激痛が走る。

だんだん体の自由は効かなくなり意識が朦朧としてくる。

 

「ウァッ、グッ、ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ゙!゙!゙!゙!゙!゙」

「あはァ……!」

 

 苦痛で何も考えられなくなり気づけば声を上げて必死に悶えていた。

それを周りの人間はほくそ笑みながら見ている。

特等席に座る難波の表情は嫌になるくらい恍惚としていた。

なんで俺はこんな苦痛に耐えているのか、走馬灯のように過去の記憶が頭の中でフラッシュバックする。

理由もわからずに拉致され、何度も体の中をいじくりまわされてきた。

そうして常人とは明らかにかけ離れた力を手に入れ、同じく実験の失敗によって自我を失った怪物を殺した。

あの時はただ生き残ることに必死だった。

女子供なんて関係ない。

時には隣の部屋につながれていた何度か話したこともある男も殺した。

いつか解放されることを願って耐えてきたが、逆に死んでおけばよかったか?諦めは怒りへと変わる。

憎い、憎い憎いニクイニクイ……!!!!!!!!!!

拉致した連中も俺の体ををこんなにしたあの女も絶対に許さない。

その瞬間、俺の中で何かが切れた。

 

「これは!?」

「何が起こっているの!?」

「被検体の数値、限界値を超えました!」

 

 煩い、五月蠅い、うるさい、ウルサイナァ……

俺たちをこんな風にオモチャにしたこいつらを、いろんな人の人生をメチャクチャにしたこいつらを、俺は絶対に許さない……

今ここで全員、マッサツスル……

 

 ────────────────────

 

 変化が現れたのはアラートが鳴ってからすぐだった。

中央にいた被検体の皮膚を突き破って棘のようなものが無数に生えてくる。

体外へと血のような赤黒い液体が放出されるが彼はそんなことお構いなしに実験室の中を暴れまわる。

武装させて常駐していたガードマンも意味がないな、その思惑は当たりいとも容易く装甲を突き抜け力なく倒れる。

 

「難波所長危険です、実験の中止と退避を!」

「ふふふ、ははははははははッ!何を馬鹿なことを言っているんだい!ああなってしまった今、私たちで彼を止めることなどできないわ」

「なんですって!?」

「それよりいいのかい?いつまでもこんなところにいれば君たち全員死ぬわよ?」

「……?」

 

 そう言った瞬間に強化ガラスを突き破り人というには変わりすぎた彼がモニタールームに入ってくる。

そこからは火花や血液が飛び散り制御機器が見るも無残に壊されていった、その光景はさながら地獄だ。

 

「フゥーッ……」

「ふふっ、全てを壊す力か。まるで怪物ね」

「アァッ……!」

 

 雄たけびを上げながらその怪物は私の首を掴む。

だんだんと入る力が強くなり、呼吸が苦しくなってきた。

実験材料に惨たらしく殺されるならそれはそれで本望だが、研究がこんなところで終わってしまうのは少し嫌だ、走馬灯のようなものが見え始めたタイミングで変化が起きる。

 

「アッ!グゥッ……」

 

 突然呻き声をあげたと思うと被験者の青年は意識を失いながらその場に倒れる。

ふらつく体で彼に近づくとすやすやと寝息を立てているではないか。

 

「あれだけの強大な力の反動がこれだけ……?」

 

 私の知的好奇心はさらに刺激されより彼の体を調べつくし実験を重ねたい衝動に駆られた。

しかし彼が壊した残りの機材では調べ上げることもできないし、彼をつなぎ留めておく枷にすらならなかった。

二束三文とはこのことか、そんなくだらないことを考えながら私はコンソールを操作した。

私が選んだ選択は解放、今ここに繋ぎとめている人間全員にはGPSを打ち込んでいるため、逃げ出した際にすぐ捕らえられるようにしていたがまさかこんな時に役立つとは。

明らかに常人離れした力が人間社会に解き放たれた結果、この世界はどう変わっていくのか、それは私がこの実験を始めてからずっと気になっていたことだ。

 

「館内の全員に次ぐ、この施設のすべてのロックを解除した。今から君たちは自由だ。」

 

 近くにあるマイクに向かって叫ぶ。

この抑えられない好奇心で胸が張り裂けそうになりながらも毅然と言い放つ。

 

「これからどう生きるかは君たちの自由だ。そしてこの施設はじきに爆発する。死にたくなければ全員さっさと逃げることだな」

 

 そう簡単に手放すことは大変心苦しいが、これから得られる結果の方が重要かつリターンが大きい。

さぁ、君たちの可能性を示せ。

どれだけ虐げられようと立ち上がり反旗を翻すだけの力は君たちに残っているか?

 

「ふふっ、面白くなってきたわね」

 

 寝息を立てている彼を引きずりながら、誰もいなくなったこの施設を後にする。

その直後、背後で爆発が起きた。

 

 ────────────────────

 

 俺が目覚めるとそこには見知らぬ天井が広がっていた。

沈み込む体と柔らかい布団、ご丁寧に毛布までかけられていた。

随分と久々の感覚だ。

あの施設の堅いベッドで何年も寝てきたのでこんな目覚めなのはいつぶりだろうか。

しかし施設じゃないとなるとここはどこだ……?

あいにく実験で変な薬液を入れられてからの記憶がない、少しでも直前の記憶を思い出そうとしたかったがわからないのならこれから調べていくしかない。

そんなことを思っているとドアが開く。

入ってきたのはお盆を持った女性だった。

年は19くらいだろうか、大人っぽさとあどけなさが同時に存在する雰囲気に思わず息をのむ。

きれいな人だな……

 

「あれ?起きました?」

「……」

「ちょっとちょっと!そこまで警戒しないでくださいよ!」

「……君誰?」

「やっぱりそうなりますよね、私は七瀬和美です」

「俺は被験……じゃなかった。市川春彦だ」

 

 答えようとしたその一瞬、彼女はどこか暗い顔をした。

 

「そ、それよりお腹空いてませんか?一応食べられそうなもの作ったんですけど……」

「それじゃあ、いただこうかな」

 

 料理に慣れていないのか差し出されたスープの中には大きく乱切りされた具がゴロゴロと入っていた。

しかし久々の温かい料理、空腹も限界ということもあり意を決して呑み込む。

 

「……」

「……どう、ですか?」

 

 味が心配なのか和美は心配そうにのぞき込んできた。

 

「うん、おいしいよ。とっても」

「ほんとですか!?よかったですぅ……」

 

 緊張状態が解けへなへなと床にへたり込む和美を見ながらスープを呑み込む。

疲労と空腹はある程度回復できた、そうなるとやることは一つ。

 

「一つ聞きたいんだがここはどこだ?」

「あぁ、言ってませんでしたね。ここは小さい集落です。山の上で急に爆発が起きて、何が起きたのかと思って見に行ったらあなたが倒れていたんです」

「山の上で爆発ねぇ……」

 

 となるとあの研究所があったのは山の上ということになる。

でもそうしたらどうして爆発が……?そう思った瞬間、地面が強く揺れる。

 

「キャッ!?地震?」

「いや、なんか違う気がする。とにかく収まったら俺が様子を見てくるよ」

「私も行きます」

「でも危ないって」

「絶対市川さんのそばを離れないことを約束します、だから!」

「わかったわかった、絶対離れるなよ?」

「ッ、はい!」

 

 そうして二人で外に出たのだが明らかに状況がおかしい。

焦げたような火薬の匂いと視界を覆うくらいの煙が立ち込め、進もうにも進めない。

煙が晴れた先にはどこかで見たような男が立っていた。

 

「お前、どこかで」

「アンタ、被検体10586か」

「チッ、その服、やっぱり施設関係者かよ。道理で見覚えがあるわけだ。で、なんでお前がここにいる?」

「施設は爆破されたよ。なんでこんなことに、俺はただ普通に生きたかっただけなんだ!」

「だったら死にでもするか?犠牲を出しながら?」

「うるさいうるさいうるさい!こんな世界も、お前らも全部皆殺しだ!!!」

 

 明らかにパニックを起こしているその男は体の一部を変質させ、腕を重火器のようなものに変えた。

おそらく施設で変な薬でも入れられたのだろう。

後ろを見ると恐怖でそうすることもできないのか和美の息が上がっていた。

 

「とりあえず、俺がひきつけとくからお前は早く逃げろ」

「いやでも」

「じゃあここで仲良くおっ死ぬか!?」

「っ……」

 

 死を前にした人間の防衛本能のせいか、和美は体をこわばらせる。

 

「よそ見してんじゃねェッ!」

「!危ないッ!」

 

 気づけば地面を蹴りこっちに突撃してくる。

反射的に和美のことを押し勢いのまま壁に叩きつけられる。

口から空気が漏れ、なんとも気持ち悪い感覚が襲ってくる。

 

「カハッ、アンタと俺は無関係だ、そこまで助けてもらう義理はない」

「でも」

「わからないのか?アンタがいると足手まといだ」

「……わかりました」

 

 そう言うと和美は物陰に隠れた。

これでひとまず不安要素はなくなった。

 

「痛ってぇな……」

「壁に叩きつけたのに、掠り傷だけだと?お前化け物か!?」

「お前だけには」

 

 ここからは全力だ、体勢を下げ足を開く。

 

「言われたくないッ!」

 

 一瞬のうちに肉薄し右足で頭めがけて蹴り抜き、左足で心臓を狙う。

しかし、かなり皮膚が硬く攻撃はさほど痛手になっていなかった。

 

「チィッ、お前の方がバケモンじゃねぇかよ」

 

 そんな呟きを気にせず奴は腕の機関銃を無遠慮にぶっ放してくる。

こっちは避けるので精いっぱい、せめてどうにか状況を立て直したい。

滑り込んだ瓦礫の裏で考えを巡らせる。

ひとまずあの機関銃をどうにかして使えなくさせなければ勝ち目はない。

しかしこっちには武器になりそうなものはない。

どうにかして奴の隙を見つけて……

 

「……あるじゃねぇか隙」

 

 いくら殺意があるとはいえ自暴自棄になっている奴がやっていること自体は雑な機関銃ブッパだ。

明確に殺す意思があるならとっくに心臓を撃たれている。

だったら、敵前に飛び出し複雑な軌道を描きながら土埃を立たせる。

向こうからこっちは視認できていない、だったら上から突破するだけ。

 

「これで、終わりだァッ!」

「……なんてな!」

 

 腹部に強い痛みが走り、強くせき込むと口から血が漏れ出る。

見ると奴の右腕がドリルのようなものに変化していた。

どのみち死ぬ、そんな考えよりも先にドリルが回転し内臓がかき回される。

ただ気持ちの悪い感触と激痛が襲ってくる。

 

「イッ!?ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ゙!゙!゙!゙!゙!゙」

「市川さん!」

「おっとそこかァ、言っとくがアンタにも死んでもらうぜ?お嬢さん」

「ヒィッ!?」

 

 逃げたんじゃなかったのかよ、死んでほしくなかったから逃がしたってのに……

それにしたって個いツ煩イナァ……

これだけ痛メ漬ケてくれ多んダ死、お前は殺していいんだよなぁ……?

意識が朦朧とする中、研究所でも見た走馬灯のようなものを俺は再び見ていた。

頭を何か硬いものに叩きつけられたような感覚とともに走馬灯はブラックアウトし俺の意識はそこで途絶えた。

 

 ────────────────────

 

 市川さんが戦っているのをただ黙って見ていることしかできなかった。

せっかく逃がしてくれたのに、変に声をあげてしまったせいで今度は私が狙われている。

でも恐怖からか足は動いてくれない。

 

「まぁいいさ、動けないならこっちから行くだ、け……?」

 

 そう言いながら怪物は動きを止める。

その方向に向き直ると市川さんが自らに突き刺さったドリルを掴んでいた。

その手は赤く発光し、煙が上がっていた。

 

「お前まだ生きて、って熱ゥッ!?」

「オ魔え、五月蝿イよ」

 

 かろうじて声は聞き取れるがノイズがかかったような声で恐怖感を覚える。

その瞬間、空気が変わる。

吹き抜けた風には電気を帯びたような感覚があり、それが市川さんから発せられているものだということにすぐ気づく。

一体何が起きているのか、誰もがわからないまま電撃を食らった怪物は吹き飛ばされる。

 

「痛ってぇ……何が起きてやがる」

「それ邪ア、アソ亡か」

 

 そこからは目で追えないくらいのスピードで、何かが起こっていた。

ただ分かったのは怪物が押されていたこと、その場から動くこともできず流れ落ちていく血を見ながら、私は何か悪い夢でも見ているのではないかという錯覚に陥っていた。

片腕が切り落とされたタイミングで私は見るのをやめた。

体が拒絶反応を示しここから逃げたいと強く思ったが、やはり体はおもりのように重くその場から動けなかった。

 

「ハァ、ハァ、い、嫌だァ!死にたくない!」

「ミナ殺シって言っ汰ノハお前ダ露。堕ッ多羅シぬ覚悟暗い持っトケ」

 

 そんな冷徹な言葉の後、辺りは先ほどまでと打って変わって静寂に包まれる。

恐る恐る顔をあげるとそこには市川さんではなく、けれども市川さんの声がする”何か”が血の海の上に立っていた。




ここまでダークな雰囲気になると思ってなかったので書いてる時の気分は最悪ですが頑張って完結させたいと思います()
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