『♪~』
「ん、んんっ……」
無機質な携帯のアラームで今日もいつもと同じ時間に起きる。
ベッドを直し1階に降りるといつものように母親が朝食を作っている最中だった。
「おはよう母さん……」
「ちょっと和彦まだ寝ぼけてるの?顔洗ったら美波のこと起こしてきて」
「えぇ……?」
「不服そうな顔しない!こっちも忙しいんだから」
「へいへいわかったよ」
悪態をつきながらも再び階段を上り部屋の前でノックをする。
「美波ー?朝だぞ」
「……」
返答は帰ってこない。
しかしこれもいつも通りだ。
少し待っていると妹の美波が部屋から出てくる。
「おはよう」
「……」
これもいつも通りの光景。
残念なことに僕、藤堂和彦は妹の美波から避けられている。
最初は思春期特有のものだと思っていたけど最近では必要な会話以外は会釈や無視で済まされるといった状況が続いていた。
でもこれももう慣れっこだ。
階下に降り、僕も朝ご飯を食べることにする。
急がなければ学校に遅れてしまう。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま……」
朝ごはん中会話はびっくりするくらい何もなかった。
これもまたいつも通り、寂しさがないと言えば嘘になるし正直言うとめちゃくちゃ寂しい。
受け入れたくない気持ちはあるが年頃ということもあるし仕方ない、諦めからくる現実を受け入れながら僕はいそいそと学校に向かった。
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「おはよう……」
「おぉ、おはようさん。って朝から辛気臭い顔するなよこっちまで気分下がるわ」
「そりゃ毎日無視され続けてたら堪えるに決まってるじゃん」
「じゃあ知らない間になんかしちまったんじゃねーの?」
「でもさ、明らかに嫌われるようなことしてないんだよ!?それにほかの人と話してるときは楽しそうに笑ってるし……」
学校に着くなり大きなため息をついてしまった。
目の前で僕の話に付き合ってくれているのは高校で知り合った友人の武田、妹との関係のことを知っていて、時々アドバイスをくれるいい友人だ。
「ってやべ、次の授業の課題やってないわ」
「見るなら100円ね?」
「……お前ってそういうとこあるよな」
「冗談だよ、はい」
「助かった」
「ジュースでいいよ」
「100円払うのと変わらねぇじゃねぇか!んまぁ背に腹は代えられないか……」
悪態をつきながら自分の席に戻っていく武田、そして授業は進んでいく。
窓の外に目を向けると美波がテニスボールを持っているのが見えた。
体育の授業中なのだろう、友達と時折笑いあいながら楽しそうに授業を受けている。
一体過去の僕は何をしたんだろう、武田にも話したように妹に嫌われるようなことをした記憶は一切ない。
もちろん僕が忘れているだけかもしれないが。
そんなことを考えながら外を眺めていると先生に注意されてしまった。
その様子を武田がにやにやした様子で見つめてくる。
……アイツには今日の帰りジュースと一緒にお菓子も奢らせてやるか、そんなことを1人考えながら僕は恨めしそうに彼のことを睨んだ。
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1日の授業が終わり僕は図書室へと足を運ぶ。
武田は運動部に入っているので必然的にクラス外ではあまり関わりがない。
しかし今日の授業のこともあるので奢らせるまでは僕の気が済まない。
ということで図書室で本でも読んで時間でもつぶそうかと考えたのだ。
図書室は2学年のフロアの1つ上にあるので階段を上り3階に上がる。
3階は共通フロアで図書室や職員室などが置かれている。
共通フロアということは他の学年の生徒とも顔を合わせる機会が多いということで、
「……あ」
少し先で美波が友達としゃべりながら歩いていた。
彼女の顔は授業の時に窓から見えたような笑顔だった。
「はぁ……」
自然と今日何回目かのため息が漏れる。
こんなことで悩んでるのも馬鹿馬鹿しくなってくる。
こっちにどれだけ仲良くしたいという意識があっても向こうが拒絶しているならその状況は改善されることはない。
いい加減現実を見た方が楽だ。
「……」
「……」
知らないふりをして早歩きで図書室に向かう。
すれ違う時こっちを見られたような気がしたけどそれはきっと気のせいだろう。
今は、少しだけ顔を見るのが辛かった。
でも誰も悪いわけじゃない、悪いのはいつまでも成長しないで昔みたいに戻れると思っていた僕だけなんだから。
そうして逃げ込んだ図書室の中は静かだった。
もちろん静かにする、というマナーはあるのだが多くの生徒が部活で出払っているせいか、昼休みに来るよりも図書室の中の音が少ないような気がした。
ジャンルごとに並べられた書架の間を通ると仄かに紙のにおいを感じられる。
今日は何を読もうか、タイトルやあらすじが気に入った何冊かを手に取りいつも座っている席に座る。
夕日が沈んでいく中で日差しが目に入らず、かといって読書をするのに暗すぎない奥の席は僕にとっての特等席であり本の世界に飛び込めるお気に入りの場所だった。
紙をめくる音だけが図書室の中に響く、窓の外から時折笛の音が聞こえてくるがそれ以外に音を立てるものはない。
この部屋だけがこの世界から切り離されたような感覚の中で僕は物語の世界の中へ飛び込んでいった
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『♪~』
「……あれ?」
気づいたときには完全下校のチャイムと見回りの放送が流れていた。
時計を見ると最終下校時刻間際、慌てて帰り支度をしながらカウンターに目線を向ける。
どうやら図書委員は早々に帰ってしまっていたようだ。
面白い本だったので借りたいと思っていたのだが、いないなら仕方ない。
ちょうど図書室を出るタイミングで見回りに来た先生に施錠を頼み図書室を後にする。
普段ならこんな時間まで学校に残っていることはないので自然と早足になる。
特段帰りが遅くて心配されるということはないが誰もいない学校というものはなんだか不安な気持ちになってくる。
高校生になっても、怖いものは怖いのだ。
通り慣れた道を小走りで帰っていると前の方に人影が見える。
こんな時間に珍しいなと思っているとその後ろ姿には見覚えがあった。
「美波」
「ッ!?」
「今帰り?」
「……そうだけど」
「だったら一緒に帰らない?ほら、暗くなってきたしさ」
「……わかった」
こうして一緒に歩くのは小学生ぶりだろうか、部活に入っていない僕と美波の下校時間は基本的に合わないため、こうして一緒に帰るというのは新鮮だった。
「部活大変?」
「別に、楽しくやれてるけど」
「そ、そっか……」
会話を振ってみても好感触は帰ってこない。
やっぱり嫌われてるんだろうな、そう思っていると
「……なんで」
「え?」
「なんで今日遅かったの」
美波の方から話を振ってきた。
「え、あぁ、図書室で友達が部活終わるの待ってたんだけど本読むのに熱中しちゃってさ、気づいたら下校のチャイム鳴ってた」
「そう」
短い会話、それでも普段そっけない対応をされていた僕にとっては久しぶりの会話だ。
「今日の晩御飯、何かな」
「……オムライスがいい」
「今でも好きなんだオムライス、ファミレス行った時もいつも食べてたよね」
「……なんでそんなこと覚えてんのよ、ばか」
「何か言った?」
「別に?」
美波は顔を赤くしたと思ったらそっぽを向いてしまった、でもこうして話が出来ただけでも進展だ。
少しだけ軽い足取りで歩いた帰り道は夕焼けに染まっていた。
お兄さんがまるでシスコンみたいですけどシスコンではありません。