幽霊の私はひとりのイマジナリーフレンドということになりました。   作:とあるぼ喜多復権派

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でっど・ざ・ごーすと!

 

 

※※※※

 

 ――幼い頃の記憶。今でも思い出すのはあの娘との思い出だ。"幼馴染"だなんて言えるほど仲良くもなかったし、せいぜい数ヶ月の付き合いだ。

 それでも思い出してしまうのはそれほどにあの娘との出会いが衝撃的だったからだろうか?

 

「ねぇ、あなたは誰かと一緒に遊ばないの?」

 

「えっ、あっ、えっ……?」

 

「あなたよ。あなたに話しかけてるの」

 

 その娘は自分が話しかけられたのがまるで信じられないみたいに戸惑っていた。

 幼稚園の年長クラス。多くの子供は友達を見つけ、固定したグループの中に属している。

 そんな中で一人で黙々と遊んでいた女の子。それがあの娘――後藤ひとりだった。

 

「もし、遊ぶ相手が居ないなら私と遊ばないかしら?」

 

「えっ、あっ、あの、わ、わたし、で、いいんですか?」

 

「良いから誘ってるのよ」

 

 思えば話しかけた理由は気まぐれだった。一人ぼっちで遊んでいたあの娘が何者なのか知りたくて、話してみたくて、そんな理由だった。

 

「わたしの名前は世代(よしろ) 亜功(あこ)。あなたは?」

 

「あっ、あっ、あっ、えっ、えっと、わ、わたしハご⤴とぅひとゥリ⤵です」

 

「え? なんて? ゴゥトゥヒトゥーリさん?」

 

「え、ちがっ――!? …………はい、そうです、ゴゥトゥヒトゥーリです」

 

「いや、違うなら違うって言っていいのよ!? 多分、後藤ひとりさんでしょ?」

 

「ッ!? はい! そうです! 後藤ひとりです!」

 

 ひとりは名前を呼ばれたことを本当に嬉しそうに噛み締めていた。今思えば、この娘にとってはちゃんと名前を呼ばれたのは初めてだったのかもしれない。

 

「それじゃあ、これからよろしくね! ひとり! 私のことはアコって呼んで良いから!」

 

「は、はい! アコさん! 末永くよろしくおねがいします!」

 

「……なんかそれは重いわ」

 

「えぇ!?」

 

 これが私とあの娘の出会い。最初の日。

 あまりにもコミュ障で奇妙な言動をとる後藤ひとりとの出会い。

 

 

※※※※

 

 

 

 

 

「――――こんなことを、今更、思い……出すのは、走馬灯、ってやつ、なのかなぁ…………?」

 

 私――世代(よしろ) 亜功(あこ)はもうすぐ死ぬ。

 死因は交通事故だ。

 車に轢かれそうな犬を庇って道路に飛び出した……そんなベタな理由で死ぬなんて最悪だ。まさか自分がこんな死に方をするなんて夢にも思ってなかった。

 

「ワンっ! ワンワン!」

 

「おまえは……元気、そうだね……」

 

 助けてやった犬は随分と元気そうだ。犬種は柴犬……かな?  

 まぁ、助けてやったんだから元気に越したことはない。

 

「それに、しても、飼い主は何をしてるんだ、ろうね……」

 

 気になるのはこの犬の飼い主だ。首輪をしてることから考えても誰かの飼い犬のはず。それがどうしてこんな車道をほっつき歩いていたのだろう。

 

「まぁ、気にしても、仕方ないか…………」

 

 そう、気にしたって仕方ない。私はどうせこれから死ぬのだから。人生が終わる。何もかもが終わる。私のやりたかったことも何もかもできないまま終わる。

 

 ――――、心残りは、ある。

 

「バンド……、組みたかったなぁ……」

 

 私は楽器のキーボードが得意だった。いつかはどこかのアニメみたいにバンドを組んだり、軽音部に入って青春したりする目標があった。

 それももう叶わぬ夢だ。

 

「あぁ、化けて出てやる……」

 

 ――あぁ、駄目だ。

 

 

 

 だんだん、いしきが、とおの    いて

 

 

 わ      た  し   

 

 

 は

 

 

 

※※※※

 

 

「あんな事言ったのがマズかったのかなぁ……?」

 

 そうして私は幽霊になった。

 何言ってるかわからない?

 私にも分からねぇよ、畜生。

 

「幽霊とか実在するんだねぇ」

 

目を閉じた瞬間、身体から痛みが引いて『あぁ、これが死ぬときは苦しくないっていうアレか。なんか脳内物質が云々で〜って聞いたことある』とか思ってたのも束の間。

 目の前に自分の死体があるわ、身体がなんでもすり抜けるようになるわ、ちょっと半透明になってるわで大慌て。

 

「お〜い、見えてますか〜!? おぅ〜い!」

 

 誰に話しかけても、何一つ返事が返ってこない。どうやら全く私の姿が見えてないらしい。

 

「まさにテンプレの幽霊って感じだなぁ、足はあるけど」

 

 今の私は足がある。よく幽霊は足がなくなるなんて聞くけど、どうやらそれはデマだったらしい。

 

「まぁ、浮いてるし、飛べるから、要らないっちゃ要らないかもしれないけどね」

 

 そう、今の私はなんと飛べるのだ!

 これは地味に素晴らしい特典だ。旅行だって無料で何処にでも行けるし、遅刻しそうなときもひとっ飛びだ。

 …………遅刻も何も、死んでるから学校行けないけど。

 

「おっと、それよりも見失っちゃうから早く行かなきゃ」

 

 そんな、空を飛べる・すり抜けられる・スケルトンの3Sが揃った私が現在何をしているか――?

 

 ――――犬の尾行だ。

 

 おっと、別に暇を持て余しすぎて奇行に走ってるワケではない。いや、ちょっとだけ「やることないし……」って気持ちもあるけど、そこは本題じゃない。

 

 私の幽霊になる直前の台詞を思い出してほしい。

 

『あぁ、化けて出てやる……』

 ↑

 ↑

 これだ。この言葉が原因で今の私はこうなってるかもしれないのだ。

 よく、幽霊とは生きていた時代での恨みで幽霊になると言う。つまり、私はなにか恨みがあってこうなってるということ。

 では、私の恨みとはなにか?

 

 正直、心当たりがまったくない。

 車に轢かれたのは確かに最悪だが、それは私が選んだ決断の末の結果であり、信号も赤だったので運転手を責めるのはお門違いだ。つまりほぼ自業自得なのだ。

 強いて言うなら犬を放し飼いにしてる飼い主にちょっと腹がたったくらいだ。

 しかし、この"ちょっと腹がたった"しか思い当たるフシが本当にない。それなら、とりあえずその原因である飼い主のところに向かおうというワケだ。

 

「おっ、付いたかな?」

 

 そうして、犬に付いていくと一つの家に辿り着いた。この犬は優秀だ。自分の家に自力で帰れるらしい。

 それなりの大きさの一軒家の前でちょこんと座った犬はおもむろに吠えだした。

 

『ワンッ!ワンッワン!ワン!』

 

 すると、家の中からドタバタと音が聞こえ、やがてガチャリ、と扉が開けられた。

 中から出てきたのはまだ幼稚園に入りたてぐらいの小さな女の子だった。

 

「あ〜! ジミヘン! 勝手に家から居なくなったらダメでしょ〜!! 心配したんだから〜!」

   

 そうして、その犬――ジミヘンは女の子に抱きかかえられ家の中へと入っていく。  

 その後、呆然とする私を前に再びガチャリと鍵が閉められた。  

 

「…………アレェ? 飼い主に会っても成仏とかしないのかしら?」

 

 てっきり私は飼い主に会えば、そのまま成仏して天国へ行けると思ってた。

 幽霊も実在したんだ。きっと天国だってあるに違いない。それならさっさと天国に行きたいから成仏したい。

 そんな気持ちでここまで来たのだが、これで駄目ならお手上げだ。

 私を縛る理由がこの子じゃないのなら、なんなのだろうか。

 私はどうすれば成仏出来るのか。

 

「う〜ん、あの女の子が飼い主というよりかは、ここの家のお母さんとかお父さんが飼い主だろうから、そっちを見なければ無理とか?」

 

 先程の女の子はまだまだ幼い。あの犬も別にあの女の子が稼いだお金で買ったワケではないだろうし、その世話をしてるのは大半が彼女の親だろう。

 だとしたら真の飼い主は彼女の両親……のはず。 

 つまり、それで飼い主に会えたという判定にならず成仏出来なかった?

 

「とりあえずわかんないから会ってみようかな」

 

 今の私は扉だろうと何だろうとすり抜けられる。  

 現代を生きるJKとしては、こんな倫理観の無い行動(不法侵入)をするのは多少良心が傷むが、もうどうせ死んでるのだ。それなら少しぐらい開き直ってしまおう。

 ……あっ、でも、この犯罪歴で地獄に堕ちるとかあるのだろうか。あるなら勘弁願いたいのだが。

 いや、それでもこのまま幽霊ライフを無限に続けるのはもっと嫌だ。

 

「悩んでても仕方ないし、入るか!」

 

 私は切り替えて、堂々と不法侵入を行った。

 家の中はキレイに整理されていて、かなり清潔感のある家だった。やはり小さな女の子が住む家だから、そういったところに気を遣っているのだろう。

 そうして家を物色していると、劈くような音が家中に響き渡った。

 

『ジャン! ジャジャン! ジャアアアアアアアアン』 

 

「…………ん? この音ってギターの音?」

 

 上の階の方からギターの音が聞こえる。バンドを組むことを目標にしてただけあって、この音がどういう楽器から出る音かすぐに分かった。

 

『ジャジャジャ! ジャジャン! ジャジャジャジャーン!』

 

「それにしても、この演奏、滅茶苦茶上手いわね……プロ級じゃないかしら?」

 

 響き渡る音につい聞き入ってしまう。それぐらいにはこの演奏を行っているギタリストは上手だ。

 これほどの演奏は動画投稿サイトに不定期投稿を行ってる『ギターヒーロー』ぐらいのものだろう。

 

「どんな人なのか……見てみたいわね」

 

 それは純粋な興味だった。これ程の演奏をするのがどんな人物なのかひと目見てみたい。音楽を嗜む一人の人間としての抗いがたい欲望だ。

 私の足(そんなものはもうないけど)は自然に上の方へと向き、そのまま部屋へと侵入する。

 

「アレ……? 誰もいない……?」

 

 しかし、部屋の中に入っても誰も居なかった。音はなり続けているのに肝心の演奏者の姿がない。

 

「あっ、もしかして押入れの中?」

 

 冷静に耳を澄まして方向を探ってみると、どうやら押入れの中で演奏しているらしいということが分かった。

 どこかの某猫型ロボットではないのだから、そんなジメジメしたところではなく、部屋で演奏すれば良いのにと思ったが、天才とは得てして理解し難いものである。

 これほどの才能を持つ人だ、きっと、さぞ偏屈な変人に違いない。

 

「お邪魔しま〜す」

 

『ジャジャ! ジャジャジャジャーン! ジャアアア!』

 

「へぇ、やっぱり上手いのね」

 

 押し入れの中に入ると、桃色の髪の少女が慣れた手付きで演奏を行っていた。その手際の良さに思わず感嘆の声を漏らす。

 

『ジャンジャッッッッ………!』

 

 ん?

 急に音が乱れたわね? どうしたのかしら?

 さっきと同じとは思えないぐらいに聞くに堪えない演奏になったけれど。

 というか演奏止まってない?

 何があったの?

 

 そうして、疑問符を浮かべて、演奏していた少女の方を見ると、驚愕の表情に染まった彼女と目が合った。 

 幽霊になって初めて人と目が合った。そんなはずはない。偶然だ。

 しかし、だとしたらこの表情はなんだろう。まるで、()()()でも見たかのような。

 

 いや、まるで彼女は私の姿が――

 

「!?!? えっ、えっ、えっ!? だ、だ、だだだだだだれ!? だれですか!?」

 

「―――え?」

 

 見えている。間違いない。

 彼女は私のことが見えている。

 どうして?

 なんで?

 死んでから今まで会った人は誰も私のことが見えていなかったのに!?

 

「あなた、私のことが見えるの……?」

 

「み、み、みえますけど? えっ、あの、えっ………!?」

 

 驚きのあまり女の子は固まってしまった。それはそうだろう。彼女視点で見れば、私は突然壁をすり抜けて現れた見知らぬ半透明の女だ。

 こうして文章に起こすと怖すぎるのが分かる。

 

「あっ、あの、あなたは、だれ、なんですか? どうやってここに……?」

 

 動揺しながらもそう聞いてくる女の子に私は困ってしまう。

 どう答えれば良いのだろう。『私は幽霊です。アコって言いまーす! よろしくね!』

 こんな事を突然言われたら、私だったら怖すぎて気絶する自信がある。なんと言ったってガチモンの幽霊だ。正真正銘実在するホラー存在だ。

 

 私自身も動揺していたのだろう。そんな私の狂った脳の回路はとんでもない答えを弾き出した。

 

「幻覚です」

 

「え?」

 

「幻覚です」

 

「えぇ……?」

 

「私はあなたの幻覚なんです」

 

「いや、あのえっと……」

 

「ほら私浮いてるし、すり抜けて来たでしょう。幻覚なんですよ」

 

「え?」

 

「ほら、幻覚でしょ?」

 

「うん、うん……? そう、かも……?」

 

 ゴリ押した。

 どう考えてもおかしいけど、なんとか誤魔化せた。

 まさかこんなので大丈夫とは思わなかったけど……

 

「え、えっと、つまり貴方は私のイマジナリーフレンドの一人ってことですか? ギタ男くんみたいに」

 

「ギタ男くん?」

 

「え、ほら、や、私のイマジナリーフレンドに居るじゃないですか」

 

「(え、知らないけど……誰それ?)」

 

 どうやら元からイマジナリーフレンドが居るヤバい娘らしい。これは幸運だ。

 せっかくだから話を合わせよう。

 そう、私は今日から彼女の空想の友達だ!

 

「そうだよ! 私はギタ男くんと同じくキミのイマジナリーフレンド! 心の友だよ!」

 

「こ、心の友……!」

 

「そう、心の友だ!」

 

「エヘヘへへ、心の友、ウェへ、ヴェへへへ、デュフ、デュフフ」

 

「(笑い方が気色悪いな)」

 

 私に"心の友"と呼ばれて嬉しそうにしていた女の子は気持ちの悪い笑い声を一通り発した後、落ち着いて私に再度問いかける。

 

「えっと、それで、お名前はなんて言うんですか? イマジナリーフレンドさんは……」

 

「名前?」

 

「は、はい、ありますよね?」

 

 名前か。まぁ別に本名伝えても問題は無いだろうし、正直に名乗るか。

 それにしても、この子は喋る前に『あっ』とか『はっ』とか『えっ』とか吃音を入れなきゃ喋れないのだろうか。

 その喋り方は、私の昔の知り合い――後藤ひとりにソックリだ。

 

「私の名前はアコ。苗字はあるけど、まぁ、堅苦しいし名前で呼んでよ」

 

「アコ……? それってもしてかして幼稚園の時の……?」

 

「え……?」

 

 "幼稚園"? 

 

 ……いや、待て待て待て。

 もしかして、そうなのか?

 この人はあの娘なのか???  

 そういえばよく見たら心なしか顔に面影があるし、髪の色も同じ……え、いやマジで?

 後藤ひとり、私の走馬灯にまで登場するぐらいの奇人。コミュ障のあの娘なのか!? 

 いや、今眼の前にいる娘もコミュ障ぽいもんな!もうほぼ確定でしょ!?

 

 

「あの、失礼ですが、お名前は……?」

 

「え?後藤ひとりですけど……?」

 

「(うわああああああああああああああ!?!?!?)」

 

 ま さ か の 知 り 合 い 確 定。

 

 嘘じゃん!?

 

 たまたま私が轢かれる原因になった犬の飼い主がこの娘で、しかもその娘からイマジナリーフレンドだと思われてるなんて!?

 どういう状況!?

 これどうすんの!?

 

「そっか、私の人生の唯一の友達、それをイマジナリーフレンドにしてしまうなんて……私は……私ってヤツは……」

 

「(なんか勝手に一人で落ち込み始めたな)」

 

 私が慌ててる間に、どういう思考プロセスを辿ったのか、私という存在をイマジナリーフレンドとして登場させた事に罪悪感を覚えたらしいひとりは膝を抱えた体育座りの姿勢で落ち込み始めた。

 それにしても、この娘は相変わらず友達ができなかったらしい。

 "唯一"の友達って……

 その私も大した期間を一緒に居たわけじゃないのに……

 

 それにしても、これからどうすれば良いんだろう。

 しばらくはこの娘の"イマジナリーフレンド"として過ごすしかないのではないだろうか?

 私の未練の原因がこの家にあるかもしれない以上はここにもうしばらく居るべきだ。このまま泊まり……というか活動の拠点にするかとしれない。だとするならば、このシチュエーションは都合が良い。

 私のことが見える上、私と喋ることも出来るひとりがそう思い込んでくれているなら、これを利用しない手はない。

 

 それに、未だに幼稚園の友達を覚えてくれていて"唯一の友達"と称してくれるこの娘に『私が死んだ』という事実は重すぎるだろう。

 この娘の心があまり強くないのは知っている。そんなショッキングな情報は伝えられない。

 

 つまり、私は彼女と生活しながら、彼女に"イマジナリーフレンド"であると思わせ続けなければならない。

 

「えっと、これからよろしくね?」

 

「あっ、あっ、あっ」

 

「大丈夫!? ひとり、貴方、物理的に溶けてるわよ!!??」

 

 私とひとりの奇妙な生活はここから始まる。これはそんな物語。

 

 ――――幽霊の私はひとりのイマジナリーフレンドということになりました。

 





こんな投稿者名ですが、今作は友情以上のぼ喜多要素は登場しません。ご了承ください。

ちなみにオリ主の名前
世代 亜功という名前はぼっち・ざ・ろっく!のメンバーの名前の元ネタになってる例の某バンドから来てます。

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