新馬戦は12月の阪神2000mに出走する事になった。2歳G1に間に合わないとしても、9月までにはデビューしておきたかったけれど自分で見ても体の出来上がりにはもう少し時間がかかりそうだしこれは仕方がない事だろうなとも感じる。
もろちん超がつくほどの良血なので人気はしたがやっぱり期待はされるほど良い。パドックでの後ろ足の踏み込みも、首との連動も、返し馬の走り方もかなり良く見せられるようにした。
鞍上も大ベテランだ。良い動きを見せていれば新馬戦でもしっかり乗ってくれるだろう。
ゲートインが完了して競走馬としてのデビュー戦いよいよ始まろうとしている。
新馬戦は一般的にスローペースになりがちである。理由としては次走のために、控える競馬を教えたい騎手がそこそこ多く、馬の能力をある程度したいからだ。*1
能力が抜けているならば逃げるのが1番楽に勝てる戦法ではあるが、それだともっと上のレースに行った際に並ばれただけでやる気をなくしたり、鞍上の体内時計に大きく左右されたりとデリケートな部分が大きい。
逆に最後方に位置付けする追い込みも追い込みで直線が短いと捉えきれなかったりとなかなかピーキーな作戦だ。
俺は、器用に走るという事に関してはかなりの自負があるので戦法には先行抜け出し*2を選択した。三冠馬の子供達…その最高傑作を目指すならまず怪我をしないのが1番良いしね。この戦法は消耗も少ないのだ。
しかし王道という事は勿論求められることも多い。好位置をキープするならゲートを出る際の反応の良さ、どんな展開でも付いていけるだけの柔軟な操作性とスタミナ、最後に差し切る瞬発力…例を挙げるとキリがない。
しかしそれが出来てこその超一流よ!
さあ!ゲートが開いた。
スタート直後には坂があるのでテンに置かれがち*3な馬でもパワーさえあれば好位置を取りやすいというのがこのコースの特徴だ。
新馬戦という事で外から内に詰め込んでくるような騎乗はないだろうと判断して少し早め、内側に位置つける。順番で言えば9頭の内、前から5、6頭目あたりだ。
坂を登ってからはコーナーをゆったりと回る。先頭に立たされた馬も鞍上としっかり折り合いがついており、普通〜やや遅めのタイムを刻む。
そして勝負所の第3コーナーに入る。
それまで2番手につけていた馬が先頭の馬を交わしスパートをかけ始める。ここの下り坂でスピードをつけてラスト200m付近の坂を押し切ろうとする判断だろう。
それに続く形で後続も位置を押し上げており、鞍上のゴーサインも入ったので自分もスパートをかけ始める。コーナーを回りながら狭めていたストライドを完全にピッチに切り替えて前脚を首と一緒に大きく伸ばす。対空時間は出来るだけ短縮出来るように意識してとにかく足を沢山動かす。
反復してやってきたことを繰り返すだけだ。他馬は意識しない。気分としてはタイムアタックに近いだろうか。
そして歓声と共にゴールイン。気がつけば5馬身差の圧勝であった。
しかし新馬戦は後の重賞馬も条件馬も共に走るレースであり差が開きやすいと言われている。これからも気を抜く事は許されない。整理運動を十二分に行って今夜はしっかり休もう。
このレースは自分にとっての始まりですらない。
日を重ねるごとに聞こえる調教師、厩務員の自分に対する期待の声。
優秀な親兄弟が国内外問わずに沢山という生まれ。
期待して大金をかけたオーナー。
裏切れない。裏切ってはいけないものが数え切れないほどあるんだ。
次回は騎手視点です。