「傑」
「傑」
「すーぐーる」
ん……。
私は目を覚ました。
それにも関わらず、視界は真っ黒。目隠しをされている。
それだけじゃない。多分、血液を少しずつ摂られてる。体に細い針が刺されている。
あとは足。魚の足だ。私の足は水に浸されている。
うーん詰んだね。
「美々子と奈々子と利久は無事かい?」
「お。傑。無事だよ。だーいじょうぶ。傑がいい子にしてたらね」
「火葬でもなんでもしたらいいじゃないか」
そう言いながら、スレを開く。
「頭の中の声はいいから、僕の声に集中して」
顎を手で引かれる。多分、悟に顔を向けさせられた。
「ハロウィンの日、傑に何があったのか聞きたい。大事な事だから2回目言うけど、外部から指示を受けるのはなしで。異能者には異能者だけの連絡手段があるんだろ?」
「……言っただろ。夏油傑は死んだ。私が殺した」
「そこの所、もうちょい詳しく教えてよ。縛りに反しない範囲でいいからさ」
「話すほどの事もないよ。呼びかけられて、異能と前世の記憶に気づいた。それだけ」
「傑の前世、気になるなぁ。話してよ。まず名前からね」
「嫌だ」
女の子の前世なんて、絶対馬鹿にされる。
「傑のプライベートは話したのに?」
「夏油 傑は死んでるからいいんだよ。誰が自分の事を話すんだ」
すると、悟はブハッと笑った。クックックと笑い続ける悟。
「あー、それで。謎が一つ解けたね。うん。学長、もうネタバラシしていい?」
「はあ、ほどほどにしてやれよ、悟」
「傑。君は死んでない。良かったね!」
「は?」
「大体、僕が傑を間違える訳がないでしょ。お前は間違いなく傑だよ。誰かの記憶を自分のものと勘違いした、ね」
「そんなはずはないよ。確かに転生者としての意識が……!」
「ねぇ傑、歌って。力一杯」
「は?」
「魔王みたいなすごい曲。歌って。憂太達に聞いたよ」
「私に歌わせていいのかい?」
「僕も学長も血を飲んでるから大丈夫。自分の事だろ、知りたくない?」
そう言われて、私は歌う事にした。
目隠しを外され、鏡を見せられる。
そして、歌う。
私が奥へと押し込められる感覚。それとは別に浮き上がる感覚。
血が足りなくてくらりとするのを悟が支える。
目を見開いた。歌う私は、女の子の人魚になっていた。
「やあ、小魚ちゃん」
圧倒的美形である悟に耳元で囁かれ、私はひゃっと声を上げる。可愛い声。なんだこれ。
そして、私は男の体に戻った。ほっ。
「傑、わかる? 今、表に出たのが小魚ちゃん。さっきまでと今、僕と話してるのが傑」
「?????」
「悟、ここからは私が説明しよう。私の専門だからな」
「夜蛾先生」
「今、傑の魂には異物が入り込んでいる状態だ」
「えっ」
「正直こんな雑な処理でよく正気が保てていると……いやなんでもない」
「雑? 雑って言いました?」
「とにかく、感覚を共有しているだけで、別に混ざっているわけでも塗りつぶしているわけでもなく、別個に三つの魂が傑の中に入っている。だがしかし、主人格は傑で間違いないから安心していい。間違っても操作を無理やり奪い取るなどという真似は小魚ちゃん? にはできん。傑>超えられない壁>小魚ちゃん>超えられない壁>魚類の魂となっている。まあでも一応三つの魂だから、辛うじてバランスは取れていると言ったところか」
「なんて?」
「だーかーらー。傑の中には、傑って人格があって、傑の許可があれば表に出られるけど傑には絶対勝てない一般人の歌姫の人格があって、なんか薄すぎてよくわかんねー魚っぽい生き物の魂が入ってんの。つーまーりー。小魚ちゃんは誰も殺してない。良かったね」
「は???」
「お前は、自分の絶対触れられたくない過去を他人のモノだからいいやって公開しちゃったわけ。してもらって良かったけど」
「は?」
私は呆然として昨日の記憶と言ってしまった数々を思い出す。
「はあああああああああああ!?? ちょ、悟、全部忘れろ!! 取り消す!!」
「一生忘れてやんない。俺が勇者でヒーローなんだっけ?」
ニヤニヤと悟が笑う。
わああああああああああああ!!!
「っ それで、秘匿死刑はいつなんだい? すぐするよね? すぐすると言ってくれ……!!」
「そこで傑に朗報が!」
「嫌な予感がする」
「術師による食事の用意! 水槽完備! 好きなだけ歌える! お仕事は血液を提供するだけ! この条件で呪専の水槽で買われるなら秘匿死刑はなし!! 凄いでしょ」
「はぁ……ないだろ。私は大量殺人犯だぞ」
「そうだね。心配しなくても、ちゃんと罰は与えられるよ。傑は一生自由になれないし、実験台にならないといけない。半分見せ物だしねー。でも、一般人とは殆ど接さなくて済むよ。殺さなくていいし、殺されずに済む」
「そんなに人魚の肉は魅力かな?」
「魅力だね! もう逃亡できないようにするのを兼ねて足を食べちゃおうって案が出るほど人気だね!」
皮肉に言って見せたのを、どストレートに肯定されて私は戸惑う。
「どうする? 今、傑から屈しておけば、多少の自由は得られるよ?」
「断ったら秘匿死刑ではなくて?」
「人魚の血肉だよ? 延命措置してでも生かすに決まってるじゃん。でもその為にもストレスはできるだけ少なくしたいんだよね。そんなわけで、最低限の生活は保証されます。やったね! でも当然、従った方が待遇は良くなるよ」
「でも」
私はスレを見ようとして、悟に止められる。
「傑。自分で決めな。これが呪専の提示した雇用条件。あとは傑が縛ればそれで済む」
「メロンパンに血が奪われたら」
「ああ、脳味噌やろう? 多分もう遅いね! 相当深く食い込まれてるみたいだし」
「異能者の対処が」
「傑が保護した中にかなりの数の異能者いたね。防御は傑の血で出来るし、問題ないよ。人手は足りてる。うわ、人手が足りてるって言えるの何年振りかな」
私は、戸惑って悟を見る。
「縛る? 物理的に縛られる?」
「縛るよ」
縛りを結び、スレを見る。
一斉摘発による阿鼻叫喚がそこに記されていた。
「読んだ? 読んだらわかると思うけど、上層部の掃除は終えてあるから。メロンパンの手下も異能者の手下もこっちに寝返らせたから」
「何があったんだ……?」
「傑が保護した中に異能者の仲間がいたのは分かりきってたからねー。連絡が取り合えることも。そこから辿りました!!」
「えっ 悟、頭良かったの……? 政治できないと思ってた」
悟は私の頬を引っ張った。
「これでも御三家だっつーの。大量の情報と人魚に天使って武器あって勝てないわけないでしょ」
知りたくはなかったかな。
マシュマロ、感想、お気に入り、評価、ここ好き、ありがとうございます!!
とりあえず、ここで一区切りですかね……?
次回エピローグで、一旦切ります!
二章始めるかどうかはその後考えます。難易度上がるしpixivで別ルート書きたいし。