自らを殺す行為、駄目、絶対。
アルコールをゴキュゴキュと飲む。
ほろ酔い加減で、私は屋上に立った。
本当は、お酒は未成年は絶対ダメなんだけど、私は成人した人の転生体だし、今日この日ぐらい良いよね。
「だって、しょーがないよね。しょーがないもん。うん。しょーがない」
「愛しちゃったんだもの。当たり前でしょ!? ずっと一緒に弟として暮らしてたんだもの」
「自分の命より、大切って思っちゃったんだもの」
「私の命とさーあ。天秤ならさーあ。そりゃ私が死ぬしかないよね」
「乗っかってるの、恵だけじゃないし。多分、赤ちゃんとか、子供とかもいるし」
「助けてよ、ヒーロー! あ、私がヒーローだったか、こりゃ失礼」
「じゃあ、ヒーローとしては、がんばりますよぉっ せーの」
「じゃあああああんぷっ」
その瞬間、最愛の弟の身を切り裂かれるような悲鳴を聞いた気がした。
屋上から飛び出した私は見えない何かにぶつかってボヨヨンと跳ねた。
鳥が掴もうとして、咄嗟にその鳥を抱きしめちゃって、一緒に落ちて。
また、ぼよよん。
私は、気持ち悪くて吐いて、吐いて、吐いて、泣きじゃくった。
「何よぉ。せっかく勇気出したのに。死なせてよ。死なせてよ。足手纏いは嫌なんだってばぁ」
びぃびぃと泣いて、ゲェゲェと吐いていると、走る音が聞こえた。
「津美紀さん! 貴方も……!? 言ってくれれば!」
「雫さんだっけ? お願い。終わらせてよ」
「そんな、頑張りましょう! 虎杖が宿儺の指さえ取り込まなければ、希望は……!!」
「ダメ。ダメなの。私は退場しないとダメ。直死の魔眼なの、私。呪霊見えないし。中の人がもし使えちゃったら。ダメなの。役立たずなの。非術師だし。戦えないし。でも、中の人なら術師は殺せちゃうんだよ」
「あ……!」
雫は青ざめる。
「シーズークー。まだ話してないこと、あるんだぁ♡」
その肩を、ぎりぎりぎりっと掴まれた。
バサバサっと鳥が飛び立とうとしたが、瞬時に捕まれる。
そして、雫よりよっぽど蒼い顔をした恵が津美紀の肩を揺すった。
「田中だっけ? 大人しくしとけよ。お前も山田みたく頭良いんだろ? それにそこの呪霊も正座してろ。祓うぞ」
「津美紀! どうして……!! 何があったんだよ」
「うるっさいわねぇ! 弟は! 姉に! 守られてればいいのよ!!」
「これのどこが守られるってんだよ!!!」
「いいから、殺してよ。殺してよ。仲間でしょ!!?」
「ごめん、津美紀さん。当主様にこれ以上逆らうのはNGなので……でも津美紀さん。弟さんの事を思うなら、どうか一度目を閉じて、落ち着いて心の声に耳を傾けガッ」
雫は顎を蹴り飛ばされる。ご当主様、激おこである。
「舐めてんのか雫。山田あたりに津美紀に指示だしさせる気だろ。そんなに殺されたいか?」
「津美紀! 初めて会ったこんな奴より! 俺の事を信じてくれ!! それとも、俺の事、そんなに頼りないか……!?」
「恵……私、虎杖くんが宿儺の指を食べるのと、真人の術式がスイッチで、受肉するように改造されちゃってるの。もう、避けられないの。だから、私……自分の意思が消えないうちに、私の意思で、恵と敵対しないように、終わらせないといけないの」
「そんな、ふざけんなよ。そんなスイッチ、じゃあ虎杖ってやつと真人を殺せばいいのか?」
「わかんないよ! わかんないよぉ! だって! 虎杖悠仁は、良い子で! 良い子で、良い子なんだよ!! 殺しちゃえば全部解決なんて、言いたくない……!」
「だから津美紀が死ねば全部解決っていうのか!? 言ってることおんなじじゃねぇか!」
「うえええええええええええ」
「全部俺に話してくれ! よくわかんねー奴らより、雫より!!! 俺だけ見て、俺の事だけ信じてちゃんと話してくれ!!!」
「め、恵……。私、問答無用で、物や生き物……見える物全ての弱点が見えるようになったの。波長が合う人に声が聞こえるんじゃないの。あの日、超能力に皆が目覚めて、その中の誰かの能力がテレパシーで、そのひとが心を繋げてるだけなの。だから、雫さんと山田さんの会話とか、全超能力者が、私でも聞こえちゃうの」
「雫ー? 話がだーいぶ変わってきちゃうけど? お前の力は?」
頭を踏まれ、ぐりぐりとされる。おこである。当主様おこである。
「視界を片目づつ交換したり、頑張れば目の機能自体を交換できます……。出来れば内通者にバレないようにしていただけるとイタイイタイ当主様、頭つぶれ、あーっ」
呪霊をスパイさせて黒幕から聞いたという、計画や諸々を聞いた伏黒の動きは早かった。
その二日後には、虎杖の家に突撃していたのだから。
雫については、津美紀が仲間だと知っていたら殺していたかもしれない。知らなかった上に、自殺しそうなところを知らせて助けを求めてくれたから許したが。
「あー、そういうわけで、裏取りの為にこの呪胎九相図を食って欲しい」
「明らかに胎児っぽいものを食えとか。もっと分かりやすく言ってくれよ」
「見えないお前に今説明してもわからないだろう。だから覚醒を先にして欲しいんだ」
「これ食うと、なんか覚醒するわけ?」
「その通りだ。呪霊が見えるようになる」
「でもやだ」
「悪いが、お前に拒否権はねぇんだ。何故なら、お前は人工的に作られた宿儺の器。絶対に黒幕がお前の回収に訪れる。お前は力をつけて抗うか、生贄になるしかねぇんだよ」
「それが本当だって保証は?」
「これ全部食えばわかる」
「わりぃけど」
「宿儺が」
「?」
「お前が宿儺の指を一本でも食えば、俺の姉はその影響を受けて死ぬ。そうトラップが仕掛けられてんだ」
「いや、くわねぇし」
「このままだと間違いなく無理やり食わされるぞ。お前を殺す案も出た。俺は正直、それに賛同したい。津美紀の為なら……! でもそれじゃダメだって津美紀は言う。それなら、お前に強くなって自衛してもらうしかない。だから、宿儺の指を喰わない限り、俺は全身全霊でお前を守る。宿儺の指を食おうとするなら、俺がお前をその前に殺す」
「だから、くわねぇって」
「頼む……」
「はあ、ほんっと勝手だよな! 言っとくけど、それ食って具合い悪くなったらどうしてくれる?」
「この呪胎九相図を食ってもお前が何も見えるようにならなかったら、俺が禪院家に身売りしてでも金を作ってお前に渡す」
「それも重いって! あーもう! 知らねー知らねー知らねー! 責任はお前とれよ!」
そして、俺は胎児を口に入れた。
しゅるんと溶けるようにして。俺の目は、机の上の化け物を捉えていた。
「うえ……」
「見えたようだな。こっちの残りも食ってくれ。呪力が増えるはずだ」
「そっちのは?」
「自我が残ってる奴だ。心配しなくとも、お前が食えば死ぬ程度の自我だが。こっちは最終手段だったから、もう見えるなら飲まなくていい」
「いや、生きてる奴はくわねぇよ!?」
そうして、虎杖悠仁はなし崩しに東京都立呪術高等専門学校に入学することとなってしまったのだった。
これは、厳重に隔離された空間でのこと。
「雫、津美紀」
「はい」
雫は、津美紀と片目をチェンジした。
「呪霊が見える……!」
「んー。何も見えません」
「両目」
「あ、線が見えました」
「ちょっと頭が重い気がします」
「行けそう?」
雫は呪物にナイフを触れさせる。刺さらない。
呪力を通す。スッと通った。
呪物はあっという間に壊れてしまう。
「実験は成功したね。よかったね雫。殺されない理由ができて」
「は、はい」
「津美紀。見える目は手に入れたわけだけど。どうする? 呪具の扱い、学んでみる?」
「私、虫も殺せないけど……物でしたら、壊せると思います」
「よかったね雫。しばらくは殺されない理由ができて」
「ふぇぇ」
「後、一ヶ月と少しで遺伝の結果が出るね。その結果によっては、もう少し寿命が伸びるよ? よかったね、雫。あ、いっそのこと雫と津美紀、結婚しちゃう? 津美紀が良かったらだけど! 早めに返事ちょうだいね。ああ、それと。情報流出させたら、わかってるね、2人とも?」
「「ふぇぇ」」
ご当主様の怒りはまだ解けてはいない。
ここ好き、感想、ありがとうございます!
すみません、唐突に津美紀ちゃんログインしました!