順平は、息を呑んだ。
とんとん拍子に行く救済なんて、物語の中だけだ。
あんなに頭のいい山田さん(犬)が大失敗して、呪霊の皆が捕まったりして。
田中さん(鳥)が尋問されて、上層部の雪野さんまで危うい。
津美紀さんが仲間だったのは驚いたけど、なんと音信不通。雫さんはどうなってるのか確認するのも怖い。
世界が破滅したら困るのは僕たち自身なのに、掲示板の住人は他力本願に事態を眺めて雑談をするばかり。
薄暗い映画館の中。
目の前で真人が映画を見ている。
しかも、なんだか不機嫌そう。
とんとん拍子に行く救済なんて、物語の中だけだ。
まさしく地獄の中にいる人達は、平和の中で生きてきた僕たちよりずっと強くて聡い。
物語はとっくに改編され、真人が此処にいること自体が奇跡に近い。
とんとん拍子に行く救済なんて、物語の中だけだ。
話かけた途端、魂ごと壊されるかもしれない。
僕が仲間だという情報は、絶対に漏洩するだろう。
それでも。
それでも、僕が足を踏み出すのは。
きっと、僕が真人の言う通り、原作の通り、愚かだからなのだろう。
後はもう、掲示板を見ずに真人さんだけに集中した。
「あのっ……」
そしてぼくは、スパイになった。
僕は真人さんに心酔したふりを続けた。
たくさんの人が目の前で殺された。
けれど、最低な僕はそれが僕か母さんでなければどうでも良かった。
僕は所詮順平だったと言う事だろう。
だからこそ、心酔したふりは簡単だった。
むしろ、母さんに矛先を向けさせない為、率先して殺しを好むように見せかけた。
そして、術式を習得してしばらく。真人さんから任務を頂いた。
「順平。お願いがあるんだ」
「なんでしょう、真人さん」
「この子と仲良くなって欲しいんだ」
「友達が増えるのは歓迎ですよ、真人さん」
そして、河原で術式を練習しているとき、虎杖君は現れた。
「その! えと! 呪霊見なかった!?」
「探せばどこにでもいるじゃないか」
「そ、うじゃなくてさ。あー。人型の呪霊!」
「さあ、知らないな」
ギクシャクしながらの虎杖君の会話。
裏に五条悟が見える見える。
「あのさ。順平が呪霊見えるなら、転校しねーか?」
「そうしたら君と友達になれるかな?」
「えと……おう!」
「じゃあ、いいよ」
僕はニコリと笑った。
さて、誰もが知っている中で、二重スパイとして踊る生活の幕開けである。
だって、母さんの事は真人さんにも五条さんにも割れているのだから。
どこまでもミッションインポッシブル。
それでも、うまく踊り切ってやる。
決意を込めて、僕は、虎杖君に手を差し出した。
「友達になろうよ」