転生ゲーム   作:かりん2022

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殺された未来の物語(前編)

「悟」

 

「悟」

 

 そう、柔らかで優しい声が聞こえる。

 それがとても懐かしくて。

 

 唐突に、世界が色を持った。

 

「悟。体の調子はどうかな。騒がしくしてごめんね」

 

 ぼんやりとしながら、それでも聞いてみた。

 

「……それ、俺の名前?」

「!! 悟! そうだよ、君の名前だ、五条 悟!」

 

 そういって、見知ったはずの男がボロボロと涙をこぼした。

 

「何も思い出せない。……泣いてんのか?」

「君が起きてくれたことが、嬉しくて……! 体は動かせるかい?」

「ん」

 

 手をグーパーと動かす。だいぶ動かしにくい。何が起きたんだっけ。

 

「ヨカッタナ、夏油」

「ああ、ありがとうミゲル。ホッとしたよ」

「ソロソロ、悟ヲ呪術師ノ元二帰シタホウガイインジャナイカ」

「悟が身を守る術を思い出すまで放りだせない」

「危険ダゾ」

「それでも、親友をほっとけないよ」

「ヤレヤレ……」

 

 親友。親友と名乗った男は、小鍋から二つのお椀にお粥を入れた。

 細かく刻んだ野菜や卵なんかが入っている。

 そして、まず自分が口をつけて、それから俺にスプーンを寄越した。

 最初の一口だけ大人しく受け入れて、スプーンを奪って自分で食べた。

 うまいけど、物足りない。ニコニコしながら食事する親友を見る。

 

「お前、体悪いの」

「なんで?」

「同じおかゆ」

「毒味のついでだよ」

 

 でも、こんなんじゃ力つかないだろ。俺に合わせることないと思うが、多分、そう言っても目の前の男は譲らないと思った。

 

「……違うの食べたい」

「今日はおかゆで我慢してくれ。明日から普通のものを食べよう」

 

「お前、俺の親友なの」

 

 優しくしてくれる事に、既視感と違和感。目の前の男は、信頼できる気がして、敵な気がした。

 何より、捨てたのはお前だろ。

 

「そうだよ。私の名前は夏油 傑。同級生で、親友だった。今でも君は私の一番大切な人だ」

「傑……」

 

 頭を抑える。ガンガンと痛んだ。傑。傑。親友だったって何だよ。なんで。どうして。頭の中でぐるぐるする疑問。

 

「大丈夫だよ。たとえもう何も思い出せなくても、私がもう一度教えるよ。常識も善悪も、過去も。全部」

 

 そうして、抱きしめて優しく言う。

 洗脳される。危惧と諦めと受容。どうやら、目の前の男と自分の関係は複雑らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、傑は得意げに話し始めた。

 

「良いかい悟。弱者救済。呪術師には、非術師を守る義務があるんだよ」

「「は?」」

 

 その瞬間。傑にダブって学生時代の傑の姿が見えた。僕は一気に記憶を取り戻していた。

 

「めっっっちゃ綺麗事言うじゃん」

「意外ダナ夏油。有ル事無イ事吹キ込ムカト思ッタ。イツモイッテルダロ。非術師ハ猿ダッテ」

 

 そうだ。こっそり調査して、傑がどんな風に変わってしまったか僕は知ってる。

 

「悟は今弱ってるんだ。私が代わりにしっかりしないと。甘えてメンヘラしてる場合じゃないだろ」

「……」

 

 お前は何を言っているんだ。甘えてメンヘラって自覚あったのかよ。てかそういうつもりだったのかよ。

 僕が困ってたらお前あっさり呪術師に戻ったのかよ。

 僕の中で怒涛のツッコミが吹き荒れる。

 

「げ、夏油。結構イウナ……」

「今なら言えるけど、私は悟に殺して欲しかっただけだからね。ありえないけど、百鬼夜行、もし成功させて悟を倒しちゃってたら完全に発狂してたんじゃないかな」

「オマエ」

「てへぺろ⭐︎」

 

 てへぺろじゃねぇよぶん殴るぞ。

 頭を抑える男にクスクスと笑う傑。

 

 ぎゅう、と今度は僕が傑を抱きしめる。そして力をこめていく。

 

「痛い痛い痛い痛い!」

「それ、俺がすげー悲しむと思わなかったの。親友なんだろ。まわりにも迷惑って思わねーの」

 

 百鬼夜行って名前からしてテロでもするつもりだったのかよ。自殺に何人巻き込むつもりだ。

 いっそ直接言えよ。わかんねーよ。つーかそこまで追い詰められる前に相談しろよ。

 僕がどれだけ悩んだと……!!

 

「悟、最強だから大丈夫かなってイダダダダ! げ、元気そうだから明日の食事はお肉大丈夫かな」

「お前、俺と敵対してんの」

 

 そういえば、記憶が飛んでたんだった。この調子だと、傑が僕を倒したっていうのはなさそうだけど、じゃあ何があったんだ。まあしばらく記憶は飛んでるふりするけど。

 僕がしっかりしてるならってまた「甘え」られたらたまらない。

 

「そうだよ」

「なんで俺、ここにいんの。もうお前に倒されたからここにいるんじゃねーの」

「なんかね。なんでもぬいぐるみに変える傍迷惑な能力者がいて、その人に通り魔的にやられちゃったんだよ。君、美形だしね。他にも犠牲者は沢山いて、夜蛾先生にも協力してもらってなんとか可愛い自作ぬいぐるみと交換で解放してもらったんだ」

 

 なるほど。僕がやられるなんて信じがたいし、僕をあっさりぬいぐるみと交換するのも信じがたいけど、事情はわかった。とんでもなく優秀な呪術師が生まれたとかだろうか。

 

「何でわかったの」

「ちょっとツテがあってね。話逸れたね。夏油先生の1限「常識」はまだまだ続くよ。東京都立呪術高等専門学校っていう所があってね」

 

 そうして、傑は得意げに知識と綺麗事の入り混じった妄言を垂れ流し始めた。

 いや、これはこれでたちの悪い洗脳だと思う。想像とは違うベクトルだったけど。

 

 

 

 

 

 

 

「おっえ〜! 綺麗事のオンパレードじゃねーか!!」

 

 学生時代のように言う。学生時代がたまらなく懐かしかった。そういえば、傑はこういう男だったよな。

 

「あはは。次は二限だよ。悟の思い出を話そうか。悟は最強で格好良くて、勇者なんだ」

「は?」

「ジャパニーズNOROKEノ予感!」

 

 っていうか何なんだよ傑。前の傑でもこんなこと言わなかっただろ。

 お前に何があった。

 

 

 

 

 

 

 

「三限だよー。生きてるかい、二人とも?」

「きっっつ。いやきっっつ」

 

 顔が赤いのを自覚する。お前のいうそれは僕じゃないんだよ。元々思い込みの激しい男だったけど……これは何かあったな。

 

「三限ハナンダ……何時限マデアルンダ……」

「三限は……そうだね。お話でもしてあげようか」

「今度は何の話だよ。五条悟スーパーヒーロー物語? やめてそろそろ吐きそう」

「題名は……うん。殺された未来の物語」

 

 そうして、傑は、盗聴機とか呪霊がいないか念入りに確認を初めて、男(ミゲルというらしい)に改めて口止めをして、話し始めた。

 

「今からほんの少し未来のいつか……物語の主人公は虎杖 悠仁。非術師の少年だよ」

 

 傑の声が少し震えた。

 未来。何か、重要な事を話すらしい。僕はちょっと姿勢を正して聴き始めた。

 

 

 傑の話を聞く。

 未来と言ったか?

 宮城県仙台市、杉沢第三高校。そこには確かに宿儺の指が安置してある。

 伏黒恵のことは、傑でも調べればわかるだろうが……。恵の学年的に来年の話か。

 宿儺の器? 本当にそんな存在がいるのか。何より、なんで未来?

 

 これで全部作り話だったらぶん殴ろうと思いながら話を聞く。

 

 少年院に特級呪霊が現れて、一年生を向かわせる? ありえないが、上ならやりそうだ。

 

 いいところで話を止めて、傑は布団を引っ張った。

 

「じゃあ、今日はこれでおしまい。ゆっくり休みな」

「嘘でしょ?」

「また明日話してあげるから」

 

「多少は体動かさないと体鈍っちゃうよ」

「じゃ明日から体育も入れるよ。でも今日はもうおねむり」

 

 ああもう!

 

 その日は一日中休まされた。

 傑は僕が休んでいる間、ずっとぬいぐるみの絵を描いては女の子に渡していた。

 

 

 

 

 

 

 次の日。

 

「じゃあ、続きをするよ」

「待ってた」

「じゃあ、常識の授業その2ね」

「それは飛ばそうか」

「ええ?」

「綺麗事はもう十分なんだよ! っていうかそんな綺麗事でやってけると思ってんの」

「君は特別だから」

「何でだよ」

「物語を全部聞けばわかるよ」

「だから続き話してよ」

「仕方ないな、今日の分先に話しちゃうね」

 

 

 傑は続きを話す。主人公がなんと死んでしまった。

 話しながら、かわいそうな悟なんて感想を話している。

 話は進んで、傑が出てきた。

 

 喫茶店で呪霊と会話をしているらしい。

 

「傑、呪霊と組むの?」

「アリエナイ」

「あはは。それは話が進んだらのお楽しみだよ」

 

 それから、傑と組み手した。あの頃みたいに。

 

 

 

 

 傑の授業3回目。

 今日は順平という少年の話がメインみたいだ。

 特級呪霊の話も気になる。

 話は順平が呪詛師したところで終わった。

 

 

「なーミゲル」

「ナンダ?」

「傑の話、どう思う?」

「未来ヲ見ル呪霊トカジャナイカ」

「そんなの聞いたことないね。一体何があった?」

「ワカラナイ。10月31日カラ様子ガオカシクナッタ」

 

 記憶が戻っているのはバレている。気づいてないのは意外に節穴な傑くらいだ。

 でも、お互い黙っている。傑に何が起こっているのかわからないから。最近の傑の行動は今の傑の周囲にとっても異常なのだ。今は情報が欲しかった。

 

「順平について調べられる? 本当にいるのか、さ。連絡取らせてくれるのでもいいけど」

 

 いくつか縛りを交わし、ミゲルが投げ渡した携帯を受け取る。

 

「ありがとう」

『悟! 今どこにいる!』

「隠れ家。安心して、記憶を失ったフリしてとりあえず大事にされてるから。と言っても、まだ本調子じゃないし、記憶も全部戻ってるわけじゃないけど」

『ぬいぐるみにされたと聞いたが……』

「その辺の記憶は全く戻ってない。そのうち戻ると思うけど。情報収集も兼ねてしばらくこっちにいるけど、心配しないで。あと、僕は大丈夫だから呪術師襲撃させるのはやめて。情報収集終わってないし、襲撃が邪魔で犯人探しがちゃんと勧められてないみたいだ」

『なんとか動いてみる。いつ頃で戻れそうだ?』

「12月には戻すって言ってる」

『長いな……』

「生徒達をお願い。それと、傑の話で気になる所があってね。調べてほしい事がある」

 

 さて、どう出るかな。

 

 それはそれとして、僕をぬいぐるみにした奴の事だが、捕獲が上手くいっていないらしい。

 ふざけんな、ぬいぬいメーカーって傑が叫んでいたし、僕をミゲルに任せて忙しそうにしていた。

 

 

 

 4回目。

 順平編が終わり、交流会編が始まる。

 続きを強請ったけどダメだった。

 

「12月までに終わるのこれ?」

「全20回だよ」

「ナガイナ夏油。一日二話ハダメナノカ」

「常識はもう十分でーす! それかぬいぬいメーカー? の捕獲作戦手伝わせてよ」

「危険だよ」

「放っとく方が危険でしょ」

「そう、だね。そうなんだよね。今後も考えると、でも危険が……とりあえず、今回は私がどうにかするよ」

「次回があんの」

「それは……わかった。明日からは2回分だ」

 

 調査では、順平は実際にいた。

 

 

 5回目。

 交流会編終了。

 呪専襲撃されてんじゃん。

 

 それと傑が僕をミゲルに任せて呪霊を使って出ていった。

 戻ってきた時には、怪我をしていたし数人の血濡れのぬいぐるみと人間が混じった怪物を抱えていた。

 

 徐々にぬいぐるみから人に戻っていくそれを見て、実感した。

 自分はぬいぐるみになっていたのだと。そして何より信じられないのは……。

 

「傑。その傷、どういうこと」

「悟。大丈夫。どうにかする目処はたったよ」

「それ、自分でやったろ」

「わ、わかるのかい?」

「それにあれ、術式由来じゃない。呪力の残穢はあるけど、それが原因じゃない。ありえないことが起きてる。説明しろ、傑」

「ソロソロ教エテクレ。夏油。31日、ハロウィン二何ガ起キタ」

「考えさせてよ」

「余計なこと考えんな。今度こそ、話せよ傑。一人で突っ走んな」

「……そう、だね。何かあった時の為に、話しておく必要はあるかな。でもお願いだ。もう1日だけ時間をくれ。彼らの介抱もしないと」

「夏油様、そんなに私たちのこと、信じられませんか?」

「私、夏油様の為なら死ねます!」

 

 その言葉に、何故か傑はとても悲しそうな顔をして俯いた。

 

「とにかく、時間をくれ」

「夏油。オマエノハナスコロサレタ未来二、オレタチハイツ登場スル?」

「そうだね。その話を先にしようか。これは百鬼夜行の物語だよ」

 

 そして、傑は人祓いしてから話をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前死んでんじゃねーか!! っていうかテロ起こしてるんじゃねーよ!」

 

 それに、僕と乙骨しか知らないはずのことを知ってる。傑が未来を見たのは間違いない。

 そんな術式あるはずがない。術式は何でもありに見えて違う。そんなのはありえない。

 

「夏油、12月二死ンダナラ何故来年呪霊ト?」

「それにはカラクリがあってね。続きはまた明日」

「今話せよ!!」

「えーとね」

 

 そして傑は朝の続きを話す。その話は重要だけど、主人公の恋模様いらないだろ!

 お前のことを話せって言ってるんだよ!!

 

「ここで過去編!!」

 

 話がさらに飛んだ!?

 

 そして、楽しそうに傑は話をする。いつかの救出任務。覚えてる。

 それが天内の護衛任務に流れた時。

 

 傑の様子は急変した。顔色を蒼くする。

 

「……ごめん。あれ。なんかおかしい。だってあれは、まさか」

「天内の依頼か? どうかしたのか」

「い、いや。話を続けるよ」

 

 顔色を悪くしたまま、傑は話を続ける。

 伏黒が僕を刺した時のことを話した時、傑は震えていた。

 

「ごめん。なんか気持ち悪い。今日はこれで休ませてくれ」

「傑。俺は生きて「わかってる。わかってるよ」」

 

 

 翌日。

 傑は、朝から嘔吐していた。

 

「大丈夫か、傑」

「いや、でも、話せる事は話すって決まった」

「また人払いしますか、夏油様」

「いいや、今から話す事は家族には話しておきたい。私から離れるにしても、お願いがあるんだ」

「夏油様から離れないし、お願いもなんだって聴きます!」

「ありがとう、利久」

 

 そうして、傑は水の入ったタライをひっくり返して、びしょ濡れになった。

 傑は人魚になってた。足が魚そのものになってる。綺麗な鱗。

 

「えええええええええええええ!?」

「ハロウィンの日。呪力由来でない特殊能力が不特定多数に発現した。私に発現したのは人魚。私の血は異能に対する耐性を与える。ぬいぐるみもこれで解除できた。後は、歌で人を惹きつける事ができるらしい。安全は十分に確認できてないけど、悟と家族の皆には私の血を飲んでほしい。それでぬいぐるみ化に、それに他の異能にも抵抗できるようになるから、多分」

「お前何に巻き込まれてんの!?」

「えっと、話せば長くなるんだけど」

「だから全部話せって」

「わかってるよ。話してから戦いに行くよ。話す前に私が死んじゃったら困るだろうからね」

 

 そうして、傑はいくつかの実験をお願いして、その後人払いしてまた話を続けた。

 そう、天内の話の続きだ。

 その終局は俺も知ってる。はずだった。

 

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