ポツポツと話を続けていく。
やはり顔色が悪い。
それでも傑は言葉を搾り出していく。
信者達の拍手が怖かったと、懺悔の如く呟いた声は小さかった。
お前、自分が殺される時の話は自慢げですらあったじゃねーか。
本当に幸せそうな顔しやがってさ。
自分が殺される話より、もう終わった過去の方がきついのかよ。
話してくれて嬉しいとは思うけど、同時にプライドの高い傑がこんな事話すのにも違和感があった。
一体何があったのだというのだろう。
いや、今は傑が壊れた理由に集中しろ。ずっと知りたかった事を話してくれている。
壊れていった過程を、苦しみながらも。丁寧に。
それはまるでねじ伏せるように。尋問するように。尋問されるように。
「は?」
九十九の話を聞き、怒りと殺意で思考が止まった。
弱った傑が相談してくれた時、弱っていると言ってくれた時、安易に間違った方向に後押ししてフォローもしなかった奴がいる。
わかってる、所詮他人だ。
でも、なんで。相談されたのが俺だったら。
もっと傑の事を見てやれていたら。
そして、美々子と奈々子を助けた話まで行く。
これはもう自傷行為だ。せっかく包帯できつく縛って隠した傷跡を曝け出して塩を刷り込んで抉り出す行為。傑は苦しげに震えながら話してくれた。
言葉がどうしても出なくて困る時が何度もあった。もう言わなくていい。そう言ってしまうのを堪える。
傑の勇気を否定しちゃダメだ。
「何でかな、ごめんね悟。情けない」
あの時新宿であった時の話をしつつ、言うだけ言って少し楽になった傑は付け加えた。
「多分、私はあの村で罪を犯してしまって戻れなくなった時、一歩も進めなくなってしまったんだと思う。私ってプライド高いからね。間違ってるなんて認めたくなかったし、認めたくもなかった。今更後悔してって事をなした後でもあるしね。無意味だ。後戻りなんてできないんだから」
他人事みたいに、自分を否定する言葉を傑は言った。
その後、傑はさらっと呪専の内通者のことを告げた。
今もう裏切ってるかどうかはわからないと言葉を添えて。
お前な、そういうとこだぞ。
一番きついところを話し終えて少し楽になったのか、水を飲みながら傑は言った。
「少し休憩するよ」
実験の結果を傑が聞きに言っているその間に、呪専に連絡を取る事にする。
被害が拡大してきているらしい。生徒も棘が捕まったと聞いた。まずいな。すぐに助けに行かないと。
「傑がぬいぐるみの治療はできるよ。今なら協力してくれるし、協力させる。ただ、負担が大きいから、治療できる数に限度がある。対抗手段も用意できてるから、こっちで対処する。ただちょっと時間が掛かりそうでね。被害を少なくすることに注力してほしい。傑? 今、色々話をしてくれてるんだよね。そう。よーやく。今後どうするにせよ、きちんと話を聞いておきたい。秘匿死刑は動かせない? 今、ちょっと事件が起きててさ。ぬいぬいメーカーってその先駆けに過ぎないっぽいんだよね。少なくともその事件が終わるまでは死刑保留で傑に協力させた方がいい。傑しか協力できない。詳しいことは後で話す」
夜蛾先生と話した後、傑が戻ってくる。
「じゃあ、血の投与をさせてもらうよ。それから、明日は討伐に行ってくる」
「俺も行く」
「君は待っててくれないか」
「お前、今の状態で一人で行かせられると思ってんのか」
「選ばれたのは君じゃない。これは私が解決すべきことでもある」
「はぁ。出たよ選民思想。で? 後どれくらいあるんだよ、話」
「今、大体半分まできたところかな」
「マジかよ、今日中に終わる?」
「一番大事な部分は今日中に終わるかな。その後は人に託しておくよ」
「家族以外? もしかして覚醒者?」
「そ」
「そいつ事情知ってんの」
「そもそもその人からの情報の横流しだよ」
「さっさと話せよ」
血の投与をした後、傑は話し始めた。
メカ丸との戦闘の話。
生徒に頼られるのは嬉しいけれど、そしてわかっている事だけど、誰も彼もが僕に縋る。
わかってる。傑じゃないけど、それらを救うのは僕の義務だ。傑が本音を決めたように、僕も決めている。僕は最強だから大丈夫。
メカ丸の話が終わると、傑は告げた。
「そして渋谷事変が起こる」
いやめっちゃ大事じゃん。
一旦休憩する傑を急かして、先を話させる。投与された血のせいか体が熱い。
僕が封印される話に及び、傑は臨場感たっぷりに告げた。
熱でぼやけた頭が一気に覚醒した。
「は? お前、体奪われんの!?」
「そう。参っちゃうよね。人の体で大暴れするんだ、彼。君も封印しちゃうし……。君、私を殺した後、君自身の手で私の死体を処分しておいてくれないかな。ああ、ミゲル。彼、通称メロンパンが子供達に甘言をしてきても、乗らないように見てくれると嬉しい」
「ソンナニコロサレタイカ、夏油」
「死にたくないよ」
傑は苦笑する。それは心の底からまろびでた本音に聞こえた。
「でも、世界と引き換えなんて言われたら、しょうがないよね。世界が滅んだら術師も死んじゃうわけだし」
苦笑。その笑みを見た時、思った。
殺したくない。死なせたくない。
「逆だろ」
「え?」
「異能の対策もある。死ぬと死体が乗っ取られるのもある。取り込んだ呪霊が死後どうなるかもわからない。じゃあ、お前は死んじゃダメだろ。日本の為っていうなら、もがいてでも生き延びろよ。というか俺が死なせねーし」
「でも」
「五条悟ノ言ウ通リダ。夏油。俺ハオマエノ理想ヲ望ンデオマエニツイテルンジャナイ。オマエニツイテキタイカラツイテルンダ」
「ミゲル……ごめんね」
悲しそうに、傑は俯いた。
なんで謝るんだよ、傑。まだ話してない事があるな。
「続きを話すよ」
渋谷事変の話は続く。
美々子と菜々子の死でちょっと辛そうにしていたが、話は続いていく。
そして、家族の仲間割れの話。
「私からも話しておくけど、喧嘩しないでくれると嬉しい。いや、私のために争わないでって実際やられると辛いね」
「子供達だけど、呪専で保護させろよ」
「もうちょっと話すとわかるけど、ちょっと事情があってね」
「じゃ、早く話して」
宿儺の術式。恵の術式。それらを傑は詳らかにしていく。
……七海の死。
わかっている。これは「殺された未来」の話。
それでも、拳を握りしめた。
そして始まる過去編。いや、先を急いでくれないかな?
傑の話は続いていく。
「……」
考える事が多すぎる。
虎杖悠仁の兄弟。肉体を乗り換え続ける黒幕。
六眼の因果。呪霊操術で天元様が操れる事。
そして、乙骨の活躍で傑は口を閉じた。
「続きは」
「んっとね。死滅回遊は囮でもあって、メロンパンは天元様の元へ。そこでメロンパンの目標が判明する」
「目標?」
「人類の魂全部が交わった呪霊が面白い形だったら笑っちゃうよねって」
「は?」
「愉快犯?」
「はぁ!?」
「いや、他に何かあるのかもしれないけど。この物語はこれで終わり」
「予知を逆手にとることはできなかったのか?」
「私、知っちゃったからね。持ち主の記憶を奪えるのと、悟が記憶を失っちゃったのがあって、もう無理だよねって。そもそも、相手が変わった未来に対応できないとは思えない。未来情報も加味して、家族の中ではミゲルが一番頼れそうだと思ったから、ミゲルにも話させてもらったよ。後は悟とミゲルの判断で話せばいい」
「まだ信じてたのかよ、その設定」
翌朝。僕が起きると、既に傑は出撃した後だった。
血の投与による体の作り替えが起きたのだろう。どうしても起きれなかった。
呪専に情報をもらい、当然僕も現場に急行した。
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戦闘回はしばしお預けですみません。