烈海王は肉食女子しかいない世界に転生しても一向にかまわんッッ! 作:白起(はっき)
「義父さん、今、烈さんの声が聞こえたような?」
心神会本部の道場で義父である愚地独歩との組手を終えた愚地克己はタオルで汗を拭く。
克己に声を掛けられた独歩はペットボトルの水を喉を鳴らしながら美味そうに飲んでいる。
「何でぇ。克己、お前にも聞こえたのかい? 空耳にしては変だったな。それは『
隻眼の独歩は残された右目を嬉しそうに細め、道着の帯を外してから答えた。
「ええ。義父さんも可笑しな空耳が聞こえましたか。あの烈さんが必死に助けを求めている感じがして……縁起でもないなって」
汗を拭き終えた克己は軽く苦笑する。
宮本武蔵との死闘の末に散ってしまった故人が不様な声を挙げて助けを求めるなど、克己には考えられなかった。
一瞬でもその様な無礼極まり無い空耳を聞いた事を克己は強く恥じる。
「何やら落ち着かないってか。確かに虫の知らせにしては妙だな。まあ、烈の事だ。あっちに行っても相変わらず闘ってんだろうよ」
克己は烈海王から受け継いだ珠玉の右拳を強く握り締めた。
見つめるその先にある褐色の右腕を左の掌でそっと撫でる。
今は自分の右腕だが、これは尊敬する男から託されたものだ。
中国四千年の歴史の集大成が宿る至宝と言えよう。
「腕の調子は良さそうだな。まあ、隻腕のオリジナリティを追求するお前も見てみたかったんだがな」
嬉しそうにしている克己に独歩は揶揄する。
「皮肉は止めて下さいよ、義父さん。大恩ある烈さんへの真の供養と御老公が仰りましたから。俺は烈さんの意志を受け継ぎます」
独歩の言葉に奮起した克己は受け継いだ右腕から神速の正拳突きを放つ。
その技のキレを目の当たりにした独歩は軽く「ひゅ〜っ」と口笛を吹いた。
その一方で、予定に無い異世界に転生させられた烈海王は極度の緊張に襲われていた。
「君達! 服を着るんだ!」
目の前に広がる光景は烈海王が今まで体験した事の無い物だ。
彼は下着姿になった麗しき女性達に囲まれていた。
烈海王の後ろには彼女達が膨らませたエアーベッド。
これより寝技を教授するつもりであった烈海王ではあるが、ここでの修練の仕方は下着姿で行うものなのであろうか。
郷に入りては郷に従うのもやぶさかでは無かったが、うら若き女性達が肌を露わにするのは完全に烈海王の想定外の事であった。
「え〜何でですか? もしかして、SEAKINGさんが脱がしてくれたりしたんですか? それも良いかも。でも、時間がありませんから、お手合わせをお願いします」
黒い下着姿の美少女が烈海王を眺めながら、うっとりとした声を出す。
「き、着るんだ!」
顔を赤らめ、極力彼女達を辱めないように視線を逸らしながら烈海王が叫ぶ。
烈海王の心臓がかつてない程に高鳴っており、呼吸を整えるのにさえ、多大な労力を必要とする。
「もう! SEAKINGさん、優し過ぎ〜ねえ、みんなどうする? 私は我慢出来ないから、このままお手合わせお願いするね」
彼女達の代表者である黒い下着姿の美少女がジリジリと間合いを詰めて来る。
地下闘技場で初めて愚地克己と対戦した時、克己もまたゆっくりと間合いを詰めて来た事を烈海王は覚えている。
「たくましい筋肉……初めては優しくされたい……でも、SEAKINGさんにはめちゃくちゃにされたい……」
息を荒げた美少女が迫って来る。
これは烈海王が今まで体験した事の無い闘い方だ。
どんな強敵にも負ける気は無かった。
確かに敗北の憂き目を味わう事も彼にはあった。
しかし、彼、烈海王の目の前に立ちはだかる者達は1人を除いて、格闘技経験者は見受けられない。
されど、ここまで烈海王に緊張を強いる者はそうは居ない。
(認めるんだ烈周英……彼女達には何かがある。これは本能的な恐怖から来る緊張……彼女達からは絶対的捕食者としての圧を感じる)
少しの強がりを込めて、烈海王は彼女達を鋭い眼光で見つめた。
ゆっくりと流水の如く身体を動かし、構える。
「では、約束通り、軽く揉んでやるとしよう」
烈海王の不敵な笑みと共に吐き出された言葉は彼女達の脳を破壊した。
この世界の「揉む」と言う言葉が意味する物を烈海王は残念ながら理解に及んではいない。
当然彼女達も烈海王の言葉への答えを返す。
そう、彼女達はブラジャーのフロントホックを外したのだ。
その光景を目の当たりにした烈海王は思わず目を瞑る。
「闘いの場で目を瞑る」事がどれ程愚かな事かを知らぬ烈海王では無い。
ただ、この世界の戦闘は彼が今まで経験していないのも確かだった。
その隙を見逃す彼女達では無い。
一斉に飛び掛かり、烈海王をエアーベッドの上に押し倒す。
油断と言うには余りにも愚か。
まるで地割れに飲み込まれるかのように、彼の下半身が見えなくなる。
烈海王は初めて大声で助けを求めた。
「
その魂の叫びは時空を超えて朋友の元へと届くのであった。
中国武術がまるで通用しないこのクソったれ世界のバトルと言う物を烈海王が分からせられる訳に行かない。
現状、烈海王は目を血張らせた麗しい上半身裸の女性達に良いようにされている。
これは寝技の修練だが、女性達は誰も烈海王に関節技や絞技を仕掛ける気配は無い。
ただ、全身を優しく撫で回すだけ。
目のやり場に非常に難儀はしたが、烈海王は努めて冷静に状況を判断する。
1人の女性が優しく烈海王の右腕を取り、自らの胸部へと誘う。
「さあ、約束通りに軽く揉んで下さいませ」
蕩けるような声色で女性が烈海王の耳元で囁く。
その時に伝わる柔らかな感触は時空を超えた。
「ん? これは確か? ヤバいな、昨日の女子大生との合コンの名残かよ」
愚地克己は心神会本部の道場で1人呟く。
離れ離れになった烈海王と愚地克己ではあったが、2人の間は強い絆で結ばれている。
確かな共感が2人を包んでいた。
烈海王は初めて経験する事態に戸惑いを覚えてはいたが、直ぐに正気を取り戻す。
と言う訳は決して無く、複数の女性達から揉みくちゃにされるこの異常事態にただ混乱をきたしていた。
「さあ、私達をめちゃくちゃにして下さい」
リーダーの美少女が烈に言葉を掛けるが、誰がどう見てもめちゃくちゃにされているのは烈自身だった。
その言葉に烈は勢い良く立ち上がってみせる。
クンフー服のパンツはかなり際どいところまでずり落ちてはいたが、取り敢えずは無事と見ても良い。
烈海王には何故自分のパンツを寝技の修練で脱がせようとするのかが理解出来ない。
しかし、少し思考する事で答えは見つかる。
そう、この世界において、寝技の修練でパンツは着用しない事に。
烈海王も彼女達と同じく下着姿で寝業の修練に取り組まなければならない事。
それがこのクソったれ世界のバトルルールであった。
そして、彼は彼女達に「すまぬ」と声を掛けて走り去る事に決めた。
羞恥心に染まった烈海王では彼女達の相手は務まらない事に気付いたからだ。
敵から背を向けて逃げ出す。
その様な選択を烈海王が取った事。
それが答えであり、決して一筋縄ではいかないこの世界の闘いを物語っていた。
真面目に地の文考えて、ここまでふざけた内容になるのは初めての経験です。