転生したんでマジに家で引きこもる 作:ウェスタンブルー
何年経ったかはもう覚えていないけれど、ある日突然人が来た。
人。人間だ。ちょっとばかし耳の長い人間。喋るもの達に連れられて──あるいは連行されて、ソイツはやってきた。
「……創造主の屋敷。本当にあったとは……あでっ!?」
「
年の頃はまだ15、6なのだろう、生意気な感じの抜けきっていない……こう、子供! って感じの人間。
ただ、喋るものが元素魔力以外を連れてくることなんてほぼなかったから、興味本位でキッチンを出た。
階段。階段上から、階段下の人間を見下ろす。
「
あ、他生物の自覚はあるんだ。
もうボール生物こと喋るものはみーんな人間と同じ形になっているから、なんなら自分を人間だと思っている奴も多いんじゃないかと思ってたけど、そういうわけじゃないのね。
とりあえず首を振る。別に許可なんていらないし。
アレだろ? 友達連れてきたとかだろ? 別に俺お前らの親だと自称しているわけでもなければ、その付き合いに口出しすることもないから好きにしてくれよ。キッチン荒らしたら怒るけどな。
「──ッ!」
「
「……」
え、俺怒ってた?
来るかもわからん想像で怒るとかヤバ過ぎんか俺。感情の制御ちゃんとしないと。
……で、何用?
「ち、チチル。創造主何も言わないけど、っでぇ!?」
「お願いだから黙って。これは前例がないことなの。
「……」
「ぅ」
「
「……?」
へぇ、お前チチルっていうんだ。青緑色ね。……そんなんいっぱいいるからなぁ。いっそカラーコードで覚えるか?
で何。見せたいものって。
「ワディナ。手の上にアレを出して」
「……簡単に言ってくれるよな。アタシらはお前たちと違って無詠唱じゃ時間がかかんだけど……」
「じゃあ詠唱してもいいから、早く」
「わ、わーったよ。──じゃあ、行くぞ」
詠唱? 無詠唱?
え、なに? 魔法でも使うつもり? え、マジで? やっと?
異世界に来て結構、マジでマジにそれなりの時間経ってるけど、ここへ来てやっと魔法か。うわちょっと楽しみなんだけど。
「原初より出ずる四、理より外れし三、なれば問おう、汝は何ぞや。彼方より来たりし聖光の灯よ!」
おー。詠唱っぽさあるー。
で……その結果が、コレか。
ワディナの左手。上向きに大きく開かれたそこに現れたのは、輝く魔力。
黒青赤白──地水火風のソレではない。外界に存在する無数の魔力とも違う。魔力を含むことで物質が輝く事例は何度か見たことがあるけれど、魔力自体が輝いているのは──そしてそこに色がないのは。
初めてだ。
コツ、コツと。
自然と身体は階段を下りて、ワディナの目の前にまで来ていた。なんでか蒼褪めた表情のワディナを余所に、その手にある魔力を観察する。
輝き。そう表現する他ないソレは、やはり色が無い。無色透明のボールが光っている、みたいな。ふむ、面白いな。中々面白い。
そう思って手を伸ばすと──。
「う、うわ!?」
バチン、と弾かれたように、ワディナが仰け反る。その背を支えるチチル。
……うーん。これも触れないのか。というかワディナごと圧されるとは思ってなかった。悪いことしたな。
「な……なんだよ今の! 魔法が押し返された……? どういう、むぐっ」
「
頷く。
研究のし甲斐はある。そうだ、そもそもこの喋るもの達は、自身らのバリエーションを増やすために様々なもの……魔力を含んだものを外界から持ってきていた。
それが俺の実験・研究という目的と一致していたから製造機をやっているわけで、だから逆もありなんだろう。
いつもお世話になってる俺に珍しいものを持ってきて、副産物として新たな仲間を得る。……ホントに逆か? 良いように利用されてね?
まぁ利用されててもいいんだけど。
「お気に召すって、なんだよ……」
「喜びなさい、ワディナ。あなたは言語を解する生物として初めて、
「え、いや、なんだよそれ。アタシのこの症状を治してくれるからって──」
「
ガクン、と崩れ落ちるワディナ。
おいおい、あんまり乱暴するなよ。お前らが外で何してるかは知らないけどさ、争いごとは良くないぜ?
……というのはそれとして。
その手から魔法が消えても……輝かん魔力がワディナの全身にあるのはもう見えている。確かにこれは、良い研究材料だ。
持ち上げようとする。が、その前にチチルがワディナの身体を持ち上げた。おー、力持ちだね。
「実験室に運んでおきます。……その、
「……?」
「私たちは本能に刻まれた意識として、こうして
「余計なことは言わないように」
突然だった。
本当に突然、どこぞより現れた喋るもの達が、チチルを取り押さえる。どこぞよりって言ったけどまぁどこにいたのかはわかってる。家中にいたんだ。待機中だったり、家の掃除をしていたりした個体が一瞬で集まってきただけ。
ワディナは別個体が抱えて実験室……他の魔力を含む物質が安置されている部屋に連れていかれる。
そしてチチルは。
「申し訳ございません、
え、廃棄処分?
……いややめてくんない? 一応それも俺が作った成果物だぞ。勝手に死ぬとか勝手に壊すとか、なんで許されると思ってんの?
「
「……」
「い、いえ。わかりました。チチルの破棄はいたしません! 申し訳ございません、申し訳ございません! だから怒らないでください……
何が起こるというのか。
周囲を見れば。
……なんかみんな、廊下の手すりとか、階段の縁とかに強く掴まって……まるで強風で吹き飛ばされないようにしている、みたいな。
え、俺ってそんなん出してんの?
あー。それともあれか。俺が怒ると、魔力が余計に俺のこと嫌うから、どんどん逃げてって……んでこいつらも魔力でできてるから、はぁはぁ、なるほどなるほど。
つーか俺も俺だよ。
なんか長年人とマトモな話してないせいで怒りやすくなってんな。
びーくーる。
んで、取り押さえるられていたチチルの頭に手を置く。
「
まー、なんだ。
なんかお前らなりのルールにおける禁忌を犯したのかもしんないけど、俺から見たらお前ら兄弟姉妹なわけよ。雌雄わかんねーけどさ。
だから仲良くしてほしいわけだ。廃棄するとかさ、ナシナシ。な?
……って言いたい。なんで声で無いんですかね俺は。
「わ……わかりました。チチルの処分は
某忍者漫画ばりに散ッ! と散っていく喋るもの達。
処分は任せる、って。
……うーん。まぁ適当に実験見せておけばいいのかな?
あとチチルが取り押さえられる前に言いかけてたこと、別に聞き逃してないよ。殺さないで、だろ?
人を何だと思ってんだコイツラ。確かに今まで持ってきていた魔力を含む物質は切り刻んだりなんだりしてたよ。鼠とか虫とかもね。
でも流石に人間はやんねーって。その辺の良識はあるって俺。
ということで、レッツクッキング……ならぬ実験開始である。
チチルがワディナに使った魔法らしき何かの効果は非常に強力なようで、一時間くらい経った今でもワディナは目を覚ましていない。チチルには「そこにいろ」という目線を向けて置いたら、本当にそこで微動だにしなくなった。
お前ら俺の言葉わかってんのかわかってないのかはっきりしてくんね?
まぁいい。
えー、で。クッキング、というのもあながち間違いじゃない。
というのも、外界から持ち込まれた魔力を含む物質というのは純度に難があるのだ。たとえば赤……火属性を含む鉱石だというのに、周囲にくっついた地属性たる土のせいでそのままでは使えない、とか。逆に殻の水風属性だけ欲しいのに、中身が火地属性を持っている、とか。その他、他の属性魔力が雑に含まれている場合も多々ある。
今回のワディナもそうだった。
まず服。物凄い地属性だ。だから脱がせた。
……いや、まぁ女の子だってのはわかってたし、良識あるって言った手前色々言われそうなのはわかってるんだけど、邪魔なもんは邪魔で。どうせ雌雄の分からない喋るもの達しかいないし、俺も……なんつーか、身体は人間とは微妙に違う感じだから、いっかなって。
で。で。
とりあえずその体を洗っていく。いやホントに地属性は厄介で、土が少しでもついていたら大体地属性が混じる。火水を作りたいのに土がちょっとだけ残っていて火水土になって結果が変わる、とかあるあるだ。色が黒なのも厄介。見づらいんだよね、ちっちゃい黒って。輪郭かと思う。
だから念入りに洗っていく。水属性はね、別にいいの。乾かせば簡単に消えるから。染み込むこともないし、どんだけ厄介でも永遠に燃える暖炉の前とかに干しておけば絶対に消えてくれるから楽。
……ま、裏技として、俺がずっと持ってる、ってのもあるんだけど。
俺の手に収まる程度の大きさの魔力物質であるなら、俺がずーっと持ってりゃ勝手に逃げていくから楽だ。脱水脱水。
流石に人間大のやつのソレはできないから、念入りに念入りに洗っていく。
「……」
しかし起きんな。いや眠ったままの方が楽でいいとはいえ、こんだけ体をぐいーぐいーと伸ばされたりしてて、よく起きないもんだ。そんだけ魔法が凄いのかね。
おーし。
まぁ、こんくらいでいいだろう。
次。
彼女の身体の中にある輝く魔力を抽出する作業だ。
普通の物質であれば切り刻めばいいんだけど、ワディナにそんなことしたら多分死ぬので無し。それに、珍しい魔力なんだからそう簡単に手放すわけもないっていうか。これが簡単に手に入る……それこそ家の中の植木鉢とか水桶みたいな手軽さで手に入るものだったら切り刻むのもアリだったけど、ワディナのような魔力の事例は今回初めて見たもの。
貴重な実験材料を一回で使い切る馬鹿がどこにいますかって話。
半透明な……プラスチック、じゃないんだけど、まぁ赤青黒飴黄緑……っていう魔力構成で作られている容器だ。あ、俺が作ったんじゃないよ。喋るもの達が昔持ってきてくれたもの。盗品でないことを祈る。
それにお湯を入れて、ワディナを浸けて。ピシッと親指の爪で人差し指の腹を切って、血をたらりと入れて。
彼女の身体をペタペタ触って、輝く魔力のある部分を見つけたら長時間そこを圧して……を繰り返していく。
うん、まぁ、絵面は最悪だわな。
「……」
結果はすぐに表れる。
俺の身体に圧されて彼女の身体から逃げ出した輝きは、お湯という名の
──に触れ、一瞬にしてボールの形状を取る。勿論その時に俺の血を巻き込んでいるから、その結合が解けることはない。
こつ、こつ、こつ、と。
半身浴よりも少ないお湯に浸かったワディナの周囲で、輝く青紫のボールが生まれ行く。
今までのどれより輝いていて、しかも半透明で、面白い。
「……それが、ワディナの」
「……?」
「あ、いえ、申し訳ございません」
思わず、といった様子で言葉を漏らすチチル。
今はとりあえずということで青赤だけだけど、今後は色々な魔力と組み合わせてみたい。だからできればウチに泊っていってくれると助かるんだけどなー。
……あ、ダメだ。俺が飯食わねえからウチじゃ飯が出せん。異世界とはいえ、さすがに人間腹減り過ぎたら死ぬ、よな?
「……!」
うん、おっけー。
最後の一つをぐい、と押し出して、今回の作業は終わり。
ワディナを湯舟から取り出して……チチルに押し付ける。
「え、あ」
「……」
「よ……良いのですか? その、ワディナの命を使わなくて……」
「……?」
「いえ──ありがとうございます!
できれば今後も何度も持ってきてほしいな、という思いを込めつつ。
でもこれ以上奪うと多分死ぬんだよね。いやさ魔力って結構命と密接っぽくてさ。昔黄色を強く持つ鼠が持ち込まれたことがあって、試しに一気に全部の魔力を抜いてみたら、石化したんだよ。石化。地属性じゃない、何の魔力も持っていない石になっちゃってさ。
以降教訓として、今後も使いたい素材に対しては腹八分目くらいで抑えるようにしている。
もう行っていいよ、という感じにチチルを促す。
するとチチルは深く深く頭を下げて、ワディナと、ワディナの服一式を持ってものすごい速度で実験室を出て行った。
……ま、ここ臭いからね。俺はもう慣れたけど。
生涯の森。
遥か昔からそう呼ばれるこの森には、妖精という種族が住んでいる。
エルフでもドワーフでもオークでもマリーンでも……既存のどの種族でもない妖精は、それはもう強い。力も、生命力も、意思も言葉も、増殖力も。
歴史書の記述には「突然現れた」と記されているにもかかわらず、その次のページでは「国を築いた」とされていて、その下の段では「いくつもの国を滅ぼした」となっている。
今では妖精の作り上げた国と、その支配下におかれた国が大陸中を占めている──必死の抵抗をしている国は少しはある──のだから、その異常さがわかるだろう。
妖精の出所が生涯の森だということはわかっているのに、どうして誰もその森へ向かわなかったのか。
当然、そこを守る妖精が強すぎるからだ。
無理矢理入ろうとしたものは死んだ。空や地中を行こうとしたものも死んだ。
妖精に取り入って仲良くなったものでも、生涯の森という単語を出した瞬間に愛想を尽かされたか、その場で殺された。
それほど妖精たちにとって生涯の森は大事な場所なのだとわかる。
また、幾つかの聞き取り……妖精らが零した発言から読み取れば、生涯の森には創造主なる存在がいるという。大きな屋敷に住まうその存在は、明確な容姿風貌の記録が残されていない。ただ妖精を作り続ける存在であり、そして妖精を多種多様にしたのも、妖精に世界を制圧するように命令したのもその創造主だという。
妖精に屈していない国では創造主なる存在を悪鬼の如く書く歴史家もいるし、反対に妖精のおかげで繁栄を得た国では神のように崇め奉る教会があったりもする。
得てして"創造主"は幻、おとぎ話に似たものであり、目下世界の脅威となるのは妖精であるのだが──。
「……なぁ、チチル」
「なに」
「アタシ……治った、んだよな?」
「抑えられた、が正しいと思う。完全な治癒は
「煮え切らないなぁ」
「しょうがないじゃない。初めてのことなんだし。……もしまた酷くなったら、連れていってあげるから」
自身を担いで走る"妖精"ことチチルに、ワディナは溜息を吐いた。
歴史家なんてアテにならない。噂なんてアテにならない。
ワディナの生まれた村は、妖精の支配下にある小国にあった。織物の生産量に長ける国で、それら糸や布の原材料を作る村。
本当になんでもない、どこでもない……平々凡々なその村で、ワディナは生まれた。
生まれ、目覚めた。
聖なる魔力。
天使なる幻想の種族が持つと言われるその魔力は、エルフやドワーフといった人間たち……歴史書においては"違族"とされる者達を焼き焦がした。誰も扱えないし、誰も触れられない。どの元素にも属さぬ故に地上に現れることは無いけれど、だからこそ誰も対処法を知らない。
それが聖なる魔力。
そして、ワディナに宿った魔力だった。
ワディナはエルフだ。純粋なエルフ。混血でもなく、先祖返りもしていない。ただのエルフ。
けれど宿ったのは聖なる魔力だった。
──だから、母親を焼いたし、ワディナ自身も焼いた。否、赤子の時は感情の制御ができなくて、村一つを焼き尽くした。
焼き尽くしかけた。
偶然である。偶然だったのだ。
ちょうど、何の目的もなくふらふら飛んでいた"妖精"がその様子を目にしたのは。
「アレから十六年かぁ。長いようで短いようで……長かったなぁ」
「赤子の時の事覚えてるの?」
「まさか。そんな奴いたら化け物だって」
「……私はアンタのそういうとこわかってるからいいけど、他の"妖精"の前ではソレ絶対言わないようにね」
「え? なんで」
「私もまだ生まれてない頃の話だから真偽は定かじゃないけど、
「……創造主、か」
チチル。
彼女は人間とは比べ物にならない魔力でその魔力を抑え込んだ。それでも焼け焦げた村の人間は手遅れだったし、泣きわめく赤子のあやし方なんてチチルは知らない。
聖なる魔力は"妖精"の身体を焼きはしなかったから、チチルは廃棄された妖精の身体を用いて封印を作成。以降、ワディナの聖なる魔力は抑えられるようになる。
──ただし、それは外に放出されなくなったというだけの話。
内部で暴れ狂う聖なる魔力はワディナの身を焼き焦がし、ほかの元素を掻き乱し、ワディナから「普通」というものを奪っていた。
「本当に大丈夫、なのよね。痛みとか、ない?」
「あー、うん。ホントにない。正直チチルに眠らされた時は死ぬんだろうな、とか思ってたけど……アタシ、今、生きてんだな」
「それについては、ごめんなさい。そういう名目でしか外界から屋敷へ何かを持ち込む、ということはできないのよ。
「成程なぁ」
それでも十六年。
チチルはワディナに寄り添い、その痛みを消す術や緩和する方法を探し、案じ、彼女の成長を見守ってきた。聖なる魔力を抑えながら魔法を使う術や、聖なる魔力をどうにか鎮める術など色々講じて、けれどダメで、それでも、それでもと。
だから、最後の手段だった。
自分たち妖精の禁忌──
妖精にとって
自分たちを作るもの。自分たちを生み出してくれるもの。言葉を話すことのない
だから、嫌なことがあれば──嫌だと感じれば。
あと少し、何かが違ったら、チチルもワディナもこの世にいなかっただろう。
それはあるいは、
「しっかし、アタシは眠ってる間何をされたんだ? それがわかればアタシも創造主を頼らずに自分で鎮める、みてーなことができるってのにさ」
「……理解の及びつかないことよ。あなたは触られただけ。それだけで聖なる魔力はあなたの身体から逃げ出した」
「うわ、ホントに理解できねえ。……ちぇ、アタシ一人でできるようになれば、チチルにこれ以上迷惑かけずに済むとか思ったんだけど……これからも頼りっぱなしになりそうだわ!」
「今更でしょ。あなたが赤ちゃんの頃から面倒見てるんだから、今更どうってことないわ」
生涯の森。創造主。妖精。
ワディナは思う。世の中、不思議な事ばかりだなぁ、と。
だから。
「……なぁ、チチル」
「なに」
「アタシ、やっぱ学園行って魔法習うのやめるわ」
「……別にいいけど、じゃあ何になるの? 無職は許さないけど」
「冒険者になる。で、世界の秘密を解き明かす!」
「聖なる魔力は? 完全に除去できなければ、多分定期的に
「定期的に帰ってくる! ……つか、チチル。お前も一緒に行くんだよ!」
ワディナは思う。
本当に歴史書なんてアテにならない。だって、こんなにも親身になってくれる妖精が存在していて、創造主ってのも語られているものと全く違った。
──なら、アタシがちゃんとした歴史書を書いてやる!
「冒険者で、歴史家ね……ま、いいんじゃない? 私たちのことをそこまで深堀りする人間って今までいなかったし、悪印象ばかりで嫌になる、とか言ってた子もいたし……印象改善ってことで協力してくれる妖精も少なくはないでしょう」
「おお、珍しく肯定意見! んじゃ──チチル、生涯の森に戻るぞ! まずはあそこから──ぐえっ」
「馬鹿言わないで。聖なる魔力の治療目的以外で行ったら、本当に殺されるわ。生涯の森以外の全て、にしなさい」
「……いいや! アタシは諦めないね!」
それは。
それは、それは──ある冒険家が遺す日誌。既存の歴史書に激震を与える、一部では法螺話とさえ囁かれる冒険譚。
妖精チチルと冒険者ワディナの織り成す波瀾万丈な物語──になる、予定。
「いつかホントに死ぬわよアンタ……」
「ハハッ、そりゃ当たり前だろ、チチル!」
「お生憎様、私たちは破棄以外じゃ死なないのよ」
「じゃあアンタが見届けてよ、アタシの生涯を」
「……ええ」
引き籠りのすぐそばで繰り広げられた、小さな小さな友情の物語。