最強の生物、バフラヴァーン。
その名前を聞いたことがない者など、この宇宙には存在しないに違いない。
暴窮飛蝗。無尽の暴力。畑を荒らし食い尽くされる蝗害のように、彼が訪れた星には一切なにも残らない。目と目があえばそこで試合のゴングは高らかに鳴り響き、星も草木の一本も尋常に勝負を挑まれ滅ぼされる。
その戒律とは、『出会ったものと常に全力で勝負する』こと。
狂気の沙汰だろう。だが、それを為しえるがゆえに最強。バフラヴァ―ンと出会ったならば、死ぬ以外の選択などない、というのがお決まりである。ゆえに、そうしたモノと出会った私の命運は決まったようなものであった。
相手は強い。
ならば挑む。もとよりこの星には、挑むために来たのだから。
「ははッ」
音速の壁を突き抜けて疾走する。発生した轟音は周囲の地面や草木を吹き飛ばし、そうした音をすら置き去りにしてバフラヴァーンに突撃する。
縦横無尽に閃く刃は必中。我力でもって強引に相手に当てる――までもなく、相手は真正面から剣を受け止めた。
感触は、岩。まるで生物のようなヤワさを感じさせず、斬撃を一瞬で二桁も浴びせたにも関わらず傷ひとつ付く気配がない。
まさしく最強の生物のあだ名に相応しい頑丈さである。だからといって諦めることなど、出来るはずがない。
「ぶち殺してやる……!」
その言葉に、相手は微かに微笑み。
「ほう、速いな。しかし俺のほうが強い」
剣を振り上げがら空きになった胴体に、拳が叩き込まれた。
それは隕石の直撃にも等しい威力。内臓や骨が壊れる音がする。
一瞬で私は、数百メートルに及んで吹き飛んだ。
だが、止まらない。
その程度で終わったなどと思わない。
なぜなら、彼は最強で、それを証明しなければならないのだから。手など抜かない。相手が死ぬその寸前まで、全力で。
地獄のラッシュが炸裂する。
「ご、が、がががが、がァァァァ!!」
速度が上がる。膂力が上がる。肋骨が軋みをあげ、心肺は破裂寸前、十二指腸は破裂した。この程度、治せぬ傷ではないものの、甚大な被害には相違なく、意識が消し飛びかける。
「いいや、いいや!」
だが、勝たねば。勝って最強の座を―――!
「ふんっ!」
立ち上がり剣を振り上げると、やはり岩でも切っているような、ぎゃりりりりりんっ、という耳障りな音が聞こえた。それに耳を貸さず剣を振り下ろ──意識が暗転する。
バフラヴァーンの拳が私の頭を揺さぶりつくした結果がこれである。
爆音を立てて頭が地面に叩き付けられた。死んではいない。死んでは、いないが───確かにここに、私は敗北した。
意識が復活したのは、何分後のことだろう。何時間、何日と経っているかもしれない。いややはり、数秒だ。
遠く何万光年先、バフラヴァーンの気配を僅かに感じる。
しかし己の周囲にあったはずの星、世界は悉く粉砕されていた。地面が消え、空が千切れ、周囲に見えるのは宇宙の闇のみ。
決めた。
決めた決めた。
決めた決めた決めた。決めた決めた決めた決めた決めた決めた決めた決めた───!
今この瞬間に、己の道は定まったのだ。
「必ず勝利する。お前に勝利する。お前に勝つまで死なんしお前を殺すのは私だ。そうだ、そうに違いない。今この瞬間、この私が決定した!
どうか聞き届けたまえ真我ァァーーッ!!」
殱くし滅ぼす無尽の暴窮。暴窮飛蝗が増殖する。いつかやがて、最強の主を滅ぼすがため。羽を鳴らし、星間を飛び回る蝗害───アエーシュマがまた1人、世に産み落とされた。
とりあえず善戦した主人公を褒めてやってください。
1秒も戦って生き残ってるんですからね。