もうちょいキャラに愛着もって長くすりゃよかったかな。
でも長生きさせても意味ないんですよね。
あの出会いから何年経ったんだろう。
ありきたりな表現だが、短いようで長く、長いようで短い気がする。朝も昼も夜も寒けなく戦い続けた肉体は以前のそれとはまったく異なり、戦闘技術は百年以上鍛えたのと大差ないまでに極められた。星はいくつ滅ぼしたか分からないし、善を何人殺したか分からないし、悪を何人殺したかも分からない。顔や戦闘内容を克明に思い出すことは不可能ではないもの、それでも総数が分からない程度に暴れまわってきた。
私たちは、暴窮飛蝗アエーシュマ。魔王バフラヴァーンを追いかけ、無数の戦闘を繰り返し、魔王を滅ぼさんとする戦闘狂の群れ。最強を目指す者たちの集まり。今では自分と、あと二人、あとはバフラヴァ―ンだけの軍勢になったが、それは弱体化を意味しない。我々こそは、蟲毒を生き残ったモノ。最強無敵を天に歌い、やがて
敵意はない。悪意も、憎悪もない。あるのは最強への渇望のみ。強くなりたい、強くなりたい。いつか見た地獄を繰り返したくないから。自分だけは最強でありたい。
事態は悪化したのだか、好転したのだか。おそらくはナダレという魔王の力によって天体の位置関係が乱され、中には銀河ごと強引な移動をされ、星と星が密集し、最終決戦するように仕向けられた。
善たち聖王領、カイホスルーらの龍骸星、ナダレの住まう特異点、あとは殺人鬼どもの庭園、絶滅星団を率いるクワルナフ、よくわからない第七魔王、そして、私たちアエーシュマとバフラヴァーン。
バフラヴァーンはクワルナフに、そしてライバルたちはナダレに挑みにいった。では私はどうするべきか。
今、龍骸星と聖王領はなぜだか合体している。ならば自分はそこへ行くべきだろうか。
「
自分の過去は覚えている。
そうだ、あの星ではないが、聖王領にて勇者の最期を見届けた私は、狂って泣いて叫んで、気付けば悪側に堕ちたのだ。
何人生き残っているのだろう。あの後、何とか生き残った善のやつらが逃げた先が今の聖王領と聞くが……。
「スィリオス、ナーキッドあたりだろうか。アルマやマグサリオンは、死んでいるだろう。ふは、歴戦はあらかた消えておろうし、戦士は何人生き残れるかなァ」
舌なめずりして、突撃。
隕石のように迫って、迫って、迫って……着陸した。
善と悪の垣根を超えた同盟の地へ、憎悪の戦鬼が襲撃する。
私が見た光景は、もはや残影と化したバフラヴァーンを黒い剣士が切り払っているものだった。着地点が決戦の地から遠かったゆえに、強者の気配がする場所は特定できてもそこへたどり着くまで時間がかかってしまった。
空には相変わらずクワルナフがいるものの、向こうは自分に興味が内容だった。
戒律、『
だが今はありがたい。
ずっと、いつか超える相手としてバフラヴァーンを追い続けてきた。己にとって最強無敵の壁であった。それを倒した善の戦士が、目の前にいる。
強者との邂逅。気配から察するに、私の仲間たちも奴に殺されたようだが……。
「お前に勝てば、私が最強だったことが証明されるな」
相手は私を見てじっと動かない。私は徒歩で相手に近づき続けていた。あと数秒もあれば、そのまま相手の目の前に行けるだろう。急ぐことはない。冷静に相手の強さ、その所以を見極めてからなぶり殺してやろう―――と。
「ほお。まだ生きていたのかよ、間抜け」
相手の言葉を聞いた瞬間―――あふれ出す殺意。
その声は。
その言い方、セリフ回し、聞き覚えがあるぞ。
おまえは、まさか。
「まぐ、さりおん、だと?」
「他の何に見えるんだよ、たわけ。ああ、いや前に会った時とは随分と変わったか。互いにな」
機嫌がいいのか、ぺらぺらと喋る相手に多少の困惑はするものの。それは間違いなく、死んだと思っていたかつての同胞に他ならず。
「待っていたぞォー!! マグサリオォォォンーーー!!」
ああ、諦めていた。無理だと思っていた。だが叶うのだな。うれしいよ。
おまえをこの手でぶち殺したかったんだ。
勇者をこの手でぶち殺した瞬間から。
正直言って、私は勇者ワルフラーンを愛していた。一人の女として、この上なく。相手がいたとかそういうのは一切関係なく。
眩しくて、明るくて、優しくて、強い、正義の味方。尊い善の決戦兵器。だが――その弟という恵まれた立場のマグサリオンだけは、「いつか負ける」と繰り返し繰り返し言い続けていた。本人の目の前で、まるで知っているように、念を押すように、そうなってほしいと言わんばかりに。
あのワルフラーンが負けるはずがないだろう。何を馬鹿なことを言ってやがる。何より、敗北を望むような言い草が気に食わない。アイツが悪の魔将ならば心置きなく殺せるのに、と何度思ったことか。
そして、運命の日は訪れる。私の憧れた男は魔王になかなか勝てず、ついには武器を放りなげやがった。
許せない。おまえのせいだワルフラーン。おまえが勝ちさえすれば一切合切問題なかったのに。
気付けば、私はワルフラーンの眉間に訓練用の木刀を捻じ込んでいた。
そうしてから気付く。
そういえば勇者の敗北をやたら願っていたやつがいたな、と。
そうか、そうだ、そうに違いない。
そして、私の最強を目指す旅路が始まった。
おそらくマグサリオンはクワルナフに殺されただろう。ゆえに恨みは晴らせない。ならば自分の中に残った課題を何とかしなければならないだろう。そもそも私が勇者並みに強ければ、マグサリオンの願いを振り切ってワルフラーンを殺さずに済んだはずだから。
もっと強く。もっと強く。もっと強く。誰にも負けない勇者のようになるために。
相手の正体を知った瞬間に、まず無謬の、無数の斬撃がマグサリオンを襲う。三桁にも及ぶ斬撃は相手の足場を崩し、そして鎧すら切り刻むだろう。しかし、特別製だったのか、己の剣をもってしても切り傷を付けられるのが限度だった。
しかし止まらない。止まれない。相手を殺し尽くすまで、決して動きは止めないと誓ったのだ。
私の第二戒律、『
バフラヴァーンを除く他の暴窮飛蝗どもは我力で戒律破りの反動を抑え込みながら片方の戒律を超強化して扱うという戦法をとっていたが、私はそんなことはしない。二つの戒律を両立させ、十全に活かして暴れ回ってやる。
やがて、鎧の隙間に剣を捻じ込めるようになってきた。感触に違和感はあるものの、成長は成長。
「殺す! 殺してやるぞマグサリオン! おまえは、おまえだけはァァァ!!」
しかし、マグサリオンもだんだんと私の剣速に追い付いてきた。何よりも不気味なのは、私を射抜く奴の視線。あのいつもの、醒めた、何か知っているような思わせぶりな目が、私を見ているから。
許せない。許さない。いつもおまえはそうやって分かった気になりやがる。
「お前のせいだ! お前のせいでワルフラーンは死んだ! お前のせいで私は転墜した! すべてお前が、勇者の敗北なんて祈りやがったせいで―――ー!!」
叫び、怒り、砕く。
やはり魔将と戦士の戦力差は広い。マグサリオンは私の一撃ごとに吹き飛ぶしかなく、ぼろ雑巾のようだ。やはり私のほうが強い。
下から振り上げられた凶剣が私の斬撃を弾くも、私の思い描いた通りの斬撃現象が発生。マグサリオンはそのまま吹き飛んだ。
ああ、絶好調だ。なぜだか分からないが、我力の冴えも過去一番。
そこで、奴が不思議なことを呟いた。
「ほぉ……。貴様にそんな素養があったとはな」
何を言っているのか分からない。
だがどうでもいいだろう。ぶっ殺してやる。
「ゔぇーぱちってぃ」
口から洩れた言葉は、自分でも意味が分からない。だが、効果はあった。
星をも砕くような威力の斬撃が数千、数万と繰り出され、マグサリオンの鎧を軋ませる。必中必殺最速の斬撃乱舞。たとえまだバフラヴァーンが生きていても、たちまちにサイコロカットされていただろう。
「なるほどな。お前が夢見たように現実が歪んでいく……ありもせん幻想を現実とするのが貴様か。しかし貴様自身は無自覚だな。まあいい」
「なにを! 言っているッ!!」
刹那、私ののどをマグサリオンが切り裂いた。
あふれる血潮、すぐさま治そうとするも、その余裕すら奪うように細かく切り刻まれた。
これまでの奴ではありえないほどの速度、威力―――。
なんだ、これは?
「屑が。よほど自分のやらかしたことを認めたくないらしいな。直視することから逃げているだけだろう」
「違うッ! 私は、おまえを殺して……ッ」
ワルフラーンの敵討ちを。私の慚愧を晴らしたくて。
「いいや違うな。貴様は自ら望んで兄者を殺したんだよ。それを認めたくないだけだ。兄者を想うならその再生なりその代役なりを目指すだろうし、俺を殺したいならばそれこそ俺を探して付け狙うのが筋だろう。
それを最強なんて名前に拘り、好き勝手かつての同胞を殺して回っているだけだろう。貴様は貴様の好きなように勝手に動いて、それをご大層な大義名分に落とし込んで悦に入っているに過ぎん。
俺のせいで兄者が死んだ? 抜かせ。俺はアイツを
俺を殺したいならば、貴様がまず現実を見るんだな。その上で自分の妄想の世界を生きると宣言出来るならば、まだ見所のある阿呆になれるだろうよ。或いは俺を殺せたかもしれん」
言葉の刃で、鋼の刃で、体が心が切り刻まれていく。最後の抵抗とその場で回転斬りを繰り出し、発生させた巨大斬撃竜巻すら、斬滅されてしまった。
ありえないくらいに強い。急激に存在強度が高まっている。それこそ、虫ケラが急に獅子に、いや龍に変わったような桁違いの進化だ。
「マァァァァグサリオオォォォォン!! 何もッ、分からないくせに! わかったような口を、聞くなァァァ!!」
「違うな」
最期の突撃に対する声は冷たい。
「何も分からず、分かろうともせず、それを自覚すらしてないのは貴様の方だ」
刹那、黒い斬撃が全身を襲い、首が刎ね飛び四肢は切り刻まれ───私は赤い華となって弾けた。
そう、マグサリオンへきちんと反論できなかった時点で私の負け。そもそも思考を止めて相手への理解を捨てた時点で戒律破りは起きていたのだ。マグサリオンはダメ押しと言わんばかりに私を切り刻んだに過ぎない。
───あの運命の日に命運が別れたのだな。
勇者の喪失に対して真摯にそれを認めず突き進んだマグサリオンと、逃げて逃げて誰かのせいにして認めたフリをした私。
私にもし、次があるならば。次こそは戦い続けよう。たとえどんな障害があろうとも、それを乗り越えて望んだものを掴むまで。
たとえこの宇宙が滅ぼうとも、私は何度でも現れ、たった一人の男を手に入れるため駆け抜けるだろう。無自覚に、愛した男を殺めた己の慚愧を晴らすため。
強引にハッピーエンドにしました。
このハピエン厨をお許しください。