Providence――過失(仮題)   作:非正規人類

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 一話3000字前後でやってくつもりだったのにおかしいな……
 展開遅いくせに文字数だけかかるとかこの作者クソすぎる

 


02.入学式

 

 

 複合学園都市駒王学園。大層な名前だが事実、ここは名前負けすることのない学園である。

 埼玉県駒王市をまるまる学園都市としている。市一つを学園としたことから中には学校関連の他に商店や農場、それに工場や娯楽施設が存在し市内に住む人々ももちろんこの内部で生活している。

 その広さから小中高大の全の教育機関がそこに集約され寮も完備されている。また駒王学園高等部は魔導科、IS科、そして普通科の三つの学科からなり適性と試験結果次第で選択することが可能だ。また外部からの受験も可能であり、今の日本では珍しく海外からの留学生も通うこともできる。

 

 この学園の経営に携わるのはIAIと呼ばれる企業だ。

 IAIの前進となる企業は第二次世界大戦以前に設立された国内の企業と言われているが詳しい資料が残っていない為、上層部の人間以外はわからない。結構古参な企業であることは間違いないだろう。また魔導技術に伴い力をつけてきた国内でも有数の大企業で、デバイス開発を始め軍需産業から日用品に至るまで幅広い分野で活躍している。どこの家庭にも必ず一つはIAI製品があると言ってもいいほどだ。軌道エレベーター計画( O E P )にも関わっている。

 またここは遊び心も広く持っている為か得体のしれない役に立つのか立たないのかロマンのみを追い求めた兵器や家庭用品、飲食物も作っている。近年では〝まロ茶〟とよばれる飲み物が発売され中高生の間では罰ゲームとして話題の品物だ。曰く「毒か劇薬か、そこが問題だ」と言われるほど愛されている。

 

 嘗て駒王学園高等部魔導科は東京八王子に国立魔導大学付属魔導科第一高等学校として存在していたが第三次大戦のおり紆余曲折ありながら旧駒王学園に移り併合された。

 当時は小中高大の一貫校であり巨大な敷地を有するだけだった(それでも十分なのだが)学園はIAIの全面協力の下、魔導科移設に伴いその広さを拡張。当時の駒王市の三分の二を学園都市とし、必要設備を建設し駒王学園高等部魔導科を設立した。

 

 その後ISを巡り新しく学校を設立する流れになったのだが、日本政府としては責任や面倒事を背負い込みたくない。その為、そこで面倒事を押し付けるならと駒王学園へと話が行ったとかなんとか。

 IAIと日本政府の交渉の末、駒王学園高等部IS科設立を決定。こうなると敷地が足りないのでいっそのことと市内全てを巻き込み、結果、複合学園都市が誕生した。

 無論、学園都市内の全ての店や農場、工場、娯楽施設はIAI関連企業のもので直営店である為、価格は非常に安くなっているのも魅力の一つとされる。

 

 学園内の主な移動手段はモノレールだ。各学部前には停車駅があり寮前、商店街、工場区画など他にも多くの駅がある。またこのモノレールは学内に通う関係者なら配布されるIDにより無料となっているので財布に優しい。

 

 

 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

『次は高等部前。高等部前でございます』

 

 モノレール内にアナウンスが鳴り響く。窓の外に流れていた景色は徐々にその速度を落とし駅に到着すると停止した。

 車内に人は少なくこの駅で降りるのは俺を含め、二人だけ。

 駅から外に出て校舎へ足を向ける。高等部前と言ってもすぐそこに有るわけではなく桜並木を十数分は歩かなければならない。まだ時間も早いこともあり通りには人影がない。

 

 校舎までの道なりには桜が咲き誇り、新入生を歓迎しているように見える。寒冷化に伴い平均気温は格段に下がったと言っても日本の象徴たる桜の木は根性で花を咲かす。

 まあ本当は品種改良されているだけだろう、伝統として入学式や卒業式に桜が咲くというものがあったからだと思われる。

 などと現実逃避をしているも状況は一向に変わらない。

 

 どうしたものか……。

 

 隣を歩く義妹こと深雪を見る。両手でカバンを持ち、どこか気品のある歩きで進む姿はさながらお嬢様と言ったところだろう。また整った顔立ちで黒髪を長く伸ばし大和撫子を連想させる可愛らしい少女。しかし今現在に至っては先ほどの文に「もの凄く不機嫌な顔をした」と付け加えなければならない。

 今朝まで(より正確に記すならば家を出る三十分前まで)は非常に上機嫌だった。「お兄様と同じ学校に通えるなんて夢みたい」などと天使の笑みを浮かべていたのだが今はその欠片も存在しない。

 深雪が着ているのは白色を基準とした女性用ブレザーであり、対する俺は紺色( ・ ・ )を基準とした男性用ブレザー。深雪が不機嫌な理由はこれだ。

 

 駒王学園高等部には三つの学科が存在する。

 

 一つは魔導師を志す者たちが集い学ぶ為に設立された魔導科。ここの魔導科は他の魔導科高校と違い全面的にIAIがバックアップしている為、他の魔導科高校よりも数段施設が優れている。故に県外からも受験してくる生徒の数も絶えない。

 

 一つはインフィニット・ストラトス――通称ISの操縦技術を学ぶ為に設立されたIS科。こちらは日本で唯一ISの操縦が学べるということで全国から受験者が集まる為、倍率は非常に高くなる。受験資格も翌年三月までに十五歳になる者のみと人生で一回きりの試験であり、試験内容も分厚い専門書から出される非常に難易度が高いものとISによる実技試験だ。

 

 最後に進学科こと普通科。魔導やISが存在するからと言って全員が全員扱えるというわけではないしそれ以外にももちろん仕事が存在する。寧ろそっちの方が多いのは当たり前だ。他二つからすればだいぶ見劣りするがこの科の進学率は九八%と驚異的な数字を叩き出している。……尤も大学も完備してあるので余程の事がない限りエスカレーター式で通うことができるのだが。

 

 そしてその科毎に制服の色が違うのだ。デザインはたいして変わらないが魔導科の生徒は白、IS科の生徒は赤、普通科の生徒は紺、と色で分かれている。

 つまり俺は普通科の生徒であり、深雪は魔導科の生徒であることを指す。

 

 ……だから入学式直前まで黙っていたんだけどな。

 

 尤も黙っていたからと言って状況が変わるわけではなかったのだが。とりあえず機嫌を取ろうと何度か話しかけてみたが完全に無視、こちらを見てくれもしない。

 

 一応俺にも言い分はある。自分で言うのもアレだが俺は既に魔導及びISに関しては誰かに教わる必要がまったくと言っていいほどない、寧ろ俺にその手のことをレクチャーした人物はその分野の第一人者( 束 と ジ ェ イ ル )なのだから当然と言えば当然だ。

 まあ卒業で得られる資格もあるが最終的に実家のコネ、というか実家に就職する気満々なので資格などただの飾りでしかない、あってもなくても一緒。

 そんな奴が魔導科やIS科に入っても習うことは何もないのだ、無駄に一人分枠が減ってしまだけで。たかが一人、されど一人。学びたいと思い頑張ってきた人もいるだろうから俺は代替可能が多いとされる普通科に入学したのだ。

 ……というのは当然建前で三つの中で一番ラクかつ手が抜けられるというのが最大の理由。建前ならばいくら綺麗事を言っても許されると思う。実際そんなこと言う奴が居たら鼻で笑うが。

 

 そもそも一緒の学校に通うとは言ったが一緒の学科とは一言も言っていない。騙して悪いが……などと言ったら、ただでさえ零に近い深雪の機嫌メーターが急降下してマイナスになり逆に笑顔になってしまうので決して言わない。本気でキレる時、笑顔になるんだぜ……。

 

 などと一人で言い訳めいたことを考えているといつの間にか高等部の入り口に着いたことに気が付き足を止めた。門として建てられた大き目の柱には『駒王学園高等部』と掘られている。内部には各科の上級生だろう、何名か忙しそうに動き回っている。式の準備をしているようだ。

 のんびりと眺めていたら俺から少し離れた位置で深雪も足を止めた。

 

「お兄様」

「……はい」

 

 と、今まで黙っていた深雪がいきなり口を開いた。ただ短く、後姿からは顔を見ることもできず何を思っているのか掴めない為、ちょっと怖い。

 

「別に深雪は、お兄様が普通科に行くことに怒っているのではありません。それはもちろん一緒の学科でしたらよかったと思いますが、お兄様にはお兄様のお考えがあると存じます」

「……」

 

 俺はただ黙り、次の言葉を待つ。そう言われてしまっては何も言えない。

 

「ですが、だからと言って入学式の日まで黙っていることはないではありませんか。話す機会はいつでもありました……。お兄様、深雪はそんなに信用なりませんか?」

 

 振り返りこちらに迫ってくる。俺を見上げるその瞳はどこか潤んでいるように見える。

 つまり俺が全部悪いってことだ。うん、反省した。

 誰かに見られたら入学早々変な噂が立ってしまうだろうが、幸いなことに先程までいた上級生たちの姿は無かった。

 

「ごめんな、深雪。信用とかじゃなくてあんな楽しそうにしてるお前に言い出しずらくてな……」

「それでも、言ってほしかったです」

 

 俯く深雪の頭から頬へと右手でそっと撫でる。手入れの行き届いた髪はさらさらと流れるように綺麗で触り心地はとても良い。

 深雪の頬に触れた手に暖かなぬくもりを感じた。俺の手に深雪の手が添えられていた。そしてゆっくりと下され両手で握られると

 

「反省してくださいね、お兄様」

 

 と、見上げる深雪の顔は一篇して微笑を浮かべている。しかし目は笑っていない。

 

 握られた手から急速に熱が奪われていくのを感じた。見ると深雪の手から目に見えるほどの白い冷気が発せられている。

 正直、滅茶苦茶痛いので対抗したり振り解いたりしてもいいのだが、今は甘んじて受ける事にした。

 

 数十秒経ち、満足したのか深雪は一人頷くと手を離す。

 俺は心の中で溜息を溢し若干青白く変色した手に意識を集中させ、すぐに元通りに再生する。冷たくなり感覚の消えた右手はその色を取戻し二、三回握り感触を確かめる。元通りだ。

 

「今度からは隠し事はバレないものだけにしておくよ」

「……隠し事をしない、とは言ってくださらないのですね」

「嘘はつかない主義だ。秘密の一つや二つあるのが人間ってもんだよ」

 

 よやくいつもの調子に戻った深雪に軽口を言うと苦笑を浮かべられた。まあいつかバレるならいつバラしても一緒だ。バレないものはバラす気はないが。

 そこで少し気になっていたことを聞いてみた。まあ深雪に限ってそんなことはないだろうと信じているが物は試しだ。

 

「ちなみに普通科入学が決まった時点で話していたらどうなったんだ?」

「それはもちろん、四葉本家の力で魔導科へ編入させましたわ」

 

 深雪はとてもいい笑顔(笑顔が良いではない)を浮かべて言った。信用ってなんだっけ?

 

 

 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 深雪は新入生代表という事で先に式の行われる大講堂へとリハーサル向かった。

 「お兄様もご一緒に……」などと言っていたが校内を見て回りたいからと言って別れた。別に逃げたわけではない。

 

 俺は一人、校内を彷徨(さまよ)う。入学式開始まで、まだ一時間以上あるのでどこか腰の落ち着ける場所を探していた。

 するとカフェを見つけた。営業時間外である為、室内の明かりは点いておらず入り口にも〝CLOSE〟と立札が掛けてあった。

 外にある木造のテーブルと椅子がある。また日傘もついており休憩所としては使えるようだ。普通店を閉める時は室内に片付けておくものじゃないだろうか? 少し疑問に思ったが考えても仕方ないのでそこで休憩することにした。

 

 椅子に腰かけると小さく軋む。上着のポケットから端末を取りだす。手に収まるくらいの小さなタブレットを操作し、眼前に薄青いスクリーンが表示させる。

 朝早かったこともあり早朝のニュースにはまだ目を通していなかったのでそのデータにアクセス、朝のニュース一覧を呼び出す。

 

 IAI静岡研究所で爆発事故。幸い死傷者無し。

 視察に来ていたIAI局長大城(おおしろ)和夫(かずお)氏。爆発に巻き込まれるも無傷。ただし服は全焼、全裸で彷徨っているところを保護される。

 IAIが全国ご当地ジュースを開発。宮城県は牛タンジュース。

 ヴェクター・インダストリー、対魔導師用ジャミング兵器の開発計画を発表。

 

 トピックスにIAI関連が多いのはいつもの事だろう。とりあえず一通り読んでいると、

 

『暇そうだな、相棒』

 

 突如、声が響く。外部からの声ではなく、また念話でもない。これは俺自身から聞こえる声。

 

「なんだ、ドライグ。外では話し掛けるなって言ってるだろ。封印が解けたらマズいんだから」

 

 溜息を吐きつつもその声に答える。

 

 〝赤い龍・ドライグ〟。それが声の主の名前であり俺に宿っているものの名前。決して脳内友達などではない。

 この力が目覚めたのは俺が五歳の頃だった。突如左手が疼き何事かと思ったらゴツイ赤い篭手が腕を覆った。

 指先は鉤爪(かぎづめ)のように鋭く、手から関節まで篭手が覆い左右には均等に棘のようなものが短く伸び、手の甲の部分には薄緑の丸い玉が付いていた。はっきり言って不気味である。

 幸い自力でコントロールできたので(いさ)めることができた。その後、篭手の人格を名乗るドライグの意識が覚醒、話を聞くこともできた。

 しかしこの篭手野郎、自分のことを名前以外覚えてないとか言いやがる。仕方がないので自力でいろいろと調べ検証してみた結果、詳細はよくわからなかったが魔導とは全く別なものということは分かった。

 一応判明した能力は所有者の力を十秒毎に倍化し続けるというものだ。

 

 ここでいう所有者の力とは身体のみを指すものではない。所有者が有する力は全てその適用範囲なのだ。

 例えば拳銃を持っていたとしよう。それにこの力を使い銃弾を放てば弾速と威力は倍となる。強化次第では拳銃の弾が山をも吹き飛ばすことも可能だろう。尤も、その場合は拳銃が耐え切れずに自壊してしまうが。

 何事にもキャパシティーが存在する。いくら倍化し続けることが可能と言っても限界以上の力を引き出せばガタがきてしまう。生身の強化でそこまでの事をしたことはない、そしてこれからもすることはないだろう。

 そもそも一度の倍化で十分すぎる力になるし、二度目の倍化ではもはや敵が止まって見える。出し惜しみをするつもりはないが使わなくても済むのなら使わないでもいいだろう。基本的に自主トレーニング以外では封印を施しほとんど使用していない。

 

 家族には魔導の希少技能( レ ア ス キ ル )〝周囲の魔力を集め一時的に自身の力を高める技術〟としている。こんなものを馬鹿正直に話せるわけがない。そもそも話したくない。

 特にあの馬鹿ども( 両 親 )に知られたら原因究明の為に腕を切断されかねない。いや流石にそこまではしないか……。

 

『君の身体は普通すぎると思わないかい? いっそ姉達と同じように身体を機械化するのもいい案だと思うのだが、どうかね?』

 

 などと嬉々として言ってきたジェイルの顔面に飛び膝蹴りをかましたのを思い出した。丁度、膝を放った時に一番目の姉に目撃され説教されかけたが、事情を話すと納得しお咎めなしとなった。話し合い=狂言or物理ではない数少ない良心の持ち主なので助かる。

 やはりあの馬鹿( ジ ェ イ ル )が知ったらこれを機に腕を機械化しようなどと言い出すに違いないのでやはり黙っておこう。

 

『そうは言ってもな相棒、俺は暇なんだよ。相棒は模擬戦でいつも魔導やISばかり使って俺を使ってくれやしない』

「その代りに自主トレではお前と戯れてやってるだろ」

 

 ドライグが覚醒してから俺の精神はドライグと繋がった。その時からか精神世界の様なもので俺とドライグは直接会うこともできた。

 ドライグの本体は巨大な赤い龍だ。四肢で大地を踏みしめ、尻尾は揺れるだけで突風を放ち、翼で天高く飛翔し、長い首から獲物を見下す。

 龍など生まれて一度も見たことがなかった当時の俺は「でっけー赤トカゲ」と言ったら尻尾でひっぱたかれ、激痛と共にそのまま精神世界から退場した。

 それから紆余曲折ありその中で俺とドライグは戦っている。初めのうちは手も足も出ずただ蹂躙されるだけだったが今では五分以上の戦いをするようになった。トータルでこそまだまだ負け越してこそいるが十三歳の頃からの徐々に勝ち数を増やしつつある。

 

『確かに相棒はすげえ。この俺に挑み続ける精神を持ち、さらに精神世界内とはいえ勝っちまうんだからよ』

「そりゃあれだけ戦っていれば勝ちもするだろ。現実なら最初に敗北した時点で死んでる」

『擬似的と言えど死に等しいものを何度も浴び続け、それでも立ち向かうのは称賛に値する』

「そりゃどうも」

 

 だがな相棒、とドライグは続ける。

 

『俺としてはお前〝と〟戦いたいんじゃない、お前〝と共に〟戦いたいんだよ。別に今すぐじゃなくていい、いつか立ち向かうべき強敵ができたときにでも、な』

「……」

 

 果たしてそんな日は来るのだろうかと吐息。両親がキチガイ入っていて実戦経験があるだけの普通な高校生が、そんな命を賭してまで戦わなければならない状況が思いつかない。俺みたいな子供が動くより先に優秀な大人たちが何とかするだろう。

 スクリーンから目を離し周囲に向ける。時間も経ったことから在校生らしき人もちらほらと見るようになった。

 緑化の一環なのか木々が一列に並んでいる。それを順々に目で追う。すると視線の先、三〇メートルくらいの離れたところ、一組の男女が走ってくるのに気がついた。

 

 男性の方は短髪の長身で肩幅が広い。着ている制服は紺色なことから普通科なのだろう。気怠そうな顔をして女性にせっつかれながら走っている。

 女性の方は短めの髪の小柄で細身だ。着ている制服は男と同じく色の制服。活発そうな女性のようで何やら叫んでいる。

 

「ちょっと! 今日は入学式があるんだから急げって言ったでしょ。予行もあるのになんでチンタラしてんのよ、あんたは!」

「そうは言ってもほら、俺のんびり屋だし。ていうか何でそんなに機嫌悪いの、お前。もしかして、せい――」

 

 男は何かを言いかけ、そして飛んだ。上にではない、前に。それも一直線に。俺は思わず飛んだ男の軌跡を目で追った。顔面から地面に堕ち、俺の横を通り抜けそのまま摩擦で速度を落としつつ地面を滑り、十数メートル先で止まった。

 女の方を見る。足を蹴りあげた姿勢で止まっていたかと思うと地面に下し「よし!」と元気よくガッツポーズを取った。

 再び男の方を見る。倒れたまま動く気配がない。辺り居る生徒は一瞬驚いた風にするも、すぐに何事もなかったかのように戻った。

 周囲の反応は、制服の色が違えども皆同じだ。ああ、またあの二人か、と。

 

 状況を確認。女が男を蹴り四〇メートル程前に吹き飛ばす。

 紺色の制服から二人は普通科の生徒なのは間違いないだろう。魔導を使ったようにも見えない。つまり地の力ということになるのだろうか。それともドライグと同じような――

 

「ほら、いつまで寝てるの。急ぐわよ」

「吹っ飛ばした奴の言う台詞か、それ」

「いいじゃない移動距離が減ったと思えば。寧ろ感謝してほしいくらい」

 

 いつの間にか男の傍に来た女は男の首根っこを掴み持ち上げ立たせる。ここから確認できる男のその横顔には傷一つ見られなかった。

 そして二人は走り出す。俺はその後ろ姿をただ眺めた。

 

『……世界は広いな、相棒』

「ああ、そうだな……」

 

 ドライグも俺の目を通し見ていたのだろう。その言葉に相槌(あいづち)を打ち肯定した。

 

「どうかしましたか?」

 

 突如声を掛けられた。どうやら近くに居た人にドライグへの返事を聞かれてしまったようだ。独り言の多い変な子だと思われてしまっただろうか。少しぎこちない動きで声の主へ目を向ける。

 そこに居たのは首を傾げた小柄な女性。長い黒髪は少しウェーブがかかっており女性として出るところは出ている。またどこかあどけなさの残る顔は美しくも可愛くも取れるだろう。白色の制服から魔導科であることが伺える。

 チラリと見えた右手首には待機状態のデバイスだろう、ブレスレットが巻かれていた。

 

「ああ、いえ、変わったものを見たもので」

「そうですか、あのお二人は少し変わっていますので……」

 

 誰の事か理解したのだろう、苦笑を浮かべている。俺は少しなのか? と内心ツッコミを入れかったが流すことにした。

 

「自己紹介が遅れました。私は魔導科三年の七草(さえぐさ)真由美( ま ゆ み )、漢字で〝ななくさ〟と書いて〝さえぐさ〟と呼みます。魔導科の代表を務めています。」

「どうも。俺は司波・結です。普通科の新入生です」

 

 魔導科代表。つまり魔導科のトップに位置する女性のようだ。

 駒王学園高等部は学科が三つに分かれていることから各科に代表が居り、それぞれ集まって生徒会のような役割を果たしていると聞く。

 

「司波くん、ですか」

 

 彼女が司波の姓を口にした時、瞳が一瞬変わるのを見逃さなかった。その瞳はまるで俺を品定めするようなもの。気のせいではないだろう。

 だがそんな素振りなどなかったことのように彼女は続けて、

 

「そろそろ入学式が始まりますよ。場所はわかりますか?」

 

「ああ、もうそんな時間か」と思いスクリーンの端に表示された時間を見る。いつの間にか一時間近く経っていたようだ。

 端末を操作し全ての動作を終了し席を立つ。

 

「大丈夫です。ありがとうございます」

「それでは」

 

 感謝を述べ、その場から離れる。七草代表は小さく手を振り見送ってくれた。

 入学式が行われるアリーナに向かいつつ、俺は先程の人物について考えていた。

 

「七草、か」

 

 誰にともなく、先ほどであった女性の姓を呟く。

 十師族と呼ばれる内の一つの〝七〟を冠する姓と同名なのは偶然ではないだろう。つまりそれは七草現当主の直系であることを示す。

 

 IAIと十師族の関係は古いと聞いたことがある。十師族、正確にはそれを補佐する十八家を含め二十八家はそれぞれ牽制し合い、過去の遺恨が合ったりとするが、二十八家全てはIAIに不思議と協力的だ。

 なのでその直系たる彼女がここ、駒王学園高等部魔導科へ通うのは別段不思議なことではないだろう。

 

 この学園が優秀な魔導師を輩出している事実もある。

 この魔導科は駒王学園を除くと全国にある八つの魔導科高校よりも一線を()す、と周囲に認識されている。毎年夏に行われる全国魔導科高校親善魔導競技大会――通称〝九校戦〟が定例行事化してから総合優勝を一度も逃したことがないからだ。

 はっきり言って異常なことなのだろうがその辺は普通科の俺には関係のない事だ。

 

 そんなことを考えていると周囲には白、赤、紺の制服が入り乱れていた。入学式はもうすぐ始まる。

 

 

 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 講堂内は多くの生徒で(ひし)めき合っている。ここに集まっているほとんどの生徒は今年から高等部に通うこととなった新入生だ。

 内部は非常に広い作りとなっている。

 一階にあるのはステージだ。また来賓の手間を省くため本来は土足厳禁であるが下には緑色のシートが敷かれており土足での入室を可能としている。

 二階は観戦席のような作りになっており椅子が設置されている。一階の檀上を囲むようにコの字に設置されている。新入生は皆ここに座っている。まだまだ空席があることから全校生徒収容可能なのだろう。

 

 駒王学園高等部は一学年は各学科クラスの十五クラスとなっている。

 また各学科のクラスは以下の通りとなる。

 普通科は一、二、三、四、五、組。

 魔導科はA、B、C、D、E、組。

 IS科はZ、Y、X、W、T、組。

 IS科五組に該当するクラスがVやUではないのはローマ数字のⅤと見分けを付けるからだとかなんとか。

 

 一クラスに三十名からなるので一学年の人数は四五〇名。つまり高等部の人数は一三五〇名となる。

 西側をステージとし、対面東側に普通科の生徒、北側に魔導科の生徒、南側にIS科の生徒となっている。席自体に指定はなく空いているところに好きに座っていいとのことだ。

 

 俺は普通科なので東側へと向かった。式開始十分前ということもあり既に生徒たちは着席している。

 本当は入学式をサボりたかったのだが深雪の機嫌を一日で二度も損ねたくなかったので諦めて出ることにした。どうせ寝ていても問題ないだろうし。

 後ろの席が空いていた為、そこに腰掛けた。特にすることもなかったので辺りを見回す。

 エスカレーター式の学校ということで周囲には中学時代からの友人同士だろう、談笑に浸る生徒たちも多い。特に普通科の生徒はそうだろう。無論、魔導科やIS科にもいるだろうが。

 

 ステージの方へ視線を移すと端の方の二人の女生徒を見つけた。

 一人は深雪、最後の打ち合わせをしているのだろう、真面目に相手の言葉に相槌を打っていた。

 そしてもう一人、深雪と話している相手は先程あった七草代表だ。よく見ると左腕に先ほどは着けていなかった八角形模様に〝駒〟と校章が描かれたワッペンを付けている。あれが代表の証なのだろうか、センスが酷い気がする。

 

 などと観察しているとぞくり、と背筋に何か寒いものを感じた。まさか、と思い恐る恐る深雪へ視線を移す。目が合った。とてもいい笑顔でこちらを見ている。

 俺と目が合ったことに気が付いた彼女は唇を動かし

 

『いったい誰を見ているのですか?』

 

 と言っているように見えた。ように見えた、ということにしておこう。もしかしたら違うことを言ったか、俺が勘違いしただけかもしれない。

 深雪から視線を逸らし椅子に深く腰掛け吐息。最終的に見なかったことにした。

 

 などと現実逃避をしているうちにスピーカーから音が聞こえた。マイクの電源を入れたような雑音が鳴り、一拍置いて

 

『これより、駒王学園高等部入学式を執り行います』

 

 入学式は(つつ)がなく行われていた。各主賓の紹介や答辞(尤も学園長は欠席していたので代理の人が答辞を行っていたが)が続く。

 退屈な話の連続で舟を漕ぎつつも、俺はそれとなく話を聞き流してた。

 

『続いて、新入生答辞。新入生代表、司波・深雪』

 

 義妹の名が聞こえたことに「ああ、もうそんな時間か」と、意識が覚醒する。確かこれが終わればすぐ閉会する。

 

 先に断わっておくと新入生代表は魔導科から選抜されるわけではない。入試成績に応じ全学科より最優秀者が一名選抜される。それが今回は魔導科の首席である深雪だったというだけ。

 まあ試験内容は学科毎に違うので魔導科やIS科が代表になりやすいのは事実だ。

 

 檀上に上がる深雪の姿に周囲から感嘆の声が溢れる。見慣れているとはいえ深雪は美人な部類だ。怒ると恐いが、周囲の人間はそのことを知る由もない。

 

『穏やかな日差しが注ぎ、鮮やかな桜の花弁が舞う今日――』

 

 長々と、お偉方にも負けない生真面目( き ま じ め )な言葉を深雪は一言一句読み上げる。

 少々真面目すぎて面白くないが入学式でそのようなことを求める方が間違っているだろう。

 

『――新入生代表、司波・深雪』

 

 答辞が終わり深雪は深々と一礼した。周囲から拍手が溢れ、深雪が席に戻り座るまで鳴り響く。

 それから二、三ほど段取りを済ませ入学式は閉会した。

 

 

 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 入学式を終え、俺は自分のクラスに赴き配布されたIDを眺めていた。

 長方形の名刺サイズのカードの(ふち)は紺色に染まり、その内側には氏名、年齢、住所、所属が記入され、証明写真が張られている。まるで何かの免許証のようだ。

 所属のところには駒王学園高等部普通科一年一組と記されている。

 

 学年とクラスが記載されていることからわかるようにこれは一年毎に更新される。

 IDには特殊な磁気デバイスが使用され、これにより駒王学園内のモノレールや一部公共施設は無料で使える。他にも出席の確認などにも用いられる。

 そのこともあり紛失の際は速やかに報告する義務があり、他者への貸し出し譲渡はもちろん禁止。悪用される危険性もあるからだ。

 もし他人への譲渡がバレたものなら最悪、条例違反で刑務所だ。

 記載された情報に間違いがない事を確認。今日は入学式とID配布があるだけなのでもう学校に用は無い。

 

 クラスメイトは早々に帰宅する者、談笑する者、予定表を確認する者など様々だ。

 特に残る用事もないので退出し、外へ出るため昇降口へ向かう。

 

「お兄様!」

 

 と、昇降口へ向かう途中で声を掛けられた。確認するまでもなく深雪だ。

 周囲から「あれ、新入生代表の子じゃないか?」などざわめきが聞こえる。視線が深雪と一緒に居る俺にも集まり落ち着かない。

 

「もういいのか?」

 

 彼女は新入生の代表だ。故に俺と違いいろいろとやることが多い。

 思った通り深雪の後ろから二人の魔導科の生徒が来た。一人は七草代表。もう一人は彼女から一歩下がった位置にいる男子生徒。七草代表と一緒に居るということは魔導科の代表関係者だろう。

 

 ふと深雪から視線を感じた。『そういえば入学式が始まる前、七草代表のことを見てましたよね?』と目で訴えてきている気がするが無視する。口に出さないのなら答える必要がない、口に出しても答えるかはわからないが。

 このままでは何を言われるか分かったものではないので逃げることにする。

 

「深雪、先輩方の用件はまだ終えてないようだが? 俺は先に帰るからお前はゆっくりするといい」

 

 失礼します、と言い残し逃げ去る。はずだったが

 

「いえ、今日はご挨拶させていただいただけですから。気にしなくて大丈夫ですよ」

 

 と七草代表が口を挟んだ。

 

「そうですか……」

「お兄様、なぜ少し残念そうお顔をしているのですか?」

 

 そんなことはない、と思う。

 

「では深雪さん、詳しいお話はまた後日に。司波くんもまた(いず)れ、ね?」

 

 会釈をして去っていく二人の後姿を見つめる。出来れば俺とは関わってほしくない。

 後ろに控えていた男子生徒は終始何も言わなかったが少し不満そうだった。まあ特に気にする必要もないだろう。

 

「そういえばお兄様」

「……なんだ?」

 

 深雪は今日何度目か忘れたがいい笑顔を浮かべている。続く言葉はできれば聞きたくない。

 

「入学式前に七草代表を凝視しておられたのはなぜですか?」

 

 ……勘弁してくれないか。

 

 

 




 

 IAI――日本有数の大企業。ファンからは「愛すべき馬鹿」「性能の無駄遣い」「ハイスペックゴミ製造機」「変態企業」「クレーム対応は業界ナンバーワン」「つか何で倒産しねーの?」など数多くの愛称で呼ばれている。
 総合企業であり最新の魔導技術からISに関する武装、さらに一般家庭用品や日用品まで幅広い分野で活躍している。変な物を販売することでも有名。
 また駒王学園設立者と深い関係にあり、設立から経営に携わってきた。
 キャッチフレーズは〝刺激的な明日( あ す )をあなたへ、IAI〟

 
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