マグサリオンの殺戮道場   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回も相手が相手なので、前編と後編の予定となってます。


第九陣Ⅰ 永遠の刹那

 

 

 

 

「よぉ」

「……」

 

 ある日突如、無慙の現れたのは件の井戸端会議で波旬との激突を止めた青年だった。曰く五代目である黄昏の守護者、そして恋人である刹那。そんな彼が、フランクな雰囲気で絡んできたのだ。

 

「アンタ、ラインハルトとやりあったんだってな。全く、知ってはいたが随分と荒々しい奴だな。」

「見てたのか、奴との激突を。」

「そこはお互い様ってところでスルーしてくれよ、アンタだって俺が時間に干渉しているのを理解して強化したんだろ?」

「……なるほど、既にある程度は察しているわけか。それで、それを言うためだけに俺のところへ来たのか?だとしたら、随分と舐められたものだな。」

「オイオイ、それはこっちも同じだよ。俺は別に喧嘩が好きってわけではない。ただ賢ぶった将棋の差し合いよりも、どうせやるなら直接的な殴り合いが好みでな。それに、驚異的な奴を安易に受け入れるほど寛容ではない。だから……」

 

 両者の視線が鋭くなる。凍てつく敵意、歪み激らせる殺意、それらが絡み合い空間そのものが染め上げられる程の神威が帯びている。

 一触即発、その言葉がまさに相応しいように。

 

「無慙、お前の力を俺に見せてみろ。ナラカに挑む前に、神座に関わった身としてどれほどのモノか見定めてやるッ!」

「良いだろう、その挑戦に挑んでやる。しかし俺に関わった以上は、死ぬ事くらいは覚悟しろッ!」

 

 その言葉を交えた直後、両者の神威が激突する。停滞と悪滅、その概念が宇宙全土を包み込み激突する。

 両者の神座の名は……

 

 

無間刹那大紅蓮地獄(アルゾ・シュプラーハ・ツァラトゥストラ)

堕天無慙楽土(パラダイスロスト)

 

無慙の第二の神座闘争が幕を開けた。

 

 無間と堕天の宇宙が激突する、だが前者の方が支配領域において圧倒的だろう。純度が違う、理の強度が違う、そして何より意思力が違う。何故なら刹那は歴代最強たる波旬と、防御に専念していたと言え数万年休まずせめぎ合いをし続けていたのだ。一方で無慙は座に君臨し続けたのは数千年、戦い続けてきた経験は勝ってるかもしれないが、神としては劣等生であるが故に自力においてこうした優劣が浮かびがあるのは必定である。

 つまり無慙は刹那のことを若いのと言ったが、実際のところは覇道神として経験豊富なのはむしろ刹那の方なのだ。それを証明する様にこの戦況において無慙が確保できている領域は、剣の間合いというたった半径数m範囲。覇道を謳いあげるものとしては失笑レベルの有様だろう。

 

「ほう、隙間無く染め上がるつもりだったが僅かに踏ん張ったか。いや、あの会議で俺の力を理解していたからな。アレがなければ今頃お前は止まっていたのだろう。」

「ぐゥッ……はッ、なんだ?己の甘さに対する愚痴か?」

「さて、どうだろうか。まあともあれ、さっき言った様に将棋の差し合いじゃなくて、俺は殴り合いが好みなんでな。畳み込ませてもらうぞ。」

 

 などと、無慙のことを一切情けをかけず、かと言って舐めてかかる様子もなく刹那は背中の刃翼の穂先を全て無慙へと向けた。

 一つ一つが宇宙を容易く裁断する神威の刃、見ているだけでも時が止まってしまいそうな錯覚に陥る。そして刹那が視線を鋭くすれば、どこまでも速く駆け抜けて無慙との間合いを詰める。

 

「ッ!」

 

 光を置き去りにするほどの速度、そして首を刎ねれば確実に絶命に至る断頭の刃が無慙の首に向かって迫る。それを剣で防御の構えで防ぎ、穂先を逸らすも肩に刃が入り込む。否、それだけでなく他の刃翼が無慙の体の至る所を削っていく。

 一旦下がって距離を取ろうとするも、それを寸前のところで思い留める。刹那の覇道の本質は時の牢獄、前に進み過ぎても後ろに下がりすぎても駄目なのだ。刻まれた傷は勿論のこと、刹那の神威に染め上げられれば、もう二度と動けなくなるのは当たり前すぎる話だ。

 

「面妖な……まさに凍てつく宇宙、というわけか。」

「そうだ、紅蓮に凍って逝くがいい。」

 

 そのセリフと共に裂けた空間から無尽の刃が無慙へと迫り来る。舞い上がる鮮血、既に無慙の全身は血袋と評される程で生きてるのが不思議なくらいである、

 刹那自身もそう感じているが、それでも容赦という慈悲なんて彼にはない。

 

「オォォォッ!」

「おお、怖いな。そんな有様でも一発当たるだけで致命になりかねない。」

 

 間合いを詰めて接近してくる刹那を視界に捉え、蛇の様に低姿勢で刺突を放ち顎から頭頂にかけて串刺しにせんと放つ。しかしそれを悠々と回避し、まるで挑発する様にそう言い放つ。

 しかし反面、そこに諧謔の意思はなく事実しか込められてない。無慙の第一戒律は彼我の殺意の飽和に応じて威力が増していく。極論、殺意や戦意のない相手しかいない場合を例外として、時間が経てば経つほどに威力は戦場において誰よりも強くなれる力と言っても過言ではない。そして刹那は火を見るよりも明らかに殺意が帯びてる以上は、単純な膂力において無慙が上だ。故に直撃すれば砕かれ肉体が裂かれるのは確かな事なのだろう。

 

「だが、アンタは殺し合いを好んでいるわけではない。」

「……」

「振るう刃に殺意はあれど、狂気は感じられない。それは快楽を求むものでなければ、生を否定する無感への憧憬でもない。そうだな、言うなれば殺し合いの馬鹿馬鹿しさはわかってると言うべきかな。覇道を咏い上げながら、随分と矛盾したあり方だ。無血の新世界が開闢されれば、お前の存在そのものがまさに否定されるわけだ。」

「はッ、それは貴様も同じだろう。」

 

 無慙の真実を見定めるような言葉を刹那が突きつければ、無頼さを出しながら無慙は肩に剣を担ぎつつ言い返す。

 

「愛しい刹那を守り通したい、その果てが停止の牢獄とはな。時の止まった世界、それがお前の愛する世界だとでも?」

「……」

「自分と自分の大切な仲間たち以外、皆止まれ。なるほど、確かに守りに長けているだけはある。だがそれが齎す日常はお前の望むそれとは対極だ。」

「……正解だ。ああ、ぐうの音も出ないとも。そんな世界に価値は無い、だから俺は……」

「あの女に世界を託したと。」

「そうだ、俺なんかよりマリィこそみんなを包む座にふさわしいと確信していた。まあ、結果は察しの通りだがな。」

 

 そう苦笑を浮かべながら、無慙の指摘に対して刹那はそう返した。その瞬間、無慙の覇道の領域が拡大する。

 そう、相手への理解こそが無慙の真骨頂。対象を殺害する特攻力が増していき、刹那は時間が経つに連れて次第に劣勢へと追い込まれていくだろう。

 

「結局、貴様もまた大義の流転には逆らえんかったわけか。あの餓鬼相手に何年も踏ん張ってたのは褒めてやるが、それでも認めん。俺の求む不変には程遠い……故に死ね。」

 

 無明の中の一筋の光を見出したかのように、無間地獄を押し退けて堕天の覇道を拡大させながら接近していく。

 そして至近距離まで詰め、殺意を滾らせて意識の断絶を差し込んで必殺へ至らしめる。そう確信していた。

 

「オイオイ、そうイラついても仕方ないだろう。甘いものでも食べて、リラックスでもしてみたらどうだ?」

「ガ、ァッ……」

「いや、お前がそう言った休憩の概念に堕するのは破戒の対象か。」

 

 刹那から血が滴り落ちる、確かに無慙の攻撃は直撃した結果となる。しかし、それは刃翼の一枚を砕いた過ぎない。他の刃が無慙の身体を貫通している。まるで最初からこの結果を想定し、それに対するカウンターのように。無慙が理解を深めて特攻力を増しても、まだ刹那の太極の領域に及ばないのだ。刹那と無慙の掌握する空間の比率は、この時点において8:2ほどでありまだまだ余裕はあるのだ。

 

「瞬きや食事のような休憩を断ち戦い続ける、縛りは大方そんなところか。普通の生物なら衰弱死するところだが、それを押し通すためのその伽藍堂の体であり戒律の恩恵か。」

「貴様ッ!」

「観察し理解するのがお前の特権だとでも思ったか?これでも結構経験豊富でな、色んな人間の業に触れてきた身なんだよ。だから、構造さえわかればある程度やりようはある。こんな風にな。」

「ギッ、ガァァァァァァァッ!!」

 

 無慙の絶叫が響き渡る、刹那が視線を強めれば広がるは停滞の概念。

 時よ止まれ、時よ止まれ、この刹那よ永遠なれ。その渇望が万象を停止へ至らせる、それはたとて無慙であっても例外ではない。無の身体を起動させる殺意が、次第に内から凍てつかせんと無間の覇道に侵されていく。その様子を刹那は冷徹な視線で様子を窺う。

 

「良い加減楽になりたいだろうな?ならば死という安息をくれてやろう。」

 

 そう言い放てば、刹那の背後で陣取る随神相の鎌首がもたげる。そして口蓋を開けば、そこに極光が集まっていく。

 

「血、血、血、血が欲しい

ギロチンに注ごう、飲み物を 

ギロチンの渇きを癒すため

欲しいものは、血、血、血

 

罪姫・正義の柱(マルグリット・ボワ・ジュスティス)

 

 放たれる破壊光、それは無慙と彼が保有する空間全てを飲み込んで余りがあるほど。これを真正面から喰らえば、時間停止の理に完全に汚染して二度と動けなくなる。そう、本来ならばここで終わるはずだっただろう。

 

「……貴様も良い加減学べよ、俺は安らぎなんぞ求めていないとな。」

「ッ!」

 

 漆黒の殺意に満ちた呟き、それと同時に爆ぜた極光が放たれた剣戟によって縦に割れてそれていく。

 それと同時に堕天の異界が拡大する。肥大化する殺意と共に膨れ上がる悪なる総軍。その光景を見て刹那は目を細める。直近における黄金戦と自身との語らいで見た覚醒現象、それによって無慙の存在強度が上がったが先程のそれとは比べ物にならない。

 

「なるほどな、わかっていたことではあるがその駆け上がりの速さは恐ろしいな。あの下種野郎を斬るだけのことはある。」

「俺のことはいい、この瞬間に重要なのはお前のことだ。」

 

 刹那の語らいを断ち切るようにそう言い放てば、無慙は剣先を突きつけながら逆に問いかける。

 

「なあおい、お前の本当の名は何だ?」

「ッ!」

「お前の顔は、何処となく四代目の顔とよく似ている。そう言う奴には俺も色々思うことがあってだな、だから気になって仕方ない。だからなあ、教えてくれよ。お前は……」

「黙れ」

 

 一言。言葉にすればそれだけだが、今までのソレとは重さが違う。鈍くも鋭い剣戟の旋律が宇宙空間に響き渡り、無慙を大きく弾き飛ばした。しかしそれでも油断せず、飛翔する速度を上回る飛翔を実現させ、刹那は無慙の背後へと回る。

 しかしその最中、無慙の高笑いが弾ける。

 

「ハハハハハッ!どうした、さっきまでの余裕がまるでないな?それ程までに、お前にとって四代目は気に入らん存在か。」

「うるせェな、人の事情にいちいち藪蛇入れてんじゃねェぞ!」

「はッ、人の事を散々観察してた輩が偉そうにほざく。」

 

 閃く両者の刃、それが交差して空間に亀裂を刻む。刹那が放つ断頭の刃の雨を、全て一つ一つ打ち砕いて最短距離で無慙は距離を詰めていく。

 時空を超越した攻防を繰り返しながら、次第に無慙が刹那に追いついていく。ついに両者の覇道の強度が互角の領域へと達していった。

 

「俺的には、今のお前の方が悪くないと思うぞ。先程までの余裕な振りよりかは、随分と似合っている。」

「嫌味が趣味かよお前、波旬に単独で喧嘩を売るような奴にはお似合いな趣味かもしれないがな。」

「言ってくれる、だから俺はこう言ってやるよ。お前、察するに四代目の血を入れ込まれた人間だろう?その結果の果てに覇道神になれたと。それも無自覚にな。」

「ッ!テメェ……」

「皮肉な話だ。人としての日常を愛する男が、その真実は神の血を混ぜ込まれた神造兵器だったとはな。それも、五代目を神座へ至らしめるための引き立て役なのだろう。それも全て四代目の思惑通りなのならば、なるほど見た目まで瓜二つならば恨みを持つのも自明の理という奴だな。」

「……随分とほざいたな、塵。」

 

 刹那の視線が無慙と絡む、そこには憤怒の意が込められている。しかしそれを前にしても揺らぐことのない無慙無愧。

 無間地獄に亀裂が入る、ついに無慙の強度が刹那の覇道を僅かに上回った。しかし……

 

「褒めてやるよ、良くもここまで真実に到達できたものだ。共にナラカに挑む者として俺単独で相手をしようと思ったが、もうここまでだ。俺も手段を選ばん、殺してやるよ無慙。」

「上等だ、ならばさっさとかかってこい。俺はお前たち全員を皆殺しにすると誓っている。それが単に早くなっただけだ。」

「良いだろう……行くぞお前ら、コイツを一緒にぶっ倒すぞぉっ!!」

 

 その宣誓とともに、刹那の軍勢が無慙へと牙を剥いたのであった。

 

 

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