マグサリオンの殺戮道場   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回は比較的?平和な回です。


番外 最弱のヒーロー

 

 

「やぁ、こんにちわ。」

「………」

 

 闘技場へ、小太りな一人の中年男性が現れた。それも今時の子供ですらダサいと感じるようなボロボロなヒーロースーツを着ており、端的に言って見窄らしい姿だ。剣呑な雰囲気を出すマグサリオンとは実に対照的で、誰の目から見ても弱い男だ。周囲からその光景を見据える“みんな”からの印象も悪く、嘲笑する声すら聞こえそうである。

 しかし、そんな事実を知ってか知らずか、マグサリオンの目を見据えながら語りかける。

 

「君、お腹空いてるんじゃないかな?良かったら焼きたてな私のあんぱんを食べなさい、きっと元気が出るよ。」

「要らん。」

「ん、そうか……まあ、その声を聞くに元気そうだしね、要らないのも当然か。」

 

 即答、マグサリオンの返答はまさに食い気味だったと言えるだろう。その返答を聞いて男は少しがっかりそうな顔を浮かべるも、頷きながらどこか納得したような表情だった。

 すると、マグサリオンの握る剣の穂先が男へと向く。

 

「お前、ふざけてるのか?機嫌でも振る舞えば殺されないと侮っているならば、覚悟してもらうぞ。」

 

 殺意を露わにし、視線を鋭くしながら言い放つマグサリオン。誰もが数秒後にこの男の命が潰えると予想しただろう。

 しかし、それを前にしても男は笑みを崩さない。少し儚げであるものの、そこには慈愛の相が浮かび上がってた。

 

「ははは、参ったな。そりゃここがどんな場所かなんて流石に分かっているとも。血が流れるのだろう?目的は知らないが、要は闘う場所だ。

だけど、それでも私はお腹が飢えて苦しんでる子供を救いたいんだ。飢えたままだと、死んじゃうからね。」

「………その結果が、胸の傷か?」

「ッ!?」

 

 男の返答を聞き届けたマグサリオンは、今度は彼の胸に刻まれた傷へと剣先を向ける。その指摘に男は動揺の顔を浮かべ、自身の胸に手を当てる。

 

「……見えてたのかい?」

「そこから濃い血と火薬の匂いがした、察するに爆撃されたのだろう。そこに恨みや怨嗟は無く、単なる勘違いなんだろうがな。思い違いで理不尽な死を迎えるなんぞ、人の社会であれば珍しくない。だが、お前の正義は結局報われなかった。違うか?」

「ああ……自覚しているとも、子供たちからの人気は無かったからね。飢えてるみんなを救うという夢は、終ぞ叶えられずに終わってしまった。」

 

 マグサリオンの指摘を男は肯定した、その声色は涙ぐんでおりどれほどの無念なのかは察せられるほどである。

 だが、マグサリオンは優しくない。しかして誇りを踏みつけるほどの外道に在らず。あくまで男の真実を暴くべく口の剣を振るいあげる。

 

「ならばその正義は捨てて然るべきもの、報われる保証のない道を歩むことに価値はない。」

「……ははは、君は本気でそう言ってるのかい?」

「ああ、人は勝手に死んで、勝手に争い勝手に生まれる。態々餌をばら撒く必要はない。」

「その通り、だから私も勝手にあんぱんを配って勝手に子供達を救おう。」

「……」

「君は乱暴者だけど、どうやら人の自由までは奪う気はないようだね。良いかい、理不尽に一度や二度死んだからって、私は私の正義を捨てる気はないよ。」

 

 男の返答を聞き、マグサリオンは少し呆気を取られたような目になる。しかし即座に視線を鋭くして更に指摘を続ける。

 

「その正義のあり方は、人を魅了しないぞ?」

「関係ない、馬鹿にされようとも子供たちの飢えが癒えればそれで良い。」

「お前は貧弱だ、お前の憎む悪に刃向かえない。」

「それでも武器を握ることに逃げたくない。戦争は嫌いだ。」

「どれだけお前が正義を貫こうとも、お前に悪の免罪符をつける輩がその内出てくるぞ。」

「私を悪にして子供達の愛と勇気が育まれるなら、それこそが私の勝利だ。」

 

 男の決して曲げない返答を聞き、マグサリオンは辟易したように息を吐いた。

 

「貴様……俺の思ってる以上にとんでもない馬鹿者のようだな。」

「ははは、伊達に長年ヒーローはやってないとも。それでも世界から戦争が一向になくならないのは、どうにも歯痒く感じてたがね。君のところはどうなのかな?」

「………お前の言うそれと似たニュアンスと伝えておく、それ以上は答える義理はない。」

「なるほど、そうか。どんな世界でも、戦争はあるものなんだね。だが君のその顔を見るに、もしかして戦争は嫌いなのかい?」

「ああ、よく誤解されるが俺は戦争も殺し合いも嫌いだ。血と殺戮に淫してなどいない。」

「……そうか、君は不器用だけど優しい子なんだね。」

「殺されたいのか、お前?」

「ちょっとちょっと、そう言うところが誤解されるんじゃないかい?」

「大きなお世話だ。」

「ははは、素直じゃないね。さて、君ともっとお話ししたかったけど、そろそろ行かなきゃ。」

 

 嫌悪感を露わにするマグサリオンに臆することない男は、ここから抜け出さんと踵を返す。

 ボロボロのマントが靡き、上空へ飛び立とうとした時にマグサリオンの言葉が背中に刺さる。

 

「おい、菓子パン男。」

「うん?」

「お前の名を聞かせてみろ、覚えておく。」

 

 彼を知るものからすれば、驚きの光景だろう。誰かの名前を積極的に聞こうとする姿なんて、彼の生涯の中でも滅多にある姿ではない。

 その一方で男は苦笑を浮かべながら言い放つ。

 

「君は優しくて真面目な良い子だ、だけどマナーは守らなきゃいけないよ。人の名前を知りたければ、まずは自分が名乗る。そう聞いたことはないかい?」

「…………………マグサリオンだ。」

「ん、宜しい。」

 

 心底不快な表情を浮かべながらも、マグサリオンは名乗りをあげた。それを聞き届ければ男は自身の名前を口にする。

 

「私の名前は“アンパンマン”だ、また会おうねマグサリオンくん。今度は私のパンを、食べてくれると嬉しいな。」

 

 そう言い残して、ひ弱で優しいヒーローはどこかへと飛び立って行ったのであった。

 それを見届けるのは、不器用だけど、一途で負けず嫌い救世主(ヒーロー)だった。

 




分かる方はお察しの通り、今回は初代アンパンマンを登場させました。彼がもしもマグサリオンと対面したら、こんな感じに対話するだろうなー、と妄想した結果がコレです。
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