マグサリオンの殺戮道場   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回は色んな意味でlightユーザーの話題となったあの男です。


第十一陣 極楽浄土

 

 

 闘技場に、また再び挑戦者が現れる。それは人間であり、見た目だけで言えばあくまで眼鏡をかけた軍人。それもとても地位の高い人物だと伺える。そしてその身からは悪意の類は感じられず、清廉潔白さをマグサリオンは感じ取った。

 しかし、だからこそだろう。警戒せずには居られない。よく知っているのだ、この手の人物だからこそ、悪意なき暴虐を齎すのは古今東西よくある話なのだと。

 

「君が私の対戦相手……いや、私が君のために用意された駒なのかな。

 ふむ、察するに多大な努力を以てここを実現したのだろう? いやはや、心底に感服するよ」

「……何が目的だ?」

 

 男はマグサリオンと対面すれば、爽やかな口調と共にマグサリオンを一方的に讃えることを口にしていた。しかしそんな事を聞いてもマグサリオンが良い気分になるわけもなく、さらに警戒した口調でそう言い放つ。しかし、男はそんな事を気にする事なく、話を続けた。

 

「目的?私の様な愚物に、最早そんなものはないとも。しかしそうさな、一つ敢えて示すとすれば君の夢を知りたい。」

「……夢だと、正気か貴様?」

「無論だ、君ほどの傑物ならば世界に向けて臨むことの一つや二つあるだろう?私はそれを知りたいだけだ。君の願望が相応しいものであるならば、ぜひ協力させて欲しいのだが……」

「……貴様、馬鹿か?」

 

 男の言葉を聞いて、マグサリオンは鼻で笑った。彼を知るものであれば、当然の反応だと言わざるを得ないだろう。

 

「俺に仲間なんていない、手を貸すものなんぞ不要だ。いるのはいつだって、敵と敵の敵だ。俺が望むのはあくまで悪の根絶、その為に他力なんぞ求めん。あくまで俺自身が悪を喰らう悪として君臨し、反吐が出る大義の流転を終わらせるだけだ。」

「悪? いやいや、君のような存在を人は英雄というのだ。悪を喰らう悪という事は、即ちいずれ滅ぼされる事を前提としているのだろう?それでは君という勝者が哀れではないか……故にどうか、滅ぼされることで浄化などと悲しい事を言わないで欲しい。貴方のような人間を私は求めていたのだから。

 故に我が極楽浄土にて、万代不易の祝福を!」

 

 彼の独白にマグサリオンは辟易とした表情を浮かべてたが、一つ気になる箇所に反応を示した。

 

「……英雄だと?ああ、前に来たカグツチとやらと似たもの同士か貴様。」

「カグツチ?……ああ、もしや天奏も此処に来てたのか。なるほど、という事は彼も倒したというわけか。素晴らしい、俄然興味が湧いた。」

「……」

「君の実力を、どうか私に焼き付けて欲しい。私はギルベルト・ハーヴェス。正義の味方になりたいと願った、凡俗な男の願いをどうか聞いてほしい。」

「……良いだろう、付き合ってやろう。俺はマグサリオン、悪を滅ぼすただ一つの剣だ。」

 

 こうして、ギルベルトとマグサリオンの決戦が幕を開けた。

 

 疾走するマグサリオン、それに対して迎える様に不動であるギルベルト。距離を詰めれば無尽の殺意を纏いし刃が、ギルベルトの首へと向かう。当然、馬鹿正直に受け止めるわけもなく、彼も剣を抜いて迎撃する。

 マグサリオンの第一戒律『絶し不変なる殺戮の地平(サオシュヤント・アウシェーダル)』は殺意を飽和を攻撃力へ変換する異能、それによって殺意がある限り攻撃面ではマグサリオンが優勢となる。そう、今までの戦いでもそれは不動だったのだ。だが…………

 

「ッ!?」

「ほう、理屈は知らないがどうやらパワー面では君の方が上の様だ。危ない危ない、迂闊に受け止められないな。」

 

 結果は相打ち、両者共に無傷ではある。だが、それは異様な結果だろう。重ねていうが、第一戒律の性質上殺意の類がある限りははマグサリオンが力負けすることは理論上あり得ない。それはギルベルト本人の方から語られてるように、当人だって認識しているのだ。だが、ならば何故相打ちになるのか?分からない、この不可解な現象がマグサリオンを困惑へと誘う。

 だが、何か行動をしなければ分かるわけもない。下手な行動は自滅へと誘うリスクもあるかもしれないが、何もしないから状況が好転する保証だってない。そして何よりも、マグサリオン本人がそうした性分ではないのだから。殺意を糧として再び剣を振り上げ、胴を絶たんと振り上げる。更にマグサリオンは第二戒律『絶し不変なる凶剣の冷徹(サオシュヤント・マーフ)』を用いてギルベルトの視界の外に剣を動かしており、いわば隙をついた攻撃をしている。

 

「ッ!?」

「腹部がお留守だ。」

「グゥッ!?」

「私の見えない箇所へ攻撃をしようとしたのだろう?だが、それは君の視線さえ見ていれば自然と見当はつくとも。」

 

 しかし、ギルベルトに直撃する前にまるで壁に激突したかのようにマグサリオンの腕が一人でに弾けて剣戟があらぬ方向へとズレた。当然側から見れば隙だらけであり、ギルベルトがそれを見過ごす訳もなく、横一閃がマグサリオンの腹部を抉る。マグサリオンはこの不可思議な現象に殺意が揺らぎその数だけ、無の身体なんて幻想に過ぎないと言わんばかりに血肉がはぜる。

 やはり、原因が掴めない。まるでギルベルトの他に透明人間がいる様な状況である。加えて不意をついても高度な演算能力で、その上をいかれる。マグサリオンの混濁する記憶の中から浮かび上がるのは、バフラヴァーンの展開した大乱闘。無意識下のうちに己と変わらない分身を生み出して展開する大乱闘(バトルロワイヤル)、それと似た様な状況だが、決して違うとマグサリオンは感じとる。だがしかし、ギルベルトはそんな推敲する時間を易々と与えない。

 

「さあ、共に未来を目指そう。君の輝く姿が見てみたい。

 まだまだ諦めることは無いのだろう? 素晴らしい姿勢だよ。更なる高みへ共に往ってくれまいか。君こそが今の私の標なのだからッ!」

 

 指揮者のタクトの如く振るわれる剣、その全てに高度な研鑽が纏っている。マグサリオンの凶暴な剣風とは対照的で、最短距離で急所に迫る剣戟が血肉を抉る。加えてマグサリオンの狂気的な観察眼を持ってしても、何処かズレたタイミングで穂先が迫り、それが混乱を招き殺意に揺らぎを生じさせる。これこそギルベルトの真骨頂、白兵戦において一度剣を交えただけで相手に何もさせない白夜の悪夢に他ならない。それを讃えるように、ギルベルトは己が星の輝きの詠唱を唱え始める。

 

「創生せよ天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星

 

いざ並べ、死後裁判は開かれた。眠りにまどろむ魂魄ならば我が法廷に凜と立て

 

公正無私の判決に、賄賂も媚態も通じはしない。宿業見通す炯眼は、清白たる裁きのために重ねた功徳を抉り出す

 

汝、穢れた罪人ならば禊の罰を受けるべし。地獄の責苦にのたうちながら、苦悶の淵へと沈むのだ

 

汝、貴き善人ならば恐れることなど何も無し。敬虔な光の使徒に、万代不易の祝福を

 

これぞ白夜の審判である。さあ正しき者よ、この聖印を受けるがよい。約束された繁栄を極楽浄土で齎そう

 

超新星(Metal Nova)

 

――楽園を照らす光輝よ、正義たれ(St.stigma Elysium)

 

 地を踏めば、足場が崩れてもつれ、剣を当てれば直撃する前に一人でに弾かれる。そして避けようとすれば瞬間的にワンテンポ早くなって剣戟が生命を奪いにくる。マグサリオンはその必罰の嵐の最中、我武者羅に剣を振り続ける。しかしギルベルトからすればそれもまた、想定内。動揺する要素が微塵もなく、寧ろそうなれば急所が無防備になるのは想像に難しくない。そしてそれを、ギルベルトが見逃すはずもなく……

 

「私の勝ちだ。」

 

 まるで扉の錠口に鍵を刺すように、マグサリオンの胸倉に向けて剣を深く突き刺した。狙いは心臓、加えて内側から更なる追撃も加えるのも怠らない。致命傷に更にダメ押しの一撃、これでギルベルトの一方的な勝利だろう。

 

 

 そう、相手が確かな人間であったのならば。

 

「……そうか、お前の力の正体は衝撃の付与というわけか。それも接触した箇所に好きなだけ、加えて相手だけでなく己にも自由にできるわけか。だから俺の攻撃の悉くが出鼻を挫かれたわけか。大したものだ、まんまと嵌められていたとも。」

「ッ!」

「だが、これまでだ。ああ……お前みたいな気狂いを俺が逃すわけないだろう。おいお前、俺の輝く様を見たいと言ったな?ならば良いだろう、精々目を凝らしてよく見ておけよ。」

 

 だが、超至近距離でマグサリオンの閉じぬ瞳が不意をつかれたような表情をするギルベルトとの視線が絡む。そしてそう言い放つと同時に、マグサリオンの掌がギルベルトの顔面を鷲掴む。その最中、不思議とギルベルトの対応が遅れてしまった。まるでさっきまで動いてた精密機械にバグが生じてしまったかのように。その原因は大きく分けて三つある。

 一つ、致死の域に至るまで攻撃したのに死んでないマグサリオン。二つ、ここで初めてマグサリオンが素手で対応し始めたこと。そして三つ、これこそがマグサリオンの第二戒律『絶し不変なる凶剣の冷徹』の真の効果によって生み出された隙、即ちギルベルトの意識の間隙が発生したのだ。

 

「グガァッ!?」

 

 まるでトマトでも潰すかのように強く握るマグサリオン、その結果ギルベルトは脳挫傷と視神経の断絶が発生した。そう、誤解されがちだから第一戒律の威力上昇はなにも剣戟限定に限らない。マグサリオンの攻撃全てに上昇効果が付随されるのだ。これによってギルベルトは意識の大混乱と視界不良が発生する。

 それはまさに、光によって目が焦がれた。否、無によって目が絶たれたと言えるだろう。

 

「ぐ、ウゥ……」

 

 不意な出来事、そして頭部内で走る激痛に思わずギルベルトは蹈鞴を踏みながら距離を取ろうとする。流石に視界が血によって塞がれれば対応に無理が生じる。

 

「逃さん」

 

 しかし、そんな当たり前な思考をマグサリオンが想定しないわけもなく、そして何より許すわけがない。血塗れの掌を離れていくギルベルトに向けて握りつぶせば“距離(セカイ)”を殺して先程までの間合いまで詰める。そして剣戟の間合いまで縮めれば、ギルベルトに向けて上段から一閃振り下ろす。

 

「ガァッ!?」

 

 雷鳴の如き爆音と共に、血飛沫が舞う。初めてまともにギルベルトへの攻撃が通ったと言えるだろう。しかし、その直前にギルベルトは確かに衝撃の付与を行っていた。距離を剣の間合いまで詰めれば攻撃が迫ると分かっていた。そしてマグサリオンの武功は凡庸の範疇。ならば視界不良だろうとも正面から攻撃が来るのは当然と予想できる。故に攻撃が来る直前に指を鳴らし、必罰の星を発動させた。

 しかし結果はこれだ。衝撃が発動されたにも関わらずマグサリオンの攻撃が通った。その理屈はどういうものか、ギルベルトは理解出来てない。それを見越してか、片膝をつくギルベルトに向かってマグサリオンは言い放った。

 

「単純な話だ、俺の方が強い。ただそれだけのことだ。」

「は、ははは……なんという事だ素晴らしいッ!」

 

 そう、マグサリオンが白夜の悪夢を乗り越えたのはたった一つの単純な理由。発動した衝撃よりも強い質量のパワーで押し通しただけのことだ。

 無論、それはギルベルトの力に対して無理解のまま出来ることではない。第一、力の出所がわからなければどれだけ質量を高めても空回りするだけであり、下手すればそれをギルベルトに利用されるリスクだってあるのだから。故に理解することで第二戒律の真の効果によってマグサリオンの存在強度を高め、発動する瞬間に第一戒律によって獲得したパワーで押し通す。それを用いて白夜を押し除けたのだ。それを理解したギルベルトは讃えるように笑い声を張り上げた。

 

「やはり私の判断に狂いはなかった、君こそ標にすべき英雄だ。ならば、私も全てを絞り出さねばなるまい。そう、まだだッ!」

 

 ギルベルトもまた、マグサリオンに迫るべく光の使徒らしい選択をした。ここでは彼の十八番の演算力でもなければ能力による力押しでもない。全ては気合と根性、心の力で起死回生を図ったのだ。

 脳挫傷も、視界断絶も全て覚醒を持って補う。目を覆ってた闇が晴れ、混乱に満ちていた脳裏が浄化されていく。

 

「そうだ、これこそが人の歩むべき光の道。確かに個性がある以上はスペックに個体差があって然るべきだが、その程度誤差にしか過ぎない。ヴァルゼライド閣下も、そして君もまた心の力一つで奇跡を成し得た。ならば、答えは明白だ。全ては心一つなりッ!」

 

 その答えを、さもこの世全ての真理であるかのようにギルベルトはそう宣誓した。そして同時に迫る下方から跳ね上げて迫る白夜の剣戟。

 その一振りには“1277層”に及ぶ衝撃が付着しており、まともに受け止めれば想像を絶する衝撃がマグサリオンに迫り来るだろう。

 

「貴様の言ってること自体は正しい、大抵の連中は否定するだろうが、裏を返せばそれは痛いほど正しいことだからな。だが小さいんだよ。お前の瑕疵は其処にある。」

「っ!ガァアァァァァッ!?」

 

 冷徹な殺意を声色に込めると共に、マグサリオンは多重化したギルベルトの剣戟に向かって真正面から剣を振り下ろした。空間ごと破裂するかのような衝撃音と共に、ギルベルトは正面から迫る圧力に押しつぶされた。

 曰く、ギルベルトの瑕疵。それを見極めて晒し、解体せんと無慙無愧の剣が畝りをあげた。

 

「心もまた力の一つと見るのは勝手だ、あながち間違いでもない。だがそんなのは、結局のところは身長の高低差と同次元だ、何故なら心がなくとも強く在れる人間だっているのだからな。例えるならば身長が高い連中を集めれば最強の軍隊でも出来上がるとでも?違うだろう。そんなこと、ちょっと考えれば餓鬼でも理解できることだ。」

「グゥ……ならば、それが私の瑕疵だとでも?」

「言っただろう、小さいと。他にも理由は存在する。お前の言葉をまとめれば、優劣が即座に理解できる世界こそが理想なのだろう。英雄は英雄、屑は屑と。確かにそうした社会になれば、優秀な奴と劣悪な奴というものが分かりやすくなる。だが、人間と社会というのはそう単純なものではない。

 なぜなら、人であれば凡人というのも確かに存在するのだから。だがお前のその理想社会はそいつらも弾くのだろう?お前の世界では、凡人の輝きを理解出来ないから潰してしまう。」

「ッ!」

 

 それはかつて、ギルベルトが光と仰いだ英雄に指摘された真実である。それは例えるならば恒星のみで構築された宇宙、闇の全てを破壊したその環境は、もはや宇宙とは呼べるものではないだろう。当然ながら、人が生きていける世界ではないのはいうまでもないことだ。

 そう指摘しながらマグサリオンの剣先がギルベルトの心臓を穿った。それを受け止めるギルベルトは、避ける様子すらもなくあるがまま攻撃を喰らった。

 

「ガ、ァァ……」

「ああ……勘違いするなよ。凡人こそが尊ぶべき聖人とでもいうつもりはない。凡人とは善と悪、光と闇どちらにも転がり落ちる可能性がある屑になり得る。そんなつまらん輩と分かれば俺は即座に斬り殺す。」

「ならば、君は一体私の何が足りないと言いたいのだ……」

「足りない、というより知らないことがあったと言うべきだな。生憎と俺は、お前よりも凡人のなんたるかを知ってたのでな。それがお前と俺の差であり、勝敗を分けた要因というわけだな。光しか尊ばない奴に、俺は遅れをとるほど愚かではない。」

「ふふふ……ふははははは!」

 

マグサリオンの答えを聞いて、ギルベルトは笑い声を上げた。彼の脳裏には、かつて己に敗北を与えた運命の砂つぶ、そしてそこへと導いた灰と光の境界線を掲げる青年の姿が。そこには爽快感が伴っており、ある種の断末魔とも言えるだろう。

 

「そうか、そうか。つまりは知っていること、持っていることの差がこの勝敗を分けたということか。ならば良し!

 全ては上か、それとも下――そうともこれが在るべき秩序なのだから。故に、約束してほしい。いつか、君の見定めた凡庸の輝きが、どれほどの価値を示してくれたのか。」

「ああ、覚えておくとも。境界の彼方で見ておくがいい。」

 

 マグサリオンはそう言い放ち、光の審判者の首を跳ね飛ばし彼方へと送り飛ばしたのだった。

 

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