マグサリオンの殺戮道場   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回の話は比較的にシンプルかもです。


第十五陣 太陽

 

 

 

 闘技場に、また熱風が肌を撫でた。それを感じ取ったマグサリオンは、ここに来るものは随分と暑苦しい輩が多い、そう呆れた様な溜息を吐いた。

 そして、入り口から外衣と眼鏡を纏う長身の男が新月を背に現れる。マグサリオンと視線を交えれば、男が口を開く。

 

「俺はシグルド、お前を殺しに来た。」

「………」

 

 シグルド、そう名乗る男がマグサリオンを相対する。マグサリオンは言葉を返さず、そしてシグルドもまたそれに対して沈黙を貫き見据えているだけ。まるで殺し合いの合意を得た、そう無言で示すかの様に。

 そして合図の様に熱風が両者の間を駆け抜ければ、一番最初に行動したのはシグルドだ。

 

「敵味方識別解除、確実に殺す……シッ!」

 

 シグルドは即座に無数の短剣を取り出し、宙へと放り投げた。そしてそれらが目の前に落ちてくれば、即座に拳のラッシュを叩き込んでマグサリオンへと飛ばした。

 当然、マグサリオンは道でも譲るかの様に回避しする。だが、それだけでシグルドの攻撃は終わりではない。

 

「甘い。」

 

 シグルドは短剣を飛ばした直後に、即座にマグサリオンの背後へと回り込んでいた。そして魔剣グラムで背中から胴を両断せんと振り切る。

 だが……

 

「甘いのはお前だ。」

「グッ!」

 

 振り返ると同時に、マグサリオンは大振りの横薙ぎをシグルドへと叩き込んだ。結果、魔剣と凶剣が激しくぶつかり合う。その直後に、シグルドが大きく後方へと弾け飛ぶ。

 

「グッ、ククク……成程、パワーはお前のほうが上か。ならば、これはどうかな?」

 

 すると、シグルドは自身にルーン魔術を込め、更に竜種改造を使うことで更なる強化を施した。

 そして不的な笑みを浮かべながらシグルドは再び短刀による射撃を放ち込む。

 

「大層なことを言っておきながら、さっきと同じ……いや、これは。」

 

 マグサリオンが呆れた口調をしながら、先ほどと同じように回避をしようとした時に変化があった。

 短剣を飛ばした直後、グラムまでまっすぐと飛ばしてきた。短剣を躱し、次いで迫るグラムを真正面から剣で受け止める。だが、その直後……

 

「はァッ!」

 

 シグルドは拳だけでなく、蹴りを混ぜ合わせながら短剣による攻撃を繰り出した。それによって削られるマグサリオンの体、まさに擬似的な多刀流を再現していると言えるだろう。

 パワーで劣るならば、技巧を以ってしてその差を埋める。本来、シグルドの個体的な力ではその差を埋められないが、それを実現させる竜種改造とルーン魔術。ある種、基本的にして王道的な戦法であると言えるだろう。短剣を織り交ぜた拳と蹴りによるラッシュでマグサリオンを地面に貼り付ける。まさに斬撃の檻、そう表現できるほどである。

 

「クク………クククッ!」

「………」

 

 シグルドから邪気の感じさせる笑みが浮かび上がり、チリチリと焦げる様な音が身体中から上がり、そして小刻みに揺れていた。その様子をマグサリオンは眉を顰めながら眺める。

 直後、シグルドの前に再び魔剣グラムが自動的に現れた。勝負ところと判断したのか、シグルドの全身から魔力が洪水の様に溢れ出す。

 

「魔剣擬似展開……我が炎ー太陽は簒奪せりー!

壊劫の天輪(ベルヴェルク・グラム)!!」

 

 蒼い閃光が宙を駆ける、グラムには炎が纏っており直撃すれば燃焼と切断による損傷が同時に襲いかかってくるだろう。炎と斬撃が闘技場全域を間違いなく消滅させる。

 だがその脅威が迫る最中、マグサリオンは笑みを浮かべながら呟く。

 

「……それで、結局のところお前は誰なんだ?」

「ッ!?」

「その炎が出た途端、身体が震えていたぞ?お前自身はともかく、その身体そのものと炎の相性が悪いのだろう。ああ、まるで炎とは畏怖して然るべきものと体に刻まれてるかの様にな。故に、お前はその騎士にあらず。良い加減、正体を見せてみろ。」

 

 凶剣からの冷徹な言葉の刃が、シグルド……と思われる何者かの精神的隙を生み出した。

 

絶し不変なる殺戮の地平 (サォシュヤント・アウシェーダル)

「……ガァッ!」

 

 それを目を閉じず、眠らず戦い続けるマグサリオンは見逃さない。斬撃の檻をすり抜けて、迫るグラムよりも一歩早い速度で前進して回避する。

 そしてグラムを上回る威力を纏った一撃を纏い、騎士シグルドの殻を被った何者かを、禍つ黒閃で斬り飛ばした。損傷を負い、血を撒き散らすもソレは笑みを浮かべている。

 

「は、ははは……はははははは!見事だ、この世界でもどうやらこの側の拘束をされていた。おそらく、あの戦地に於ける戦闘の擬似再現なのだろうが……何にせよ、ようやく解放された。望み通り、真の姿で相手してやろう。」

 

 シグルド、その体が霧散すれば頭上の新月が泡立つ様な音が鳴り響く。そしてその中からまず赤い手が伸びた。そして腕が、胴体が、足が、角が、そして顔が現れた。

 それは巨炎の擬人化……否、まさに炎の巨人と言えるものが現れたのだ。空を覆ってもあまりあるほどに巨大、恐らく1000mに迫るだろう。その巨人の名は……

 

「さあ、黄昏の時だ……絶望の歌を奏でよ、そして、灰となれ!!」

 

 名は巨人王スルト、星を燃やし滅ぼす終末装置に他ならない。たった一歩、それだけで闘技場が爆炎と共に砕けて溶けた。そのまま全身を続け、その果てに灼熱地獄の領域を展開し、その果てに星の終末を齎さんと。

 だが、その前進を止めるものが脚元にいた。

 

「む?」

「鈍いんだよ、屑めが。」

 

 マグサリオンの剣がスルトの全身を止め、それどころか押し除けた。焔に全身を炙られながらも、まるで微風を受け流すかの様に殺意の瞳は一切衰えてない。等身大の人間と同じ体躯のものが、巨大なスルトを物理的に退かせる。そんな幻想的なジャイアントキリング現象にスルトは僅かに瞠目する。

 だが、即座に己が武器である『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』を握り締めてマグサリオンへと振り下ろした。それは対神、対生命体に対する特攻力があり、擬似的とは言え神性を有するマグサリオンもその範疇から逃れられない。この炎は、生きているのならば神すらをも殺せるのだ。

 

「俺は死なん。」

「ッ!?」

 

 剣と剣がぶつかり合い、星を覆うほどの眩い爆光を爆ぜる。かつて最終戦争ラグナロクにおいて、猛威を振るい神殺しの破滅をもたらした神の武具。その温度は摂取四百万度を超えており、再び世界を焼き尽くさんと灼熱を大地へと撒き散らす。

 しかしそれでも尚、マグサリオンの膂力が強い。第一戒律による殺意の総和が攻撃力に変換される効果は尚も健在、スルトの力を凌駕して否定の言葉と共に押しのけたのだ。

 

「死を!」

「死ぬのはお前だ。」

 

 そしてマグサリオンは空を蹴って宙を駆け、スルトの顔面まで迫り来る。だがスルトも動揺するだけではない、両眼が閃けばそこから熱線を発した。

 マグサリオンは熱線を斬り裂いて捌く、だが裂かれた熱線は背後まで伸びて大地に着弾する。すると、まるで核ミサイルが落ちたかの様に大爆発と共に火の手が上がった。もしも山や海に直撃すれば、それらも難なく蒸発させるだろう。

 

「小賢しい……お前も世界を滅ぼす者だろう?その浴びた濃い血の匂い、俺が見てきた神々でもその領域までは届いてない、間違い無く殺戮においては最高峰だ。それ程までに世界に怒りを抱いているのだろう?だのに、なぜ俺の邪魔をする?」

「俺の殺意の矛先は俺が決める、お前に道を譲る道理は無い。」

 

 炎の殺意と剣の狂気をぶつかり合わせながら、両者は言葉と共に攻撃を交える。炎の剣が横薙ぎに放たれれば、マグサリオンの剣先がそれを止める。

 

「我が炎の贄となれ!」

 

 だがその直後に、スルトの口から吐息の如く火炎放射がマグサリオンの身体ごと包む。

 

「温い、その程度あくびが出るぞ。」

 

 しかし、空いている掌が炎を空間ごと鷲掴み、まるで蜘蛛の巣を払うかのように無へと飛ばしていった。そして剣先を突きながらマグサリオンは言い放つ。

 

「お前の破壊は先の無いものだ、世界を焼き尽くした果てに何がある?意味のないことであり、ましてや俺が既に一度はやっていると察している。ならば二番煎じの現象に何をそこまで拘っている?」

「……黙れ。」

「お前が実現したところで意味のない事と分かってながらも、その上で強い感情を込めてやり通そうとしている。そこから見えてくるものは、その光景を見せたい“誰か”がいるのだろう?ああ、確かに最期までそれを貫き通せばその想いは届くかもしれんな?だが、その想いの答えをお前自身が見出せねば意味はない。」

「黙れ黙れ黙れェェェッ!お前如きが俺を語るなァァァッ!」

 

 まるで古傷でも抉られたかの様に、かつて無いほどに重い感情を、スルトはその一言に載せていた。それを象徴する様に、剣から膨大な炎が噴射する。

 彼の存在そのものを象徴する宝具、それがマグサリオンへと放たれようとしていた。

 

「星よ 終われ 灰燼に帰せ

 太陽を超えて耀け、炎の剣(ロプトル・レーギャルン)!!!」

 

 それは終末の炎を放つ剣。神、生命体、そして世界そのものを滅ぼす一撃。描いた軌跡から焔が巻き上がり、星の表皮を炎熱で燃やしていく。まさに終焉の一撃、間違いなく星を殺せる一撃だろう。

 だが……

 

「お前の抱いた感情を答えてやるよ。」

「ッ!?」

「それは愛であり恋、そのどちらも誰かを想う尊い感情だ。だが、お前はそれを無意味にした。」

 

 業火の帷を突き破りながら、黒い彗星が殺意を纏った現れた。マグサリオンは宇宙を滅尽した冥府魔道を往く凶剣、そんな彼が星の終焉では止まらない。故に星を焦がす炎熱を、上回る切断現象で斬り払いながらスルトへと突き進んでいく。それを防ぐ?避ける?どちらも間に合わない、何故なら今のスルトには動揺が生まれている。

 その隙の真贋を見極め対象の特攻力を研ぎ澄ますのがマグサリオンの第二戒律、その隙を活かして確実に対象を殺す万象鏖殺の凶剣として覚醒する。

 

絶し不変なる凶剣の冷徹(サォシュヤント・マーフ)

「な、何故だ……人ごときが我が身体を……」

 

 果たして凶剣の閃きが、灼熱地獄を綺麗に斬り裂いた。その輝きは熱に溶かされることも、炎によって焦げ目の一つすら寄せ付けない不変なるもの。切断面を再生することは叶わず、溶けた氷の様に全身が崩壊を始めている。

 スルトから苦悶の声が上がる。それは斬られた痛みからの苦悶の声か、それとも自覚できなかった答えによる衝撃と後悔による嘆きか……

 

「オ……オフェリア、オフェリア……!」

 

 スルトは崩壊する最中、彼は手を天に伸ばしながら渇望し続けていた女の名を叫ぶ。

 世界を滅ぼした剣(マグサリオン)は言った、もしもかつて成せなかった終末装置としての役割を果たす。そしてその上で抱いた想いを貫き通せば、きっと世界の境界を超えてその想いは届くかもしれないと。そしてその感情の名は『愛』であり『恋』であると。そのどちらも心に付随する概念であり、そこに善悪は存在しない。だが、それでも此処でも届かず、夢を叶えるのに足りなかった。その原因は一体何なのか……絶望する最中、その答えが下された。

 

「お前の口から“それ”を出せなかったからだ、どれだけ強い想いを抱こうと口に出来なければ意味が無い。真心とは、口に出して初めて実感でき、行動が伴ってこそその夢は現実となる未来(さき)へと歩めるんだよ。」

「オ、オォ……オフェリアァァァアアアア!!」

 

 こうして、愛と恋を知ることのできなかった化け物は無の奈落へと堕ちて行ったのであった。

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