マグサリオンの殺戮道場   作:ヘル・レーベンシュタイン

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番外Ⅱ 神拳 後編

 

 

 俺は確かにここに来るまで、闘いにおいて負けることはなかった。かと言って、無傷や犠牲も無くなんで都合のいい事はなかった。

 避けられない傷は確かにあったんだ。

 

 

 

 

 まず、災禍をまき散らした組織を星ごと滅ぼした。だが生き残った組織の残党が、報復の為に留守番していた俺の息子を、家ごと焼き払った。死にかけだった息子の言葉は、決して忘れられない。

 

「う、うぅ……お願い、父さん。この闘いを、どうか……終わらせて。」

 

 そして今度は、俺を都合よく操る為に妻を拉致し、俺の見せしめのために女として陵辱され続け、果てに奴らは人質にしながら俺へと交渉をけしかけた。当然、乗るわけにはいかない。乗れば都合のいい兵器として妻共々使い捨てられ、それでは息子の遺言が無駄に終わるだけ。だから……こうするしかなかった。妻の最期の言葉は、夢を見る度何度も出てくる。

 

「お願い貴方、私ごとこいつらを殺して!貴方だけが最期の希望なのッ!」

 

 そして、最終局面。暗殺者が現れて、不意打ちの形で俺に襲いかかってきたのだ。狙いはわかってた、体に巻きつけた爆弾で、自分諸共俺を爆殺する気なのだと。今まで過酷な修羅場を突破してきた俺に、そんな小細工は通じない。

 だが、その暗殺者の正体は、俺の昔からの大親友だった。どうやら身内を全員殺されて、俺を暗殺しないといけない状況まで追い詰められてたらしい。だが結局、暗殺に失敗し、俺に敗北した親友は涙と笑顔を浮かべながら、爆発共に消えていった。

 

「あぁ……最期にお前の顔が見れてよかった。じゃあな、俺は先に行くよ。」

 

 そうして俺は、全てを失った。子を、嫁を、友人を……もう俺の隣に立ってくれるものは、誰もいない。

 貪欲、俺は強さをひたすらに求めた。そして得た縁を大事にしたか?わからない……俺の積み上げた人生は、罪だったのだろうか?

 

 

 

 

 

「貪欲の罪、だと?」

「そうだ、それがお前の生まれ持った罪だ。」

 

 腐敗していく全身、そこから生じる痛み震えながらリカルドは無慙の声を聞く。無慙の剣を握り締め、傷口から引き抜こうとするが少しも動かない。まるでリカルドの罪の重さを示唆するかのように。

 

「自身の野望を優先し、お前に焦がれてついていくものを置き去りにしてきた。それ自体は直接的な被害は確かに薄いが、かと言って無視していい事柄ではあるまい。」

「そうかもしれない、が……だったら、俺以外の人間だってそうだろう。俺ほど規模がでかいやつはそういないかもしれないが、個々人の事情でそうなるやつだっているだろう!」

「………つまり、それは人として普遍的な自称だから、罪というにはあまりに理不尽で難癖だと、そう言いたいわけか?」

「ああ、そうだ!だから俺を見過ごせなんて言わねェが、幾ら王冠の独裁者と言われてるからって、そんな言い掛かりは……」

「阿呆が」

 

 リカルドが言葉を続けるよりも早く、無慙の全身から広がる地獄の業火が吹き荒れる。まるで彼の怒りを指し示すかのように。

 

「俺がいつ一般論が答えだとを語った?俺が見てるのは……リカルド、お前自身の瑕疵だぞ?」

「な、何が言いたいんだ?」

「お前の生まれ持った罪は貪欲だが、真に望んでいたのは“誰かの窮地に手を伸ばしたい”というものだろう?」

「ッ!?」

 

 刹那、無慙の発した真実がリカルドの胸裏を深く突き刺した。その痛みは体を腐らす無価値の炎を凌駕し、身体中が震えている。あぁ、これこそ罪を償わず進み続けた罰なのだと……

 

「本当は誰も失いたくなかった、身内を救えなかった事に涙を流すべきだった。だがお前は、俺という頂点と闘いたいという欲を優先し他を置き去りにしたのだ。なんと惰弱、惰弱さ、そんなザマで本気で俺に勝とうとしていたのか?お前のあり方が、お前自身の真実を縛る枷と認識すらできてなかったくせに。」

「………」

「縛る枷を認識でなければ、それを打ち破れる道理もあるはずないだろう。故に死ね、罪の掌の上で踊り続けた屑に俺は用はない。」

 

 地獄の業火が畝りをあげ、リカルドの心臓を、魂をも蹂躙せんと燃え滾る。過去最高の痛みが怒涛に迫り来る、それに呑まれてリカルドは蒸滅する。

 

「………ァ、……アァ………」

 

 そう、その筈だった。だが彼の意思が、怒りが、その罰を押し除けようとしていた。

 

「ッ!」

「アァァァァァァッ!!」

 

 旋風を引き立て、黄金の……否、紅色の輝きを放つ覇気が無価値の覇道を押し退ける。その反面、全身から汗と血が溢れるリカルド。瀕死に等しい状態であり、非常に劣勢な状況と言えるだろう。

 しかし、その眼光は未だ死んでおらず、無慙に向けて何かを伝えようとしている意思が感じ取れた。それを察してか、無慙はただ彼の瞳を見据えてるだけだ。

 

「お前の言う通りだ、無慙。俺は確かにここに来るまでお前と戦いたいと言う貪欲さばかりを優先して大事な家族や、俺の真実の願いを置き去りにしていた。だが、それでもそうした欲があってこその人間だと俺は思う。

 望まなきゃ得られねェし、目指さねば至れねェ。そうした願いを持つこと自体が罪で、その過程で受ける痛みこそが罰なら生まれてくること自体過ちになるじゃねェか。アンタや他の奴らが何を考えてるか知らねェが、少なくとも俺はそれが悪だとは思いたくねェッ!」

「ほう、吠えるではないか。では何だ、お前は己の罪を棚上げしたいとでも言いたいのか?」

「違う、俺の真なる願いは闇に閉ざされたままになるだろう。それを覚悟の上で、今の望みを優先するだけだ。」

「……言ってみろ。」

「アンタに負けたくねェ。例え俺の人生が間違いだらけだったとしても、俺に託してくれたアイツらの祈りを、そしてここまできた道のりを無駄にしたくねェんだァァァッ!」

 

 憤怒奔流、リカルドの願いと怒りが反映されるかのように存在強度が10倍近く跳ね上がった。それを見届け、無慙は呆れるような、関心するかのように言葉を紡ぐ。

 

「笑えん愚かさだな、だがそこまで貫こうとする貪欲さは褒めてやるよ。来い、その罪を呑み込んでくれよう!」

「行くぞォォォォッ!」

 

 宙を駆ける紅蓮の流星、それが無慙の方向へと突き進んでいく。迎撃せんと振り下ろされる無慙の剣、その輝きを殺さんと切れ味の上がった斬撃を意識の間隙を通すことで回避困難な軌道で放たれる。

 本来であれば、特攻力を得た無慙の一撃はリカルドの回避技巧であっても避けるのは不可能。加えて無価値の炎によって身体を侵され続けたことで満身創痍。だがその体に鞭を打ち無理やり動かし、自身の生命力を削り10倍の出力を上げたことでその不可能を可能へと届かせた。そして回避と同時に無慙の顎を拳でかち上げ、死角を作り出す。

 

「ハアァァァァァッ!」

 

 そしてすかさず、神気を拳へと凝縮し両拳を突き出して放出する。リカルドにとって、この瞬間にできる過去最強の一撃。

 人生初の敗北と死を悟り、その上で凌駕する覚悟を決めたのだ。今度こそ、自分の使命を果たすため、みんなの無念を晴らすために渾身を込めたのだから。

 

「俺は負けん。」

 

 だが、それでも美しくも残酷な、絶死を齎す鬼気が凌駕した。紅蓮の神気を覇道ごと斬り割き、そしてリカルドの腕をついに両断した。宙にあがる切り離された腕は、根本から腐敗して掌だけを残す。その斬滅劇はリカルドを無意識に見惚れるほどに美しい景色だった。

 故にもはや再起不能、そう悟ったリカルドは……

 

「まだだァッ!」

 

 最後の抵抗へと出た、まだ戦意は折れてない。残った腕を動かし、無慙に向けて放ちこむ。

 距離感、狙い、その他諸々を思考から放り投げる。とにかく何だっていい、せめて死ぬまで戦闘に殉ずると決めたのだ。あぁ、願わくばこの至高の時間の終わりは、納得のいく形で締めくくらんとするために……この手を伸ばした。

 

距離を粉砕せよ、不変なる拳(デストルクシオン・プーニョ・ディオス)

 

 それは何かしらの脅威が発生した時、距離という概念をなくし敵を駆逐する悲劇なき新世界。ヒーローはいつも後手に回る役割であり、その原因はいつだって距離なのだから。

 ならばその根本原因を駆逐すればいい、そう願った悪の楽園に君臨した神の子(ヒーロー)は……

 

「ようやく届いた様だな。」

「………あぁ、たったの一回だけだけどな。」

 

 無慙の剣が、リカルドの心臓へ、そして魂へと突き刺さっていた。この構図だけを見れば、無慙の勝ちとみて間違い無いだろう。

 だが、当の無慙の頬に殴られた痕跡があった。その影響で口から少し血が垂れており、明確な損傷が刻まれていた。

 

「俺はようやく、自分の望みを果たせたん、だな……」

 

 そう、リカルドが距離を壊し無慙に拳を当てたのだ。確かに敗北した、生存は叶わず死へと至った。だがそれでも、最期に目指した地平へほんの少しだけ辿り着けたのだ。

 だから、リカルドは本懐を果たしたことで満たされた。望むもの全ては得られなかったけど、後悔は無いと思えるほどに。

 

「あぁ、今ならわかるぜ無慙様よ……あんたが望むものを。確かに、俺じゃあ力不足だったな……ましてや原罪を抱えたままとなっちゃあなぁ。」

「…….納得した様だな。」

「あぁ、礼を言うぜ。俺だけじゃ知れなかったことを知ることができた、もう心残りはねぇ。」

「…….俺がなすべき事をやっただけだ、礼なんぞ不要だ。」

「へ、そうかい……まあそれでも良いや。じゃあな、偉大なる王冠の独裁者様よ。アンタとのバトル、これでも楽しかったぜ。アンタも願い、果たせるといいな。」

「……」

 

 そしてリカルドの身体が業火に包まれ、次第に消失していく。まるで罪人へと罰の様だが、同時に遺体を供養する焼却の様にも見えた。

 

「みんな、今から行くよ……約束は果たせなかったけど、いっぱい土産話はあるからさ………」

 

 そう言い残し、リカルドの体と魂が完全に消失した。それを確認すれば、無慙は残されたリカルドの拳を拾い上げる。

 

「リカルド・マノデ・ディオス、その名と武勇はしかと見届けた。ならばこそ次だ、次にこの王冠に辿り着けるものこそ、罪を精算する正義の輝きでなければならん。それへ至るまで、俺は悪の蠱毒を繰り返すまでだ。お前の意思もまた、無駄にせんために。」

 

 そう言い放ち、宙へと放り投げられた不変の拳は無へと呑み込むのであった。

 

 

 




これでオリキャラ編は終了となります、初めての挑戦だったので色々不備はあったと思いますが楽しめたので満足です。
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