あの芝居的な口調、再現できてるか不安です……
追記
4/10 一部修正しました。
「失礼するよ二代目殿、こうして話すのは初めてであるかな。」
「貴様は四代目、確か水銀だったか。」
無慙の前に、影法師が現れた。あの神座同士の井戸端で目に捉えていたものの、水銀の言う通り面と向かって話した事はなかった。
故にある種、複雑な対面と言える。歴代の神座を全て滅ぼすと決めてるものの、何せこちらに関心の強くない筈の人物が態々関わって来たのだから。すると、その内実を察したのか、苦笑を浮かべながら水銀は言葉を紡いだ。
「愚息と友が世話になっていたようですからな、一度挨拶くらいは交えようとかも思っていたのですよ。下賤の身ですが、これでも先達には敬意を払うくらいの作法は弁えてますとも。」
「……なるほど、殊勝なことだ。だが……まさかこのまま穏やかに終わると本気で思ってるのか?」
「さて、私としては荒事は苦手なので終わって欲しいと思ってますが。」
「ほざけ、俺に関わる以上は荒事は避けられんと覚悟してるだろう。」
「確かに、女神に危害を加える者を見過ごすほど私も愚かではない。結局のところ無意味な茶番に終わりますが、是非もあるまい。」
そして動き出す水銀と無慙、互いの神座の理が流れ出した。
「
永劫回帰と堕天奈落の覇道がぶつかり合いを始めた。無慙がその覇道と対面し感じるのは既知、既知、既知既知既知の嵐。そして水銀の周囲に渦巻く双頭の蛇、それは永劫の繰り返しを体現するかの如く。そのとぐろに包まれるのは彼が保有する全宇宙。
そこから鱗が剥がれ落ち、流星群となって無慙へ牙を剥く。その一つ一つに凝縮された魂の数は、無慙の総軍に決して劣らないものである。だが……
「糞の塊だな、舐めた真似をしてくれる。」
「お察しの通り、私の抱えた魂をこの様な形で放ってるにすぎない。数は……ああ、一つにつき数億といったところかな?まあ、私の髪の毛一本にも満たない数だとも。」
「だろうな。」
言葉を返すと共に無慙は迫る流星を一刀両断、質の面ではこちらが上なのだからこの程度で拘ってるわけにはいかない。
ならばこそと、接近し既知の覇道を瞬間的に押し除けて水銀の首へと剣を振り下ろす。
「ふははは、これはこれは恐ろしい。確かに単純な威力ならば愚息やハイドリヒを超えているな。」
「ッ!」
「確かに未知であるが、生憎と予想の範疇だ。これでは満足出来んな……で、これで終いかね無慙殿?ならば、用済みの役者だ。ご退場願おう。」
無慙の斬撃は、確かに届いた。しかしそれは水銀の髪を数本切り飛ばした程度の結果に過ぎない。よって無傷に等しく、髪を切った程度では赤子も殺せない。
そして水銀が反撃に動き始めた、彼の司る占星術によって彼の覇道に染められている数多の星々が凝縮されていく。
「
超新星爆発、宇宙規模の大熱波が無慙へと襲いかかる。それはかつて三代目たる明星、ネロス・サタナイルを屠った神火。その真実を察し、逃げ場なんてあるはずも無く真正面からそれを受けることを選択する。
「オォォォッ!」
そして何より、明星を屠ったからといってその先代たる己もそれを受けて敗戦なんて二番煎じを受け入れるつもりは毛頭無い。再び畝りを上げる殺意の剣戟、常識的に考えれば星の爆発を剣一本で押し除けることなど不可能。しかし、無慙は剣一つで宇宙を滅ぼし宙を駆け抜けた剣士。
身体が熱によって沸騰し、焦げていく。だがその熱を前に引かず、その様な痛みなんぞ知らぬと押し通して星の大熱波を新世界の開闢の如く切り開いた。
「ほう、これはこれはなんとも勇ましい。いやはや嫉妬してしまいますな、流石は二代目殿。」
「ほざけよ、心からの言葉でもないことを吐きよって。」
「それは当然でございましてな、私にとって心動かすのは女神ただ一人。それこそが最優先であるが故に。」
「五代目の小娘か、あれこそがお前の渇望した宝物そのものだと。」
「然り、彼女を輝かせるためならば万象全てが舞台装置。それこそが我が不変の摂理、故に誰も彼も踊り狂うが良い。」
芝居が勝った口調で水銀は無慙の問いかけに答える、それに応じて永劫回帰の覇道が更に加速する。
無慙の堕天奈落も、理解に応じて強化されるがまだ押されている。まだ浅いのだ、水銀の真実には。ならば更に踏み込まんと一歩踏み出した刹那、不意な重圧を感じた。
「
それは既知世界に偏在する、銀河面吸収帯の大激突。超極大重力異常が発生し、無慙はまるで時間が止まったかの様に動けなくなった。
これではジリ貧、そう判断した無慙は己が覇道を顕在化させた無価値の炎で重力圏そのものを腐敗させようとする。その姿を見て、水銀は嘲笑しながら言い放つ。
「足掻きますな、その無頼さには感心しますがいささか往生際が悪いと言わざるを得ない。」
「ほざけよ……同じことを愚直に繰り返す屑に言われる筋合いはない。」
「それは確かに、私が言ってしまっては身も蓋もありませんな。ですが、その状況で何が出来るのですかな?その炎も、斬撃も、私に届いたところで既知を晴らすことはできまい。それでは私を破壊できない、死ぬことはできませぬ。」
「……それでも、貴様を必ず殺す。」
「否、やはり女神以外に私を殺すことはできない。それこそが真実、それこそが答え。貴方では私に、至高の未知は与えられぬ。」
傲岸な態度、そして傲慢な口上を歌い上げる水銀。実際のところ、無慙の覇道では完全に既知の総軍を一掃する事は叶わない状況である。ならば捉えなければならない、水銀の求める未知の答えを。
その鍵となるのは五代目たる黄昏の女神、彼女に殺されることこそが水銀の求める未知である。事実、四代目から五代目へと流転されている、ならばそれこそが真実……
「いいや、違う。」
それを無慙は否定する、異常重力の負荷によって全身が攪拌されて目や口、そして腕の節々から鈍い音と流血が散布されるもそれでも凶眼を閉じない。それを見て水銀が憐れむ様な笑みを浮かべるが、それを一旦無視する。
この
『わたしはあなたにたって唯一無二の、よく分からなかった存在として、不変なるまま残りたい。』
そのきっかけとなったのは、かつて己を翻弄した不変の恋に殉じた
「ふ、ふふふ……」
「何を……」
笑っているのだと、水銀は眉を顰めた。傍観し、平静を装うことに慣れてるはずの胸裏が僅かに疼く。この様なこと、女神を初めて見た時以外無かったはずなのに……
「大体わかったぞ、お前の事が。」
「───ほう?」
重力によって潰された脳髄、そして毛細血管の断絶によって流れる血涙。その隙間から覗く無慙無愧の凶眼と視線が合った。
那由多の年月を経て形成された薄ら笑いが僅かに陰る。ありえないと思いつつ、そういう相手だと解するゆえに。未知の予感に胸を踊らせると同時に、不吉な気配に焦りが生じた。水銀は即座に並行世界全ての天体を操る。一刻も早く、あの瞳の輝きを止めなければと。
「
その現象の名は“グランドクロス”であり、太陽系の惑星が十字に並ぶことで潮汐力が発生する。水銀の覇道に存在する並行世界の天体を十字に並べた事で、神をも滅ぼす膨大な潮汐力が無慙の内部を沸騰させて粉砕する威力となる。
そう、その筈だった。もしもグレート・アトラクターに続けて出していれば無慙を完全に潰せていたのかもしれない。
「遅い。」
「グ、ヌゥゥゥ!」
しかし無慙の抱えた質量が、既に永劫回帰と互角に至ったのだ。グランドクロスでは死なない頑強さ、放たれた斬撃と黒炎がグランドクロスの星々を斬り払い、既知世界の半分以上を殺すほどの斬撃が下されて水銀は致命へと至る。
解せない、この男にいったい何が起こったのかと水銀は困惑する。その姿に、今度は無慙は嘲笑う姿を見せる。
「愚かだな、己の主導権を他に譲った屑が。」
「貴方に、何がわかると言うのか。我が身は女神に全てを捧げる奴隷。なればこそ彼女が頂点となり万象を包み、回帰の渦を払ったことこそ救済……」
「違うだろう、そんなものは結果論に過ぎん。」
否と、告げると同時に水銀の胸を穿つ神剣の鋒。口から血を流し、視線を至近距離で交えながら無慙は死神の如く告げた。
「お前は“主人公”になりたかったんだ、ああもっと正確に言うならば自分も舞台に上がってあの女に相応しい男だと“証明”したかったのだろう?」
「──ッ」
否定は出来ない。言われてから気が付くほどに当然と思っていた道理だがしかし、それではまるで───
「おい、何を恥じた様な顔をしている間抜けが。恋を実感したのならば、その惚れた相手の
「オ………オォ、オォォォッッ!!」
無慙の放つ言葉の刃が、受けた斬撃の痛みを上回るほどの苦悶を抱かせる。沸き起こる拒絶の感情が、水銀の心を揺り動かす。
嫌だ、認めない。こんな結末を受け入れる事は出来ない。
「貴方に……否、お前如きに与えられる敗北なんぞ許せるものか……」
もしも、その真実を黄金や刹那に言われていたらまだ受け入れられていたのかもしれない。だが、彼の劇である役者ですら無い部外者が口出しするのは違うだろう、水銀はそう吠えあげる。
「はッ、諧謔を撒き散らし傍観に徹していた屑が今更何をほざく。そもそも、そんな都合なんぞ知ったことかよ。」
だが、そんな内情なんぞ知らんと無慙は無頼さを貫く。元より相手の事実を無視し、真実を引き摺り出して殺戮を齎してこその無慙無愧。
その一方で、一刻も早くこの歪みを払わんと、水銀は因果律をも操る絶技を出した。
「
その術技の名は『
故に無慙の全身が、溶ける砂糖の如く消滅し始めている。己の生まれた意味すら、永劫回帰の大義の元無意味へと帰するが如く。だが、無慙……否、凶剣は座へ至る前に既に自滅の業を克服している。ならばこそ、もはやその因果に囚われる事はない。
「殺意とは他者あってこそ、逆に己一人の孤独に殺意の意味は無い。」
「な、に……」
「言わせてもらおうか、俺の
無慙の言葉と視線、そこに纏う殺意と共に堕天の総軍が急増した。それに応じて、無価値の炎の猛りもまた増していく。消滅現象を払拭させ、再起を果たしたのだ。
それはまるで、かつて第二神座の終末においてとある
「お前にも居たのだろう、己の逆しまが。それを抹消してどうする、己自身を否定することに繋がるぞ。」
「……確かに、それは道理である。だが、やはりこの気持ちは誤魔化せんな。」
「ほう?」
「私が己の舞台に上がりたかった、それは確かに認めよう。しかしだ、やはり私の如き下賤の身が女神に選ばれていい訳がないと言う気持ちもまた同居している。」
「つまり、どちらも己の真実であると言うわけか。」
「然り、選ばれたい。ああやはり選ばれていいわけもない。愚かしくも、この二つに一つの感情に縛られてこそ、私なのだと再認識した。そんな私を、愚かに思うかね?」
「ああ、実に愚かだ。」
「……フッ。」
その戒律を連想させる自縛的な在り方を貫く水銀に、無慙は呆れつつも僅かに口端を上げながら言い放つ。
「だが、今のお前は悪くないと思う。」
そう互いに言葉を紡げば、答えを収めた以上は語らいは無粋と判断したのか。無慙は剣を構え、水銀は既知世界全ての星々を凝縮ささせる。
「
“暗黒天体創造”が発動し、並行世界全てを粉砕する力場が発生した。それを迎え撃つは闇黒の切断現象、黒と黒が疼き森羅万象が縮小していく。
その果てに、半身を崩壊させながら無慙が闇黒天体を突破し、水銀の首を刎ねた。総軍全てを消費し、己が渇望の真実に気付いた彼に回帰による再起へ手を伸ばす気力は無かった。故に、紡ぐ言葉はこれ以外にない。
「それではこれにて……
「ああ、茶番は終幕だ。」
互いにまだ深い謎は包まれた身、だが少なくとも真実の望みに到達したことで一つの終わりを得たのだった。
やはり水銀の真実は、テレジア√で獣殿と蓮が叩きつけた答えがベストかなと思いました。今後、第三神座の真実が明かされれば異なるかもしれませんが。