マグサリオンの殺戮道場   作:ヘル・レーベンシュタイン

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タイトルの通り、彼がメインのいつもとは違った変則的な話です。


第二十一陣 暴窮飛蝗

 

 

「………」

 

 闘技場に、一陣の風が吹き荒れた。それは熱砂のようでもあったが、それと同じく熱を帯びたものだがそれは単なる自然現象ではない。

 それは即ち闘争の概念、凶剣の往く冥府魔道にはかつて宇宙に暴虐を齎した魔王バフラヴァーンがそこに立っている。そして、風と共にマグサリオンへと語りかける。

 

『随分と美味しい想いをしているではないか、強敵(とも)よ。嫉妬してしまうではないか。』

「知ったことか、俺は目の前の敵をただひたすらに殺してるに過ぎん。それも茶番の様だがな、かと言って見過ごす道理も無い。」

『ふは、それは当然だろう。誰であろうとも戦いに身を投じてこその俺たち(我ら)ではないか。だが、そろそろ俺にも順番が回っていい頃合いだろう?』

「好きにしろ、やりたければ勝手にやればいい。」

 

 マグサリオンはため息をつきながら、闘技場の中心を離れてどこかへと去っていった。そして入れ替わる様に砂塵が闘技場の中心に渦巻き、そして形を成していく。

 それは大きな人型となり、火柱の如き赤い毛髪と筋骨隆々とした肉体美の男性が現れる。男はかつて魔王と言われた、バフラヴァーンがその場へと現れたのだ。

 

「さあ、来るがいいならず者達よ!俺は逃げも隠れもせんぞ。」

 

 腕を組み、まるで求婚でもする様な口調でバフラヴァーンは虚空に向けてそう言い放つ。

 するとその想いが天に通じたのか、この場へと誘われた者らが入り込んできた。

 

「あぁ?なんだありゃ……人間、みたいだな。」

「へ、こんな辺境な地でもいるもんだな。なぁ、ホームレス帝。」

「……私への嫌味か?くだらん口は閉じろよ。」

 

 三人……否、正確には一人と二体の異形がバフラヴァーンの前に現れた。一人は、明らかな人間だがボロいマントに行く服を着けた、所謂ホームレスの男。元の世界においては“ホームレス帝”と呼ばれた者。

 残りの者ら、そのうちの一体はドロドロに身体を融解している怪物であり“Gブサイク大総統”と呼ばれた者。そしてもう一体は小柄な黒い小人のような存在で“黒い精子”と呼ばれた者だ。彼は対峙するバフラヴァーンを見据え、悪辣な意思を漏らしていた。それを微風の様に受けているバフラヴァーンは、豪気な笑みを浮かべて彼らへ語りかけた。

 

「良いぞ、お前たちの殺意が甘美だ。さぁ来い、存分に殺し合おう。」

 

 手招きをしながらそう言い放てば、先に動いたのはGブサイク大総統だった。凶悪犯の様な邪な笑みを浮かべ、汚物を撒き散らしながら距離を詰めて拳を握り締める。

 

「へへ、へへへへへ!イラつかせてくれる様な顔してるなぁ、スゲェ自信たっぷりじゃねぇか兄ちゃんよォッ!その自信に満ちた顔を溶かしてやるよォ!顔面融解パンチィッ!」

 

 強酸の纏った拳が、バフラヴァーンの顔面に突き刺さった。人体はおろか鉄器すらも融解する酸の一撃、普通ならば顔面に風穴が開いてしまうだろう。

 そう確信してるGブサイク大総統と、他の者たち。だが………

 

「悪くない、だが火力が足りないな。それが全力か?」

「っ!?と、溶けてねェだとォ!?」

「違うならば、もっと本気で来い。俺は常に全力だぞ。」

 

 バフラヴァーンは生きていた、顔面から湯気が出ているがほんの少し皮膚がささくれているだけ。

 言葉を終えると同時に拳による一撃を、Gブサイク大総統の腹へと叩き込む。普通であれば強酸の風呂に拳を突っ込む様な真似であり、殴った側がダメージを負うはずだった。しかし殴り込んだ拳は溶けた様子もなく、殴られた箇所に風穴が空いていた。

 

「ォ、ゴぉ………な、んで溶けてねえんだよ!?」

「決まっているだろう、俺の方が強かっただけだ。」

 

 痛みと困惑が混ざった顔を浮かべながら問いかけれるも、圧倒的に自信を晒しながらバフラヴァーンはそう答えた。

 そして追撃を放とうとした時、眩い光が闘技場を覆った。

 

「整列爆撃。」

「な、おまッ!?」

 

 ホームレス帝の操る光弾が、Gブサイク大総統とバフラヴァーン諸共巻き込みながら放たれた。

 激しい爆発と共に巻き散る光熱、直撃すれば大抵のものであれば蒸発する光エネルギー。それが強酸を寄せ付けずホームレス帝を無傷のまま戦果を上げていく。直後、穴だらけの体をあらわにしながらホームレス帝への不満の声が煙の帷を突き破りながら漏れてきた。

 

「テメェ、いきなり何しやがる!」

「正当防衛だが?あのまま筋肉だるまの拳が放たれれば、こちらごと巻き込まれた気がしたのでな。」

「嘘吐くなよ!俺を囮にするための口実だろうが!」

「だから?どちらにせよ避けるなり、私の光パワーを溶かすことのできなかったそちらの落ち度だろうが。何もできないならさっさと退きたまえ、邪魔だ。この世界は今度こそ、神の御心のまま私が支配する。」

「そうそう、無能帝が何か寝言言ってるがよー、ご自慢の劣等感パワーなり磨いて出直してこいよ無能。」

「て、テメェらッッ!!!」

 

 ホームレス帝の非難の声に乗っかる様に、黒い精子も優越感を露わにした声を投げ出した。

 その挑発じみた口上に、Gブサイク大総統は身体を怒りに乗じて沸騰してるかの様に、泡立ちながら赫怒の視線を放つ。

 

「上等だ、テメェらの挑発になってやるよ!まずはそこの黒豆を養分に吸収して……」

「悪くない。」

「ッ!?」

「こいつ、まだ生きて…」

 

 その瞬間、背後から飛蝗の王による愉悦の声が流れる。すかさず振り返りながら、酸の塊と光弾が放たれるもの、闘気に満ち溢れた筋肉がそれを無傷のまま跳ね返す。

 バフラヴァーンは菩薩の如き笑みを浮かべながら、拳を握り締め巌の様な硬さを露わにする。

 

「お前達に礼を言おう、お陰でまた強くなれた。これはその返礼と思え。」

「ッ!まず……」

「チィッ」

「お、ォォォォッ!」

 

 我力の凝縮された拳が、踏み込みと同時に放たれる。危機察知したホームレス帝と黒い精子は、その破壊範囲内から逃れる。しかしGブサイク大総統のみ、その巨体と溶ける体の構造上素早く動けず拳と向き合う形となる。故に、迎撃すべくバフラヴァーンの半身ほどの大きさのある拳を放ち込んだ。

 

「舐めるなァッ、全身溶解パンチィィッ!!」

「ヌウゥゥン!!」

 

 ぶつかり合う我力と強酸、その結果は闘気満ち溢れる我力が酸を押し切る。拳から全身へと巡れば、Gブサイク大総統を四散分解させた。

 

「あぐぁ!?は、はー!?あ、あぁぁぁ……」

「チッ、使えん奴め。」

「ホームレス帝、どうやらあの筋肉ダルマは直接見定めた相手にしか集中出来ないらしい。数で固めて仕留めるぞ。」

「ほう、それはいいことに気づけたな。」

 

 黒い精子からの報告を聞き、ホームレス帝は不敵な笑みを浮かべた。そし両手を頭上に掲げると、空を覆うほどの無数の光弾を展開した。

 

「超過密絨毯爆撃」

 

 そして手を下ろせば、その光弾が一斉にバフラヴァーンへと降り注いだ。絶え間なく降り注ぐ爆光、人間であれば頭陀袋になってるだろう。

 だが、直後に光が捻じ曲がる。

 

「ッ!?」

 

 それを成すのは唯の拳圧、バフラヴァーンが光そのものを殴って消し飛ばしたのだ。空を覆うほどの光弾の嵐を以ってしても、バフラヴァーンの筋肉に傷一つ付かない。

 煙幕を突き破り、ホームレス帝へと距離を詰める。彼自身、ほぼ常人と大差の無い身体能力しか持ち得ない彼に逃げる術は無く……

 

「な、何をしている黒い精子ィッ!こいつを早く止めろォッ!」

「チッ、しょうがねぇな……」

 

 命令されたのが癪に障ったのか、不服そうな顔をしつつも黒い精子が行動に出る。地面から黒い塊が蠢き、巨大な手となってバフラヴァーンを掴み込んだ。

 だが、直後にその巨腕から火の手が上がった。

 

「熱ッ!?な、なんだこいつ……発火してやがるぞ!」

「意味が分からんぞ……こんな筋肉ダルマにそんな能力が……」

「どうした、せっかく面白くなってきたろうに……もう終わりなのか、闘いは?」

 

 バフラヴァーンの失望した様な問いかけに対し、黒い精子は舌打ちをする。苛立ちの滲んだ表情とは裏腹に、考え込む。彼歩む場所、正確には目に映っているだろう場所に鬼気の波動から生じる炎熱が床や周囲を焼き焦がしていた。それを見て黒い精子は眉を顰める。

 

(舐めやがって……よく見りゃ足場も溶け始めてるじゃねぇか。てっきりブサイクの野郎がら散らした痕跡かと思ったが、こいつがやったことか。まあ良い、とにかくコイツをぶっ殺す手段を考えねぇとな……」

 

 すると黒い精子は分裂を始める。1、10、100、1000と闘技場を埋め尽くし破裂させかねないほどに。

 その光景を前に、バフラヴァーンは感嘆の声を上げる。

 

「おぉ、おぉぉ……」

 

 そして黒い津波の如く、無数の黒い精子がバフラヴァーンへと襲い掛かる。だが残念なことに、ホームレス帝の光弾と比べて、単に殴る蹴るの黒い精子の攻撃が届くわけもなくバフラヴァーンは無傷。しかしそれでも、関係ないと言わんばかりに攻撃を続けていた。

 そして当然、バフラヴァーンは目の前にいる黒い精子を優先的に殴っていく。

 

「とにかく手数でボコって隙を作るぞ!こんだけの数でやりゃその内見極められるだろう!」

「ふは、よくやった黒い精子!確かコイツは、蚊帳の外には被害を齎さんのだよな?ならば、お前らに釘付けの今の状態ならば、私の神通力も届くだろうッ!!」

「テメェ、俺らを巻き込みに……」

「このまま筋肉ダルマに嬲り殺しにされるよりはマシだと思え!」

 

 放たれる極光、まるで太陽の様に巨大な光がバフラヴァーンと纏わりつく黒い精子へと放たれる。

 彼らの見立ての通り、バフラヴァーンは目の前の敵を優先する特性がある。向き合った敵に対して強力な全身力を発揮するが、裏を返せば横槍には強くないと考察したのだ。故に黒い精子が数で攻めることで囮となり、結果としてホームレス帝が第三者となる形となり、そこを突いたのだ。ならば先程までは通らなかった光弾も、思考の隙を突けば届くだろうと。そう、あながち間違いでもなかったのだろう。

 

「………」

 

 バフラヴァーンはまだ立っていた、周囲の黒い精子は蒸発してるにも関わらず。その姿を見てホームレス帝は舌打ちする。

 

「まだ効きが浅い様だな、黒い精子よもう一度やるぞ。」

「あァ?テメェ、3万人の俺を無駄死にさせて偉そうに言うんじゃねぇ。先にお前から殺すぞ。」

「じゃあどうやって奴を殺すんだ?合体したところで、逆に的を絞られてお前が不利になると思うがな。」

「んだと?お前だって偉そうに言ってるが、お得意の神通力もまともに聞いてる様子が……」

「は、ははは……」

「ん?」

 

 ホームレス帝と黒い精子が言い合いする最中、突如不意にバフラヴァーンの身体が小刻みに震えながら笑い始めた。

 その最中でも、分裂する黒い精子達を殴殺している。いや、寧ろそれこそが楽しくて仕方ない様な表情だった。

 

「はははははははァァァァッ!」

「ッ!?」

 

 そして遂に、我慢できないと言わんばかりの大爆発の大笑いが響き渡る。同時に、バフラヴァーンの殴殺の速度が桁違いに跳ね上がった。それは総数約数十兆を抱える黒い精子が、これを放っておけば底がつくと悟る程に。まだ多少ゆとりがあるとは言え、危機感を覚えていた。

 故にまず、先程と同じ様に分裂隊をバフラヴァーンへと当てて時間を稼ぐ。ダメージは全く通らないだろうがとにかく其方に集中させることを優先させた。それと同時に……

 

「54兆究極合体だ、それで押し通すしか無え!」

 

 残りの群体が、一箇所に集まり融合を始めた。無論、速攻で完遂出来ることではないため、どうしても時間を稼ぐ必要がある。

 故にどうしても守り手は必要になるため、そのために分身を相手させて、同時にホームレス帝に前線に出てもらう必要があるのだ。

 

(本当は合体なんぞ必要無いが、一気に畳み掛けるには致し方無いか。私の神通力を絶え間なく当て続けた方がいいだろうが、やりすぎるとターゲットをこちらに変更しかねない。適度なタイミングで狙撃しつつ、大胆に攻撃して確実に削る様……ん、なんだ?)

 

 ホームレス帝が光弾で狙撃しようとした瞬間、不意に黒い軍勢に爆発が起きた。それは最初はバフラヴァーンの拳撃によるものだと思われたが……

 

(おかしい、あの筋肉ダルマの位置的に明らかに見当違いな場所が爆発したぞ。余波だとしてもあり得ん、しかも二発三発と……何が起きている?)

「どうしたどうした、この程度かぁ!」

 

 そして遂に、わかりやすい形で異変が起こった。

 

「ふ、増えただとぉ!?」

 

 そう、バフラヴァーンの姿がこの瞬間に増えたのだ。少なくとも、ホームレス帝の目に映る範疇では三人もいる。故に即座に悟る、これは絶対勝てないと。神通力が無制限に出せるにしても、彼の中の勝ち筋は完全に闇の中へ消えたのだから。

 そう、この現象は彼らには分かりようのないことだが黒い精子という増殖する同一群体はバフラヴァーンにとって始まりの戦場を想起させる最大の起爆剤だったのだ。何故なら彼は、母体の中にいる時から自我のあった突然変異体。子種の時に周りにいた己の分身と戦って勝利した経験を覚えているのだから。その深層心理を引き出せ、爆発させることで第二戒律が起動し、こうした現象が起こるのだ。

 

「じょ、冗談じゃない……ば、化け物め。早く逃げ……え?」

 

 ホームレス帝が踵を返して逃げようとした刹那、気が付けば右腕が無くなっていた。そしてよく見ると、自分の隣にさっき視界に映したもう一人のバフラヴァーンが立っていたのだから。

 

「ひ、ひゃ」

「この俺が最強だ。」

 

 最後にその言葉を聞いたと同時に、蝗の大群を連想させる無数の拳がホームレス帝を殴殺する。星をも砕く鉄拳が人体に直撃すればどうなるか、常識的に考えれば語るに及ばず。死体のかけらも残さず殺されてしまった。

 

そして……

 

「これ、は……」

 

 合体が完了し『白銀精子(プラティナムせいし)』となったが、既にバフラヴァーンの相手をしていた群体は全滅していた。寧ろ逆に、増殖したバフラヴァーンが場を埋めており、そんな異様な光景に困惑してしまっていた。

 そして一斉にこちらと視線を交え、戦慄を覚えるも即座に好戦的な笑みを浮かべる。

 

「ふ、いいでしょう。数を増やしたところで粋がっても、所詮ゴミはゴミ。私の力で圧倒してあげましょう。」

 

 そして白銀精子が、一歩踏み出し光をも置き去りにした戦況が繰り広げられる。

 交わる白銀と紅色の閃光、拳の応酬がコンマ一秒以下の時間軸で繰り広げられる。だが……

 

「グッ……」

 

 大乱闘によって進化したバフラヴァーンの一撃は銀河に匹敵すら質量の盾すら砕く、それを辛うじて白銀の触覚を生かしてどうにか回避する。しかし……

 

「ガァッ!?」

 

 一歩分処理が遅れ、続けて二体目のバフラヴァーンからの追撃が顔面に刺さる。更に一歩強くなり、最早受け流しは不可能となる。

 

「ギィッ」

 

 そしてバフラヴァーンがバフラヴァーンの腹を突き刺し、更に更に強化した拳によって白銀精子の腹を破る。そして更にバフラヴァーンが背後から迫り……などなど、究極の大乱闘による暴力の嵐が止める様子もなく戦場を包み込んだ。

 

「ふは、いいぞ!」

「それでこそだ、ならばこそもっとだ!」

「こんなものではあるまい、俺の想像を超えてみるがいい!」

「その上で凌駕してみせよう!」

「故に更に強くなる俺に尽くせ!」

 

 もはや逃げ場が無く、全てがバフラヴァーンの増殖によって埋まろうとしていた。燃えたぎる火炎に焼かれ、それを凌駕する圧倒的質量の鉄拳の嵐で縛られた雑巾のようになっている。

 

「ほ、ほ、ほざくな人間風情がァァァッ!」

 

 もはや原型を留めていない白銀精子、それを成すのは合体前の十八番であった数の暴力なのは、なんとも皮肉な話だろう。

 その果てに、闘技場は蝗の大群によって襲われた畑の如く更地となり、そこにはもはや生物の存在は無かった。

 

「ここまでか、悪くない戦であった。だが、これでは収まりがつかんなぁ。お前もそう思うだろう?強敵(とも)よ。」

「……」

 

 その荒野に、冥府魔道を往く凶剣が現れた。約束を果たすべく、拳と剣が交わった。

 

 その先は語るまでもないだろう、どこまでもどこまでも凶剣は生涯不敗を貫き、闘争の飛蝗が傍で戦火を燃やし続けるのだから。

 

 

 そう、次の戦場を求めて。

 

 

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