書きたい戦闘がポンポン出てしまいまして、申し訳ないです。
崑崙宮殿の前に到着し、マグサリオンは穴を開けようとした時に眼前に歪みが発生した。
異界の煙が固まり、人の形を成せばそこに一人の男が現れた。恐らく先程の少年達と同じ、廃神だろう。だが彼等と違って悪辣な雰囲気を出していた。ただ、聖人だろうと悪人だろうと彼には関係無い。
「誰だろうと殺すまでだ。」
男と向き合いそう決意するのみ。だが、それを聞いた瞬間に男は笑みを浮かべ己が力を開発した。まるで求めていた答えを聞いたかなように。
「
急段-顕象
男の名は“柊聖十郎”といい、彼の抱く
発動直後、異界が展開され聖十郎とマグサリオンはその中へと強制的に移動された。その異界は木乃伊の様な躯が逆さの十字架で吊るされている、その景色だらけの場所だった。まるで聖十郎へ捧ぐ供物であり、まさに地獄絵図と言えるだろう。
「さぁ、この俺の役に立て。お前達の存在する意義など、それ以外あり得ないのだからな。」
「笑わせるな、俺の価値は俺で決めるものだ。」
互いに言葉をそう交換し、此処に八虐無道の逆十字と、冥府魔道の凶剣が激突した。
「良いぞ、俺はお前が羨ましい。」
「知ったことか。」
逆十字の異界の中、両者が激突を果たす。まずマグサリオンが疾走し、聖十郎に向けて剣戟を振るう。しかし、その最中に片手が奪われた。その直後に奪われたはずの彼の腕が砲弾のように飛来してきた。
それを寸前で躱すが、それと引き換えに聖十郎からは距離を取られる。同時に、マグサリオンの体の中に、異様な毒素が発生した。しかしそこから生じる毒素に屈することなく、マグサリオンは聖十郎に殺意を纏った視線を向けて言い放つ。
「……なるほど、敵対する者から奪うのが貴様の力か。加えて、病を押し付けもあると。」
「その通り、この世の全てが俺に捧ぐ供物よ。貴様もまたその一つに過ぎんだ。
……ほう、戒律か……己と他人の殺意を糧に力を向上させる効果か。引き換えに殺意を交えた接触しか許されぬと……結構だ、役に立つぞ。」
聖十郎は己の拳を握り締め、奪った戒律の効果をそのように評価する。これこそが聖十郎を殺し合いにおいて必勝へと至らしめる
悪感情、正確には聖十郎へ意識を向けて無意識でも見下す感情を抱いたものを逆さに吊し上げる。その条件から外れるのは聖十郎の悪を賛美する悪魔のごときもの、或いは人の道理を知らぬ龍や獣、そして聖十郎を悪として一方的に裁き見下さず愛することのできる人類愛を持つ盧生のみである。少なくともどれも、マグサリオンには該当しないだろう。人を知り、世界を知り、そしてその上で無尽の殺意を抱くマグサリオンでは、聖十郎を愛することはできない。
「……はッ、そんな半端な結果で満足かよ?」
だが、そんな事実は関係無いと言わんばかりに剣先を突きつけながら、マグサリオンは聖十郎に向けて言い放つ。まるで挑発するように、嘲笑を滲ませた笑みを浮かべながら。
「要は、相手の全てを奪うのがお前の力の本質なのだろう?だのに、俺に対しては片手しか奪えてない時点でまだ完全ではあるまい。ましてや戒律は即ち生涯守らねばならない誓いであり、それは俺の魂とも結びついているものだ。ならば、俺の“全て”を奪えねば完全な簒奪は成せない。」
「……ふん、屑のくせに頭の回転は悪くないようだな。だが、分かったところで何だ?俺の急段を完全に無効化したわけではないだろう?ならば俺の勝利に揺るぎはない。」
マグサリオンの指摘を鼻で笑いながら切り捨てながら、聖十郎は続けて簒奪の夢を回し続ける。
だが、この時点で既に聖十郎は違和感を覚えた。それは小さいものの、異物を噛んだような疑問だった。
(こいつ、俺の死病を与えたのにそれに苦しんでいる様子がないぞ?何故だ……加えて、得た獲物も大半が殺す殺すと馬鹿の一つ覚えみたいに鬱陶しい。まあ良い、とにかくこいつの魂を奪えばその戒律とやらも芋蔓式に手に入る。それさえ済ませば用無しだ。)
聖十郎はそう判断し、殺意を滾らせてマグサリオンへと殴りかかった。狙いは頭部、頭蓋を柘榴のように潰さんと振り下ろす。
だが、当たったかと思えば掠った程度の結果となり逆に反撃の一撃を腹部に喰らう。
「グゥッ!?」
咄嗟に防御の夢を発動するも、それをすり抜けたかのように喰らった箇所に激痛を得る。否、それだけではなかった。
(なんだ今のは……掠った程度とは言え異様な感触だった。いや待て、思い返せば色々とおかしいぞコイツ……何故奪ったはずの殺意がまだ溢れる?それに……)
痛みによる苛立ちが湧き立つ中、気付きを得て聖十郎はマグサリオンへ問いかけた。
「貴様………いつから目を閉じてない?いや、それだけではないな、飯を食ったのはいつだ、排泄は、さてはその剣も手放さないのが関係しているだろう?」
その問いかけに対し、マグサリオンを笑いで体を揺らしながら答えた。まるでそれが、お前を刻む刃の一因となると言わんばかりに。
「ああ、それがお前の探してた俺の二つ目の戒律だ。隙を晒さない代わりに、隙を見極める力を得る。そら、奪いたければ取れよ。試してみたらどうだ?」
「ふざけるな、そんなもの要らんわァッ!」
赫怒の意と共に聖十郎は拒絶した。唯でさえ体内に絶えぬ病巣を抱える中、安らぎという名の隙を一切断つ縛りは聖十郎にとっては致命的すぎるだろう。一般的にも病を完治するために、睡眠や食事は不可欠なのだから。即ちマグサリオンの指摘は死ねと同意義、生を渇望する聖十郎ならば拒絶以外にあり得ない。
ならば逆に、それを成し遂げているマグサリオンは何なのかという疑問が生まれる。第二戒律は体に負荷を与えるのだから、死病を耐えたり無効化する関わりはない筈である。
(ならば、まだ知らん戒律が関わっているのか……しかし、病を歯牙に掛けんその体が羨ましい。それさえ俺にあれば……だが、どんな縛りでその身体を作り上げてるのか……知らねばならん。)
苛立ちながらそう考えて、更なる深淵へと進もうとした時だった。
「お前のことは大体わかった、答え合わせといこうか。」
「ッ!?」
刹那、聖十郎の心理に“死”が過ぎった。閉じぬ凶眼が魂をも射抜く殺意によって穿たれ、生存本能によって逃避せよと慟哭し続ける。
加えて、簒奪のスピードも大幅に減ったのだ。マグサリオンの突きぬ殺意と抱える数多の人物の記憶を掘り進めていたが、それが止まったかと思うほどに停滞を始めたのだ。この唐突な出来事に困惑し、その原因を解明しなければならないだろう。しかし……
「“ソレ”を寄越せ、俺のモノだァァァッ!」
聖十郎は寧ろその脅威そのものを奪わんと牙を鳴らした、それこそがマグサリオンの根幹に関わると感心して。
常の己こそが最強であるという傲慢と全てが己のものであるという強欲。それこそが彼を彼たらしめるのだから。故に強力な輝きを見れば、奪わずにはいられない。
「ギィ、ガアァァァァッ!?」
だが、今回はそれが裏目に出たと言わざるを得ない。それにほんの僅かに触れただけで“目を僅かでも閉じるな、飯を食うな、眠るな、排泄をするな”などなど、安らぎを全て捨てろという宣告が鳴り響き、激痛が駆け抜ける。それが死病と合わさればどうなるかなど、語るまでもないだろう。
故に聖十郎は疑問を抱かずにはいられない。
「な、何故だ……何故あの戒律の縛りが……」
「お前の求めた
「なん、だと……ま、まさか!?戒律に新たな縛りを与え、進化させたというのか!?他者の隙を見極めんとは即ち、他者の真実を理解することを縛りにしたとでも……ならば、塵どもの記憶が異常に多いのも……」
「御名答、ならば返礼として俺からも言わせてもらおうか。」
「なん、だと?」
「お前、絶えぬ
「ッ!?ぬ、ぐうぅ……」
マグサリオンの指摘に、聖十郎は口を噤む。本来なら誰かに指摘されたところで大した動揺は生まれない。寧ろより、急段のドツボにハマる仕組みである。感情をうちに抱く人間ならば、それはたとえ悪感情だろうと簡単に拭えないから。
だが、マグサリオンは違う。例え憎悪の繋がりが維持された状態でも、逆十字の猛攻を真正面から突き進んでいる。加えてその進撃は理解に応じて増しているのだから、幾ら大悪党の聖十郎とて強い警戒を抱かずにはいられない。
「生きたい、生きたい、病に屈して死にたくないがために他者を犠牲にして己のみを飛翔するために。その生への執着は認めよう、だが殺す。貴様のような汚物を撒き散らす屑を決して取り逃さんと、俺は決めてるのだよ。」
「ふざけるなよ、俺は生きる。貴様を喰らって貴様の因子を利用し、必ず盧生になるのだァッ!」
「……病を克服する、盧生とやらになる。やはり貴様はこの二つを一纏めに成そうとしてるわけだ。ああ、やれるものならやってみせろよ。この俺を絡め取れば、確かに成してるかもしれんな?」
そう言いながら、マグサリオンは眉を顰めつつ一歩踏み出した。まるで隙を逃さなかったというように。それと同時に聖十郎の内側から湧き上がる恐怖、まさに死神の歩みに見えただろう。
実際、マグサリオンの理解が成立した以上、既に聖十郎を殺せる段階に入っている。逆十字による簒奪にも強く争い始めており、殺意により協力強制は成立し続けているがそれでも期待している効果は得られない。第一戒律の奪った分で迎撃しようにもそれだけでは足りず、或いは理解に応じた特攻力を取り上げるのが一番だが、それも第二戒律によるものである以上その選択は断たれたに等しい。ならば、ならば他には……
「答えろ、貴様の身体はどうなっているのだぁ!?」
「………」
やはり、彼にしてみればいちばんの関心はそこだろう。嫉妬心を露わにした聖十郎は、今にも喉元に喰らい付かん勢いで罵倒を乗せながら言い放つ。
「病に汚染した様子もほとんどない、殴った時の感触は人間のそれではなかった。ああ、何なのだ訳がわからんわ!貴様の異様なその身体さえ奪えれば俺は……」
「兄者と同じ歩みをしない。」
「……は?」
「それで兄者と近しい部分が消えていった、故にこうなっただけのこと。」
聖十郎の問い掛けを遮るように、マグサリオンはそう答えた。自分のことを滅多に語らない男だが、まるでそれが聖十郎に対する致命にとなると確信した口調で。
事実、聖十郎はその戒律を奪えない。何故か?まずマグサリオンの言う兄者とやらを知ってるわけもなく、仮に知っていたとしても聖十郎の身体に彼と近しい部分とやらはどれだけ一致するのか。恩恵を得られたとしても、ほんの僅か程度しかないだろう。ワルフラーンに近しい因子を抱えていたマグサリオンだからこそ成立した戒律であり、聖十郎の求めた無の身体の正体がそれであった。但し、その異形を支えてるのはそれだけではないのだが、現状知る由はなく……
「教えておいてやるよ、他人の
「あ、ぁ………」
「どうした、奪ってみせろよ屑。」
そしてこれこそが、致命の
即ち破戒に繋がり、死の奈落へと没落する。或いはそれを凌駕する絶望へと至ることは想像に難しくない。故にどれだけ手を伸ばそうとも、手に届かないし届いてはいけない事実のみがそこにあったのだ。
「ふざけるなァァァッ!おのれおのれおのれ、決して許さんぞ貴様ァッ!羨ましいと言ってるのが分からんのかァッ!」
「笑わせるな。どれだけ飢えて渇こうとも、その奪おうとする姿勢がある限りお前には永劫辿り着けん。」
その事実を前に、聖十郎は絶望せず寧ろ憤慨を露わにした。赫怒する聖十郎へと少しずつ近付くマグサリオン、その最中に奪われた数多の夢を発動する。
賭博狂いの如く、暴力のベクトルを阿弥陀籤によって周囲へと巻き込む夢が発動された。
「下らん、巣そのものを破壊すれば終わるのだろう?」
その阿弥陀籤となっている、蜘蛛の巣の起点を見極めそれそのものを破壊した。
次いで発動したのは、己が周囲にある重さを羽毛の如く軽くする夢が発動する。
「舐めるなよ、俺の意思は世界よりも重い。誰だろうと必ず殺す。」
殺意のままに己が質量を高め、刃を研ぎ澄ませて軽化の夢を一刀の元に粉砕した。
その他も、如何なる夢も、冥府魔道を止めるには至らなかった。
残された道はただ一つ、マグサリオンその全てを、深淵に座する魂を奪い取るだけ。しかし辿り着かない、まるで底なしの宝物庫を掘り進めるが如く底が見えないのだ。
見えてくるのは殺意、殺意、殺意の歴史。名のある
「屑め、塵め、使えん道具ならば死ぬがィィイッ!!」
最後に使ったのは、他でもないマグサリオンから奪った第一戒律『絶し不変なる殺戮の地平』を活用した一撃である。物質創造の夢で日本刀を編み出し、それをマグサリオンに向けて振り下ろした。
それに向けて、マグサリオンもまた正面から挑む。互角の鍔迫り合い、殺意の円環の果てに火花を散らしながら睨み合う。
「ぐ、オォ……おのれ、道具の分際で見下しよって!死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェェェッ!!この俺の役に立たんようならば消え失せろォォッ!!」
「俺を殺したいのは勝手だが、一つお前に問おう。なぁ、お前は自分を至高の存在と思っているのに随分と盧生という器に拘ってるのはどういうことだよ?」
「ッ……一体、何を?」
「夢を現実に齎す、察するに盧生の固有の能力はそういうものだろう。前に甘粕というやつが使った力と似ており、お前と比べて上位的な出力をしてたからな。アレが盧生と呼べるものだろう。」
「ッ!貴様、甘粕と出会っていたのか。いや、その態度を見るに勝ったのか……俄には信じ難いが、だからなんだ?奴を倒した程度で、俺を殺せると……」
「いいや、確かに俺はアイツを殺したがその事は関係ない。重要なのはお前の抱える病だ、それは単純な人の技術では癒えないものとわかった。だがな、お前は盧生という座を最強のものと思い込み、同時に病で無念まま無様に死ぬかもしれないという劣等感が本当の望みに奇形を生じさせたのだろう。
盧生となる、病を完治する、お前はこの二つ同時に叶えようと無理な駆け出しをした。それは大きな検討違いと気づかんのかよ。極論、盧生になろうがその下位的な地位にいようが、回復特化の夢を作り上げて病を克服しても良かっただろう。」
「ッ!!」
その刹那、彼の記憶に過るのは想いに応じて癒しを齎すとある少女の
が、彼の生への渇望によって皮肉にも裏返る。その回復の加護を受けた直後に過回復を引き起こし、毒物となってその果てに失敗に終わった。そしてその原因を聖十郎が、理解することに至ることもなく盧生の座を再び追い求めた。だが、もしも……もしもその謎を追求し、本人が、或いは誰かが聖十郎の病を十全に克服する夢を抱いていたらどうだっただろうか?それを聖十郎が実現する事は叶わなかったが、後の時代において新たな逆十字の子孫がそれを果たしたのは本人も知る由はない。ましてや生きる世界の違うマグサリオンが察されるわけもないが……
「その顔を見るに、心当たりがあったようだな。病を完治するだけならば、奪うことに拘る必要性は無かったのだよ。いいや寧ろそれが、その劣等感が盧生が自分より上だと思い込んでる証拠になってるのだろうよ。お前は、それを認めて改めない限りそのどちらも手に入る事は叶わない。」
「ッ……ヌグゥゥゥッ……」
「終いだ、冥土の土産に持って逝け………
「ぐ、が……」
その死刑宣告の直後、我力による回復力をマグサリオンの殺意と織り交ぜ反転させて刀身に纏わせる。そして、第二戒律で動揺し力に揺らぎが生じた聖十郎の隙を見定め、握る日本刀と聖十郎と纏めて両断した。
鮮血が斜線上に舞い、その傷を癒さんと聖十郎は回復の夢を発動させる。
「ガァ、ア、アァァァッ!!」
「それがお前の末路にふさわしい。」
回復しない。否、正確には回復は起きてるが過剰に作用しているのだ。マグサリオンはかつて星霊加護のバグ技を、擬似的に再現したのだ。
その本質は即ち過剰回復、かつて聖十郎が敗北した一因である。それこそが聖十郎の末路にふさわしいと見定めたのだろう。そしてそれを呪うかのように、のたうち回りながらマグサリオンへと手を向ける。裏返った回復に悪鬼の如き表情を浮かべ、憎悪のままその首を引き締めんと言わんばかりに。
「ユルさん、絶対許さんぞ貴様ァッ……必ず殺す、吊し上げてくれるわァッ!貴様が俺に抱く殺意がある限り、逆十字はお前を追い続けるぞ……その果てに、貴様の前に現れて、お前の全てを奪ってくれるうぅゥゥゥッ!!絶対に、必ずゥッ、貴様を地に落としてくれようぞォォォ………ッ!」
その断末魔とともに、聖十郎は一陣と風となって夢想の彼方に消えていった。それを見届け、マグサリオンは呟く。
「あぁ、幾らでも挑んでこい。それで俺が必ず勝ち、貴様を殺してやる。」
そう言い残し逆十字の異界が晴れれば、奪われた腕を取り戻してついに崑崙宮殿の壁を破ってその内部へと入った。
「見事、実に見応えのある一戦だったよ。」
その先に居たのは、漆黒の死神が拍手と共に出迎えたのであった。
今回のマグサリオンvsセージは、個人的にこういった解釈で書かせてもらいめした。
戒律の簒奪の有無や、セージとワルフラーンが似ているかどうかは結構な賛否はアレでしょうが、マグサリオンが勝つ√を表現するならこんな形かなーと個人的に思いました。