闘技場の周囲が、不意に雷雲が多い稲光が煌めいた。直後、マグサリオンの目の前に白い風貌をした神々しい男が現れた。
その男が視線を交えれば、その口を開いた。
「お前は……滅ぼすものだな。」
「だとしたら?」
「排除する、我が再興に貴様の様な存在は危険だ。」
「はッ、唐突に現れた側でありながら傲慢だな。」
「その無尽の殺意、隠す気もないだろう。それで居ながら神の座に居ながらもそれは変わらず。故にその地平に安息はありえない。ならば、その座こそ我に相応しい。」
邂逅直後に、言葉で衝突しあう両者。ならば、その行き着く先は確認するまでもないだろう。
「ならばやってみせろよ屑、まさか口だけのつもりはないだろう?」
「言われずとも。」
直後、眩い閃光が闘技場に閃く。直後、その白い男がいなくなったかと思えば、上空より蠢く巨大なものが姿を見せる。
「我はゼウス。天空より万象を支配せし全能の神である。神の座に居ながらも、神を否定し冥府魔道の刀剣よ。愚か、実に愚か…….我が全能にて、焼き尽くしてくれる!」
闘技場の天蓋に、天翔ける戦艦の顔面が現れた。それはかつて第一神座にて撃ち落としたクワルナフを連想させる巨体、実際の大きさと形は異なるが似ていると思わずには居られない。
これこそがゼウスという星間を渡る戦艦の真の姿である真体、空や周囲が雨雲に包まれて稲妻を鳴り響かせる。上下にある両翼にも光が宿り、本体のゼウスを概念防御の加護を付与する。
「死ね。」
直後、マグサリオンの剣戟がゼウスの顔面へと直撃するが……
「効かぬ。」
ほんの少し頬の表皮が削れ落ちた程度の結果となる。両翼たる“ゼウス・ウーラノス”と“ゼウス・ガイア”から施される目に見えない概念防御、これによって安易な攻撃ではゼウス本体に届かない。例えそれはマグサリオンの戒律を通した攻撃だろうとも。とは言え、それはこの状態が維持されればである。
「なるほどな、つまりその両翼から殺せば良いわけか。」
「……試してみると良い。」
「言われるまでもない。」
マグサリオンはかつて全てを見切って宇宙の全てを一度滅尽した、故にこの程度の絡繰を見極めれねばそんなことは不可能である。
故に宙を駆け、まずは上翼“ゼウス・ウーラノス”へと狙いを定める。たった一振り、それも単調な一撃でそれは粉砕された。砕いたマグサリオン本人すら、呆気なさすぎると感じるほどに。
「天空。」
「ッ!?グッ……」
だが、直後にゼウスが瞳を輝かせれば戦場全域に稲妻を落とした。まさに神の裁きであり、それがマグサリオンの全身を貫く。決して一撃で死ぬ様なダメージでは無いが、無の身体で構築されているマグサリオンすら無視できない痺れが全身に及んでいた。当たり前だが、単なる自然現象による稲妻程度ではではマグサリオンに影響を与えることはできない、ならばこの結果はどういうことか?
その原因は、ゼウスの持つ大権能によるものだった。彼からの攻撃には『対次元攻撃:ギガントマキア』『対星系攻撃:ティタノマキア』という規格外の権能による攻撃補助、そしてその他概念武装による支援によって超弩級な破壊特化の雷霆を放っていたのだ。その威力はマグサリオンをして未知なるものであった。否、マグサリオン出なければ初撃で即死を免れることは不可能だったかもしれない。だが、例え軌道の読みにくい稲妻だろうと、マグサリオンの閉じぬ瞳が退路を見定めてその隙間を縫うように抜けていく。故に一見無敵に見えるゼウスが相手だろうと、戦況を一変させる手をすでに見定めていた。
「だが……片翼を失えば防壁もその分薄くなるんだろう?」
態々両翼を破壊する必要はない、マグサリオンはそう判断する。それは決して的外れの判断ではない、ゼウスの概念防御は強力だが絶対的防御力を誇るものでは無い。ましてやマグサリオンは時間経過と相手への理解に応じて青天井に、その切れ味を上げていく。ならばこそと、ゼウスの顔面に向けて剣を振り下ろそうとした。
「平伏せよ。」
「ッ!?」
「その判断は想定の範疇、油断したな黒の剣士よ。」
だが、直前にゼウスの視線から『重力子の洗礼』が発動する。それによって急上昇した重力による負荷が放たれ、マグサリオンの剣先がブレる。
クワルナフによる超重力を経験している以上、それで全身を潰されることはないが不意を突かれた形でわずわかな停滞が生まれる。その瞬間を、ゼウスは見逃さない。
「我は全能である。」
「オォォォッ!」
そして放たれる、背面からの真っ直ぐ伸びる稲妻の光線。それはマグサリオンの体を穿たんと放たれる。例え第二戒律で直撃を免れる可能性があろうとも、そもそも動かなければ意味がない。空間を歪曲させ、破滅させる一撃。それを咄嗟に切り裂くものの、稲妻に触れたことで感電してしまう。
続けて放たれる雷鳴を、咆哮と共に放たれ空間を裂く斬撃で払われた。そして再びゼウスの顔面へと一撃を放とうとする。
「ガイアよ。」
補助態勢移行により標準がずらされ、その一撃はガイアへと肩代わりされた。両翼の輝きが潰えたもののそして直後に、ゼウスへと魔力が集まる。そしてマグサリオンへと狙いを定めながら、言い放つ。
「愚かなる戦士よ、お前の抱える民草は実に愚かしく哀れである。故に我を崇拝せよ、いずれ全ての民を救済へと至すと約束する。」
「断る。」
「愚か、悪法を敷いて改善を齎す余地も無い地平は無価値である。滅びよ、滅びよ、悪性なる地平は焼き払う。」
そして再び放たれる破滅の閃光、存在そのものを削り取らんと稲妻が爆ぜる。雷雲全てがゼウスの砲門であり、その弾数はゼウスがいる限り無制限。加えてその域は覇道の如く広がりこれもまたゼウスがいる限り拡大していく。だが、闇黒の閃きがそれを阻止せんと喰らいつく。
四散する閃光を背に、凶剣の冷徹が全能神と視線を交えて刃を振るう。
「はッ、好き勝手語るではないか。おいお前、再興すると言ったがそれは何のためだよ?」
「……これから滅びる者へ答える義理があると?」
「抜かせ、何勝手に俺の運命を語ってやがる。良いだろう、ならば俺が当ててやろうか?」
「何?」
星間を駆ける旗船に揺らぎが生じる、それは大海原の嵐を感知したかのように。
「お前が元いた場所、即ち母星の再興なのだろう?」
「無論だ。」
「なら、お前が支配する民草はどのように扱う?お前に牙向く悪は、その雷霆で焼き払うとでも?」
「叛逆者は確かに万死に値する。だが泰平を生きるものは、我が全ての権能を行使して幸福ある生涯を与える。」
「ほう……具体的には?」
「貴様の楽園は確かに笑みがあるが、それは我欲を貪れる上澄みの力ある者のみ。我の権能であれば、例え力無きものにも繁栄を与える。衣食住全て、家族との団欒も、死の別離からも、人は全てが満たされれば悪逆は生じない。」
「……」
「故にだ、その座は我に相応しい。故にそれを支配しよう。我が権能の元、恒久的平和なる知世を創り上げる。」
「誤魔化すな。」
「……何?」
瞬間、一気に距離を詰めたマグサリオンの剣閃がゼウスへと叩きつけられる。即座に両翼を再生させて概念防御を展開するが、それが軋むほどの衝撃が襲いかかる。雷雲の覇道もその余波で半分が消し飛ばされる。
その動揺を逃さないと、マグサリオンの口は止まらない。
「反吐が出る、生温い天国ごっこなんぞな。」
「何を、言っている……」
「どうせ見捨てるのだろう?お前にとって人間は、どこまで行っても“愛玩”の域を出ないだろうからな。」
「何を、根拠に……」
「衣食住全てを与える、死の別離を除去?それは単に、お前と言う神に人生の全てを依存してるだけだろう。確かに民を救ってはいるが、導くことはできてないその果ては自立を放棄する猿になっていくだけだ、それは愛情ではなく愛玩というんだよ阿呆が。」
「____」
マグサリオンの指摘に、ゼウスは言葉を失う。この指摘を受けたのは、おそらく初めてなのだろう。
「それを言うならば、貴様は民を救済していないではないか。」
「確かにな、だが俺は自由を許している。どうせ人間なんぞ勝手に生きて勝手に死ぬ。ならば好きに泳がせてやるだけだ。」
「貴様こそ笑わせるな、それこそ単なる放牧と何が違う!」
「見える景色が違う。自由が許される分、確かに悪性が幅を利かせて弱者と比べて有利になるだろう。だがな、だからこそ悪の楽土に生きたからこそ他を凌駕する究極の善が生まれると俺は信じている。俺はそれを生まれる自由は許してるんだよ。」
「………なんだ、それは?」
「今度はお前が聞かせろよ、なぁ全能神様よ?衣食住も、人のコミュニティも、生死も、全てがお前に委ねられた同じ景色しか見せない地平で、人間がどんな成長が期待できると言うつもりだ?」
「……」
全く同じ姿のまま巨大化でもさせるのか?そう言わんばかりに無言の施しをすれば、ゼウスは無表情であるものの、反論できず言葉を失っている様子がそこにあった。それが余程の、心の致命であったことが窺える。それを見てマグサリオンは息を吐きながら言葉を続ける。
「その様で、俺よりうまく世界を回す気であったなんぞ笑わせるなよ。」
「……黙れ。」
「ほざけ、全能を自称している癖に向き合うべき真実から逃げた屑が何をほざいてやがる。どうせ、その愛玩する姿勢が原因で目論見が破綻したのだろう?」
「黙れッ!すべて、すべて、すべて、消えよッ!」
マグサリオンの指摘を遮るように、ゼウスは言葉を荒げて保有する魔力を瞬間的に高めた。
「空よ、裂けよ。星よ、砕けよ。天に有りしは全て我。
星を統べしは全て我!
ゼウスから放たれる、万象鏖殺の雷霆。それは空間を、次元を、世界を、宇宙に漂う星々を焼き払う神の裁き。それはまさに、オリュンポスの頂点に君臨した王の力として相違ない奥義と言えるだろう。
「逃げの攻撃なんぞ屑に過ぎん。」
だが凶剣の冷徹が、全能の稲妻を正面から切り裂かんと牙を剥く。見据えるはゼウスの右眼、それがかつて射抜かれて破滅した古傷だと見定める。
空を踏み躙り、そして蹴り上げて闇黒の彗星と化す。雷撃が全身を痺れさせて崩壊をもたらすが、最早見切った脅威に頓着しない。守りよりも攻めを重きに置く凶剣は、最短を通って必殺を齎す。そして全能の雷の嵐を突破し、マグサリオンの鋒がゼウスの右目を穿った。直後に縦に閃けば両翼を、そして横に剣戟が閃き、ゼウスの本体、そして周囲の雷雲ごと斬り裂いた。
「莫迦な……全能たる我を、ただ一人で殺すだと!?」
「そうだ、それこそお前の地平に生まれない可能性の力だ。例え危険と隣り合わせでも、違う明日を目指すからこそ見える景色もあるのだよ。」
崩壊するゼウスの真体、それを横目で見据えながらマグサリオンはそう言い放った。その果てに、残す言葉を発することなくゼウスはその身を散らし姿が消えていった。
本当は最初はクワルナフを戦わせようと思ってましたが、それは違うなと思ってこの様にマグサリオンに戦ってもらうことにしました。まあそもそも、タイトルからして彼が闘うのが正規ルートですからね。
ちなみにゼウスは、今回は冠位ローマもアレスも居ないのでクワルナフに勝らずとも劣らない巨大な覇道持ちキャラみたいな戦闘力となりました。少なくとも人の規格内真正面から勝てるのは、バフラヴァーンや創造獣殿、マグサリオンクラスでないとまず勝ち目のない戦闘力持ちな印象ですね。