その日、その時、マグサリオンの周囲には多量の血糊と屍が散らされていた。彼を知るものなら語るまでもないだろうが、それは彼の剣によって散っていった命の数々。
その全てがモヒカンの髪型をした男であり、武装したならず者だ。即ち特殊な異能を持つものでもなければ、突然変異体でもない。どこまでも武装しただけの人間であり、それ以上は何も持ち得ていない。
「死ね。」
しかし、マグサリオンは容赦しない。神や超人を相手する様に加減もなく、例え凡夫だろうと全霊の殺意を以って殺戮を纏った剣筋を奮う。
その度に、無名のならず者達の命が散っていく。無論、マグサリオンは思考停止で殺していない。己に向けれられる殺意、そして相手全てが自分の命を奪わんとする唯の人間なのだと理解して殺し続ける。その死体の数は数十を超え、百へと到達した。そして……
「クソが、役に立たねぇ馬鹿共が………」
足元の死体を蹴飛ばし、ショットガンを片手にリーダー格と思われる男が現れた。従えていた者らに対する敬意は無く、まるで使い捨ての道具の様に無視し、片膝をつき斬り飛ばされた腕の部分から血が垂れながらもマグサリオンを睨みつける。
「この、剣なんぞ時代遅れの武器を使ってる低脳のくせしやがってよ……おかしいだろう、あんだけの人数がいたのに、血糊で錆びるどころか明らかに切れ味が増してやがる。」
「……で?」
「汚ねぇんだよ、卑怯者が!どうせ、俺を指で突いて殺した奴みたいに超常なパワーで何か細工してるんだろうが!摩訶不思議な力で勝てて嬉しいか、このクソ野郎がァッ!」
そう悪態をつきながら、男はショットガンの銃口をマグサリオンに向けて弾丸を放った。無論、銃使いとの経験があるマグサリオンがすんなりと回避し、すれ違いと同時に男の銃を握る手を斬り飛ばしながら言い放った。
「阿呆か貴様、超常だろうと近代兵器だろうと本質的には人を殺すことに大差ないだろう。」
「あ?……ッ、ガアァァァァッ!?」
「兵器より生身で誰かを殺せば上等か?超常なる力で敵を殺した奴が卑怯などと、誰が決めたんだよそんな事。殺し合いの場に、殺しの質を一々言い訳にする方が阿呆なんだよ。確かに性能差はあるだろうが、なら数で囲って俺を殺そうとするお前達は数で不平等だろうに、どの口で言ってやがる阿呆が。」
「テ、メェ……屁理屈ほざきやがって……」
「なら、非力な女子供を襲うときに数を活かしたり武器を使わずに襲撃でもしたことあるのかよ?気に食わん奴の飯に毒を仕込んだ事ないとでも?そんな高尚さを、お前ら屑が弁えるわけないだろう。汚い手を使おうが、勝てば正義だろうからな。」
「うるせぇ、説教なんぞ頼んでねぇよ……テメェみたいな偽善野郎が、俺は一番気に食わねぇよ……」
男は強気な口調で言い返すも、多量の出血でフラフラと倒れかかっていた。だが直後に、男は仰向けに倒れつつもニヤニヤと笑を浮かべながら言い放った。
「へ、まぁ良いさ……殺したければさっさとやれよ、ヒーロー様よ。どうせ俺は、勝ち組のまま死ねるんだからな。」
「………ほう?苦し紛れの寝言か。」
「寝言じゃねぇよ、この世の真実だ。」
首筋に神剣を突き尽きれられた男は、呼吸を荒げながらも笑みを浮かべながら、嘲笑を滲ませた表情でマグサリオンの顔と向き合いながら語り始める。
「人間の世界ってのはよぉ、結局のところ“やったもん勝ち”なんだよなぁ。正義の味方ってのは結局のところいつだって後手で、逆に悪は常に先手。殺すのも、女を犯すのも、騙して金を得るのも、何時だって一番手の特権だ。だから攻めたやつが、有利に立つ権利を独占できる。分かるか?つまり優越的な立場を必ず得て、汚物塗れの屈辱を負け犬に押し付けれるのは、何時だって“先手を撃つ悪”の特権なのさ。」
「………」
「つまり、コツコツ積み上げて平穏な暮らしをしたいってやつは決まって敗北者なんだよ!何も起きないって無根拠に信じてるからよぉ、どんな時代、どんな世界だろうと俺たちに搾取されんのさ!
ヒャハハハハ!アンタさ、旦那とお子様の前で犯されてた女の悲しんでる見たことあるか?平和ボケした顔のジジイババアが、一変して血塗れで震えながら金品奪われてる様とかタマンねぇぜ!自分が王だと浮かれてる馬鹿の飯に、毒を盛って死なせる瞬間とかマジ最高だった!あぁ、そうさ……俺の手で不幸にあった馬鹿どもいると思えればよ、俺は幸福だった、勝ち組だったと確信できる!逆にアイツらは、俺を思い出すたび、不幸に溺れ続けるのさァ!」
まるでマグサリオンの顔に泥を投げつけて、その様を笑うかの様に男は醜悪な笑みを晒しながら独白を続けてきた。
「だからよぉ、ヒーロー様?アンタは俺を殺せば、不幸にあった連中が報われるとか思ってるんだろうがんなことねぇんだよ。アイツらは俺に幸せを壊された瞬間というのを、死んだ後もずっと背負わなきゃいけないのさ。俺が死んだところで、アイツらの人生が報われる保証はありはしない。俺を完膚なきまで敗北で仕事を済ませるつもりだっただろうが、俺は自分がやったことを間違いだと思わないし、改めようとも思わんし、謝罪もする気はねぇさ。俺は絶対に、この姿勢を貫いたまま死んで勝ちを得るんだよ、バーーーーーーカ!ぺっ!」
「………なるほどな。」
男は侮辱の言葉をマグサリオンへと投げ、そして言い終わると同時に唾を顔面に向けて吐きつけた。その唾をマグサリオンは避け、そして冷徹な殺意を纏いながら言い放つ。
「お前が平和ボケした、頭のおめでたい奴だという事がよくわかった。」
「………は?」
マグサリオンの放った言葉に、男は疑問を抱く。自分は苛烈な世紀末を、ひたすらに現実的な勝利を積み重ね続けたと確信している。それなのに平和ボケ、なんて言葉との繋がりなんてあるはずがないと、そう確信しているのに。
「テメェこそ、寝言ほざいてるんじゃねぇよ。あの世紀末を生きた俺の、どこが平和ボケだと言うんだよ!?」
「そもそも俺が、何時どことも知らん屑共の無念を晴らすと言った?」
「………あ?」
「そして貴様、悪事を常に先手を取り続けた故に勝ちを得たといったな。ああ、人の世は悪事を犯す屑どもが有利なのは認める。だが、そうした認識がお前の足元を疎かにするんだよ。」
「な、なんだよ……お前、何が言いたいんだよ!?」
男は身を少しずつ震わせながら、足でゆっくりと後退していた。本能的に恐怖を感じたのか、すかさず立ち上がって逃げ出そうとする。
しかし直後にうまく立ち上がれず、そのまま倒れ込んで地面に激突してしまう。
「イダッ!?ク、クソ……が……」
直後、自分の足から暖かさを感じ、見てみれば右足首から下を喪失していた。何時の間にか、マグサリオンに斬り飛ばされていたのだった。そして彼の近付いてくる足の音はまさに、冥府へと誘う死神の歌声のように聞こえるのだろう。
「く、く、来るんじゃねぇ!?」
「貴様の考えなんぞ見当がつく、要は優越感に浸りたいだけだろう。曰く勝ち組というのは、社会のヒエラルキーの上位的立場でありそこに居れば甘い汁と多くの利権を得られ、貧窮に苦しむ屑を安全圏から見下せるからな。ましてや、弱肉強食が鉄則の世紀末の環境なら尚更だろうよ。だが、その優越性がお前の認識の甘さを招く。」
「な、どういう……ことだ?」
疑問の声を上げる男に向かって、マグサリオンはゆっくりと剣先を喉へと向ける。そして、これこそがお前を刻む刃と言わんばかりに声を漏らす。
「勝ち組の己に格下から何の危険もくるわけがない。弱者の逆襲なんぞ夢物語、だから幾ら格下の弱者を虐げても誰にも責められない……と思ってるのだろう?要は、自分が安全なら他の犠牲なんぞどうでも良い、とな。」
「あ、いや………そんな、事は……」
「結局のところ、お前もまた権力を優越性を傘にして自分を正当化し、安全と安心を得たいだけだろうが。だが本質的に、自分のみに何の危険も起きないと嘲笑ってた平和ボケの屑と何が違うという。」
「違う………違う!俺はあんな連中とは違うんだ!!」
マグサリオンの指摘に恐怖で震えながらも、男は否定の意を示す。しかしもはや逃れる事も、反発する事も不可能だろう。ゆっくりと、マグサリオンの剣が振り上げられる。
「だが、その身勝手さもまた人間らしいと言えるだろうよ。さっきまで居た屑共も、大概そんな輩ばかりだったからな。そうした矛盾、不整合もまた人間の権利と言えるだろうよ。」
「ま、待て!金なら出すから……」
「金なんぞ要らん、そんなものがなくても俺の殺戮に影響は無い。」
「なら女、良い女を紹介してやる!」
「阿呆か、俺に伴侶なんぞ要らん。」
「そ、そ、そんな風に無闇に殺しても良いのかよ?女も抱かないまま、アンタ程の力の持ち主が、そうやって無差別に殺し続けてたら人類が滅亡して、アンタの存在意義が……」
「ならば俺の殺意の元、民草を無限に生み出し続けるだけだ。どうせ人間なんぞ、勝手に生まれて勝手に死ぬ定めだ。当然、お前もな。」
「は、はぁ?何を言ってるんだアンタ…‥そんな理屈、破綻して……」
「そんな条理、俺がねじ伏せて実現するまでだ。」
(だ、だめだ……コイツ、俺の知る常識から逸脱してやがる……)
最早恐怖に飲まれてしまい、男の心が根本から完全に折れた。そしてその胸裏に残ったのは、ただ死にたいする恐怖と忌避感のみだった。
「嫌だ嫌だ、死ぬのは嫌だ死ぬのは嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……」
「くだらん屑だな、さっきまで死ねば勝ち組とほざいてた輩とは同じとは思えん。」
「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて……」
「良いだろう、ならば楽にしてやるよ。」
そう言い放ちながら、マグサリオンは剣を振り切って男の首を刎ねた。こうして無名のならず者達との殺陣が終わりだった。
「で、お前は何時まで見ているんだよ?」
だが、まだ闘いは終わらない。マグサリオンは目線のみを背後に向け、闘技場の入り口にいる男へ向けて、そう言葉を放った。
その男は、顔をヘルメット上のマスクで隠しており、さっきまでのならず者達とよく似た格好をした大男だった。そして、側には一人の女が立っていた。
「へ、あんな雑魚な連中を殺していい気になってるんじゃねぇぞ。ここからは、この世紀末救世主ジャギ様が相手だァッ!」
そう叫びながら、ジャギと名乗る男がマグサリオンへと攻撃を放ったのだった。
宇宙滅尽の旅の際に、名無しのモブを殺す際にはこんなやりとりもあったのかなーと思いながら書いてみました。