マグサリオンの殺戮道場   作:ヘル・レーベンシュタイン

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第二十六陣 極悪ノ華

 

 

「行くぞォ、喰らいやがれぇェッ!」

 

 そう叫びながらマスクの男、ジャギは両掌を前に出し、直後に駆け出してマグサリオンとの距離を詰めた。

 

(銃が効かないのはあの屑共との殺し合いで分かってる、なら秘孔を突いて仕留めるだけだ!)

 

 ジャギが拳の射程内へと入れば、ジャギは素早い二本の指を突き立てたラッシュを放ち込んだ。

 

「北斗羅漢撃ィ、この俺様の突きを凌げるかぁー!?」

 

 まるで急に腕が増えたかと錯覚するほどの手数、加えて単なる連打では無く明確に身体の何処かを狙った様な目つきと突きの軌道を描いていた。しかし単純な手数でマグサリオンを捉えられるほど簡単ではない。かつて、数の暴力の極みといえる、バフラヴァーンとの戦闘経験があるのだから。

 故に避ける、避け続ける。常人であれば回避困難なラッシュでも、常に戦い続けたマグサリオンの戦闘経験であれば、被弾なくやり過ごせる。だが、ジャギにとってはそれもまた想定内である。

 

「プッ!」

 

 ラッシュの最中、ジャギはマスク越しに口から細い含み針を放つ。これこそが彼の戦法、勝つためならば手段を選ばぬ無慙無愧な悪鬼であり世紀末を生き延びるための生存能力と言えるだろう。

 実際のところ、確かに対人において効果的な戦法と言える。突きのラッシュが目眩しとなり、そこからほぼ目視不可能な含み針が放たれれば即死性は無くとも、被弾はほぼ確実と言えるだろう。ましてや眼球に当たれば失明にすら至る。が、ここは相手が悪かったと言えるだろう。

 

「見えてるわ、阿呆。」

「ンなぁにィッ!?」

 

 目視困難な含み針を、マグサリオンは羽虫でも払う様に剣で切り飛ばした。それを見てジャギは困惑した声を張り上げる。

 

「どうした、この程度の児戯で終わりか?」

「ほざけ、このジャギ様を舐めるなよォ!」

 

 マグサリオンの挑発に対し、ジャギはそう叫びながら跳躍する。

 

(そうだ、この違う世界、違う場所でも俺はやれると証明するんだ!!)

 

 直後、ジャギは空中から羅漢撃と同様にラッシュを放つ。しかし羅漢撃と違って手刀の形で突きをしており、その手数は圧倒的に多い。

 

「ほう……」

 

 それはまるで太陽光の如く、流石のマグサリオンといえど感嘆の声が漏れるほどだった。だが、それでも退避なんて真似をしない。正面から見据え、そして突破するのがこの男である。

 

「だが実際に、手が増えたわけではないだろう?」

「な……」

 

 そう言い放ち、マグサリオンもまた同様に正面から剣戟の連打を放った。その速度、火力、そして手数すらジャギのそれを凌駕する。

 故に鮮血が舞う、血糊を散らしながらジャギが地面に倒れる。そしてその両腕は頭陀袋の様にボロボロになっていた。

 

「く、クソが……負けられねぇ……俺は……」

「フン、随分と研鑽を積み上げた様だが小細工を弄するとはな。察するに、そうしなければ勝てない相手でもいたのかよ?」

「………………あ?」

 

 倒れ天蓋を仰ぐジャギを見下ろしながら、マグサリオンはそう言い放った。その言葉を聞いた直後、瀕死だったジャギの瞳から赫怒の炎が覗き始めた。

 

「小細工なんぞするということは、真正面から勝てないからそこに手を伸ばしたのだろう?しかもその目を見るに、自分の上に行く事を許せない相手なのだろう?恐らく弟とか……」

「テメェが知った風な事を言うんじゃねェェェッ!!」

 

 怒りの咆哮と共にジャギは起き上がり、そしてすかさず手刀による刺突を放ちこむ。

 

「南斗邪狼撃ィィッ!!」

 

 その手刀はまさに、刃の如く研ぎ澄まされた切れ味を保有していた。鉄の塊に直撃すれば容易く切り裂き、周囲に罅を漏らさない程の一点集中の一撃である。

 その手刀が、マグサリオンの胸部を目掛けて駆け抜ける。

 

「その研鑽も弟に対する嫉妬で穢れたか。」

「黙れ!兄に勝る弟なんぞ居ないんだよォッ!」

「それはお前が勝手に決めた事だろう。」

 

 そう言いながらマグサリオンは、迫る南斗邪狼撃に向けて真正面から迎撃を放った。その結果、開いた魚の様に斬り裂かれるジャギの腕、血肉を撒き散らしながら霧散していく。

 

「オォォォォォォォッ!?」

 

 ジャギは、苦悶の声を上げながら片膝をついた。もはや戦闘続行は不可能であり、あとはマグサリオンの一撃を以って処断されるだけだろう。

 だが、ジャギは体を小刻みに揺らし涙をながら声を漏らした。

 

「何故だ、なんでだよ……なんで俺は何一つ上手くいかねぇんだよぉぉ!!何も……何一つ得られるものがねぇ、せめて何か一つくらい、願いが叶っていいじゃねぇかよォォォッ!」

「貴様の願いは、その拳法で弟に勝つことかよ?」

「ッ、そうだ!あの甘ちゃんじゃ世紀末の世界を生き残ることはできねぇんだよ。そうだ、父さんの……師父の憲法の継承者は俺なんだ、俺こそが相応しかったんだ!世界はこのジャギ様こそ救世主と認めてんのに、どいつもこいつもなんで、ケンシロウを選びやがったんだよ!そんな世界、間違ってるに決まってんだろうがァッ!」

「……確かに、甘ったれた奴が弱肉強食の世界を生き抜くのは困難なのは事実だろうよ。だが、それがお前の力不足の言い訳にはならん。」

「な、なんだとぉ!?」

「結局のところ、お前は拳法の実力差で弟に劣っていた結果に過ぎんだろう。ああ、師父とやらの意思も継ぎたかったのだろうが、結果は御愁傷様だった様だな。だが、それでもお前の積み重ねた力が無価値になったとは限らんだろう。見れば解る、お前があのモヒカンの屑共に遅れをとるほどの実力ではないのは確かだ。ならば……」

 

 直後、マグサリオンの視線がジャギから背後にいる女の方へと向く。そして、その剣先を彼女の方へと向けた。

 

「あの女と共に、世紀末の世界を生き残る選択もあっただろう。」

「………あ、アンナと?」

 

 マグサリオンの言葉に釣られて、ジャギも背後の女性アンナへと向く。

 

「俺との殺し合いの中でも、あの女は一切臆することなく見届けていた。それだけで、俺だけお前のことを慕ってるか解る。そしてお前も、おの女を戦いに巻き込まない辺り大事な存在なのだろう?たった一人の女を愛し、守り抜き幸せにするのも男の誉れの一つだろうに。」

「う……ぁ……」

「だが、お前は拳法家としての名声と力に溺れてしまった。」

 

 マグサリオンのその指摘に、ジャギは反論できず瞳が揺らぐ。その魂が揺らぎ、最早立ち上がることすらままならず……

 

「そうか、俺はアンナと共に生きていれば……また違った運命を……クソッタレ、俺は途中から間違えてたのかよ……アンナこそが、俺の希望で……」

「そして、俺がお前を見過ごす通りもまた無い。故に死ね。」

 

 そしてそう冷徹な言葉を言い放ちながら、虚な目で見上げていたジャギの首を刎ねて戦況が終わりを迎えた。

 故にこの場に残ったのは、マグサリオンとジャギの骸、そしてこの戦いを見届けていたアンナという女性のみだった。彼女はマグサリオンの元へと歩み寄り、ジャギの生首を持ち上げる。

 

「お疲れ様、ジャギ。カッコよかったよ……すぐに追いつくから、待っててね。」

 

 目から涙を漏らし、そう呟いてジャギへと優しく口付けをした。そして、意を決した顔をしてマグサリオンと向き合って微笑みを浮かべて言い放つ。

 

「ありがとう、ジャギの戦いに付き合ってくれて。」

「感謝される謂れはない、俺の意のままに殺しただけだ。」

「そう、でも全力で最後までやってくれて嬉しかったよ。ジャギは結構さ、強い奴らから袖にされたことが多かったと思うからさ。」

「知ったことかよ、くだらん口しか漏らさんなら殺すぞ。」

 

 マグサリオンは鬱陶しそうな態度をとるものの、アンナは臆することなく話を続ける。

 だが、次の瞬間にマグサリオンは魔獣をも射殺す殺意の視線を向ける。それを浴びてアンナは、生物としての本能によって恐怖から体を震わすものの、それを堪えてマグサリオンと視線を交えながら口を開く。

 

「ねぇ、最期に私の八つ当たりに付き合ってもらえないかしら?」

「好きにしろ、どうあれ貴様を殺すことには変わりない。」

「そう、ありがとう。」

 

 そう言いながらアンナは、ジャギの手元に転がっているショットガンを持つ。そしてその銃口をマグサリオンへと向けた。

 

「ねぇ神様、あの無慈悲な世紀末の世界でジャギと出逢わせてくれてありがとう。本当はもっと、ジャギと一緒にいきたかったけど、もう手遅れだもんね。だからこの運命を受け入れます。だからこれだけは言わせてください、私は……貴方のことが大っ嫌いだよ。」

「覚えておく。」

 

 直後、涙を垂らし笑顔と共にアンナが引き金を引くよりも早くマグサリオンが駆け出しショットガン諸共アンナを斬殺した結果のみを晒す。

 そしてその遺体はジャギの隣に横たわり、闘技場に吹き荒れる砂塵と共に空の彼方へと消えていった。

 




ちょっと短めになってしまいましたが、マグサリオンから見たジャギに対する答えは、こんな感じかなーと思いました。もっとも、その選択をしたら原作のケンシロウがアマちゃんから完全に脱却できず、原作の軸がブレてしまうかもしれないのであの運命になったのかもしれませんが。
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