マグサリオンの殺戮道場   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回はFGO民なら知っているであろうあのキャラです。


第二十七陣 国土無双

 

 

 

 マグサリオンの居る闘技場に、二人の男が現れた。一人はサングラスを掛けた老人であり、もう一人は眼鏡をかけた小太りの青年。後者はまさに、只人が見れば俗にいうオタク気質を感じさせる人物としての印象が強いだろう。

 しかし、マグサリオンは違う。二人を捉えれば殺意と共に警戒色を露わにしている。それは下手な悪人や殺人鬼よりも、より密度を高く。

 

「い、いいいい居ましたぞ衛士長。あの方が、風の噂で聞いた武の境地に至った剣士殿かと。」

「ほう、なるほど噂に違わぬ血の匂いと殺意の塊よ。これ程の密度は生涯初めてだ、滾らずには居られんわ。」

 

 眼鏡の男が言葉と体を揺らしながらマグサリオンを指し、老人の方はまるで探してた品を見つけたかのような喜びの顔をしていた。

 そして、その二人が更に近づこうとした瞬間、マグサリオンは剣先を向け弩級の殺意を放ちながら言い放った。

 

「近付くな屑共、気色悪いんだよ。」

「ど、どどどどうしたのですかな?拙者達はあくまでも挨拶を……」

「特に貴様だよ、気色悪い仮面で隠しても無駄だ。殺意と戦意が漏れている、くだらん諧謔で俺の油断を炙り出せると思うなよ。無論、そこの老兵もな。」

「………ケッ、一々人の内をほじくりやがって。まぁ、だからこそやりがいがあるってもんだがな。」

 

 マグサリオンの指摘を受け、小太りの男性は息を吐き同時に先程の表情とは一変して冷徹な視線をマグサリオンへと向ける。

 

「なら、面倒な御託はもういいか。ならさぁ、始めようか。世界最強の剣士が目の前にいるんだ、我慢なんてできるかよぉ。我が名は韓信、楽しい楽しい戦争を始めようじゃねぇか!」

「同じく、せっかくの機会なのだ。我が拳がどこまで通じるのか、お手合わせ願うか!」

「良いだろう、貴様らの愚かさを飲み込んでやる。来い屑共、纏めて相手してやる。」

 

 此処に、国土無双を謳う軍師が冥府魔道の凶剣への挑戦が始まったのだった。

 

「ヌンッ!」

 

 衛士長が哄笑と共に震脚を鳴らせば、同時に韓信が手を翳し唱えた。それはまるで確信をもって真実を見透かしているかのようで、マグサリオンですら不穏さを感じさせるものだった。

 

「兵法・擒賊擒王(きんぞくきんおう)

 

 直後、マグサリオンは不意な死線を感じた。それはまるで、肌身に目に見えない刃物をなぞられるような危険性。だが韓信の笑みと視線から感じる威圧力が、その脅威が嘘ではないと伝わってくる。そして、韓信自身から謎解きでもするかのように口を開いた。

 

「あんたのその身体、伽藍堂なんだろう?」

「ッ!?」

 

 単純な見た目だけで言えば、マグサリオンの表情に変化はない。だが目を見開き、緊張の走った瞬間を韓信はしっかり捉えていた。

 初手の時点でここまでマグサリオンの動揺を誘ったのは、それこそ身内にして異端なる勇者ワルフラーンくらいなものだろう。思えばマグサリオンが生きた時代に、軍師といえる孫座愛はめったにいなかった。スィリオスやカイホスルーがそれに近しいが、彼らは前線に出ることがあるだけで本質としてはやはり王といえる。故にマグサリオンにとっては、軍師の脅威を体験するのは、ほぼ初体験に近しいのかもしれない。

 

「アンタからは血の香りはしたが、それ以外何も感じなかった。つまり、無の概念を鎧と言う形にして纏ってるようなものだとすぐに思ったよ。推測だが存在概念ごと干渉しないとまず物理は基本通らんだろうな。だが詳しい原理は知らんが、なんでも弾く万能な鎧わけでもないだろう?なら、通り道を作ればいい。この術はそういうものだ。」

「……小賢しい真似を。」

「小賢しくない軍師に価値なんてねぇよ。そら衛士長、存分に力を奮えよ。」

「承知、では初手から全力で行くぞ!」

 

 そう言い放ち、衛士長がマグサリオンとの距離を詰める。そして中国武術、即ち八極拳による極めた拳撃を放ちこむ。いかに拳で殺すかを極めた殺戮技巧、韓信の術と合わさっていかにマグサリオンと言えど真正面からの激突は避けざるを得ない。

 故に、真正面からの迫る拳を避け、すかさず剣戟を差し込み殺さんとする。

 

「ほう、面白い。」

 

 だが、衛士長は笑みを浮かべればまるで映像のカットが入ったかのようにその場から姿を消していた。人間であれば、まるで幻術でも掛けられたかと錯覚し、混乱を引き起こすだろう。

 

「そこだ。」

「ヌゥッ!?」

 

 しかしマグサリオンは、その閉じぬ瞳で衛士長の存在を逃さずしっかりと捉えていた。背後へ、まるで裏拳を放つかのように振り返り様に放つ。衛士長は咄嗟に前転で回避しざるを得なかった。

 そして即座に立ち上がるが、既にマグサリオンから上段の振り下ろしが放たれており、続けて回避しざるを得なかった。

 

「くはははは!荒々しい剣士よ、老体を労ることは考えてくれんのか?」

「下らん、戦場から生き残った老兵は生き残りだろう。そんな奴相手に、手加減する道理があるとでも?」

「言ってくれるな、褒め言葉として受け取っておこう。だが攻めは貴様の特権ではないわァッ!」

 

 そう言い放ち、衛士長は剣戟を振るうマグサリオンの懐へと入り込む。そしてすかさず肘腕を放とうとするが、その寸前でマグサリオンが衛士長の視界から消える。

 

「そこかぁ!」

「ほう……」

 

 すかさず頭上からマグサリオンの刺突が迫るが、回し蹴りを放ってその矛先を逸らし被弾を回避した。

 直後、呵呵と笑いながら拳のラッシュを放つ。

 

「なんとも奇妙な、雑な剣技使いかと思えば気配遮断をするとはな。いやはや恐ろしい……」

「貴様ら屑を僅かでも見過ごすかよ、必ず殺す。」

「さて、それはどうかな?」

 

 拳と剣が交え、まるで兵器のぶつかり合いのような音が響き渡る。どちらも生身で戦っているに等しいのに、なんとも異次元な戦闘といえるだろう。どちらもまともに直撃すれば必殺に等しいが、互いに上手くクリーンヒットを回避している。衛士長の裏拳がマグサリオンにあたり、壁面へと飛ばす。しかし浅い手応えを感じ、隙を付かれて威力が殺されまだ致命になってないと判断し直後に飛び蹴りで追撃を放つが、気が付けば既にマグサリオンは壁面から離脱し、百足のような動きで衛士長の死角から首を刎ねんと横薙ぎを放つ。それを皮一枚を犠牲に寸前で回避し、衛士長は足払いを放ち、次いで踵落とし……などなど、激しい応酬が繰り広げられていた。

その光景に涎を垂らすようにうっとりと眺めている中、潮時と感じたのか韓信が次の術を発動させた。

 

「兵法・混水摸魚(こんすいぼぎょ)

 

 直後、マグサリオンの視界が全て水で包まれた。更には魚も泳いでおり、まるで突然海へと放り込まれたかのような事となっている。

 だが、それだけでは終わらず水面が揺れてまるで巨大な渦潮に巻き込まれたかのように大きく荒れる。

 

「シッ!」

 

 荒れる海中で、衛士長は決して揺さぶられることなく接近し拳の打ち上げ、通天砲を叩き込まんとした。

 

「なるほど、幻術か。」

「おいおい、動揺すら誘えないのかよ。普通、混乱すると思うんだけどな。」

「手緩い、世界の移り変わりなんぞ俺にとっては驚愕に値しない。」

 

 だが、それをマグサリオンは寸前で腕でその打ち上げを押し退ける。そして刺突を放ち、衛士長の脇腹を抉らんとする。

その様子を見て、韓信は苦虫を潰したような表情をする。だが……

 

「ま、あんたの認識をそこに向けるだけでも価値あるがな。」

「な…」

 

 幻術とは言え、海面の中を移動するマグサリオン。だがその最中、気が付いたら衛士長が脇腹付近にいた。そして吸い込まれるように、貫手がマグサリオンの腹部へと迫っていた。

 それはまるで、周囲を飛び舞う蠅が突如ミサイルに変わったかのような奇襲。大抵の人間であれば奇襲されてることにすら気付かず絶死の奈落へ突き落とされてただろう。

 

「オォォォッ!」

「ヌゥッ、ガバァッ!?」

 

 故にマグサリオンは咄嗟に剣を振り降ろし、衛士長の肩に向けて刃を向かわせる。一見やぶれかぶれの行動に見えるが、衛士長も攻撃をしている以上回避はほぼ不可能。

 故に相打ちとなる以上、攻撃の威力は減少する。互いに血を流す結果となり、大きく弾かれた。その光景を見て韓信は、舌打ちをする。

 

「惜しかったな…だがよ、軍師をなめんじゃねぇぞ!ここから総仕上げだっ!」

 

 そう言い放つと、海の景色から移り変わって再び闘技場へと変わる。直後に韓信が再び衛士長に向けて手を向ける。

 

「兵法・樹上開花(じゅじょうかいか)

 

 瞬間、韓信の追加の兵法が発動した。直後に衛士長を中心に蜘蛛の巣状の地割れが発生する。この刹那のみだろうが、衛士長の内包するエネルギーが急上昇したのが伝わってくる。

 更に、それだけで終わらず……

 

「兵法・釜底抽薪(ふていちゅうしん)

 

 今度はマグサリオンに向けて手を翳した直後、急激な脱力感が発生した。まるで、力のベクトルが少しずつ散らされていくような感覚である。

 

「さて、下拵えはこんなところかね?そら、ぶちかませ衛士長!」

「礼を言う、わし一人ではここまで来るのは不可能だっただろう。では…かの剣士殿に、一撃馳走してくれよう。」

 

 衛士長が笑みを浮かべたと思えば、まるで陽光から月光に変わるかのように顔から全身に過去最高の殺意が帯び始めた。そして……

 

「我が八極に无二打(にのうちいらず)!」

 

 一瞬でマグサリオンの懐へと忍び込み、そして震脚を床へと叩きつける。それによって彼の気が周囲を包み、マグサリオンの殺気ですら瞬間的に散らさんと驚異的な緊張感を散らす。そして、そんな隙を見逃すはずもなく……

 

「七孔噴血、巻き死ねぃ!」

 

 繰り出される一点集中の掌底、その拳に纏う韓信の奇術。その刹那に放たれた、衛士長の究極の一撃によってマグサリオンの命を潰さんと叩き込まんとする。だが、マグサリオンの殺意はまだ完全に途切れていなかった。絶殺の拳を閉じぬ瞳で捉えながら、言葉の刃を衛士長に放った。

 

「貴様、名無しなんだろう?」

「ッ!」

「答えられんか、ならばそういうことだろう?」

 

 だが、被弾直前に漏らしたマグサリオンの言葉が硬直を生んだ。その僅かな隙を突かれ、衛士長の腕と胴体ごと切り離された。

 分離する胴体、地面に落ちる上半身。血が撒き散る最中、衛士長は満足気に笑みを浮かべ……

 

「クハ、よもやあの瞬間に隙を突かれるとはな……まだまだ修練不足であった、か……」

「満足気のくせしてまだ鍛える気かよ、盛んな老兵だな。」

「なんの、修練に終わりなど無い……最期だ、貴殿の名を我らに教えてくれんか?」

「マグサリオンだ。」

「心得た…ではな、異界の剣士。また機会があれば、殺し合おうぞ……」

 

 そう言い残し、衛士長は塵となって消えていった。残ったのは後方支援に徹していた韓信だけであり、マグサリオンの方へと一歩近づく。すると片手を上げ、降伏でもするかのように思えたが……

 

「マグサリオン、ね……お手上げだ、降伏する……と言ったら信じるか?」

「有り得んな、戦狂いの貴様に限って。平穏な一般社会に生きることができん屑が、何を求めてるか語るまでもない。」

 

 そういう馬鹿(飛蝗)をしっている。毛色は違えど同種を知っている。そう示すかのような言葉が投げられれば、韓信は歓喜に満ちた顔で叫ぶ。

 

「だよなぁ、見極めんのが得意なアンタがその辺り見抜けてるわけねぇもんなぁ。ならよォッ!」

 

 上げていた手で指を鳴らせば、周囲に身を隠していたであろう機会兵士や拳法家が姿を現しマグサリオンの周囲を囲む。

 

「さぁ続けようぜ、マグサリオン様よぉ。楽しい楽しい戦はこれからだァッ!」

 

 韓信の掛け声の直後に襲いかかる兵士達、直後に飛び散る血飛沫。その時間は膨大に長いか、あるいは短い刹那か。

 どちらにせよ結末は変わらない、最期にはマグサリオンが立っていた。

 

「………」

 

 その周囲には無数の屍とガラクタ、そして狂気的ながらも満足気な表情をしている韓信が横たわり風となって消え去ったのだった。




衛士長の名前に関しては、今回は本名が得られなかった説で通させてもらいました。
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