マグサリオンの殺戮道場   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今回は自分にとって少し挑戦的な内容です


第二十九陣 亜空の瘴気

 

 

 

 闘技場の中心には、珍しく女がいた。その人物は和装をしており、まるで人間大の人形であるかの様だった。しかしその顔面からは天真爛漫さなどは感じず、むしろ対照的な仮面の様に揺るがなさを感じる。

 女の名はマシュヤーナ、かつてマグサリオンに撃たれた女にしてバフラヴァーンと同格であった魔王の座に居た存在だ。

 

「………むっ」

 

 マシュヤーナがこの闘技場に来て数分の、不意に空間の揺らぎが生じた、それは常人であれば認識すら困難なモノ。マシュヤーナは見逃さない、光すら捉える瞳が空間の異常な揺らぎを察知する。

 そしてそれがそちらに迫り、回避すると地面に大きな穴が生じた。まるで透明で巨大なスプーンによって、地面を抉られたかのような光景が発生する。普通であれば、あまりの荒唐無稽な光景に混乱し、対策を考えようにもそれ自体が困難になりかねないだろう。

 

「ほう、面妖な力を持った奴が現れたな。ならば……」

 

 しかしマシュヤーナは狼狽えることなく手を上へ掲げれば、彼女の背後から樹木の枝が生え、そこから桜の芽が開き、直後に桜吹雪が舞い散り始めた。一見すれば単なる情景変化、単なる場の雰囲気作りと思うだろう。

 だが、その吹き荒れる桜吹雪の一部が、まるで円形の異空間へ吸引されるかの様に消滅する。その現象が連続的でまるで彗星の様な移動を描き続け、マシュヤーナの位置とは見当違いな場所に続いており……

 

「そしてどうやら、私の位置までは把握できてないようだな。ふふ……ならば狙いどきはあると見た。」

 

 そう言いながら僅かに口端をあげ、その彗星の軌道を見据える。そして、マシュヤーナの正面に亜空間が迫る。普通ならばそれを瞬時に避けなければならないが、迫る最中に空間に割れ目が生じればそこから人の顔が覗き込んだ。

 

「やはりな、其処か。」

「ッ!?」

 

 その刹那を狙い、マシュヤーナの足元から樹木が槍の様に伸びて覗き込んだ顔へを突き刺さんと伸びていく。

 それを本能で危険と悟り、男は異空間から身を飛び出して幾つか掠ったものの全身の串刺しを避けた。現れた人物は筋骨隆々な大男であり、男性な顔をしているがマシュヤーナと同様に冷たい顔を浮かべながら両者顔を見合わせる。そして、男の方から口が開いた。

 

「貴様、このヴァニラ・アイスのスタンド能力をすぐに見抜くとは只者ではないな……」

「スタンド?ほう、貴様の力はそういうものか。」

「……スタンドの概念すら知らないか。だが構わん、今度は同じ過ちは繰り返さん。亜空間にばら撒いてやる。」

「させん。」

 

 ヴァニラという男がそう言いながら跳躍するが、それを阻止せんと樹木の槍がヴァニラへと伸びる。しかしそれよりも早く、ヴァニラが亜空間へと身を潜めた。

 マシュヤーナは舌打ちしつつ、更に桜吹雪を激しくする。桜吹雪には円形の軌跡を描きながら削られる痕跡がヴァニラの位置を示している。

 

「さて、いつまでも引きこもれば無敵かもしれんが、お前とて外の様子を見なければ私を倒した確信は持てまい?であれば、いつまでもそうしていられんだろう?」

 

 そう挑発的な言葉を放つものの、おそらくヴァニラには届いていない。暗黒空間という、この世とはかけ離れた小さな空間に完全に閉ざされている以上、音も遮断されて届いてないだろう。完全な無敵空間であると同時に、あらゆるものを遮断した空間。故に敵を倒した手応えもない以上、目視でなければ倒した確信は抱かない。

 だが、その直後に暗黒空間の円が止まり、その直後に闘技場の地面に穴が空いた。それを見て、マシュヤーナは感心した声を上げた。

 

「ほう、なるほど考えたな。確かに潜り込めば桜の軌跡で位置は確認できず、逆に私への闇討ちを狙える。確かに、正面切ってならばそうなるな。だが……」

 

 そう言い放った直後、闘技場全域に巨大な樹木の枝が貫通して現れた。そしてマシュヤーナは宙に浮き、まるでその大木の主と言わんばかりに木の頭頂部に立つ。まるでこの大木の主と言わんばかりにの姿であり、実際のところこの大木こそがマシュヤーナの本体と言えるのだから。

 

「地面の中だろうと、私の腹の中とは考えきれなかったようだな。さて、これを前にお前はどう足掻くかな?」

 

 僅かに微笑みを浮かべながら、マシュヤーナは樹木に埋め尽くされた地上を見下ろしていた。暫くすれば、木々に穴が開きながら亜空間が現れれば、再び切り目が現れてヴァニラの顔が覗き込んだ。

 

「尻尾を見せたな」

「なっ!?」

 

 この瞬間のヴァニラは、二重の衝撃を受けただろう。さっきとは明らかに違った光景であり、それを踏まえてもマシュヤーナには何の打撃を与えていなかった現実に。

 そしてその隙を逃さずはずもなく、無数の枝がヴァニラへと伸び、串刺しとなる。

 

「ガァアアアアア!!!」

 

 そして亜空間からヴァニラが枝によって引き摺り出されるものの、彼の様子にマシュヤーナは眉を顰める。

 なんと、彼の腕がゆっくりと動き、突き刺さっている枝を握りそれを砕こうとしたのだ。しかしそれを目の当たりにしながらも、マシュヤーナは目を細めながら呟く。まるで何かを狙っているかの様に。

 

「ほう、貴様まだ生きてたか……」

「お、れは……死なん!DIO様を殺した奴を引き摺り出して、暗黒空間にばら撒くまでは……これしきで止まるかァァァッ!!!」

 

 ヴァニラがそう叫べば、それに連動する様に亜空間のスタンドが暴れ回る。しかしそれによって周囲の枝が削られ、ヴァニラに突き刺さっていた枝が取れて離れていった。

 そして握り捨てながら前進する。空いた穴の痛みをまるで感じさせず、それは一種の狂気すら感じるほどだ。だが、その光景を前にしてマシュヤーナに動揺は見られない。否、その瞳は何かを見据えた様だった。

 

「お前、さっきから覚えたての子供みたくDIOとその名を口にするな。察するにお前の主と思えるが……」

「そうだ、DIO様こそが世界の頂点に立つ存在。彼の方の野望のためならば、俺は命すら振り切って邪魔者を排除するだけだ!」

「………なるほどな。」

 

 などとマシュヤーナは納得した様な口調をすれば、口を隠してた扇子を閉じ、そして言い放った。

 

「つまりお前の中身は空虚な訳だ。」

「……は?」

 

 まるで不意に冷や水を浴びたかの様にヴァニラは固まり、しかしそれを意にすらせずマシュヤーナは続ける。

 

「そのスタンドとやらは、貴様の心を投影する鏡みたいなものではないか?つまり、暗黒空間とやらは貴様の心の空虚さを投影したものであり本質は空虚。貴様は一見忠誠心に熱い男に見えるが、その実は己というものが無い。お前は信仰先さえあれば後は全てが許されると思ってる浅ましい奴ではないか?何せ、貴様のDIOとやらに対して忠誠はあれど愛は感じないからな。」 少なくとも私は感じないな。命なぞ惜しくない?だから何だ、命さえ捧げれば思いの絶対値の実現になるなどと笑わせるなよ。」

「……ふざけるな。」

 

 マシュヤーナの怒涛の言葉が炸裂した直後、ヴァニラは静かにその言葉を漏らす。そして直後、激昂した表情を露わにしながら猛りを溢れ出す。

 

「ふざけるなよ女ァッ!浅ましいというのならば貴様もだ!貴様なんぞに俺のDIO様への忠誠をわかるものか、愛なんぞつまらん尺度で語るなよォォォッ!!」

 

 その猛りのまま、スタンドがマシュヤーナへと突撃する。桜吹雪によって軌道を見ることはできるものの、今まで以上の速度で回避は困難だろう。

 故に被弾は避けられない、単純に樹木を盾にするだけでは貫通してそのまま本体に直撃する。

 

「やはり、それはお前を映す鏡だった様だな。」

「なっ……!?」

 

 しかし、直撃する寸前に彼女が扇子を前方に出し我力を込めれば激しい激突音が響き回る。そして、本来ならば貫通するはずの攻撃が、開いた扇子によって堰き止められていた。

 

「本来の貴様の攻撃であれば、こうはならんかっただろう。空虚とはいえ、貴様の忠義への想いは大したものだ。後数秒でこの均衡も崩れそうなほどにな……しかし私の言葉で揺さぶられたことで、精神に揺らぎが生じ劣化した様だな。どうやら私の指摘は図星だった様だな?」

「お、おのれ……」

「そして、怒りで周りが見えなくなるから、お前自身の破滅にも気付かない。いや、忠義の自己犠牲故にと言えるか。」

「な、こ、これは!?」

 

 ヴァニラは自身の体を見ると、樹木によって貫かれた穴から次第に皮膚が崩れ落ちている現象を目の当たりにする。

 彼自身見当はつかないだろうが、マシュヤーナの星霊としての権能『腐敗』によるものだろう。彼女は気づかれない様に、敢えて樹木を通して穴から彼をジワジワと腐敗させるのが最初からの狙いと思われる。

 

「が、あ、あァァァッ!」

「どうした、来いよ?お前の主への忠誠をやらで奇跡を実現してみろ。自分の体くらい犠牲にしても構わないのだろう?」

「おの、れ……女、貴様なんぞにィィィィッ!!」

 

 ヴァニラ本体、そしてスタンドがマシュヤーナへと自棄になって襲い掛かる。しかしその程度は想定の範疇であり……

 

「地獄でやってろ」

 

 冷徹にそう言い放ち、死角から樹木がギロチンの様に彼の胴体を裂いた。そして音もなく、腐敗が全身へと回り、ヴァニラ・アイスがこの場から消滅したのだった。

 

 

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