闘技場の中心に玉座があり、そこに初老の雰囲気を感じさせる男がいた。名はスィリオス、かつてマグサリオンが所属していた聖王領域の王だった者。
スィリオスの視線の先から、鎧を身に纏う何者かが現れ対峙する。それは人型の身体をしているものの、顔は単眼であり肌は人外的な色や肌質をしていてまさに異星人と呼んで差し支えない存在だった。
「お前が、ここの王か?」
「好きに解釈しても構わん、と答えておこう。」
「ほう、ならば王と思わせてもらおうか。俺はボロス、全宇宙の覇者だったものだ。この世界の座は、俺が貰い受ける。故にお前を殺す。」
「全宇宙の覇者、か……大きく出たものだな。しかし、だったとは過去の言葉になってるな。」
「そうだ、俺は負けて死んだ。俺の全力を込めたにも関わらず余力を残していたとは分かれば……フフ、わかるだろう?」
「なるほど、それは道理だな。ましてやそう嬉しそうに語る顔をするのならば、さぞや満ちた一戦だったのだろう。」
ボロスの言葉の裏を察し、スィリオスは同意した。同時にボロスの語る表情に喜びが満ちていたのもまた見抜いていた。
「ならば、これ以上の無い満ちた一戦だったのだろう?これ以上の戦闘は蛇足だと思わんのか?」
「思わんな、今度は俺が奴を凌駕し今度は俺が羽ばたく番だ。更なる力を得て、奴の全力を引き摺り出してその上で勝つ!」
「……傲慢にして強欲だな、ましてやそれに恨み嫉みの類も無いときた。あくまで戦いたいだけか、貴様。」
「当然だ、この命を削り合う瞬間こそ俺の求める刺激にして愉悦、そして充実感だ。そこに悪感情なんぞ不純物、俺には要らん。」
「……それで、その充実した戦いのために私を巻き込むか。」
「逃げても構わんぞ、追いかけるがな。貴様が逃げようが殺されようが、俺は更なる相手を探し出すだけだ。」
「いいや、そんな真似はしない。」
「ほう?」
「貴様を相手に尻尾を巻いていたら、奴に笑われるだろうからな。」
そう言いながら、スィリオスは玉座から立ち上がり剣を抜きつつボロスと視線を再び交える。
「名乗っておく、スィリオスだ。お前が戦う理由にするのに充分だろう?私がお前の愉悦に付き合ってやる。」
「その通りだ……スィリオスだな、覚えておくとも。しかしスィリオス、聞いておくがお前の戦う理由はなんだ?」
「私もお前と同じく、負け犬となって退場した端役だ。だが、再び決戦の時があるようでな、その為に己の剣を磨くのも一興だろう?故に……」
瞬間、スィリオスは迅雷の如き踏み込みと同時にボロスの懐へと入り込み放たれる白銀の刺突。それがボロスの胴体のど真ん中に直撃し、闘技場の壁面まで弾け飛ぶ。
「それを脱げ、そして力を解放しろ。それは拘束具なのだろう?私はそう大した男ではないが、全力で闘えぬものを一方的に殺して勝ち気になれるほど無能のつもりはない。」
「ふ、ふふふ……硬いやつかと思えば、思ったよりも面白いことをするではないか、スィリオスよ……」
ボロスは砕けた瓦礫を振り払い、鎧がボロボロと崩れながらそう嘯く。そして、完全に鎧がなくなった直後、その体から眩い輝きと共に彼の内包するエネルギーが放出し始めた。
「ヌ……ゥゥウウウウウウウッッ!!」
「ふぅっ!」
同時に、スィリオスが目を大きく見開くと同時に闘技場の天蓋を覆い余りあるほどの白翼が広がった。直後にスィリオスとボロスの対峙する環境が、闘技場から白銀の地へと変貌する。
それはスィリオスが支配した大陸に匹敵する大きさの純白の鷲にして星霊、即ちウォフ・マナフの背である。ボロスはそれを感知し、かつて自分が乗っていた宇宙船よりも遥かに巨大な存在を意のままに操るスィリオスを改めて殺すべき敵なのだと再認識した。ならばこそ、己の力がどこまで届くのか試さずにはいられない。
「………」
「………」
そして二人は、言葉を交わすことなく白銀の地平で剣と拳を交え開戦したのだった。
「オォォォッ!」
「ッ!」
爆炎と剣閃が交差し、周囲に破壊を散らしていく。激しい拳の連撃がスィリオスに迫るものの、剣が曲線を描いて破壊を散らす拳の矛先を逸らしていく。互いに被弾無し、暴威のボロスと静謐のスィリオスという対極的な激突と言えるだろう。
ボロスは見た目こそ人型であるが中身は人体とは異なるのは間違いなく、故に人の道理に縛られることはなく人体的にあり得ない軌道や攻撃を繰り出す。それはまさに暴獣の猛攻であり並大抵の人間であれば一息で呑まれていただろう。それを乱れることなく正確に剣で受け流すスィリオスもまた当然、並大抵ではない。その剣の軌跡はボロスが感心するほどに流麗で正確な太刀筋であり、誰でも簡単に再現できるものではないと本能で悟ってた。
「素晴らしい、それほどの技巧は俺も初体験だ。」
「感心するのは結構だが、この程度私からすれば容易い。いや、それとも貴様の巡ってきた星々には力を散らすことしか知らん野蛮な者達しかし居なかったのではないか?」
「ふっ言ってくれたな……しかし、それだけではこの俺から勝利は取れんぞ!」
ボロスはそう言い放ちつつ、ワイルドな拳の振り下ろしを繰り出す。しかしそれを見切り、スィリオスはその振り下ろしに対して、回避しつつ交差する形で剣閃を放つ。
所謂カウンター、それによってボロスの腕が斬り飛ばされた。
「甘い!」
「っ!」
ボロスはそう叫びつつ、身体を張る構えをとる。その直後に胴体の真ん中にある瞳を中心に、エネルギー波が火炎放射の如く放たれた。それはスィリオスの後方数十kmにまで到達し、スィリオス、ウォフ・マナフ共々に大したダメージにはならずに済んだ。白煙が立ち込む中、弾け飛んだスィリオスは片膝を立ちつつ起き上がる。
が、ボロスはそれを見越しており白煙に紛れつつ即座に彼の背後へと回り込んでいた。
「背後だ!」
そして彼の後頭部に裏拳を叩きつける。人体的にも致命的な急所への一撃、それによって勝利をもぎ取らんとする。
(……む、手応えが無い?)
しかし拳からつたる感触は無い、肉の感触が伝わらない。それどころか、悪感を得てボロスは本能でスィリオスから距離を取った。
その直感は即座に正しいと悟る。スィリオスに叩きつけた拳に何故か白く薄い輝きが発し、そこからボロボロに腐り塵となって散っていた。それも拳だけでなく、まるで毒の感染のように腕にまで昇り始めている。
「オ、オオォォォォッ!!」
ボロスは叫びながら両腕にエネルギーを集中させ、斬り飛ばされた片腕が再生する。しかしもう一つの腕は再生されず、それどころか消滅化現象が止まらず、咄嗟に肩ごと手刀で切り離さずにいられなかった。
実際、そうしなければ消滅が全身に回っていただろう。それほどまでに、この異常現象は止まらなかった。
「ハァ、ハァ……スィリオス、お前……」
ボロスの見据えるスィリオスの姿、それは見た目的には変化はない。しかし、全身に白い炎が包まれていた。それが異常現象の正体なのだと理解せざるを得なかった。
「愚昧な王の象徴だ、白とは即ち清らかだが、同時に曖昧で薄弱な“無価値”で白痴の色なのだ。」
「ふ、難しいことを言ってるがつまりはお前がお前の価値を認めていないということなのだろう?」
「……そうだ、それを承知で私は邁進している。私の様な紛い物が愚かさを極めた暁に、真なる勇者が生まれるのだ。」
「そうか、そうなのだな……だがな、言わせてもらおう。」
ボロスの問いかけに、スィリオスは淡々と答えた。その返答を聞き届ければ、ボロスはゆらりと身体を揺らす。
「俺はお前の見据えてる勇者なんぞ、知らん。俺が見てるのは、あくまでお前だぞ、スィリオス。」
「……なんだと?」
「貴様の様な男の祈りが、そんな他力本願な紛い物のはずがないだろうッ!!」
瞬間、ボロスの全身から激しいエネルギーの奔流が溢れて変貌し始めた。
「メテオリック・バーストォッ!!!」
そして即座に距離を詰め、拳がスィリオスの腹部へと伸びた。それは白炎が阻み拳が消滅現象で直撃を阻むだろう。
しかし……
「ガァっ!?」
スィリオスは苦悶の声を上げた、ボロスの拳が腹部に刺さったのだ。しかも、それだけではない。
その衝撃と爆炎はそれだけでは止まらない、ウォフ・マナフの頭部まで到達し凌駕し悲鳴を上げるほどだった。果てには大気圏外までに到達し、軌道上にあるのならば月にまで到達するほどだった。
(形態が変わった途端、攻撃の貫通力が上がった!私の白炎では止められないほどに!)
「かつて俺は、俺の全霊が届かない強すぎる男と出会った。」
ボロスは怒涛のラッシュを繰り広げる。それをスィリオスは、白炎と剣戟を交えながら捌くがラッシュを完全に止めることは敵わない。
その最中にボロスは語り続ける。
「奴は互角の戦いを求めていた。しかし俺では底を引き摺り出すことはできず、おそらくこの先の未来でも永遠に叶うことは無いとすら思えるほどにだ。だが、それでも奴は奴で望むものがあり、奴自身の手で叶えようとする姿勢はあった。」
「なんの、話だ?」
「お前にだってあるはずだ、スィリオス!己を踏み台にして勇者を出す?それが本懐なんぞ、ありえんだろう。
ならば何故お前は剣を握りそれを極め、何故王となった!貴様自身の目指す地平があり、己の手で叶える為に積み上げたはずだろう!王とは頂点であり先駆者、理想の体現者が他力本願でどうするというのだ!」
「っ!!」
ボロスの指摘をスィリオスは反論できなかった。こちらにも事情がある、余所者の指摘なんぞ無粋と押し除けることはできたはずなのに。
「ガアァァァァっ!!!!」
「オォォォォォォッ!!!」
ボロスの猛攻に対し、スィリオスも技巧を捨てて白炎を纏った剣戟をひたすらに奮った。ここで引いてはいけない、ボロスと猛攻に真正面から激突しなければならないと。
俯瞰的に見て非合理と自覚している。しかし、理屈を超えて己の胸裏に疼きを覚えた。煮えたぎる溶岩の如く、溢れる想いが確かにあった。しかし、それをうまく出すことがどうしてもできず……
「……無いのか?貴様には、己の手で叶えたい願望が無い、虚無だというのか?」
「………」
「ならば断言しようスィリオス、お前の負けだと。だが俺の全力でお前を葬るとしよう!」
ボロスが跳躍し、彼の全エネルギーが口元へ収縮していく。それはスィリオスとウォフ・マナフだけでなく、眼下の星諸共消え去る。
直感でそう悟り、このままではそうなる運命であると。ならばこちらも全霊を込めて迎え撃つ、それが道理であると考えるが……
(己の価値を認められない私の力で、あれを凌げるのか?)
かつてボロスの実力にすら届かないであろうクインの捨て身の攻撃、それに瞬間的にこの白炎は貫通されて拳が刺さっていた。
そして他ならぬスィリオス自身が、この力は極限に至らず半端な出来と認めている。このままではボロスの全霊を凌げないだろうと。
「崩星咆哮咆哮ォォォッ!!!!」
時間は残酷に進む、スィリオスの葛藤すら振り切りボロスの口から破滅の光線が放たれた。これがそのまま突き進み、ウォフ・マナフ諸共スィリオスに直撃すればこの星諸共死滅していくだろう。
ならばせめて、最大限白炎を展開しようとしたその時だった。
【泣いてることが尊いなどといった幻想を殺したいのだ】
その言葉を想起した直後、思わず笑みが浮かび上がった。
「お前の言う通りだなボロス、俺には俺の求む祈りが確かにあった。それを認められなければ、話にならん。」
直後、スィリオスを中心に瞬間的に世界が開闢した。白炎と同時に光線が消える、即ち幻想殺しの覇道が流れ出た。
「
唖然とした表情へとボロスは変わる、同時にスィリオスの剣戟が直撃する。そこに超常的な威力も異能も無く、まして刃がたってない不殺の一撃。しかしボロスは白銀の大地に倒れ込み、立ち上がれなかった。だが……
「……………それがお前の全霊か、スィリオス」
「ああ」
殺し合いの場における不殺、手加減以外の何物でも無いはずにボロスはそう問いかける。しかしスィリオスの応えは短くも重く確かで、それを確信してボロスは笑みを浮かべる。
「なるほど、今ならばお前の気持ちも少しはわかる……己を倒した相手の顔がこうも冴え渡ってるのならば、やられ役も存外、悪くないな……」
そう言い残し、笑みを浮かべながらボロスはこの場から消え去っていった。
その姿を見届けるスィリオスの顔は、見た目もそして表情も若々しい少年の如き笑みを取り戻していた。
ボロスが全力で戦えて、納得のいく終わりならこんな感じかなと思いました。そして未完版無価値の炎は、こんな感じに脅威ではあるけど一歩及ばすって感じなのかなって。