マグサリオンの殺戮道場   作:ヘル・レーベンシュタイン

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今更ながら、明けましておめでとうございます。そしてタイトルでお察しの通り、例の人が今回の相手です。そしてそれに合わせていろいろ変わります。


第七陣Ⅰ 黄金の獣

 

 

悪の楽土たるこの闘技場、その中心を陣取るのは凶剣マグサリオン。殺戮の地平を世界に刻み、己の殺意の純度を鈍らせぬために数多の敵と殺陣を成す事こそが目的。

来たる決戦、それに備えた予行演習と言えるだろう。その過程で、かつての第一神座では出会った事の無い益荒男達と剣を交えてきた。だが今宵、対峙する相手は全てにおいて違う。かの神の井戸端会議で相対した者であり、今までの益荒男達とは根本から似ておきながら異なる。戦場を多く宵闇が割れ、黄金の神眼がマグサリオン……否、彼を中心として渦巻く“みんな”を一纏めにして射抜いた。

 

『失敬、いつまでも決戦の時が来ないので焦らされてしまったよ。端的に言おう、卿を魂の限り”愛したい”。我が愛は破壊の慕情、なればこそ魅入る強者を目の前にして、来たる時が来るまで我慢せよとは興醒めが過ぎるということ。故に、付き合ってもらおう“無慙殿”よ。』

「……はッ、我慢の効かん男だな。要は冷めた心を燃やしてくれと懇願しているのだろう?」

 

天の瞳を見上げながら、マグサリオンは失笑を交えながら傲岸にそう言い放つ。そしてそれに連動して、周囲に漂う“みんな”もまた同様の思念を黄金の覇気へと敵意を向けながら放ちこむ。即ち、この時点で鬩ぎ合いが発生していた。

その現象を前に、黄金の瞳は愉悦と歓喜が孕む。その殺意、敵意、そして神威が愛おしいと。それに応えるように、マグサリオンの周囲に渦巻いてた混沌の総軍が形を成してマグサリオンの身体に纏い始めた。それは次第にマグサリオンとは似て非なる存在を作り上げ、それが黄金と同じ次元まで昇華させていく。これこそが無慙という神の正体、神座についたのはマグサリオンであってマグサリオンの別人格。敢えて名義をつけるならば『外装人格』という擬似覇道神である。

 

『これでも紳士として嗜みは弁えてるつもりだとも。だが、娯楽無くして魂と精神の淀みは拭えぬ。それは無尽の殺意を纏う卿もまた同様と思うが如何かね?』

「釘を刺しておくが、俺はお前と違って殺しに淫しているわけではない。お前達に分かりやすく言うならば食事や排泄と同じ次元の行為であるだけだ。」

『結構、それでも共に踊ってくれると言うならば相手にとって不足無し。むしろ趣味が異なるから力不足と断ずることなんぞ、侮辱に等しいだろう。我が破壊の愛に反する理念だとも。』

「好きにほざけ。どの道、貴様のような屑を見過ごす道理なんぞ無い。どこまでも茶番の空間とはいえ、無慙の所業をやり直すことに相違ない。ならばこそ、貴様の命を此処で取る。」

『ならば、これを以って開戦の号砲を挙げよう。卿に我が愛を示そう、神座の先達たる無慙殿よ!』

「いいだろう、褒美に貴様に敗北という名の死をくれてやる!」

 

その刹那に、神の理が流れ出した。天地開闢が成され、宇宙の色が変わっていく。その神座を両者が謳いあげる。

対峙する神と神、黄金の覇気を流す金髪の軍人と、殺意の覇気を流す漆黒のスーツを身に纏う剣士がそこに居た。そして互いに視線を交わし、己が世界を宣誓する。

 

修羅道黄金至高天(Du sollst Dies irae)

堕天無慙楽土(Paradise Lost)

 

此処に、破壊の宇宙と混沌の宇宙が激突する。

 

 

 

 

「おおおォォォッ!」

 

聖槍と神剣が宙の中心で激突し、それに連鎖して無慙と黄金の総軍が戦況を作り上げる。まさに混沌の激突、宇宙規模の大戦争が星々を蹂躙していく。

 

「ああ、何故だ。何故耐えられぬ。抱擁どころか柔肌を撫でただけで、なぜ砕ける。何たる無情ーー森羅万象、この世は総じて繊細に過ぎぬから。

我が愛は破壊の慕情、愛でるためにまずは壊そう。壊れ果てるまで愛させてくれ、私は全てを愛している!」

 

その口から奏でる旋律は、破壊への礼賛。黄金の覇道に染め上がった総軍は、総じて修羅の軍勢。戦争に長けた人種が集まっており、その全てが髑髏。しかして有象無象の集まりではなく、武器を利用する躊躇いのなさ、個々人の連携、そして総司令たる黄金の戦略眼の抜け目なさ。それら全てが総じて次元が高く、まさに宇宙最強の総軍と言っても過言ではないだろう。

 

「善ではない?ならば結構、俺は悪を喰らう悪となる。

故に、ありのままに欲望を成せ。奪い、犯し、快楽の果てを追求するのが生きるということ。罪を抱いて罰に生きろ。我が継嗣、我が堕天の園に生まれる命は美しく在れ。発展を目指し、繁栄を成し、だが日々の喜びを無碍にするなかれ。どうということもない日常の中にこそ、おまえたちの真なる宝が存在する。」

 

その口が叫ぶのは無慙の核たる凶剣の冥府魔道とは異聞たる渇望の宣誓。無慙の宇宙に染め上げられた者らは、総じて悪辣なる総軍。如何なる悪業にも無慙無愧。己の勝利のためならば裏切り、犠牲、加虐に躊躇いなく。それどころか修羅の理に染まれば即座に生みの親である無慙に向けて刃を向けて、返り討ちに合う始末。そしてそれらを統括する無慙は彼らを見据えはすれど放置であった。あくまで頂点として君臨すれど、黄金と違って管理や指揮は一切しない。まさに悪辣なる宇宙、黄金とはある種において似て非なると言えるだろう。

だが、両者を見据えて分かることは、やはり覇者としての資質。火を見るまでもなく、黄金の方が司令として、そして神として手練であること。事実、総軍によるぶつかり合いは黄金の方が有利になっていた。単純に数字で比率を表すならば、黄金が80%に対し無慙は20%という子供でも分かるレベルで劣勢である。

 

「ふむ、卿のその在り方もまた愛おしいが、この場においては裏目と出たな。殺しのスペシャリストが、戦争に於いて優秀な働きをするとは限らない。故に、このような結果になるのは自然といえよう。」

 

そう言いながら黄金が手を挙げれば、髑髏の軍勢が陣を組み始める。修羅道において数多の物質を構築するのは、すべて髑髏でありそれこそが黄金によって取り込まれたみんなである。その総数は数百万と一つの宇宙でありながら少ないが、それでも個々の純度が高いために決して覇道神として劣りはしない。

 

「第三十六ーーSS擲弾兵師団(ディルレワンガー)

 

無慙の宇宙へと、数万を超える髑髏の兵士が銃剣に代わり堕天せし悪鬼共を串刺しにしていく。そしてそのまま進撃し、奥に君臨する無慙へと迫っていった。

しかし、それを上段から振り下ろした剣戟一閃で全て両断。その攻撃を見て、黄金は感嘆の表情を浮かべる。

 

「だから指示をしろとでも?くだらん、それはお前の趣味だろう。他力本願は好みではない、我が継嗣は好きに暴れさせる自由がある。誰だろうと俺のやり方にケチを付けさせる気はない。」

「ふふ、面白い……ならば卿のそのやり方がどれ程の光景を見せてくれるか楽しませてほしい。ああ、失望させないでくれよ?」

「ああ、存分に味わって死ぬが良い。」

「ならば、遠慮なく」

 

そして黄金と無慙が、同時に距離を詰めた。まず放たれたのは無慙の刺突、それはこの場にいる殺意全てが糧となり、更に意識の間隙を掻い潜った暗殺剣。それが黄金の喉元へと迫り死線を実感した黄金、しかし戸惑う様子もなく聖槍を旋回させる。

そして刺突を受け流し、即座に無慙の身体の中心に向けて今度は黄金が刺突を放ち込む。体勢を崩された無慙、しかしおよそ人間とは思えないような案山子の如き奇妙な動きで刺突を回避。直撃せず肩を掠っていった。そしてその絶妙な体勢のまま無慙は足払いの剣戟を放つが、黄金は直感一つで跳躍して回避。そして同時に体勢を直して鍔迫り合いが再開した。

 

「ほう……」

「チッ……」

 

黄金は楽しそうに笑みを浮かべる反面、無慙は尚も殺意に満ちた顔を見せている。

黄金の背後で無数の髑髏が集まり、黄金色の巨大な髑髏が聳え立つ。そして司令塔たる黄金が手を下ろせば、銀河を飲み込んで余りあるほどの破壊光線が髑髏の口蓋から放たれる。それを無慙は横薙ぎに剣を振り払い、霧散した光線が周囲の星々、そして両者の総軍へと直撃する。

続けて髑髏の中から戦車、戦艦、そして銃火器を持つ軍勢が無慙に向かって火砲を放つ。その最中、黄金が語りかける。

 

「さて、せっかくの機会だから少し色々語ろうか。そうさな、仮にも男二人。ならば婦人について秘密裏に語るのが嗜みというもの。例えばそう、真我殿とかな。」

「下らん、あの女を話題にして碌なことがあるのかよ。」

 

無慙が剣を振り上げる、髑髏の軍勢は勿論のこと修羅の理に染まった悪童諸共。ならば無慙が弱体化するかと思えばそんなことはない。何故なら、彼の第一戒律は殺意を糧に力を変換することだけでなく、殺意が途切れない限りは無限に他者と言う名の『みんな』が生まれ出でる。故に己の攻撃が継嗣に巻き込まれることに躊躇いはない。

ならば黄金の総軍が減り続けると言えばそんな事はない。何故なら、彼の理の本質は即ち不死。故に司令塔たる黄金が死なぬ限りは、何度でも不死の英雄は蘇る。

そして、その激突の最中で二人は真我について話を交えようとしている。鉄火と剣戟を交えながら。

 

「何、別段恋愛に関しての話題ではない。これでも軍に所属していたのでね、彼女の戦力的評価を卿に聞いてほしいのだよ。」

「何かと思えば……良いだろう、聞かせてみろ。」

「ああ、ならば結論から先に語ろう。我ら覇道神の中で真我殿こそが最弱、しかし彼女はそれだからこそ価値があるとな。」

「ほう、それは……」

「無論語るまでもなく、侮蔑的な意味は含めてないとも。寧ろ、その位置にいるからこそ、彼女は恐ろしい女だとな。

そうだな、強弱を話す上でやはり数字を使う方がわかりやすい。」

 

そう言いながら黄金は指を一本伸ばし、まるで座学でもするような口調で話を進める。

 

「波旬は規格外故に除外、次点で刹那が100、カールが90、女神が85、私と明星殿が80、そして卿が75であり、真我が70……と、数字で戦闘力を指すならばこんなところだろうかな。」

「ほう、将として兵力の査定には長けているとでも?」

「然り、その手の眼の良さはあると自負している。そして、本来であれば卿が神としての力は最弱になり得るだろうが、そのリスクを背負ってるからこそ卿は下剋上をなし得る力を有していると見える。故に、75という数字もあくまで起点。そこから何かをきっかけに、あの波旬の指を切り落とすに至るほどの振り幅がある力を持っていると見た。

しかし、真我殿にはそれは出来まい。そもそもからして恐らく武力面は我らに劣り、総当たりをすれば全敗は確実であろう。だが……」

「そうした最弱の座に居るからこそ、最弱者としのみ可能な特権があると言いたいわけか?」

 

食い気味に無慙が言葉を挟み込む、それを聞いて黄金は肯定するかのように笑みを浮かべる。そして剣先を黄金に向けながら、無慙は言葉を繋げる。

 

「貴様のご高説をいつまでも続ける気はない、要点を早く言ってみろ。」

「ふふ、良かろう。察するに、戒律という力が第一神座の者らに恩恵を与えてるのならば、その始祖たる真我こそ原初の戒律を持っていてもおかしくはあるまい。そして曰く、破戒は死に直結する。それは文字通り死ぬか、あるいは死に匹敵するほどの挫折的で悍ましい未来が訪れるかという意味だろう。

ならば、真我もまたそうした別の力を持っていると私は見る。端的に言うならば場外乱闘……それは破戒のごとく、直接的な戦闘とは無関係な展開において無双の力を発揮する。それを覇道に乗せて周囲を巻き込むとなれば……」

「例え覇道神であろうとも、どれほど乖離した力を持とうと場外乱闘で挫折を味わわせられるかもしれないと?」

「そういう事だとも。それはきっと私達は勿論、真我本人の予想をも超えた絶望の未来。しかし、彼女にとっては想定外こそが予定調和。故に場外乱闘こそが彼女の真価が発揮される……と、私が推測する彼女の評価だが如何かな?」

「……ふん、よくそこまで考えたと褒めてやる。実際、決して全てが間違っているとは俺は思えん。思い当たる節も無くはない……だがあの場で言ったとおり、俺は真相は知らん。それこそお前が本人に突撃して、確かめれば早い事だ。」

「ふむ、それは確かにその通りであるな。」

 

無慙の指摘を受けて、黄金は感心したような口調で納得した。そして話が終われば、今度は黄金が聖槍の穂先を無慙へと向ける。

 

「さて、真我殿の話はこれで終わりだ。彼女も彼女で魅力的だが、やはり今は卿が実に魅力的だ。神としては劣りながらも波旬の指を斬り飛ばすほどの武、激らぬわけがない。ああ実際、今も尚止まらぬほどに膨れ上がる殺意が我が身を焦がしてくれるッ!」

「戯言抜かすな、貴様の趣味に従順する気は無い。この茶番もすぐに終わらしてやる、そのまま見惚れたまま死に果てるが良い」

 

冷徹に無慙がそう言い放てば、髑髏の兵士の間を瞬時に潜り抜けて黄金の懐まで一気に距離を詰める。そしてそのまま剣閃が下から跳ね上がるが、巨大な髑髏が守護するように前へと立ち塞がる。

しかし、剣閃がその巨大な髑髏を一振りで両断した。その先にいる黄金諸共、と思われたが崩れた髑髏の中で槍を構えて剣戟を防ぐ黄金が堂々と立っていた。その直後、黄金の身に纏う霊圧の色が変わる。それを見据えて、無慙が呟く。

 

「真我に最弱の特権があるならば、貴様には覇者としての特権があるというわけか。良いだろう、出し惜しみするなよ。その程度乗り越えれねば、無慙の所業をやり直すなんぞ夢のまた夢だ。」

「良かろう、これほどの益荒男を前に我が愛子らも交えてもらわねば無作法というもの。謳おう、ともに素晴らしき歌劇を。今我らこそが世界の中心にいる。」

 




今回もかなり分けて公開する形になるかもしれませんね……どのくらいで決着がつくか予想がつきません。
そして真我に対する考察ですが、あくまで予想という形で解釈していただければ幸いです。
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