東リベ世界にチート持って転生するだけ 作:悪心
俺の名前は花垣武道。どこにでもいるただの転生者だ。
そしてこの世界は恐らく東リベと呼ばれる作品の世界で、更に俺はその作品の主人公に憑依転生した形となる。
俺はある日、上位存在と接触してしまい、強制的にソイツに異世界転生をさせられることとなってしまった。
転生先は完全ランダムで、しかもチートはデメリット付きのものをランダムで付与。転生させられる理由としては娯楽目的らしい。ふざけんな。
どうしてこうなった!正直、俺は東京卍リベンジャー…東リベについては全くと言っていい程知識がない。分かる事と言えば不良系漫画という事くらいだ。それ以外は何一つとして分かっていない。
主人公というくらいなのだから、何かをしなければならないのだろう。しかし俺は一体何をすればいいんだ?生まれはごく普通の一般家庭だし、特別な血筋とかそういう分かりやすいフラグはどこにもない。チートを除けば俺は本当にただの一般人だった。
何も分からないまま幼稚園、小学校、中学と時間だけが刻一刻と過ぎ去っていき―――俺は悟ったのだった。
うん、無理これ。もう諸々気にしないで生きていこう。
そもそも原作知識が皆無なのだ。俺がここに存在している時点でもう原作崩壊は回避不可能。すなわちなすすべ無し。なら、考えても仕方のない事を延々と考え続け、気にし続けるなんてあまりにも無益だ。
お陰で、既に俺という存在自体、恐らく原作の主人公『花垣武道』と全くの別人だろう。
確かおぼろげな記憶だが、『花垣武道』は金髪だった筈だ。しかし今の俺は普通に黒髪。
しかも不良をしておらず教室の隅っこでオタク談義に花を咲かせる、どこにでもいる無個性の中学生なのだ。不良漫画で主人公が不良な訳がないし、恐らく完全に原作とは乖離してしまっているだろう。
でも、これで良いのだ。俺は完全に開き直った。別にファンタジー世界でもあるまいし、主人公の一挙手一投足で世界が終わるみたいなトンデモエンドが待ち構えている訳ではあるまい。
あくまで現実でのドラマが題材の作品ならば、俺は折角だから原作に一切関わらずサラリーマンエンドを選ぶぜ。
「花垣、何ぼおっとしてんだよ」
「ガッシュベルの最新話見たかって聞いてんだよ、花垣!」
「んあ?ああ、見た見た。エウレカセブンも見たし蟲師も見た」
大溝中学校の夕方の教室。俺はそこでオタクライフを謳歌していた。
何せ今は2005年。2005年と言えば、地獄少女やエウレカ、蟲師やアイシールド21等々、名作アニメがバンバン登場しまくった時期なのだ。
リアルタイムでそう言った名作たちを追えることのなんと幸せなことか。不良?神の娯楽?はっ、しったこっちゃないね。
ちなみに、今話してるオタク二人組は恐らく完全にただのモブだろう。何せ一方はガリでもう一方はデブ。不良漫画じゃカツアゲされるくらいしか存在価値のない奴らだ。
しかし中々気の合う奴らでもあり、俺は普通に仲良くしている。というか、このクラスで趣味の合う奴らがこの二人しかいなかったって言うだけだが。
「おーい、そろそろ帰ろ」
と、ぺちゃくちゃとアニメ談義を続けていると後ろから声をかけられた。見てみると教室のドアから俺の幼馴染である橘日向が笑顔で覗き込んできていた。
「おー、今行くー。つーわけで、悪いなお前ら」
「くそっ、ズルいぞ花垣…リアルで幼馴染とイチャコラしやがって…!」
「橘さん、こいつ今日プールの時間に女子にエロい目向けてました」
「おい、有ることない事言いふらすなよ」
いらない事を言い始めたデブを小突いて、俺は日向と合流する。
「悪い、待たせた。行こうぜ日向」
「うん!」
歩き出して、日向が俺をじとっと見てきた。
「そ、れ、で?さっきの話、気になるなぁー、なんて」
「田島のいつもの戯言だよ!大体、中学生みたいなガキにエロい目なんて向けられる訳ねえだろ」
ちなみに、田島とはさっきのオタクコンビのデブの方だ。
「…そっか。別にそれだったらいいんだけど」
「…なんか、拗ねてませんか?日向さん?」
「つーん」
今時つーんとか口で言う子がいるとは…恐ろしい子、日向!
さて、この橘日向…恐らく彼女は、原作の登場人物の一人だと俺はあたりを付けている。
何せ滅茶苦茶可愛いからな。顔の良い奴は大体原作キャラの可能性がある…っていう推測は、暴論かもしれないが割と的を得ていると思ってる。
この子との馴れ初めは、小学生の頃にまでさかのぼる。中学生に虐められそうになったのを偶然見かけ、助けに入ったのがきっかけだ。
それ以来何かと話をするようになっていって、今では幼馴染と言っても過言ではない仲になっている。
正直、最初は打算があった。その頃の俺といえば、原作キャラとはなるべく関わって、物語の輪郭を少しでも得ようとしていた時期だったのだ。彼女と接することで何か物語の根幹を知れるかもしれない…そう思って近づいた。
でもまあ、今では割とそこら辺はどうでもいいと思うようになっている。開き直った俺にとって、この橘日向は可愛らしい幼馴染であり友人なのだ。
しかし、最近では毎日一緒に登下校するようになってきて…なんか、距離感が徐々に近づいてきている気がするが…自意識過剰だったら恥ずかしいし、今は気にしないようにしている。
「…あ、あの!武道君…今日これから暇なら、ちょっと寄り道していかない?」
「ああ、いいぞ…っと、すみません」
夕日に顔を染めてそういう日向に、俺は軽くうなずいた。その時、どん、と肩をぶつけてしまう。
「ちっ…」
おっと…?不味い。
俺が不幸にも肩をぶつけてしまったのは、この溝中の不良4人組と呼ばれている面々だった。
不良については昔取った杵柄と言ったところか、あらかたリサーチしていて名前くらいは知っている。千堂敦、山岸一司、山本タクヤ、鈴木マコト。
そいつらはぶつかった俺を睨みつけて舌打ちをする。そしてその時やっと気が付いたが、そいつらはボロボロだった。顔中はれ上がってるし、腕や首などに青あざが大量にできている。
喧嘩してきたのか?それにしては随分と酷いやられようだ。こいつらは不良とは言え、そこまで過激な活動はしてなかったはずだが…俺は不審に思いながらも、日向を背に隠して前に出た。
「…気ぃ付けろ」
しばらくにらみ合いが続き、千堂敦が吐き捨てるようにそう言って歩き出した。
「…なんか、怖かったね」
「ああ…なんも無くて良かった」
服の裾を摘まんでくる日向の頭を撫でて、俺も視線を切って歩き出した。
7月5日の事。思えば、この時から既に事態は動き出していたのかもしれない。しかし、当然俺にそんなことを察知できる程の知識も頭もある訳がなく、俺は感じていた違和感をすぐに忘れ、日向との会話を再開させたのだった。