ソードアート・オンライン 赤色の記録   作:Aa_おにぎり

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#50 星に願いを

「はぁ…はぁ……」

 

階段を登る三人は半分ほどまで辿り着いていた。すると直後にユージオが新たに気配を感じた。

 

「ーーーっ!誰か来る!!」

「「えっ?!」」

 

すると北側からジェット機のような音と共に近づいてくる赤い光を見た。

 

「あれは……」

 

その赤い影は速度を殺して、キリトの真後ろを通ると僕達の前に立った。目の前に立つ青年、ブレイドは言った。

 

「手を出せ」

「え?あ、うん……」

 

再会の返事すらせず、ブレイドは僕たちの手を取る。するとアスナを置き去りにする勢いで今までにない程早い速度で地面から足が離れる。

 

「え?あ、ちょ……!!」

 

されるがままに飛び、ブレイドの背中からは蝙蝠のような羽が生え、バタバタと羽ばたくとユージオ達は落とされないようにブレイドの腕をこれでもかと強く握っていた。その時、キリトと戦っていた敵がブレイドに気付きキリトを無視して接近しようとしたが、キリトに行手を阻まれていた。

 

「チッ、気づいたか……ユージオ、アリス。このまま果ての祭壇に行って君達を外に出す」

「ブレイドは?どうするの?」

「キリト達を待つ!だが最優先は君達だ」

 

階段を何段も飛ばしながら飛んでいった。

 

「(なんとか持ち堪えてくれ……キリト)」

 

そう願いながらブレイドは階段を飛び上がっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

なんと言う全能感か。なんと言う力か。心意と言うものは何でもできる。それこそ神にすらなれる素晴らしいものだった。だからこそ、今この力を試したい。目の前にいる小僧を切り刻み、その魂を堪能する。この力を活かすチャンスが目の前にあったのだ。

 

 

 

 

 

目の前の、もはや人ではない何かへと変貌した敵を、俺は見た。人から神へと変わったのだろう、もう彼に叶う力があるのだろうか。

その異様な雰囲気にキリトは覚悟を決めた。

 

このアンダーワールドはあの茅場明彦が望み、創ろうとしていた理想郷。真の異世界。外の世界で衰弱することもなく、永遠と現実世界から逃れて、人生を終わらせる事ができる。そこにとどまり続ける事ができればいっその事……。

 

そう思ってしまうと不意に少女の声がする。

 

『ーーだからってそこで諦めると?』

 

現れたのは牧奈だった。その時、自分の背中に新たに一本剣が添えられていることに気づいた。それはブレイドが使っていた流星のサーベルだった。すると空に一本の流れ星が流れる。

 

『君は心を理解できないと思っているのなら。それは大間違いだよ。本当に心を理解できない人ってのは他人がどうなろうと平気で無関心な顔をすることが出来る人を指すんだよ』

 

すると再び別の声がする。それは今階段を登るユージオの声だった。

 

『でも、君は違うでしょ?人が痛むと心が痛む。君のしようとしている事で悲しむ人がいるのを知っている』

『相変わらず君は優しすぎるんだよ。全部背負い込もうとする悪い癖が出来ている。ブレイドの悪い所を真似ちゃダメだよ』

 

呆れたように少女の声は聞こえ、ユージオと変わる変わるで話しかける。

 

『君が離れたくないと思っているのはそれは自分のためじゃない。それは、ここで生きている人たちを見て来たから。別れるのが寂しい、悲しいと感じるからだよ』

 

二人にそう言われ、キリトは思わずこの世界で会って来た人たちの顔を思い出す。

 

『でもあの男は違う』

『そう、あの男こそ心を知らない。理解できない。だから求める。奪おうとする。壊そうとする。それはつまり……』

『『恐れているから』』

 

二人の声がそこで合わさった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ようやく恐怖したか。

 

ガブリエルは目の前の少年を見てそう感じる。彼にとって唯一感情を共感できるのが死にゆく者の絶望と恐怖だった。幼き頃、自宅の裏の庭でアリシア・クリンガーマンを殺したあの日から、ガブリエルは魂の煌めきを求めて多くの人を手にかけてきた。しかし、それで満たされることはなかった。アリシアの額から抜けたしたあの光を見ることは無かった。その代わり、恐怖を味わってその渇きを癒してきた。

 

あれほど自信に満ちた少年の絶望の味はどんなふうだろうか。それが楽しみで仕方がなかった。左手を持ち上げ、小さな黒球をいくつも出現させ、南風のように唸らせる。指を振り、極細のレーザーが少年のあちこちに刺さる。

そしてガブリエルが虚無の剣を刺し、少年の上半身。重要な部位である心臓を掴んで引きちぎる。それと同時、少年は地面に落下し始める。そんな少年にガブリエルは囁く。

 

「お前の感情、記憶、その心と魂……その全てを喰らってやるぞ」

 

ガブリエルは林檎を齧るように千切った心臓に歯を立てる。

 

ザリッ!

 

その後感じたのは少年ではない誰かの血だった。そう、その心臓にあったガラスの欠片が私の口の中で暴れたのだ。

 

「そんな…ところに、心も、記憶もあるのか。体なんか…ただの器だ。そうだ、思い出は…いつもここにある……!!」

「っ!!」

 

逃がさない。

 

キリトは一瞬の隙をついて両手の剣を左右に広げ、鮮血を流しながら叫ぶ。

 

「ーーーリリース・リコレクション!!」

 

純白と漆黒が同時に炸裂した。

幾多もの蔓がガブリエルを包み込み、そこから逃れることはできなかった。そして、まっすぐ掲げられた夜空の剣からは……

 

強大な闇色の柱が天へと起立した。

 

轟音と共に伸び上がる漆黒の光は遥か上まで昇り、四方八方へと広がる。

 

それは虚無な闇ではなく、滑らかな質感とわずかな温度を持つ……

 

 

 

無限の夜空だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「これが…人の持つ『意志の力』と言うべきか……」

「……(お願いだ、キリト…)」

「(これはキリトの…剣の力なの……?)」

「…キリト君……」

 

階段を数段跳びしながら登るブレイド達はふと呟く。果ての祭壇まで後少しと言うところでその光景に思わず歩みを止めてしまいそうになる。その視線の先、夜空の剣を掲げるキリトを見てブレイドは思わざるを得なかった。

 

「なんと美しい光景だ……」

 

その景色に誰もが目を向けていた。

 

 

 

 

 

その光景はアンダーワールドの各地から見えた。そして、その先にいるであろう少年を知るものは思い思いに自分の願い、気持ち改めて示す。

その想いは星々の輝きとなり、夜空を彩る星となる。やがて想いや願いは一つの光となり、一本の剣に乗せられる。

 

『ーーーーーーっ!!』

 

ガブリエルは虚空を切り、絡まっていた蔓を解くとそこでようやく空が変わっていることに気がついた。

 

 

 

 

夜空の剣の記憶を開放した時。キリトは脳内にユージオとアリスの言葉が響いていた。

 

『なんか暖かい黒だな…そうだ、名前は夜空の剣にしよう。多分、キリト達もいいって言ってくれるだろうし』

『良いんじゃない?流石はユージオ』

『そうかな?』

 

剣から迸る夜空は無数に流れる星達によってさらに輝く。夜空の剣の力は広範な空間からのリソース吸収。しかし、これはただのリソースじゃない。人の思いが詰まった、祈りの、願いの、希望の力の詰まった光なのだ。

 

そして、流星のサーベルとも似た力を持つ。まるで異母兄弟のような剣であった。

 

生まれは全く違うが、能力は似ている。すると背中の流星のサーベルは先まで使っていたプレイヤー達の天命の余剰分を夜空の剣に流し込む。虹色の刀身がさらに強まり、光が埋め尽くす。

 

「お…おおおおお!!!」

 

キリトは二本の剣を持って大きく広げ、叫んだ。

 

『くぁw瀬drftgyふじこlpーーー!!』

 

もはや完全に人から逸脱したガブリエルはそんなキリトの剣を見て謎の咆哮をする。右手を握るとそこに闇の触手のようなものがキリトに多数接近する。

 

「……おぉ!!」

 

その攻撃を光の壁で霧散させ、コートの裾いっぱいに翼を広げ、ガブリエルに急速に飛ぶ。

 

「う……おぉぉぉおお!!」

 

使うのは二刀流、連続十六回攻撃《スターバースト・ストリーム》。

星の光で満ちた剣が軌跡を描いて打ち出される。同時にガブリエルの三対六枚の翼が真っ向から襲いかかる、

 

「うぉぉおおおお!!!」

『ーーーーーーーっ!!』

 

咆哮しながら二人は正面から激突する。どこまでも剣を加速させ、二刀を振るう。

ガブリエルも絶叫しながら刃を撃ち返す。

 

十撃。

十一撃。

 

激突し放たれるエネルギーが飽和し、稲妻となって轟く。

 

十二撃。

十三撃。

 

胸中にはもう恐怖は存在しなかった。怒りも、憎しみも、殺意もない。純粋な祈りの力だけが今の自分を動かしていた。

 

ーーこの世界の、

 

十四撃。

 

ーー人々の輝きを、

 

十五撃。

 

ーー受け取れ!!ガブリエル!!

 

最後の十六連撃目はワンテンポ遅れる上段斬りだった。

その隙をガブリエルは逃さなかった。

 

「(っ!しまった……!)」

 

腕を切られるを感じた。敵から伸びる黒翼がキリトの左腕にあたろうとした時。

 

ーーキィンッ!

 

そこに甲高い音が響く。その先には中に浮き、ガブリエルの斬撃を抑える一本のサーベルがあった。それはブレイドの使うサーベルだった。するとサーベルから幻影が現れる。それは今まで自分を励ましてくれた。ブレイドの幻影、もう一人のブレイド。牧奈だった。華奢な腕に似つかない力で彼女は斬撃を抑え込むとこちらを振り向いた。

 

『さぁ、今のうちに!キリト君!!』

「ーーありがとう…牧奈ちゃん…………うぉぉぉおおおーーーーーー!!」

 

異母兄弟とも呼べる剣が互いに支えたってできたこの攻撃。その一発にキリトは剣を握りしめる。十七撃目となった幻の攻撃はさらに眩い輝きを見せる。夜空の剣と、青薔薇の剣を満たす星の全てが虹の波動となってガブリエルの胸に流れ込む。

 

「クハハハハハハハ!!無駄なことを!一滴残さず飲み干し、喰らい尽くしてやろう!!」

「できるものか!人の心の力をただ恐れ、怯えているだけのお前に!!」

「ならばこの場で見せてやろう!ハハハハハ!!ヒィハハハハハハーーーーーーー!!」

 

剣に込められた心意を堕天使は飲み込もうとする。だが、次第に笑い声はうめき声と変わっていった。

 

「ハハハハハハハハハ!!ーー……グ、グオォぉおおぉォおお!!!」

 

悲鳴を上げる堕天使は体から虹の光を見せ、何かが割れる音と共に光は徐々に姿を表していく。

 

「嗚呼あぁぁぁぁぁぁあああぁぁああーーーー!!」

 

その無機質な声はただの高周波でしか無くなり……。

 

 

 

 

 

恐ろしい規模の光と共に爆発し、螺旋を描いて天まで駆け上った。

 

 

 

 

 

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