今年もよろしくお願いします。
二〇二六年七月二六日 午前七時
六本木のラース研究所で比嘉と凛子が調整をしていた。
「凄いっす。これはもう芸術品の部類っすよ」
比嘉がそう言いながら後ろで爆睡する青年を見る。その青年はくっきりと隈が出来上がり、死んだ様に眠っていた。それだけで相当疲労が溜まっているのがよくわかる。
流石に生命に危険を感じて強引にソファーに押し込み。最後の調整はこっちでしていたが、その中身はとても精巧に作られており、文字通り
国の事業ということでもあり、生産性度外視で作れる為。彼の持つ技術の全てがそこには刻まれていた。とてもじゃ無いがこれを常人が理解することはまずできないだろう。何せ……
「ひぃぃぃ!!頭がイカれそうっす!なんっすかこのマニュアルの量は…!!」
あの比嘉くんでさえこの状態だ。余程の一品だと言えよう。
そして渡された辞書見たいな量のマニュアル通りに二人がかりで調整すること数時間。
「んあ……」
後ろでアイマスクをしながら爆睡していた修也が目を覚ました。何日も徹夜して出来上がっていたご立派な隈はすっかり消え、元気そうな顔色をしていた。あぁ、若いってすごい羨ましい…何日徹夜しても数時間寝るだけでこうなるのだから……。
「あ、おはよう御座います。如何ですか…神代博士?」
起きて早々にこれである。もう既にだいぶ毒されている気が……
なんて事を思いつつ、私は返事をする。
「ええ、終わったわ」
「そうですか……じゃあ、すぐに始められますか?」
「え?でも起きたばかりじゃ……」
「大丈夫ですよ。それに、
そう言い、修也は視線を右の方に向ける。そこには二つの立方体の二つのキューブがあり、それを見た凛子は納得した表情を浮かべた。私はそのキューブを取ると機械の定位置に嵌め込んだ。吸い込まれるようにキューブが機械に収納されて蓋がされ跡形もなく綺麗に消えると修也が呟く。
「さぁ、おはよう二人とも…」
すると真っ白だった機械に色が付き始め、閉じていた目が開く。パチパチと目を瞬くと二人はキョロキョロと辺りを見回すと修也が再び声をかけた。
「久しぶりだな…ユージオ、アリス」
すると呼ばれた二人は驚いた様子で修也を見ると名前を呼んだ。
「「ブレイド!?」」
咄嗟に飛びかかろうとしたが、修也が右手を出して静止させる。
「おっと、飛び掛かるなよ。流石に重くて押し潰されるからな」
「あ、ご、ごめん…」
そう言い、二人を静止させると修也は二人の体を見て小さく頷く。その目は満足そうだった。
「よし、足も問題ないな……」
「そう見たいね」
するとユージオが凛子を見てブレイドに聞いた。
「ブレイド、この人は?」
「ああ、紹介するよ。この人は神代凛子博士。私より偉い人だ」
「偉いねぇ……まぁ、でもよろしく。アリスさん、ユージオさん」
そう言い、挨拶をすると二人もやや慌てた様子で答える。
「よ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
そう言い、軽い挨拶を終えると自分は歩き出す。
「じゃあ、二人とも。外に出てみようか……」
「分かった」「了解しました」
そう言うと二人は慣れた歩き方で研究室を出る。それを見た凛子は二人を見ながら思わず考えて事をしてしまっていた。
「(本当に人なのね……)」
そこで凛子は修也から聞いた彼らに対する価値観というものを思い出していた。
『自分を含めたSAO帰還者は、あのインターネット世界で過ごした過去からNPCにも
だから、自分はあのアンダーワールドを設計した時にここは異世界なんだ…と感じましたね。
そしてそこに生きる者は己の意思で考えて動き、生活を営む……言ってしまえば異世界人なのですよ』
なぜ?と問うと彼はコーヒーカップを一口飲んだ後にこう答えた。
『あくまで自分の概念ですが……人が人たらしめるのは。
自分で考えて動く
自分があの世界に行った時。自分は彼らを人と認識していました。
其処にはかけがえのない、変えようの無い命が存在しているのだと…』
その言葉の重みについ自分も引き込まれそうになってしまった。彼はアンダーワールドを一つのあたらしい世界として認識し、もし出来るのであれば彼らに
『ガリレオの地動説の様に、硬直した固定概念ほど恐ろしい物はありませんよ……
ま、いつの時代も先進的すぎる思想や技術は社会から叩かれ、異常者だと吐き捨てて押し潰して来ましたから……
それもある意味、今まで歩んできた人の歴史でもあると言いますか……』
すると彼遠くを見つめる目で言った。
『いずれは機械で出来た人も社会に溶け込み、人もAIを一人の
その呟きはまるで未来を見たような目をしていた。
ユージオ達を連れてラースの食堂に来た四人は席に座ると修也はそこである人物の来訪を受けた。
「おはよう、修也くん」
「……今何時だと思っているんです?」
そう言うと時刻が午後二時を示した携帯を見せながら言う。少なくともここに来た理由は察せるが、胃痛がしてくるものだ。
「菊岡さん……」
一応、最低限の敬意を示しながら言う。やれやれ、誰のおかげで首が繋がっているのやら…
「祖父さんに守られてよくそんな簡単に顔を出せますね」
「あぁ、うん…そうだね……」
苦笑しながらそう答える菊岡に自分はため息をする。あの事件後、菊岡は凛子さんを代表にして逃げるつもりだったらしいが、父さんと爺さんに捕まり、菊岡誠四郎と名前を変えてラースの
何でも爺さん曰く『危機管理がもっとあればとても優秀な奴』と言う事らしく、殺すくらいならこっちで面倒を見ると言う事らしい。ちなみに比嘉さんは常に和人達の様子を見ている関係でここには居なかった。
菊岡は苦笑しつつもユージオ達を見るとそのまま食堂を後にする。
「じゃあ、僕はここら辺で失礼するよ。修也くん」
そう言い消え去った菊岡を見てユージオとアリスがそれぞれ聞いてきた。
「シューヤって?」「あの人は誰?」
その質問に自分はとても端的に答える。
「修也は私の名前。あの人は自惚れ屋のクソ眼鏡さ」
ユージオ達と記者会見の日程調整をした後、自分は凛子さんに言われた。
『修也くんは会見中は後ろで二人を見ていて』
そう言われ、ほぼ必然的に自分は後方で待機する事になった。少々不満足だったが。自分がまだ十九になったばかりで、尚且つ父親が現在注目の的である。そんな時に自分が公の場に出たらまともな会見ができなくなってしまう可能性があるからだと言う。
分かってはいるがやるせない気持ちだ。
『現実世界で、ユージオ君やアリスさんを守れるのはブレイドさんしか思いかばないし、二人を支えて欲しいの』
今でも頭に残る明日奈……いや、和人や他のSAO帰還者達の願いを果たす為に。自分は幾らでも身を粉にできるというのに……その出鼻を挫かれたような気分だった。
「仕方ない…ユージオ達を後ろから支えますか……」
修也は軟禁から解放されたその足で幾つかの封筒を持ってラースの入る六本木の高層ビルを後にした。