星暦二〇二六年 八月一日 午後二時
六本木ヒルズ
そこで自分はテントの中でパソコン画面で二人の状態を確認しながら記者会見をリアルタイムで見る。今頃ダイシーカフェでは詩乃や他のみんなもテレビに齧り付いている頃だろう。
『初めましてリアル・ワールドの皆さん。私の名前はアリス・ツーベルク・サーティーです』
『初めまして。僕の名前はユージオ・ツーベルクです』
物怖じを一切せず、自己紹介をした事に驚愕をする記者達。二人の苗字は二人の希望に沿っての物だった。ユージオは自分の家ではなくアリスの家名であるツーベルクが良いと言い、アリスはユージオと同じにしたいが、騎士としての誇りを捨てたくないと言う事で末尾に騎士の証を付けた。
元々病院着を着ていた二人は着替える際に『キリトやブレイドが身につける服がいい』と言う事で手っ取り早く手に入るSAO帰還者学校の制服を着ていた。
事前の打ち合わせをみっちりやったお陰だろうか。しっかりとした物言いにとりあえずホッとしながら紅茶を口にする。
ユージオ達の機体を作ってからもやる事は多岐に渡った。コンバートしたプレイヤー達のデータのサルベージにアンダーワールドの情報公開の為の準備や、交流会の設定。体を作った張本人である自分も彼らについていく事がほぼ確定しているので暫くは学校にすらまともに通えないだろう。
「はぁ…迷惑をかけるな…」
幸いにも今回の騒動で迷惑料として国から結構な額の大金が入ったから今度何かしら奢ろうかと思っていると記者がとんでもない質問を飛ばした。
ーー頭蓋を開いて電光脳を見せろ
設計した自分から言わせれば『んなこと出来るか!!』と言いたいが、それをさも当たり前のように言う記者も大抵だと思ってしまった。大体、情報漏洩防止のためにテルミット積んでるから無理なんよ……
なんて事を考えているとユージオ達は涼しい表情で答えた。
『ええ、構いません…』
『しかし、その前に貴方自身もロボットだということを証明してくれませんか?』
うわぁ、息ぴったり。ありゃ結構イラついているな……
強烈な皮肉返しに思わず記者も思わず驚愕した様子を見せ、ポカンとしつつ、不満げな表情を隠しもせずに座る。あーあー、日本の悪いところで出るよ……
さすがゴシップの検索ランキング世界一位なだけあるわ。嫌なところを突くもんだ…。
そんな風に感じつつ、次の質問に移る。さっきの質問を皮切りにまたもや大胆な質問が飛んできた。
ーー高度なAIは我々の失業率を高めるのでは?
これを聞き、自分としては『何を馬鹿な事を……』とぼやきたくなる。そもそもAIを作ったのは自分たちが楽するためだろうに……なのに何で今更そんなこと言うんだ?と突っ込みたいが……そもそもゴシップばかり追いかける日本の記者が嫌いな自分は興味すら示したくないので何も言うまい。
この記者に対しては凛子さんがすかさず答えた。『彼らは自分達と同じ赤ん坊の状態から産まれ、自分の意思で動く。人と変わらない生き方をする彼等に労働を強制するわけには行かない』と……
『それはつまり……AIに人権を認めるべき。と言うことですか?』
『一朝一夕で出る結論では無いと申し上げます』
この返答に記者達は一斉に吾先に質問攻めをする。はぁ…あそこにいるユージオ達もため息ついているよ。絶対……
『彼らは、あまりにも我々と存在が違いすぎます!体温の無い体を持つ
一人の記者が叫んだこの一言……この会見で最も聞きたかったであろうその一言にユージオ達が反応を示した。
『あなた方リアルワールド人が、僕たちの創造者である事は。受け入れています。生み出したことにも感謝しています…』
『しかし、皆さんは考えたことありませんか?
ーーーもしこのリアルワールドもまた創られた世界だったとしたら。その外側に更なる創造者が存在したら?
ある日、あなた方の前にその創造者が現れ、隷属せよと命じたら。あなた方はどうしますか?
地に手をつき、忠誠を誓い、慈悲を請いますか?』
二人の言及に記者達は黙り込む。叫んだ記者の目を離さずじっと見つめるその圧に会場が静まり帰る。
『……私達は既に、多くのリアルワールド人と接してきました。
見知らぬ世界で二人きりの私たちを支え、励まし、元気付けれくれました』
『僕たちは彼らが好きです。……僕らはあなた方に差し出す右手は持っています。しかし、地につく膝と、平伏する額は持っていない。なぜなら……
『『僕(私)は人間だからです』』
「(これで、フラクトライトを卑下する輩の排除はできたかな?)後は……」
ユージオ達の話を聞き、攻撃的な質問から活発的な質問に変わった事を確認し、時計と睨めっこしていた。
この会見でアメリカも無理に共同開発という名の技術強奪が出来なくなった。あの襲撃事件以降、
世界の主役を中国に奪われたく無い米国と、米国と安保関係で国を守って欲しい日本とで上手く調整するだろうと予想しながら画面越しに二人を見る。
画面上では好意的な質問に気分もよくなっている様子の二人がいた。それを見た修也は呟きながら席を立つ。
「あとは王手に手を掛けるとしましょうかね……」
そう言い、席を立った時だった。
ブーッ!ブーッ!
持っていた電話が鳴る。相手は比嘉さんからだった。内容を見た自分はそのままテントを飛び出た。
「ーーでは、AIが人類を滅亡させる事はないと言い切れるのですか?」
「たった一つの場合を除けば、あり得ません。その可能性があるのは我々の方から彼らを絶滅させようとした時です」
「しかし、過去の小説や映画などでは……」
質疑が続く中、会見上に入ってきた白衣姿の青年に記者達がギョッとした目をする。するとその青年はユージオ達の後ろを通り、凛子に耳打ちをする。すると凛子は少し驚いた様子を浮かべつつも、即座に視線を記者に戻した。
「……申し訳ありません。急用の為、アリスとユージオはここで離席させて頂きます」
そう言うと修也は二人に視線を合わせながら言う。要件はわかっているようで困惑の様子もなかった。
「二人とも、こっちだ」
「分かった」「わかりました」
そう言い、二人を退席させる中。一人の記者が聞いた。
「あ、あの…貴方は……!?」
チッ、五月蝿いマスコミが……
内心そう思いつつ、静かな怒りを乗せてやや強引に答える。
「すみません。こちらも急いでいるので……」
「あ、ちょっと…!!」
有無を言わさず二人を建物に入れると走り出す。
会場を飛び出し、ラース六本木分室に飛び込んだ。
「比嘉さん!!」
「来たっすか!」
そう答える比嘉に合わせるように菊岡が現状を伝える。
「今、二人のフラクトライトが活性化した。STLを切ったところだよ」
「そうですか……」
飛び込み、真っ直ぐキリト達の元に向かったユージオ達を他所に、修也も早歩きでキリトの元に向かう。
部屋の自動扉が開き、中に入るとそこでは二人があるカップルの帰還に心底胸を撫で下ろしている光景があった。
「………………」
思わず息が止まってしまった。
ーー奇跡だ。
もはや奇跡としか言えない。
神が『生きよ』と述べたのだろうか。
そんな光景が広がっていた。すると彼はこちらに気づき、変わらない。本当に二百年と言う年月を生きたのかと言うほど軽い声で話しかける。
「やぁ、久しぶりだな…ブレイド……」
その声を聞き、思わず涙が溢れそうになる。しかし、それを押さえ付けながら白衣のポケットに手を突っ込んで平然とした表情を浮かべながらゆっくりと近づく。
「やれやれ…このお騒がせ野郎目が……」
いつも通りの声。変わらない姿。しかし、その目は確かに長い時を過ごしたことが窺える。
するとユージオが今まで溜めていたものを吐き出すように呟く。
「本当……もう目覚めないかと思って心配したよ……」
「俺はよく寝ているのは知っているだろう?」
「だとしても長すぎるよ……キリト…」
「良かった…本当に無事で……キリト…」
嗚咽声を漏らすアリス達に自分は声をかける。
「お帰り、キリト」
「ただいま……みんな…」
そう言うと間をおかずにキリトはユージオ達を見てある事を言った。
「…アリス、ユージオ。セルカはディープフリーズ…天命を凍結させることで、君たちがアンダーワールドに帰ってくるのを待ち続ける道を選んだ」
「「……!?」」
「セントラル・カセドラルの八十階…あの丘の上で、今も眠りに着いている。ベルクーリたちからの伝言も預かっている……君たちがいつか戻ってくると信じて待っているよ」
そう言うと泣き崩れるアリスを支えるように彼女と同じように泣くユージオ達を見て、キリトは次に比嘉を見て頼み事をする。
「さて、比嘉さん…… 限界加速フェーズが始まってからの200年分の記憶をデリートしてくれ…俺達の役目はもう終わった」
その言葉に思わずある感情が弾けた。これは……
畏怖…なのか……?