「二人がいなくなった……!?」
八月一七日
和人が退院した翌日にその報を受けた。部屋でゆっくりと詩乃とGGOでもやろうかと話していた時にこれである。凛子さんと電話を切り、即座に二人の捜索のためにコンピューターで位置情報を割り出そうとした時……
「ん?何だ、和人から?はい、もしも……はぁっ!?」
電話に出た途端、和人が話し、それに驚愕する修也。その様子を詩乃は見ていると電話を切り、修也は詩乃を見る。
「何処に行くの?」
「和人の家だ。ユージオ達がそこにいるらしい」
「え?何で和人の家に?」
「とりあえず直接行って確かめてくる」
「行ってらっしゃい」
「ああ、行ってくる」
そう言うと修也は鍵を持ってマンションの部屋を後にする。その様子を見ながら詩乃は前から忙しい様子の修也の為に台所に立つ。
ラースのあの会見で修也がテレビに映ったのはダイシー・カフェに来ていたみんなが見ていた。その時の反応といえば……。
『あの野郎、またなんかしてたな?』
『また何か隠し事ですか?』
『今度、ここで色々と白状させる必要がありそうね……』
こんな感じだ。少なくとも色々と聞かされるだろうなぁ、と思っていた。一部ネットでは親のコネで仕事をしているとか言っているらしいが、それは全員が否定していた。
『彼奴は色々とぶっ飛んでいるからコネなんかで収まらない』
だそうだ。何と言う言い方だと思いたいけど、マキナやあの二人の体を作った技術は間違いなく世界最高の技術者だろう。
誰にも真似できない、誰にも邪魔できない、修也だけが持つ技術。改めて天才と言うのは恐ろしいと思ってしまう。だけど、それを支える事もまた必要。精神面でも肉体面でも……
生物というのは一人では生きていけない。必ず誰かの支えが必要だ。私は今まで修也が何を必要としているのか分からなかった。だけど、今なら修也に必要なものが何なのか分かる。
修也は一見大人びているけど、実際はまだまだ子供なんだと思う。寂しがり屋な幼い子供。お兄ちゃん子な子供なんだ。
修也が家に帰った日、その日はずっと私と修也は同じ時間を過ごした。そしてベットでも修也の真横で寝ていた。修也がぐっすりと寝ていた時、修也が呟いた寝言を今でも思い出す。
『兄さん……』
社会的に見れば大虐殺をした悪魔の科学者でも、修也にとっては数少ない血の繋がった家族。大切にしたかった人なんだと思う。
大勢を救うために尊敬する兄を殺す決断をしたのは社会的に見れば英雄だが、修也や家族からするととても悲しいものだったに違いない。悩みに悩んだ挙句の結論だったのだろう。その事を知った明日奈ですらその苦しみから涙をこぼしてしまっていたのだ。彼がどんな気持ちで、どんな覚悟で兄と対面したのだろう。
十九年の過酷な短い生涯で、彼は何を思ったのだろうか。少なくとも人嫌いにならないのが不思議だ。人の醜い部分や恐怖体験をしたら普通は心が壊れてしまうものだが……修也には心の自己防衛機能が備わっているのかも知れない。
まぁ、要するに修也の心は飢えているのだ。親としての職責を果たせなかった義両親やお祖父さんはその事を今でも後悔しているらしけど、修也はそんな事を思っていない。血も繋がっていないのに育ててくれた事にも感謝をしていた。それを教えた時三人が嬉しそうに泣いていたのを今でもよく覚えている。
「さて、いつぐらいに帰ってくるかな……」
時計を見ながら私は修也が帰ってくるであろう時間を予想しつつ、料理を作り始めた。
詩乃が家で包丁を握る間、和人の家では修也が仁王立ちで帰還者学校の制服を着たユージオとアリスを正座させていた。
何でも和人も凛子さんの連絡を受けた直後にラースから二つのダンボールが届き、中から出てきたのは何とびっくりユージオとアリスだった。ラースから飛び出し、和人の家に来たのは自分のしていることに不安を感じたからだそうだ。
「よぉし…二人には色々と言いたい事があるが…まぁ、それをすると夜になるから手短にしよう」
「「はい……」」
マンションから車で飛び出し、桐ヶ谷家の前で急停車させると家に突撃して二人の安否を確認した。そしてその後に説教を始めた。
「まず初めにいきなり居なくなるな。二人がいなくなると心配する人がいる事を忘れるな」
「「はい」」
そして次に修也は脱走した理由を問いただす。
「二人の行動がセルカやアンダーワールドの人々を守る為になっているのか心配?自分達が何をしたいの分からなくなった?」
「「……」」コクッ
ざっくりとした要約に二人は苦笑しつつも頷くと修也はため息を吐きながら言う。
「馬鹿言え、こっちだって時には迷う事もある」
「「え?」」
驚く二人に和人も頷きながら話した。
「そうさ、俺たちだって別に無闇矢鱈に突っ張っているわけじゃない」
「そう、自分達は二人が思っているほど図太い神経は持っていない。ただ、一度信じたものを信じ抜き、その先に見えるものを思うまで。
今、この瞬間も世界は変わろうとしている。一個人が集まり、大衆となり、時代を作ってきた。歴史と言うのは今ここにいる自分達でしか作れない。
そこでやる事はあの世界を守るために戦った戦士達の思いが報われる様に努力するしかないと言う事だ」
「「……」」
修也の率直な意見を聞き、二人は何処かホッとした様子を見せ、二人に言う。
「ありがとう……二人とも」
「色々と我儘を言ってしまって……」
そう言うと修也はやれやれと言った様子で和人を見ながら言う。
「なに、振り回させるのはコイツで慣れている」
「コイツって言うなよ……」
そう言い、場が少し和むと修也が呟く。
「まぁ、ここ最近ずっと忙しかっただろう……そろそろ休みでも与えたほうが精神的にも良いだろう」
「お、じゃあ凛子さんに連絡入れとくか」
「和人、二人をここに預けても良いか?二人用の高速充電器を持ってくる」
「おう、部屋は余ってるから良いぞ」
着々と迅速に進む予定に二人はポカンとしていると修也と和人はそれぞれやるべき事をやっていた。これが長年付き合った関係なのかを思うとまさに阿吽の呼吸だった。
「さ、外泊許可はとったぞ」
「じゃあ、ここら辺で帰るとしよう」
「おう、いきなり呼んですまんかった」
「いや、大丈夫だ。二人の安全が確認されたからな」
そう言い、玄関で修也を見送ると三人は今日だけ桐ヶ谷家で一泊する事になった。
その日の晩。家でマキナ達の新しい機体を製作していると詩乃が声をかける。
「修也、誰かからメール来てるよ」
「ああ、ありがとう…こんな時間に誰だ……?」
そう呟きながらメールを見る差出人がなく、代わりに数字の羅列だけが記されていた。
「これは……IPアドレスか…?一体何の……」
その直後、和人から携帯が鳴る。直ぐに出ると和人の声が聞こえた。
『修也!聞いてくれ!!』
そう言い慌てた様子の和人を一旦電話越しで落ち着かせると和人はことの状況を話した。
「ーーー差出人不明のメールに添付されたアドレスでアンダーワールドに行けると?」
『ああ、そうだ。だから手伝ってくれ!』
「了解、直ぐに出る。ラースの前で集合でいいな?」
そう言い、電話を切るとパジャマ姿の詩乃の頭を軽く撫でる。
「……夜道には気をつけて」
「ああ」
そう言い、マンションを出る。車に乗り込むとそのまま走らせてラースのある六本木に向かう。ゲームをしていたマキナとも合流し、六本木に着くと夜勤だった凛子さんと合流し、直ぐにログインできる準備をしていた。みんなこのアドレスが誰が送ったのか分かっていた。
だから誰も疑わずに黙々と作業をする。そして準備が終わった頃に和人達も到着した。
「「「修也(ブレイド)!!」」」
「よう、丁度いいタイミングだ」
そう言うとユイがアドレスを辿れなかった事に残念がり、それを一人が慰めていた。しかし、時間が惜しい事もあって自分も含めた四人は直ぐにログイン準備をする。
『何かあっても直ぐに助けに行きますからね!!』
「ああ、その時は頼むよ」
ユイにそう言いSTLに入ると和人が呟く。
「200年か……アドミニストレータが支配していた300年は大きな変化はなかったけど……」
「気を引き締めておけ。産業革命からこんな機械を作ったのも200年くらいだからな」
「うわっ、それめちゃくちゃ変わってる可能性もあるって事か」
そう言い、改めて気を引き締める一人と修也。
「………」
「ユージオ」
緊張しているユージオにアリスが声をかける。
「っ!?アリス……」
「向こうに行ったら……」
「そうだね、最初にセルカを目覚めさせに行こう」
そう意気込み、大きく息を吐いたユージオとアリス。
「それじゃ…行くわよ」
「「「「はい!」」」」
そう言うと機械が動き出す。
懐かしいあの異世界に舞い戻る。
次に見えたのは闇だった。しかし、所々に光る物があり、そこが宇宙だと理解した。
「う、うわぁぁああ!!」
「ここは……」
「これは……!!」
「な、何!?」
ダイブしたキリト、ブレイド、アリス、ユージオの順番に悲鳴が上がる。無理もない、元々大地に降り立つと思っていたからまさか宇宙に放り出されるとは思っていなかったのだ。するとアリスが何かに気づいた様子を浮かべ、指を指す。
「みんな…あれ……!!」
その方を見るとキリト達は驚愕する。星かと思っていた光は灯りだった。街の明かりだ。地球によく似た丸い物体にそれが星なのだと理解するとユージオ達は涙が溢れた。
「帰って来た……帰って来たんだ……」
涙ぐみながら裾で拭うユージオに、アリスも同じだった。故郷に帰って来れたのだと……。
「「ただいま……」」
二人がそう呟き、感動的シーンだと思ったその瞬間。
「あれは……」
視線の端に円形の赤い光が見える……爆炎だ。
「……行くぞ。援護頼む」
「了解」
即座に戦闘モードに入り、キリトとブレイドは駆け出した。ユージオ達も同じ様に駆け出し、戦闘の真っ只中に突っ込んだ。
その時、宇宙を三つの金属の機体が飛ぶ、それはまるで現実世界での戦闘機の様だった。嘗て、アンダーワールドを統一し、民を導いた『星王』が
そしてその機竜に襲い掛かろうとする触手を持つ黒い禍々しい生物…アビッサル・ホラーと呼ばれる怪物がそこにはいた。無数の攻撃弾を避けるも、被弾してしまい煙が上がってしまう。
「くっ…!!二人とも。無事?!」
『こっちは大丈夫…だけどスティカは!?』
赤い機竜に乗るスティカ・シュトリーネンに、黄色い機体に乗り込むマリーン・クルディアが通信機越しで問いかける。二人の間で緑色の機竜に乗るローランネイ・アラベルは既に怪我を負っていた。前の二人は怪我を負っており、満身創痍とも言うべきだ。
『……大丈夫、私は無事。でも……この子は、もう飛べない』
「機外に脱出して!機士服の噴射器だけで何とかカルディアまで……」
『いやよ!この子を捨ててなんかいけない!!』
「そう……よね。ごめん……ふぅ…私が囮になるから二人はカルディアまで……!」
『マリーン!一緒に帰るって言ったでしょ!約束したじゃない!』
殿をしようとするとマリーンに二人がそう言う。するとマリーンは大きく息を吸うと操縦桿を握る。
「そうね……みんなで最後まで戦おう。……私たちのとっておきを見せつけてやるんだから……!!」
シュトリーネン家、アラベル家、クルディア家に代々伝わる技で怪物を相手にすると意気込む三人。そして、それらをまとめて葬ろうと怪物が吼える。せめて一矢報いてやようとした瞬間。
怪物に幾つもの隕石が落着した。衝撃波が起こり、悍ましい悲鳴をあげてアビッサル・ホラーが攻撃を中断する。
「「「!?!?!?」」」
全員が驚愕する中、マリーンドルフが宇宙空間に浮かぶ赤い影を見た。
「……進路啓発。行け!」
「「「了解」」」
そしてその後ろから三つの影が飛び出す。宇宙怪獣も咄嗟のことに対応出来ず、反応が遅れる。
「リリース・リコレクション!!」
青い剣を持つ青年がそう唱えると伸びていた触手が一斉に凍りつく。
そして黒い剣を持った黒髪の青年が同じ物を唱え、黒く伸びた剣がアビッサル・ホラーを切り刻む。
「あれは……《記憶解放術》……?」
「そんな……あれは最上位機士にしか使えないはず……」
その次の瞬間、ローランネイが叫ぶ。
「まだよ!!本体がまだ残ってる!!」
すると黄金色の心意が辺りを照らす。
「時代が変わると、相手も変わる物ですね……リリース・リコレクション…屠りなさい、花たち!!」
その直後、青いドレスに金色の鎧を纏った一人の少女が持っていた剣を掲げ、振り下ろす。その後、宇宙に花が咲き、爆発する。宇宙怪獣の断片を一個たりとも逃すまいと蒸発させる。その光景に呆然とすると三人はその姿を見て思わずす呟く。
「ねぇ、あの服を着た人って………統一神様によく似ていない?」
「それにあの騎士だって…アリス様やユージオ様によく似て……」
「あの人も、星王様によく似ている……それに…」
見覚えのある、既視感のある四人に自分達のご先祖の話と合わせる。赤黒い軍服に身を纏った青年に三人が集まり、勝利に沸いていた。そして彼らは三機の機影に気付き手を振った。
「「「…‥お帰りなさい」」」
不意にそんな言葉が溢れた。
人界暦五八二年
その時。星王や、戦争を終わらせた英雄達がアンダーワールドに帰還した。
えー、これにてWoU編も終わりです。ここまでご愛読してくださって感謝しかありません。
この後、暫く本編は進みませんが、また短編集の様なものを書いていこうと思っています。
しかし、ほぼ確実にネタ切れで半年以上更新できなくなると思います。なので、これをネタに書いて欲しいなどの要望等がありましたらコメント欄にお願いします。
いずれはユナイタル・リング編も書こうと思っています。
早く本編進まないかなぁ……次回がとても楽しみです!
あ、来週から0時に流します。ストックがなくなったら不定期になります。