間話#1 新衣装
四月中旬 GGO首都グロッケン郊外
荒野の一角を一台の砂漠迷彩色の装甲車が掛けていた。
「フリューゲル、ちょっと飛ばし過ぎじゃない?」
「問題ない。ここら辺には障害となりそうなものは無いからな」
特徴的な赤いボディを持ったアバターと空色の髪のアバターの少女は装甲車の中でそう話していた。
今回の目的はアップデートで追加された衛星都市に向かう事だった。
「『衛星都市ジャブロー』か……」
「元は宇宙軍港兼工廠で、中には機械のモンスターが多いそうだ」
「フリューゲルは知らないの?」
運営なのにと彼女は言うと、彼は首を横に振って答える。
「全く関わっていないからな。機械系モンスターは装甲や銃器が出やすいと言うことしか知らないな……」
「それはすでにMトゥデに出ていたわよ」
「基本的にグロッケン以外のことは知らないんだ」
フリューゲルの言葉に嘘はないとシノンは知っているので、疑うことはなかったが。それでもちょっとだけ不満はあった。
「……まぁ、今回の目的はジャブローで噂のアイテムを手に入れるだけだ」
「ええ、流石に一年もその下が初期のままってのもね……」
シノンが若干苦笑をしながらフリューゲルを見る。今のフリューゲルはとても珍しくモノアイが特徴の頭部を外して顔を見せていた。
顔は赤い髪と目が特徴的で、その下からうっすら見えるのは初期の時に着て居る服であった。
そう、今月で一周年を迎えるガンゲイルオンラインで、フリューゲルは未だに初期装備の服を着ていたのだ。
理由としては簡単で外のアーマーが頑丈で、彼を守っていたのだ。その為、自分が初期衣装であることを完全に忘れてゲームに熱中していたのだ。おそらくシノンが気づかなければずっとこのままだっただろう。
そして今回の目的は昨日Mトゥデで乗っていたニュースだった。一周年記念に新たに追加された衛星都市を紹介する文章の中でシノンと二人してその文に注目してしまっていた。
「『軍服シリーズ』……欲しいね」
「できれば、揃いで欲しいな……」
一周年記念の一環で新たに追加されたレア装備の一つ。『軍服シリーズ』はその名の通り世界中の軍服を模した装備で、今現在、人気の上がりつつある装備である。
どうせならとシノンとフリューゲルはこの軍服シリーズを手に入れるためにこれが手に入ると噂されているジャブローのクエストを受けるつもりである。
「さて、急ごうか。このシリーズは最近人気らしいからな」
「そうね」
そう言うとフリューゲルはさらにアクセルを踏み込んで一気に行き先をジャブローに向けて走らせていた。
数十分後、シノンは車から朽ちた様子の塔を確認した。
「見えてきた」
「了解」
ブレーキを踏んで速度を落として圏内の道端に車を停めた二人は車を降りた。
「ここが……」
「ジャブロー……」
其処には開けた土地に多くのバラックが積み重なるように立ち並び、既に人が多く行き交う街があった。
元は飛行場だったのだろう、管制塔や格納庫の面影が残されていた。
「結構人が居るのね……」
「公開から二週間経ったからな……いわば開拓時代みたいなものだろう」
「いい例えね、それ」
普段通り、ロボットのような見た目をしたフリューゲルを見てシノンはお互いに少しだけ笑うと街を歩き始めた。
初めての場所に観光気分で歩く二人はそのまま街の郊外にある森に到着した。そこには他にも何人か別のプレイヤーが散発的にいた。
「ここ……?」
「事前に調べた情報ではそうらしい。さて、行こうか」
「うん」
お互いに頷いて、シノンは《へカートⅡ》を、フリューゲルは《PKPペチェネグ-SP》を持った。
PKPペネチェグはかの有名なミハイル・カラシニコフ氏が製作したPK機関銃の後継種で、ロシア軍が使用する汎用機関銃である。使用弾薬は前にフリューゲルが使っていた RP-46と同じ7.62mm×54mmR弾である。
死銃事件で壊れてしまったRP−46を思い切って買い替えたのである。
そしてフリューゲルの使っているSP型はピカティニー・レールを装備しており、フリューゲルは其処にスコープを取り付けて狙撃銃としても使えるようにしていた。(ウィキに乗ってるやつそのままだから気になる人は見て)
「この先の遺跡ボスが一定確率で落とすそうだ。後方を頼むぞ」
「ええ、フリューゲルも気をつけて」
遺跡内に入った二人はお互いに銃を持って中に入った。斥候と接近戦を行うのが得意なフリューゲルは《超感覚》と呼ばれるシステム外スキルで敵の位置を感じ取ると接近してヒートホークと武器をうまく使用してモンスターを狩っていた。
どうやらこの遺跡は地下にある宇宙港に繋がっているようで、視界が一気に開けた。
場所は宇宙港造船ドックの一角のようで、灯りはついておらず、アバターの赤外線暗視装置で状況が把握できていた。
「……」クイクイッ
フリューゲルの合図でシノンはへカートを地面に置いて構えた。
「……」ドォン!!
一瞬だけ大きな閃光が視界を包み、放たれた弾丸はドックの一角にある燃料タンクに当たると大きな爆炎と光をあげて衝撃波を起こさせた。
地中の爆発ということもあり、空気が濁流のように流れ、二人は必死に地に足をつけていた。
「くっ……」
「……来るぞ!」
『プォォォォォォォオオオオオ!!!』
フリューゲルがそう叫ぶと大きな雄叫びを上げて象に装甲板と背中に連装砲塔を乗せたような見た目をしたクリーチャーが現れた。
「やれるな?」
「フリューゲルも気をつけて」
「任せろ」
そういうとペチェネグ-SPを持ってフリューゲルはドックを駆け出した。
遺跡のボス戦を初めて三十分、シノンの援護もあって体力ゲージが四本あったボスの体力はあと少しといったところだった。
長い鼻を使った振り回す攻撃や、足踏み、背中の砲塔からの攻撃と言った様子で砲撃以外は単純な攻撃でフリューゲルが注意を引いている間にシノンが後方から弱点の砲塔の付け根を狙っていった。
ドォン!ドォン!
ダダダダダッ!!
ガキンッ!
シノンの狙撃銃の銃声と、フリューゲルの機関銃とヒートホークの当たる音。
それぞれが攻撃を行いながらお互いの援護をしていた。
そして体力バーが無くなりかけた時。象型クリーチャーに異変があった。
「っ!?なんだ!!」
「まさか……自爆!!」
象型クリーチャーの体がひび割れ始め、中から赤い光が漏れ始めていた。
「っ!!させない!!」「絶対にやらせない!!」
二人は即座に動いた。シノンは弱点の砲塔基部を、フリューゲルは自爆元である腹下のコアを、お互いにへカートとヒートホークを持った。
「「これで終わり……!!」」
シノンが引き金を引き、フリューゲルはヒートホークの電源を入れ、二人の最後の攻撃は同時に弱点に命中した。
『ぷおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおんんん』パリィィィィイン!!
最後の攻撃でコアを破壊され、砲塔が暴発した象型クリーチャーは最後に泣きながら横に倒れ、ポリゴン片に変化した。
その事に二人はほっとしていると共有ストレージ欄に『《衣装ボックスLv.5》×2』と表示された。
「これって……」
「上手く行ったようだな」
「フリューゲル、これ見て」
「ん?これは……」
フリューゲルとシノンは表示されているアイテム欄を見て少しばかり驚きの声を出した。
「これは驚いた…最後の攻撃が同タイミングだとアイテムが二つになるのか……?」
「恐らくそう見たいね……」
レベル5の衣装ボックスとなれば確実にレア衣装が入っている事が確実で、シノンは中身が気になって仕方がなかったようだった。
「……ここで開けるか?」
「いいの?」
「待ち切れないだろう?」
「そうね、じゃあ……」
シノンとフリューゲルはそれぞれアイテムを遺跡の安全圏内でオブジェクト化させた。
オブジェクトは金色に装飾の施された少し大きめの箱で、見るからにレア装備が入っていそうだった。
「……一緒に開けよう」
「そうだな、その方が運気も上がりそうだ」
そうして二人は声を合わせて一斉に箱のロックを外した。
「「せーのっ!」」
ガコンッ!
そして二人は箱の中身を確認した。
街に戻ったフリューゲルとシノンは周りから視線を集めていた。
「おい、あんな二人いたか……?」
「おいありゃ…噂の軍服シリーズじゃあねえか!」
「羨ましいな、もう見つけたやつがいるのかよ……」
「かっこいい……」
「誰だ?あの二人は?」
思いの外注目されていることにシノンは少し顔を赤くして隣にいた青年に寄っていた。
「は…恥ずかしい……」
「そう…だな……少し店に入るか……」
「そうしよう」
二人はとりあえず近くの店に入り、適当に飲み物を注文していた。
「…あんな奇跡あるんだね……」
「そうだな、思っても見なかった……」
フリューゲルとシノンはそう言いさっきの出来事を思い出していた。
箱を開けた二人は中から衣装を取り出した。フリューゲルは装備の名前を確認し、《男性将校の制服(赤)》と書かれていた。
「これは……「フリューゲル!」ん?」
シノンの声に反応するとシノンが一着の服を見せた。其処には《女性将校の制服(青)》と書かれていた。
「…ふっ、フハハハハハ!これは面白い、こんなの乱数調整しているとしか思えん奇跡だな……」
「そ、そうね…フフフ、面白い……」
思わず二人して笑ってしまうと、フリューゲルは提案をした。
「じゃあ、ここで着替えるか…」
「え?」
「せっかく手に入れた装備だ。着て見たいと思わんか?」
「っ!そ、そうね……」
「さっきの戦闘中で、陰になりそうな場所があったんだ。其処で着替えたらお互いに手に入れた衣装を見ないか?」
「……分かった。早く着替えよ!!」
そう言い。二人は建造ドックの隅に出来ていた残骸に向かうと二手に分かれてそれぞれ衣装を着ていた。
「……こっちは準備できたよ」
「ああ、こっちも終わった」
お互いに声をかけると残骸から出た。
「ど、どう…?」
「すごく似合っているぞ」
「ふ、フリューゲルもね」
「シノンに言われると嬉しいな……」
そう言いお互いに衣装を見た二人はそれぞれ褒めあっていた。
シノンは青と銀色の線に銀色の徽章のついたサービス・キャップを被り、白いシャツに青いネクタイの上に、銀色の八つのボタンのついた青い裏地に銀色の線の入った上衣を羽織り裾には青い布を基調とした装飾が施されており、手には黒い手袋を着け、腰には銀色の金具の付いた白いベルトを巻き、下には膝ほどの長さの上衣と同じように銀色の線の入ったスカートを履いていた。
そして、スカートの下は黒いストッキングを履き、足にはジャック・ブーツを履いていた。
さらに上から青い裏地に銀色の装飾と肩章をつけたマントをつけていた。
対するフリューゲルは赤と金色の線と徽章の入ったサービス・キャップを被り、白いシャツと赤いネクタイ、金色の六つのボタンのついた赤い裏地のシングルスーツを羽織り裾は赤い布を基調とした装飾が施され、手には白い手袋を着け、腰には金色の金具をつけた白いベルトを巻き、下は黒いストレートパンツで、足にはジャック・ブーツを履いていた。
フリューゲルもシノンと同じように赤い裏地に金色の装飾と肩章の付いたマントをかけていた。
「まさかお揃いになるなんてね」
「ああ、まるで夢のようだ……」
お互いに衣装を見あった二人はクスクスと笑うとシノンが提案をした。
「ねえ、このまま街に戻らない?」
「そうだな……気に入ったからいいかもしれないな」
そうして二人は制服のまま遺跡を出ていた。
そして今二人はジャブローの店の一角で顔を赤くしていた。
「何バカなことしちゃったんだろう……」
「興奮して周りが見えなくなっていたな……」
フリューゲルがなるべく冷静に理由を言うとシノンは机に突っ伏していた。
「……シノン、取り敢えず店を出て走ろう。車まで辿り着けば何とかなる」
「うん……そうだね」
お互いに顔を見合わせてササと店を出ようとした時、二人は声をかけられた。
「お二人さん。それ軍服シリーズだよね。今それ人気でさ、四十万クレジット出すから売ってくれないか?」
「え…あ……」
「あいにくとこれは売る気はないさ。気に入ったからな」
「そ、そうかい……じゃあ、また売る気になったらここに連絡してくれよ」
そう言い落胆した様子でデータ情報だけ渡されると男はどこかに去っていた。シノンはフリューゲルの落ち着いたようににいつも通りだと思いながら感謝をすると二人は店を後にした。
後にシノンはこの軍服が気に入り、BoBの時はいつもの緑色の服を。それ以外ではこの将校制服を気に入って使うようになっていた。
フリューゲルも同様にBoB以外はこの制服を着るようになっていた。
ここから数日間、移動拠点でこの制服のままジャブローの遺跡攻略をしていた二人はいつの間にか『将校バカップル』や『軍人バカップル』なんであだ名がつけられてしまっていた。
シノンの軍服姿が好きすぎて持ってきちゃいました。
イラスト見ればハマる理由もわかると思う。