血盟騎士団の団長室に到着したヒースクリフとブレイドはお互いソファに座るとヒースクリフが早速要件を聞いた。
「さて、私に話したい事とは何だね?」
「さっきの試合の事だ」
そう言うとブレイドはさっきの試合の一瞬の出来事を話し始めた。
「さっきの試合で、キリトの最後の攻撃を凌いだ盾。私はあの動きが変に思えてならない」
「あれか?あれは《神聖剣》のスキルだ」
ここまでは予想通りの返答だった。だが、ここはあえて直球で話を進めた。
「ヒースクリフさん……私はあなたが茅場晶彦だと思っている」
「ほう……それは突拍子もない事だな。なぜそんな事を?」
ヒースクリフは唐突なブレイドの問いに首を傾げる。
「はっきり言って貴方の《神聖剣》は習得した時期があまりにも早すぎる。私の《雷装剣》もキリトの《二刀流》も見つけてから物にするのに時間がかかった。HPが黄色にならないのもGM権限を持つ《神聖剣》の物だとすれば納得がいく」
「なるほど……だが全ては憶測ではないのか?」
「ああ、確かに憶測だ。確実な根拠らしい根拠はないさ」
そう言うとヒースクリフは呆れたような表情をしていた。しかし、ブレイドはもう一つの話を持ち出してきた。
「……『PAシステム』」
「それは確か試作段階でトラッシュエリアに捨てた……っ!まさか……」
その瞬間、ブレイドはしめたといった表情を薄らと見せた。
「今のでハッキリしたよ。やはり貴方だったんですね…………
晶彦兄さん」
ブレイドはどこか懐かしそうに、そして悲しそうにヒースクリフを見た。
するとヒースクリフは負けたと言わんばかりにソファに深く座り込んだ。
「やれやれ、今回ばかりは負けを認めざるを得んな……ブレイド君。いや、修也」
「いつもの研究者としての癖が抜けきれていませんでしたね。脇が甘いですよ、晶彦兄さん」
ヒースクリフ、もとい茅場晶彦は苦笑しながら後悔をすると席を立ち上がってコーヒーを淹れて、目の前に出してきた。
「やれやれ、お前には驚かされてばかりだ。修也」
「そう?こっちは兄さんがせっかく作ったゲームだから買ったのに……」
ブレイドはいつに無く表情を表に出し、どこか子供っぽいような所を出していた。しかし、修也は呆れたように晶彦に話す。
「でも驚いたよ。まさか兄さんがトラッシュエリアからあれを引っ張り出すなんて……」
「あんな便利なものを使わない手はないだろう?」
「だからって独り占めは良くないと思うなぁ……」
『
文字通り、プレイヤー動作を補助するための初心者用のシステムであるが。あまりに強力すぎた為に早急にゴミ箱行きになっていたシステムである。
そんなシステムをなんと茅場はゴミ箱から取り出し、最後のピースを埋めてGM権限で使っていたのだ。
「それは思ったさ。だからお前にもお裾分けしだらろう?」
どこか余裕そうな晶彦の声に修也はある事が思い浮かんだ。
「まさか……《雷装剣》ですか?」
「そうだ。《雷装剣》は私が試作で終わっていたプログラムを慌てて復旧したものだ。本来ユニークスキルは《神聖剣》、《二刀流》を含めた10種類だけだった。だが、お前がいる事を知って慌てたさ」
その割にはその心労を伺えないとブレイドは思った。
「成程、それで本来あり得ないはずの11番目のユニークスキルを作ったと?」
「そうだ」
「相変わらず変なところで優しいのは変わらないんですね……」
「……」
修也の指摘に思わず言葉に詰まり、返答に困った晶彦は話題転換をしていた。
「さて、修也……いや、この場合はブレイド君かな?私を見破った報酬として何を望む?ゲームクリアをかけたデュエルか?」
「……」
ヒースクリフの話にブレイドは何も答えずに黙りとし、数十秒間考え続けた結果に出した答えは……
「何もいらないかな」
「ほう……?」
思いかけない返答にヒースクリフが驚いているとブレイドはその理由を言った。
「今はこの世界で充実している。正直、いまでも迷っているんだ。ここでデュエルをするかしないかは」
「……成程」
「だから
そう言うとヒースクリフは
「そうか……しかし、この世界で充実してくれているとは製作者としては満足だな」
「…じゃあ、また会いましょう。ヒースクリフさん」
「ああ…そうだな」
そう言い残すとブレイドは部屋の扉を開けて出て行った。その様子にヒースクリフはどこか満足げな表情を浮かべていた。
団長室を後にし、そのまま転移結晶で二十二層のコテージに戻ったブレイドは装備も外さずにベットに飛び込んだ。
「……」
彼はベットに潜って悩んでいた。もちろんヒースクリフの事である。
「(私は…こんな時どうすれば良いのだろうか……)」
ゲームクリア。それはつまり、ヒースクリフを……茅場晶彦を……兄と慕う人を殺さなければいけない事だった。
残ったプレイヤーを助けるか、唯一に近い真の心を開ける人を殺すか。彼は悩んでいた。だが、どれだけ悩んでも結果は出てこず、気がつけば時間が夜になっていることに気がついた。
「…もう夜か……」
だが、本来は腹が減るはずなのに、今日はそれが無く、それどころか食欲も湧かなかった。
当然の事だろうと思いつつ、ブレイドはやっとここで装備を外した。ブレイドは普段読んでいる本も読まずにそのままベットに入って今日は早めの就寝に入った。
「(結局一睡もできなかった……)」
朝早くからアルゴに起こされたブレイドはアルゲードの店に来ていた。
「来たカ。ブレ坊とんでもない情報ダ」
「朝早くからなんですか……?」
朝っぱらに叩き起こされて少々機嫌の悪いブレイドは声を低くして聴く。
「ラフコフの残党が『KoB』に居るのが分かっタ」
「……詳しく聞かせろ」
一気に眠気が晴れたブレイドは詳しい話を聞いた。元より、前々の討伐以降も残党がいると確信していたブレイドはその調査をある後に依頼していたのだ。
「すぐに行きたいだろうから手短に話ス。そのプレイヤーの名前は『クラディール』」
その名前を聞き、ブレイドの中に一人のプレイヤーが思い浮かんだ。
「クラディール…(確かアスナの護衛で……)っ!不味い!!」
「どうしタ?」
「理由は後で話す。お代置いておくぞ」
「あ、あぁ……気をつけてナ」
雷の如く飛び出していったブレイドにアルゴは唖然としながら置かれた情報料を受け取っていた。
「何てことだ……」
ブレイドはキリトの居場所を確認しながら森の中を走っていた。
アスナの護衛をしていたクラディールが『ラフコフ』の残党とは……何と言う奇跡か。
そうすればまず間違いなくクラディールはキリトを殺しに掛かるだろう。
今日は五十五層で訓練だと聞いた。だとすれば……
「……見つけた!」
ブレイドは渓谷内で麻痺で動けないキリトと、狂気じみた表情のクラディール。そして、二人の間で立ち竦むアスナを見つけた。
キリトは急激に体温が下がっていく気がした。
目の前にいるアスナとラフコフの残党で今は狂気に満ちた表情を浮かべるクラディール。
訓練中の水に麻痺毒を入れられ、すでに二人がラフコフの残党によって殺された。
万事休すとはこの事を言うのだろう。
そしてクラディールの剣がアスナに突き刺さろうとした時。
「見つけたぞ……ラフコフの残党……!!」
聞いたことある声が重い声でそう言っていた。クラディールの後ろを見るとそこには赤いフードを被り、顔が見えない誰かが右手に短刀を持ってクラディールの喉元を突き刺していた。
喉を突き刺され、声も出せずにクラディールは体力がみるみる減っていき、残り数ドットまで減っていた。
クラディールはさっきとは打って変わって恐怖に満ちた様子のままポリゴン片と化した。
「ブ、ブレイド……」
クラディールを殺した時、フードの中から見えたブレイドはどこか懐かしそうな表情浮かべていた。
それは一見普通の表情であったが、状況的にそれは猟奇的に見えた。
思わず声をかけるとブレイドは直ぐにいつもの表情に戻って返事をした。
「なんだ?」
「……いや、何でもない」
気のせいでは無いのだが、聞いてはいけないと本能が叫んだ気がしたので何も無かったことにした。
するとブレイドはアスナに視線がいった一瞬で消えており、麻痺も回復した俺はアスナの体を支えていた。
「やれやれ、面倒なことになったな……」
ブレイドはそんな事を呟きながら一昨日のことを思い出していた。
「(ラフコフ残党が二人を殺した……今この瞬間にも人は死んでいるのだろう……)」
ブレイドはその時、ラフコフ討伐の時の剣の感触を思い出していた。
「(あの時……私は十人近くの人を殺めた……。全ては彼らに殺された百人近い人に報いる為に……)」
ブレイドは考えていた。
「(だが、これで合っているのだろうか……)」
それはラフコフに殺された人たちがこれで満足してくれているのだろうかと言う疑問だった。だが……
「(それは、もう分からないか……)」
そう思いながらブレイドはこれ以上考えることを辞め、ベランダで晩酌をしていた。すると、
チリーン
呼び出しを知らせる鈴の音が聞こえた。誰が来たのだろうと扉を開けるとそこには……
「え!?ブレイド!?」
「何でここに!?」
「……これはこっちのセリフだ」
そう呟き、ブレイドは目の前にいる私服姿のキリトとアスナを見ていた。
「……それで、挨拶のためにここに来たと」
「まあ……そんな感じだな」
苦笑しながら答えるキリトにブレイドは半分呆れていた。
「驚いちゃった。まさかお隣にブレイドさんが居るなんて」
「さん付けじゃなくて良いのだがな……」
「いやぁ、何となく癖になっちゃって……」
「…はぁ……まあ、この際仕方ない。結婚祝いに何か作ろうか」
「え?何で知っているの?」
アスナが不思議そうに聞くとブレイドは再度ため息を吐いた。
「はぁ……その左手の薬指に着けている物を見て結婚していないと思うか?普通」
「あ、そっか……」
「はぁ……」
ブレイドが呆れてながら台所で適当な料理を作り始めていた。
その様子を眺めていたアスナとキリトはその手際の良さに舌を巻いていた。
「は〜、すげえな」
「本当、現実世界でもあんな感じなのかな?」
そう思うと今度はブレイドの部屋を見回していた。
「すっごいインテリ……」
「ね、家具とかは無いけど、あの本棚とか凄い……」
「酒まで置いてあるし……あいつ本当何者なんだ?」
キリト達が面白そうに見回しているとブレイドが料理を持ってきた。
「ほい、ちょっと今日は豪華にしておいた」
「「おお〜!!」」
二人が驚いたのはブレイドが持ってきた料理にあった。
「《ラグー・ラビットの肉》がまた食べらるなんて!!」
「お前太っ腹だな。こんなのを出すなんて」
「そうだろうか?」
ブレイドがそう不思議がりつつも三人は食事会を開くことになった。