「……このまま登れるかしら?」
シノンの呟きに全員が驚愕する。何を言っているんだこの人はと。
するとシノンは至って真面目に自分の案を語る。
「ほら、クライミングの容量でさ……こう…何と言うか……」
「「「「「「……………」」」」」」
思わず全員が上を眺める。車体の側面から出ている防楯や銃身。砲身を見ていると行けなくもなさそう……?な気がした。
「……行くしかないか…」
少なくとも多数の機関銃に砲を向けられては列車に乗り込む方法はそれしかない。キリト達は機関銃の斜角に入らないように銃身に足をかけて登る。同じ様に他の者達もキリトを見て、完全に登ると次々と移動を始める。
シリカは巨漢のエギルに肩車されて簡単に列車の屋根に登っていた。
「「「はぁぁぁあああ〜〜〜」」」
全員が屋根に登り、ホッとしているとシノンが後ろを見ながらふと呟く。
「……そろそろ来てもいいと思うのだけれど…」
豹丸を取りに行ったフリューゲル達はどうしているのだろうかと思っているとシノン達にメッセージが届く。
「……先に客車の制圧を頼むだぁ?」
「行きましょう、どうせ何かやっているんだろうし……」
腹黒い事に関してはここの界隈では有名なフリューゲル。きっと何か仕掛けをしているんだろうとリズベットが言うと全員が納得し、武器を持って機関車前の客車を見る。
「……行けるか?」
そう呟くとキリトは持っていた光剣を屋根に突き刺す。
「キリト…何をやって……」
「いや、ここから直接降りられるかと思ったが……正解らしいな」
キリトの意思に気づき、ユージオもまた屋根に光剣を突き刺す。
「キリト、手伝うよ」
「ありがとう、ユージオ」
そう言い、キリトとユージオは息ぴったりで円を描く。そして二人が半円を描き、屋根に丸い穴ができると金属板が落っこち、その瞬間に中に一斉にキリト達は突っ込んでいった。
現実世界に来てからと言うもの、色々と新しい技術に触れてきたユージオ達は毎日が忙しかった。
自動車を鉄馬車と呼んだり、航空機を鉄竜なんて呼んでいたり、ビル群を見てセントラルカセドラルが一杯……なんて言っていたのでちょっと面白かった。だが、現実世界で彼等が神聖語と言っていた英語を二人はよく覚えている。まるで水を吸い続ける砂の様に……。
二人に英語を教えている身だが、二人はそこら辺の人よりも物覚えが良いかもしれない。いずれは帰還者学校に入学させて交流を深めるのも良いかもしれないと思いつつ、フリューゲルは停車中の豹丸の鎖を解く。
「マスター!出しますよ!!」
「了解」
けたたましいエンジン音と共に豹丸が貨車から滑り落ちる様に動き出す。それに飛び乗る様にフリューゲルは豹丸の砲塔上部に乗り込む。
「マキナ、キリト達の援護だ!」
「わかっています!!」
そう言い、豹丸が走り出し。フリューゲルは砲塔後部の重機関銃座に入り込む。すると列車の中央部の機関車から汽笛が鳴る。それを聞いた二人はやや顔が険しくなる。
「列車が動きます…!」
「並走しろ!」
「はいっ!」
指示を飛ばし、キリト達のいる十一号車に移動を始める。ゆっくりと動き出した列車は次第に速度を60キロまで上げた。その横を豹丸が砂丘に乗り上げながら並走する。機関銃の攻撃が飛んで来るが、中にキリト達がいる影響か、さっきよりも弾幕は薄かった。
宇宙戦艦の装甲板で覆われた防楯や増加装甲は高い防御性能を豹丸に与えていた。しかし数が足りなく、まだ車体は丸太をくくりつけたままだが、フリューゲルの算段ではこの装甲列車を倒せば車体を覆える分の装甲が手に入ると考えていた。
「主砲!三時方向!対戦車榴弾!撃て!」
ドォォン!!
砲塔が回り、装甲車両を砲撃する。至近距離の榴弾の攻撃で貨車の側面に大穴が開く。煙が上がる中、車両の中からキリト達の怒声が無線機越しに聞こえた。
『ーーーこのドアホがぁああ!!巻き込んだらどうすんだ!!』
『ちょっと!こっちまで巻き込まないでよ!!危なかったじゃない!!』
その声を聞き、フリューゲルは涼しげな顔で言う。
「その様子なら問題ないな」
『『何処がだ(よ)!!』』
「それよりも……
そう言い、視線の先にある物を見た。それを穴から見たキリトが思わず呟いてしまう。
「げっ、ミサイル……!」
そこには多連装のミサイル発射筒があった。それを確認したフリューゲルが無線機越しに言う。
『アレの排除を頼む。出なければこっちからの援護も出来ない』
実際、ミサイルの攻撃を避けながらフリューゲルが言う。余裕そうにも聞こえるが、重機関銃で迎撃をしているあたりギリギリなのがうかがえる。
目の前で吹き飛んで生きた心地がしなかったが、105mm砲の援護は非常にありがたいキリト達は要請に応える。
「了解。ミサイルはこっちでなんとかする。それまで何とか耐えてくれ」
『頼むぞ』
常に無線はオープンなので二人の会話は全員に聞こえていた。キリトは通信を終えるとシノンが手を上げた。
「ミサイルは私がやる。だから他のみんなは前に行って」
「ああ、任せる。シノン」
「あ、じゃあ私はシノンさんの援護をします!」
「僕も、付いて行きます」
シノンの護衛としてユナとノーチラスが名乗り出る。残りのメンバーは残りの車両を制圧する為に前進する事となった。キリト達例外を除き、ここにいるメンバーは殆どが銃を持っている。
リズベットが散弾銃を。シリカ、ユナが短機関銃。クライン、ノーチラスが自動小銃。エギル、ストレアは汎用機関銃を。それぞれ持っていた。
それぞれ性格が出ていると思いながらキリト達は車内を走り出す。ミサイル発射筒攻略と、車両制圧の二チームに分かれたキリト達は行動を開始する。
現在十二両目を攻略中のキリト達はもはや定番の砲塔付きの装甲車両に乗り込み、制圧をする。機関車の前半分とは違い、後ろ半分は敵が強化され、ある程度の装甲を持った敵が短機関銃や自動小銃片手に車内で派手に銃撃を行う。相手に装甲があると言うこともあり、シリカやリズベットの手榴弾もあまり効果が出ない。なので狭い環境を生かしてキリト達が接近戦を仕掛けて一人ずつ制圧をしていた。
「全く、こんな時に神聖術が使えれば……」
ふとアリスが口にした言葉に思わず賛同してしまう。魔法という概念が存在しないこの世界。相手を倒すための遠距離攻撃が狙撃銃しかないため、非常に不便だ。アリスが放ったあの神聖術が使えれば一撃なのに……あ、でもアレだと自分たちも巻き込まれるか……
キリトはそんな風に考えながらまた一人、飛び出してきた装甲兵を切り裂く。段々と制圧にも慣れてきて手際が良くなってきた一行。因みに回復も入れているので恐ろしい出費が出ているだろう。と思いつつ、キリトはこのミッションの目的を思い出す。
『一緒にゲームをした記録を残し、交流を深める』
相変わらず策士だと舌を巻きながらフリューゲルの顔を思い浮かべる。能ある鷹は爪を隠すを体現した様な彼は、菊岡以上にアンダーワールドの事で考えているんだ。と思ってしまう。現実世界でユージオやアリスを守る為に奔走していたのは凛子さんから聞いた。自分が作った世界だからと言うのもあるかもしれないが、実際はおそらく……
そう考えたところでユージオが声をかけてきた。
「大丈夫かい?キリト?」
「ん?あ、あぁ…大丈夫」
「何か考えた様な顔をしてたけど……」
「ん?ああ、気にすんな。こっちの話だから」
そう言い、表情を柔らかくしながらそう応える。少なくともこの世界に来て日も浅いユージオ達には話しても分からない事だ。それを察したアスナも同じ様に話題を変える為に目の前の事に集中させる。
「さ、行こう。そろそろシノノン達が来るはずだから……」
そう言った瞬間。列車に振動が走る。
「うおっ!?」
「きゃっ!!」
突然の揺れに思わず手すりにしがみつくキリト達。何があったのか何となく予想しているとシノンの公開通信の声が聞こえた。
『ーーーフリューゲル、ミサイル発射筒を制圧したわ』
『こっちでも確認した……キリト。今何処だ?』
「今は十三両目に入る扉の前だ!」
そう叫ぶとフリューゲルからまた通信が入る。
『一旦引け、目の前を吹き飛ばす』
「はいよ……みんな下がれ!」
そう言い、キリト達車両制圧組は下がると豹丸からの砲撃が飛び、さっきと同じ様に車両の壁に大穴が空き、強い風が吹き込む。
キリト達が煤だらけになりつつも、吹き飛ばされた穴から一斉に突撃した。
少し時間が戻り、キリト達と別れ、ミサイル発射筒制圧を目的のシノン達は並走する豹丸を攻撃する根源を見つめる。
「あれね……」
何両も先にあるミサイルサイロを見つけたシノンは制圧した車両のキューポラから顔を覗かせてへカートを構える。ミサイルが飛んでいくのを目の当たりにし、車両の強い向かい風を感じているユナとノーチラスは同じ様に車両の砲塔のキューポラから顔を覗かせて遠くにあるミサイルサイロの蓋を見る。
「凄いな……皆んな」
「そうだね…」
ここに居るメンバーで二人だけが大学生だ。帰還者学校で同じ学年にはならず、ノーチラスはユナの実父の重村教授のいる大学に進学していた。
なのでゲームや時々現実世界です関わりのない二人はキリト達の連携に舌を巻いていた。
「やっぱりフリューゲルがいると変わるのかな?」
「どうだろう?これは皆んなの力だと思う気がするけどね」
そんな会話をしながら二人は狙撃をするシノンを手に汗を握りながら見ていた。
シノンはミサイルサイロをスコープ越しに見ていた。距離は約100メートル。絶対外さない距離だ。しかし、ミサイルサイロを早急に制圧する必要があり、できれは一発で一網打尽にしたいシノンは息を整える。
「ふぅーー………」
狙うはミサイルが発射された瞬間、そこに12.7mm弾を貫通させる。蓋が開いているから発射されるのも時間の問題。並走する豹丸も徐々にではあるがダメージが蓄積されている。急がなければならない。
しかし、焦る必要なない。狙撃手は常に落ち着く事が重要だからだ。
そして……
「(……来た)」
煙が上がり、炎を灯しながらミサイル発射筒から小型ミサイルが飛び出す。弾頭部が見えた瞬間。
ーーードォォン!!
へカートの引き金が弾かれ、発射された弾丸がミサイルを貫通。中の火薬に引火して誘爆。周りにも延焼し、サイロごと吹き飛ばされる。衝撃波と熱線が当たり、嫌な暖かさが顔面に伝わる。その光景を目の当たりにし、シノンは通信機に手を当てて並走する戦車に乗り込んでいる恋人を見ながら話す。
「フリューゲル、発射筒を制圧したわ」
返って来たのはいつも通り淡々とした声だった。