四月十二日
新学期を迎え、桜も葉桜に変わった頃。キリト達のペントハウスではとある会議が緊急で開かれていた。
「全員集まったな?」
部屋にはブレイドを除くいつものメンバーが集まっており、アスナがキリトの少し後ろで立っていた。
キリトは真剣な眼差しのまま口を開いた。
「では…ボス討伐会議を始める」
すると、そこで一瞬間が開いた後にアスナが言う。
「キリトくん、ボス討伐会議じゃないよ」
「…そ、そうだな……」
やや苦笑いしながらキリトはアスナを見ると、クラインが軽く咳き込んで場を整えた。
「ゲフンっ!」
そしてキリトは仕切り直すと、少し楽な姿勢になって卓上に浮かぶデータを見た。
「では、ブレイドの誕生日パーティー会議を始める」
そう言うと、アスナが画面を操作して卓上に幾つかの画面を映し出す。
「パーティーの準備期間は今日から三日間。えー、四日後の誕生日までに間に合うよう迅速かつ組織的行動を持って全力を上げろと本妻が…」
その瞬間、一気に視線がキリトに集まった。キリトはしまったと思い、一瞬だけシノンを見た後に言い直した。
「…彼女が指示してきた」
言い直し、キリトは次にこの会議に集まった面々に聞く。
「では報告を」
「はい」
まず初めにリズベットが手をあげる。
「会場となるダイシー・カフェの予約と飾り付けの準備は予定通り進んでいるわ」
「会場の飾り付けに必要な道具も予定通り届いています」
シリカが答えると、次々とキリトに報告が上がる。
「次、怪我人の報告」
「…ん?怪我人?」
クラインが思わず首を傾げると、真面目にリーファが報告を入れる。
「先日、飾り付け準備の為に店を訪れた一名が店先で転倒。軽傷を負いました」
「それ昨日の俺じゃん」
クラインは真面目に行なっている会議の内容を聞いて思い当たる節しか無かった。
「はい」
するとユナが手をあげる。
「サプライズで行なっているパーティーですが、情報管理に不安が残っています」
「……何?情報管理は誰が行なっているんだ?!」
キリトが聞くと、マキナが答えた。
「情報管理をしているのは私です。ただ、パーティーの予約情報が一瞬だけブレイドに見られた可能性があります」
「それは不味いかも知れないな……」
キリトはブレイドの勘の良さを知っているが故に少し不安を覚えた。
「マキナはもし聞かれた際は上手くはぐらかしてくれ。それから、予約情報などのデータは印刷した上で削除」
「わかりました」
マキナと確認を取ると、アスナが話しかけた。
「キリトくん。時間はあんまりないよ」
「あ、そうだな……」
画面の端に映る時間を見てキリトは時間を最大限有効活用しなければと考えた。
「では、会議を終わる。諸君、本日より一同。全力をあげボス討伐に……」
「ボス討伐ちゃう」
クラインがツッコミをかけると、キリトは改めて言い直す。
「…本日より、全力をあげてサプライズパーティー任務を遂行してください」
「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」
事の発端は前日、詩乃が自室でオンライン会議を行なっていた修也にいつも通り紅茶を出しに行った時のことだった。
『そう言えば、シューヤってそろそろ誕生日だよな?』
「え?あぁ、もうそんな時期か……」
画面の奥でザスマンが聞き、修也は対して気にした様子もなく答える。するとザスマンは呆れた様子で修也に言う。
『あのなぁ…お前くらいの時期は歳が分からなくなるのは理解できるが、誕生日くらい覚えとけよ』
「面倒くさい、数え年で良いだろう。その方がわかりやすい」
『はぁ……』
ザスマンはいつもの如く誕生日を忘れている修也にため息が大きく漏れていた。
すると、修也はザスマンに聞いていた。
「えっと、誕生日はいつだったか」
『お前の誕生日は四月十五日だろう?ほら、今年欲しいもんはなんだ?』
「んじゃ、適当に見繕ってくれ。あっ、何時ぞやみたいに女子物送ったらDDos攻撃するからな」
『わかってるって。……それで痛い目見たし』
ザスマンは前にやらかしたしくじりを思い返しながら答えると、修也は短く返答して会議を再開していた。
「(修也の誕生日って……三日後じゃん!!)」
会話を全て聞いていた詩乃はカレンダーを見て驚いてしまった。今まで修也の誕生日は聞いて居なかったが、予想外の時期に詩乃は反射的に和人に連絡を取っていた。
「……あっ、もしもし和人?」
『ん?どうした、珍しいな』
和人は普段は修也からの電話ばかりだったために珍しい相手からだと思っていると、詩乃は和人に聞いた。
「あの……緊急なんだけど。修也の誕生日って知ってた?」
『え?あぁ……そう言えば今まで聞いた事なかったな』
和人も知らない様子で、詩乃はある意味で終夜らしいと思っていると和人に言う。
「そうなんだ……ちょっと今からALOの貴方の家に行って良い?」
『え?あ、うん。分かった』
「後ついでに明日奈も呼んで来れる?」
『了解』
そして詩乃は電話を切った。
五分後、キリトのペントハウスを訪れたシノンはそこでキリトやアスナに先ほど聞いた一件を話した。
「え…ええ?!ブレイドの誕生日って四日後なの?!」
話を聞いた二人は驚いた声を上げる。
「ええ、さっき聞いたんだけど。修也の誕生日って十五日なんだって」
「十五日……」
キリトはカレンダーを見て日にちを確認するとシノンがキリトに聞いた。
「彼の誕生日をどうせなら祝おうと思っているんだけど……」
そんなシノンの提案にアスナがすぐに頷く。
「そうね、みんなで祝いたい所ね」
「でも間に合うのか?」
「プレゼント程度なら間に合いそうじゃない?」
三人は三日後と言う短い期間で誕生日会をするのは難しいかと考えていたが、シノンが少し考えた後で二人に言う。
「でもブレイドってまともに誕生日祝ってもらった事あるのかな?」
「「……」」
そこで三人は黙り込んでしまう。少なくとも普段の生活を見ていてまともに誕生日を祝ってもらったのか不明な所だ。
なにせ、幼い頃はアメリカに住んでいて親とまともに過ごした事がなく。日本に居ても両親は有名人。特に父親は与党でも生粋の異端児として有名人であり、何かと話題に絶えない人物だ。
母親は元モデルだが、今はその伝手を生かしてファッション会社を経営しており忙しい日々を送っていた。
とてもじゃないが、キリト達のイメージするような祝われ方をして居たかと聞かれると疑問が残る所だった。
「……やっぱパーティを開こう」
「うん、そうだね」
あまりにも悲惨な状況を想像してしまい、キリト達は絶対に彼の為に誕生日パーティーを開こうと考えた。
「会場は……」
「ダイシーカフェでいいだろう。融通が効く」
「とりあえずみんな呼んで作戦会議と行こう」
そう言い、キリト達は翌日に全員をALOに招集していた。
会議が終わり、全員がブレイドの誕生日の準備のためにログアウトしていた。こう言う時、楽に集まれるからVRも悪くない。
「それで、ブレイドの方は?」
「私から時間を空けるように言っておいた」
誕生日当日は水曜日、学校帰りに本人をダイシーカフェに連れ込む準備は完璧だった。
「よし、ならばあとは滞りなく準備を進めるだけだな」
よくよく考えれば知り合ってから一度もブレイドの誕生日を祝って居なかった事に盲点だった事と、申し訳なさが浮かびながらキリト達は準備を進めていた。
「みんなが来れたのが何よりも救いね」
「ああ、たまたま空いて居たのがよかった所だな」
「去年も結局忙しくて有耶無耶になっちゃった部分もあるしね」
「帰還者学校に入学して色々と忙しかったからな」
まぁ主にALO事件が原因だったのだが……少なくとも去年のこの時期はまともに祝うことすらままならなかった。
「でも誕生日くらい言ってくれればいいのにね」
「ゲームでも誕生日を設定して居ないもんな」
「まぁ、本人が覚えて居なかったからあれだけどね……」
シノンも半分呆れながら言う。年齢を忘れるのは多々あるが、まさか誕生日を忘れるとは……。
「とにかく、準備は思って居た以上に順調に進んでいる。あとはブレイドが無事に会場に来ることを祈るだけだな」
「そこまで心配すること?」
「まぁ、ブレイドは忙しい人だからね」
どこか含みのある言い方でアスナは言うと、キリトやシノンはやや首を傾げていた。
三月のユウキの一件でアスナはブレイドがアメリカの大手医療器具メーカー、アスクレー社の関係者である事を知っている。ただ彼から他言無用であると言われている為、アスナはキリトにもその事を伝えて居なかった。
「さてと、私これからブレイドにいいプレゼント探してこよっと。シノンも来る?」
「え?えっと……」
一瞬シノンはアスナについて行こうとも思ったが、そこですかさずマキナとストレアが言った。
「マスターの監視はこちらで行なっておきます」
「何か不測の事態が起きても、お任せください」
自信満々に二人は答えると、アスナはをそれを見て少し微笑んでシノンに改めて聞いた。
「それじゃ、一緒に来る?」
「……ええ、お願いしても良い?」
「もちろん!」
アスナはそう答えると、合流場所を決めて二人はそれぞれログアウトしていった。
そして部屋に一人残ったキリトは四日後に誕生日を迎えるブレイドに、学校で呟いていた言葉に納得をしていた。
「なるほど、だからあいつもう少しで仮免が取れるって言って居たのか……」
序盤の会議シーンはある映画をモデルにさせていただきました。