三日後の修也の誕生日を祝うために集まった和人達はその短い準備期間を無駄なく活用していた。
(おそらく)まともに誕生日を祝われた事がない修也の為に全員がやる気に満ちていた。
まぁ、どちらかと言うと普段無表情の修也をあっとさせたいと言うのが根底にあったりするが……
「準備の方は?」
「おう、ばっちりよ」
エギルの店で和人は聞くと、彼は陽気に答える。
すでに予約は入れており、こんな短期間で貸切予約をさせてくれた事には感謝しかなかった。
「あの修也の誕生日なんだ。盛大に祝ってやらないとな!」
彼はそう答えると、予定を確認しに来た和人は少しホッとした表情を浮かべる。
「助かったよ。おかげで修也も寂しい誕生日を迎えなくてすみそうだ」
「ははっ、本人が聞いたら『そっくりそのまま返す』って言われそうだな」
エギルはそう言い、吹いていたグラスを片付けていた。
同じ頃、学校帰りに明日奈と合流した詩乃は都内のデパートに訪れていた。
「どんな物を渡すのが良いのかしら?」
「うーん、修也さんなら基本的に何でも喜んでくれそうだけど……」
「でも、女子物を渡すとDDoS攻撃するとか言ってたけど……」
「なにそれ?」
DDoS攻撃を知らない二人は修也の話の意味がよく分かって居なかったが、多分恐ろしい攻撃なのだろうと予測して居た。
「修也が好きな物と言えば……」
そこで詩乃は修也が好きな単語を並べていく。
「パソコン、ガ○ダム、ゲッ○ーロボ、鉄○28号、ア○ム、コン○イ司令官……」
「『ほわああああっ!?』じゃないんだからさ……」
「よくよく考えるとロボットが好きなのかな?」
特に好きなのはガン○ムだろう。だってGGOでも赤いザ○使っているし……部屋にはプラモデルも置いているくらいだし。
自分はそう言う趣味は持って居ないので、あまり興味はないのだが。そう言う点ではちゃんと男の子なんだと改めて認識していた。
「そう言えば前に言ってたっけ?一番好きなのは『08小隊』って……」
「ふーん、あのアニメか……」
明日奈は昔、サブスクで見たアニメを思い出す。確かにあれは面白いかもしれない。少なくともリアルな戦闘描写に混ざった一時の青春表現がなんとも面白さを引き出している。
「確かに、面白いかも」
「明日奈もそこまで言うんだ」
「私はそこまで詳しくないから、あんまり強くは言えないんだけどね」
明日奈は少し苦笑しながら答えつつ、デパートの紳士服の店を回っていた。
「正直言って修也って元々が滅多に外に出ない人間だったからさ、外行きの服もほぼなかったのよね……」
「あのお母さんがいたのに?」
明日奈は元モデルの修也の母を思い返しながら聞くと、詩乃もやや首を傾げたように頷く。
「うーん、何でもあんまり修也にそう言うセンスを教える前にもう引き篭もりだったらしいからさ」
「和人くんより悲惨だね……」
明日奈はやや引き攣りながら答えると詩乃は店頭に並ぶシャツやネクタイなどを見ていた。
「うーん、正直こっちよりもパソコンのパーツとかの方が喜ぶのかな?」
詩乃は悩んでいると、横で明日奈はきっぱりと断言する。
「いや、それは違うと思うよ?」
「え?」
「だってさ、そう言うパソコンのパーツを買ってあげても。すでに修也さんの部屋にはそう言うのが山積みでしょ?」
「まぁ、そうね」
詩乃は修也の自室に山積みのパーツを思い出す。
「だったら普通に服とかを買ってあげた方が修也さんもありがたいと思うんだよね」
「……」
明日奈のごもっともな意見を聞き、詩乃は改めて紳士服を選ぶ。大事な人の誕生日だ、念入りに選ぶとしよう。
その頃、修也は一人。マンションの部屋に残って作業を行なっていた。
作業台の上では機械仕掛けの腕と手があり、人間工学を意識したような構造をとっていた。
「……」
外のカバーをネジで止め。その傍ではマキナが修也の腕部制作の手伝いを行っていた。
今彼が作っているのは今度彼のバイト先であるラースに納入する予定の人型ロボット……どっちかと言うとアンドロイドのような気もする機械の腕を作っていた。
あんな金額を提示されては修也の背に腹は変えられないと言うことで、ある約束を前提に修也はラースに協力していた。ただし、これら機械の技術の根幹となるMeacシステムは非搭載であった。あの胡散臭い官僚に手を貸すのは業腹ではある。
と言うよりあの人はMeacシステムに興味なさそうだったしな。
「なぁ、マキナ」
「はい」
マキナは修也の補助を完璧に行いながら修也が誕生日について聞かれた時にうまくはぐらかすように詩乃や和人から厳命されていた。だから修也の補助は半分監視も兼ねて居たのだ。
「そこのドライバーを取ってくれ」
「はい」
「あとついでにキッチンからお茶を」
「畏まりました」
メイドのように彼女は部屋を出ていく。
メイド服みたいなのは流石に着ないが、それでもやっている事が完全にメイドのそれの彼女は修也の要望に応えるようにキッチンに移動する。
見た目が十歳くらいの少女であるが故にキッチンの上の方までは届かない。
元の体重が重いせいでジャンプをしたら部品の破損の危険性や、何より床が抜け落ちる可能性があると言う事で厳禁だった。
ALOやGGOでアバターで軽快に動いている故についこの機械の体でも同じような動きをしたくなってしまう。
「(もうすぐで新しい体が届くんでしたね)」
そろそろこの機体のバッテリーも劣化が始まっており、頻繁に充電しなければならない。
新しい機体はすでに発注済みであり、あと数ヶ月もすれば届くそうだ。新たな機体の設計図はすでに読んでいるが、待ち遠しいものがある。
「(これが俗に言う欲と言うものですか……)」
修也が閉じ込められて居た二年間の間で実に人の事をよく学んだ彼女は、人が根底に抱える感情を自分が持っている事に喜びを覚えていた。
「お待ちです」
コーン茶を淹れたコップを持って行って修也の横に置く。
劣化や有り合わせの既存部品で作った影響で稼働する腕の中からわずかにモーター音の聞こえる。
「……もうすぐで新品が届く。それまでの辛抱だ」
「いえいえ、マスターが最初に作ったアンドロイドです。これからも大切にしていきますよ」
「……そうか」
マキナはすでに旧式化している自分の体を見ながら応えると、修也もどこか懐かしい表情を浮かべたまま作業台の上にある機械の腕を触る。
すると、マキナはそんな彼に半分忠告するように聞く。
「でも良かったのですか?あの胡散臭い官僚の手伝いをして」
「いいんだ。少なくともアメリカの時のような実験はしないと直接交渉したし、サインも貰っている。それに……」
作業をしながら修也は言う。その目はどこか自分に期待しているようだった。
「何かあればマキナが教えてくれるだろう?」
「……」
修也の問いかけにマキナは少し口角が上がる。
「……ええ、おまかせを。
マキナはそう応えると、ふと思い出したように修也が聞いた。
「ところで何だが……この前ダイシー・カフェに予約入れてたみたいだけど、どうしたんだ?」
「(?!)」
そこでマキナは戦慄をし、慌てて言い訳を考え始めるのだった。
数日後。
「おーい、修也!」
「ん?」
学校の帰りに修也は和人や明日奈に声をかけられる。
「一緒に帰らない?」
「ああ、良いぞ」
今の修也の住むマンションはちょうど学校帰りの途中にあり、アクセスもしやすかった。
「それじゃ、行きますか」
「ええ、そうね」
「?」
和人と明日奈はそこで修也を一瞥した瞬間。
「っ?!』
突如顔を隠すように修也は頭の上から麻袋を数せられ、視界が真っ暗になってしまった。
「わっ?!」
「「「「そーれっ!!」」」」
「何をするっ!!この野郎!!」
麻袋を被せた里香や珪子も加わって修也は一気に担ぎ出され、そのまま遼太郎の車に押し込まれるとそのまま誘拐のように学校を去って行った。
そして修也は頭に麻袋を被らされたまま後ろ手に縛られて車を下ろされる。
やっているのがテロ組織とかのやり方で苦笑してしまうと、店の鈴の音を聞いてここがダイシー・カフェであると察する。すると被らされていた麻袋が外され、一瞬視界が真っ白になる。そして視界が戻ると……
「「「「誕生日おめでとう!!」」」」
クラッカーの音が鳴り、修也に紙テープが降り注ぐ。
店を貸し切っての誕生日パーティーに修也は困惑していると、後ろで和人が言う。
「お前が誕生日ってのを聞いたから」
「サプライズってことで」
「まともに祝われた事なさそ……ぐほっ?!」
とりあえず余計な口を聞く遼太郎の腹に一発拳をくらわせたあと。修也は改めて会場を見ると、そこには多くの料理やケーキが置かれていた。
「……なるほど」
「マスター、誕生日。おめでとうございます」
傍で牧奈が姿を現して祝いの言葉を言うと、次から次へとプレゼントが手渡されていく。
「誕生日か……」
修也はそこで誕生日パーティーに景色を見ながら少し嬉しく感じた。
今まで近い年の子に祝ってもらう事がほぼなかったが故にこの新しい感覚に少し嬉しく思った。
「はーい!と言うことで今から修也の誕生日パーティーを開きまーす!」
「ほら、主役はこれ被って」
そう言われ、明日奈達から帽子や『今日の主役』と書かれた襷やらを被せられ、終いにはおもしろ眼鏡までつけされられた状態で壇上に立つ。
「それじゃあ改めて!」
里香は修也の横で音頭を取る。
「「「「「「修也、誕生日おめでとう!!」」」」」」」
そう言い、盛大な誕生日パーティーが開始した。
誕生日パーティーが行われ、修也やパーティーに集まった面々は思い思いの時間を過ごす。
「よっ、今日の主役さんよ」
カウンターに座り、修也はエギルに話しかけられる。
「どうだ?今日のパーティーは?」
「ああ、こんな盛大にやってくれるのはありがたい事だ」
そう言い、エギルはプライベートルームの方を見た。
「なぁに、修也の親父さんには色々と稼がせて貰っている身だ。これくらいサービスの部類だよ」
「ははは……」
多分、
赤坂の料亭でやるよりはイメージしずらいかもしれないが、まさかここでしているとは……。
「まっ、今日は目一杯楽しんでくれよ。まだまだパーティーは始まったばかりだからな」