ブレイド、キリト、アスナの三人は二十二層のブレイドのコテージで食事会を開いていた。
そして食事会も終わりを迎え、食器を片付けたブレイド達は談笑していた。
「……で、お前がラグーラビットの肉を出してきた時は驚いたなぁ〜」
「そうね、S級食材を結婚祝いだからって……ねぇ」
そう言ってアスナはキリトの方を向くとキリトはほんの小さく頷いてさりげなくブレイドの右腕を動かそうとする。
しかし、ブレイドはそんなキリトの手をひょいと避け、無音の戦争が始まった。
「(絶対何か隠している……)」
「(キリト君も思った?怪しいよね……ブレイドさん、他の料理にもS級食材が混ざっていたし……)」
「(ああ、多分何か隠しているぞあいつは……)」
二人は目線で会話をしながらブレイドのストレージを見ようと画策していた。
「(これだけはバレる訳にはいかない……)」
ブレイドもキリトがさりげなくストレージを見ようとしている事に気づいており、いつの間にか部屋での戦闘になっていた。
キリトはそれに加えて体術スキルを持ち出してブレイドを捕まえようとしていた。
「おいおい、体術スキルはねえだろうに……」
「お前の秘密を暴くためだ」
「何のだ?」
ブレイドの問いにキリト達は理論立てて口撃を始める。
「あなたの料理にS級食材がふんだんに使われていた。それは普通おかしい話なのよ」
「ほう……それがどうしたと?」
「普通S級食材は隠すものだ。嫉妬されるからな」
そして嫉妬は歌見や妬みの種となり、不和を作り出す。そんな危険は無いというキリト達へのブレイドからの信頼の元なのだろうが、その正体を暴きたい。
「そうなのか?」
「わざとらしく返答するな!!」
二対一の戦闘となったブレイドは分が悪いと感じ、キリトに決闘を持ちかけた。
「キリト、決闘だ」
「決闘……?」
そう言うとブレイドはキリトにストレージを見せる。
それを見たキリトは目を見開いて驚いた。
「《ラグー・ラビットの肉》が……十個……!?」
「嘘でしょ!?」
ストレージを見たキリト達が驚愕しているとブレイドはキリトに初撃決着モードで決闘をしようと言う提案をした。
「キリトが勝てばこの訳を話そう。負けたら諦める。これでどうだ?」
「……良いだろう。表出るぞ」
「キリト君。頑張って!」
そう言ってアスナの応援の元、ブレイドとキリトは家の前の小道で決闘をしていた。
キリト達は美味い食材を手に入れる為、ブレイドは自分の幸せを取られたくない為にお互いに本気で決闘をするのだった。
結果は『引き分け』だった。初っ端から『スターバースト・ストリーム』を放ち、ブレイドはそれをパランジャで防ぐと『迅雷』でブレイドが目にもとまらぬ速度でキリトに突っ込んだが、それをキリトは避けブレイドの硬直時間を狙ったが、ブレイドの迅雷の速度に追いつけず仕留め損ない、最後に同じ、右腕を刺した事で結果は『引き分け』となった。
「引き分け……という事は報酬はどうしようか……」
「いや、無しでいいさ。
「……」
キリトは息をしながらそう言うも、ブレイドはどこか申し訳ないような表情を浮かべるとキリトに言う。
「まあ、引き分けだったからちょっとだけ公開しよう。七十四層に行けばヒントがあるぞ」
「七十四層?」
「ああ、そうだ。私から言えるのはこれだけだな」
「それだけでも十分だ」
情報を一部だけ開示したブレイドは、後は休むとだけ言い残してコテージに戻っていった。
翌日、ブレイドの家にキリト達がやって来た。
しかし、昨日とは違って二人の間に幼い幼女が立っていた。
「誰だ、この子は?」
「俺たちが聞きたいよ」
『ユイ』と名乗る少女はブレイドの作ったパンを頬張っていた。
「それで、私にこの子について情報を集めてほしいと?」
「ああ、いきなりで済まないな」
「問題ない、今日は家で一日過ごす予定だったからな」
そう言うとブレイドは立ち上がり、キリト達と別れると情報収集のために二十二層から降りるように情報集めを始めた。
二十二層で見つかったあの歳の少女だ、おそらく下から上がって来ただろうとアタリをつけて情報を集めていた。
そういえば彼女のIDを見ていなかったと思いながら聞き込みをして、日が暮れる頃にブレイドはキリト達の家に戻った。
「戻ったぞ」
「おう、成果は?」
「ダメだな……十層まで戻ったが情報らしいものは何もなかった」
「そうか……」
ブレイドは申し訳なさそうにするもキリトはブレイドの肩を掴んで夕食会に誘っていた。
実を言うとその後のことはあまり覚えていない。ユイがキリトとアスナを『パパ』、『ママ』と呼んでいたことや、三人がまるで家族のように話していた事だけはよく覚えていた。
何が大事なことを忘れているような気がしているが、それが何だったか思い出せずにその日は就寝についていた。
翌日、ブレイドはアルゴの急な呼び出しでユイの調査に行けなくなった事を話すとキリト達もそれを承諾して一層に向かっていた。
「じゃ、私は行かなくちゃな」
「行ってらっしゃーい」
ユイがそう言って手を振るとブレイドも手を振りかえしてキリトのログハウスを出て行った。
「……あっ!」
「なんだヨ。いきなりでかい声出すナ!!」
ダンジョンに潜っている途中、ブレイドは思い出していた。その横でアルゴが迷惑そうに耳を塞いで文句を言っていた。
「すまない……忘れていたことがあってな……」
「お?珍しいナ、今から戻るカ?」
洞窟内の坑道でアルゴはブレイドにそう聞くと、彼は首を軽く横に振った。
「もう無理だろう。ここまで深く潜ったんだぞ」
「じゃあ、このまま行こうカ」
結局、このダンジョンが予想以上に広く、丸二日を過ごすことになってしまい。二十二層のコテージに戻ったのは十一月二日のことだった。
そこでユイに関する事の顛末を聞いた。
彼女はMHCP……メンタルヘルスカウンセリングプログラム。つまりAIだったという事だ。
流石にこのことには驚いた。まさかあそこまで感情が豊かなAIがいるとは思わなかったのだ。その事に驚きながら、ユイが居なくなったことへの悲しんでいるキリト達を慰めるとブレイドはどこか覚悟を決めたような表情でコテージまでの道を歩いていた。
二〇二四年 十一月六日
それは衝撃を持って攻略組に伝えられた。
「偵察隊が全滅……!?」
「昨日のことだ。七十五層迷宮区のマッピング自体は、時間がかかったが何とか犠牲者を出さずに終了した。だがボス戦はかなりの苦戦が予想された……」
「クォーター・ポイント……」
キリトに加え、『KoB』本部に呼び出されたブレイドがそう言うとヒースクリフは頷いた。ヒースクリフがブレイドを呼んだ理由は定かではないが
「そう、そこで我々は五ギルド合同のパーティー二十人を偵察隊として送り込んだ」
抑揚のない声で淡々とヒースクリフは話を続ける。
「偵察は慎重に慎重を重ねて行われた。前衛の十人がボス部屋の中に入り、後衛の十人が入り口で待機するようにしたのだが、ボスが出現したとたんに扉が閉じられてしまったそうだ。
ここから先は後衛の十人から聞いた話だ。扉は五分以上開かず、どんな方法でも無駄だったらしい。そして扉が開いた時、そこには何も無かったそうだ。十人の姿も、ボスの姿も。転移脱出した形跡もなく、念の為黒鉄宮に確認も行ったらしいが十人全員に横線が入っていたそうだ……」
ヒースクリフの冷徹な報告を聞き、全員に動揺が走る。
「十人も…………何でそんなことに……」
「転移結晶無効空間か……?」
キリトの呟きにヒースクリフは頷く。
「恐らくそうだろう。そしてこれからのボス部屋は恐らく全てが結晶無効空間だろう……」
「いよいよ本格的なデスゲームになってきたな……」
「しかし、それを理由に攻略を諦めることはできない」
ヒースクリフのどこか誘惑する声色にブレイドはキリト達に見えないように微妙な表情を浮かべ、真剣な目をしていた。
「今回は結晶無効化空間による離脱が不可能なことに加え、一度入れば我々かボスが倒されるまで退路を塞がれる仕様のようだ。ならば、可能な限りの戦力で統制の下に戦うしかない。君たちを無理矢理呼び寄せることは不本意ではあったが、解放の日の為に了解してくれたまえ」
「分かりました。だが、俺にとってはアスナの安全が最優先です。もし危険な状態になったら、アスナを守ります」
「何かを守ろうとする人間は強いものだ。君たちの勇戦を期待するよ。75層ボス攻略戦は明日の午後1時に決行。それまでは、自由時間とする。では、解散」
そう言い、紅衣の聖騎士と配下の男達は立ち上がり、部屋を出ていく中ブレイドは部屋の外で思い悩んでいた。
「(結局答えを出せずにここまで来てしまった……)」
それは茅場晶彦とのデュエルの話だった。ゲームクリア、それは全てのプレイヤーが望む事であり、攻略組の存在意義でもある。
だが、それはブレイドにとってはとても重い決断である。
どうしようかと思いながら壁に背を預けてていると何処かから声が聞こえた。それはキリト達の声であった。
『……明日のボス戦、参加しないでここで待っていてくれないか?』
『……どうしてそんなこと言うの?』
部屋から聞こえる二人の会話にブレイドは自然と耳を傾けていた。
『もし君に何かあれば…『そんな場所に自分だけ行って私には安全な場所に残って待ってろ、っていうの?』……』
『そんな事でキリト君が死んじゃったら私……自殺するよ』
『っ!?』
アスナの言葉に盗み疑義していたブレイドもやや驚く。それほどまでに二人の関係は深いようだ。
『もう生きている意味もないし、自分が許せなくなるもの。逃げるなら二人で逃げよう……』
『そうだな……俺は弱気になっていた……できるなら現実世界に帰らず、ずっとあの森の家で暮らしていたい……』
『そうできたら、いいね……毎日一緒に……いつまでも』
そう言って二人が話すのを申し訳ないと思いながら聞いていたブレイドは
「(……決めたよ……兄さん)」
腹を括り、少し目元が鋭くなるとブレイドは本部を誰にも気づかれぬように後にした。