ソードアート・オンライン 赤色の記録   作:Aa_おにぎり

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間話#22 Bofore Alicization Ver.2.0

六月二九日 七時二十分

一度目のSTLの使用を終え、現実世界に帰還した修也が医務室で検査を受けている頃。

 

「不味いな……」

 

菊岡は渋い表情でその報告を見ていた。

 

「まさか和人くんが襲われるとは……」

 

そこには金森淳が和人を襲って、彼が入院した報告があった。

 

「今の通常の医療では和人君を覚醒されるのは不可能っすね。おそらく」

 

そして報告を呼んでいた比嘉がそう答えると、菊岡は別の懸念を口にする。

 

「ああ、それに今の我々は彼の友人を客として迎えている」

「ああ。そう言えばそうしたっすね」

 

そう言うと比嘉は思い出したように菊岡に言う。

 

「そう言えば菊さん、ちょっと気になった事があるんっすけど」

「?」

 

そこで比嘉は菊岡にある資料を見せた。

 

「その…修也君のSTLのデータなんですが……」

「っ!これは……」

 

()()を見た時、菊岡はひどく驚いた目をし、思わず比嘉に確認してしまった。

 

「本当にそう映ったのかい?壊れたとかでもなく……」

「はい、今のところ。目立った異常は二号機からは見つかっていません」

 

比嘉はそう答えると、その結果に菊岡は唖然となりそうだった。

 

「彼のフラクトライトは観測できません。計気に異常も見られないと言うことは、それほどまでに彼が自分に対する認識、個と言う存在を意識していないと言うことになります」

「それはつまり……」

「はい、修也君は精神的負荷がかかっていて自分自身への認識ができていない……ぶっちゃけると動く死体みたいになっているッス。これだけを見ると……」

「……何ということだ」

 

和人に引き続き、修也までもが問題を起こした事実に菊岡は頭を抱える。現在和人はこちらに移送中であり、修也は気になる所があると言ってライトキューブクラスターの制御室に入っていた。

 

「でもまだまだ修也君に関してはデータが必要ッス。何せこんな状況は初めてですから」

「なるほど……」

 

菊岡も比嘉の意見を聞いて少々問題が発生すると同時に今までの修也と他の研究者との相違点にも納得が言っていた。

 

修也は自身のフラクトライトのコピーが崩壊する様を見ても、何も嫌悪感を示すことなくただ無感情に外様を見ていた。他の研究者は何かしらの反応を見せていたが、修也だけは興味がないと言った様子で崩壊した後も仕事を続けていた。

その異常性は菊岡も薄々は感じていたし、それが和人との大きな違いである事も把握していた。

 

 

 

 

 

和人はSAOの時からNPCは人と同じように生きている存在だと常々言っていた。

しかし、自分から言わせてもらうと。やはりデータ上の世界の住人は現実世界の人と比べても様々な面で圧倒的に脆い。

兄ですら開発に失敗し、現実世界から呼び寄せて閉じ込めたレベルのものをたった数年で完成できるとは修也は思えなかった。いくら第四次産業革命などと言われている現在であっても、そういう人に近いAI開発には時間がかかるものだ。

 

「(だからこそ和人とはNPCに対する意識というのは埋まらないんだろうな)」

 

どうしたってSAOの時の兄ですら成し得なかったという事実が根底にどうしても根付いており、修也はその事を口に出すことはなかった。

正直に言うと、和人の意見は今という時代においては時期尚早と言えた。どうしても一般大衆のゲームの感覚で言うとフルダイブの時代とはいえ、NPCは所詮NPCという考えがあった。

 

「(しかし、あれは恐ろしかったな……)」

 

修也は薄ぼんやりと記憶しているアンダーワールドの景色を思い出す。それはあまりにも現実と似通っていて、もう一つの世界だと思わざるを得なかった。

その世界で何をしたかなどは覚えていないが、ただ自分達は恐ろしい物を作ってしまったと感じ、同時に人の手で操れる物ではないと確信していた。

機械のバグによる異変だと思っているが、そんな短くて曖昧な記憶でも強烈に覚えているという事実に彼は魅了されていた。

 

「(やはり準備しておいて正解だったな)」

 

そして人の手に余る物は世間から隔離する必要があり、何も知らない箱庭に永遠の平和を享受させようと思っていた。

もとより実験が終われば消去されるこの世界、消去直前に持っていっても問題無かろう。箱庭を収容する為の施設は既に北欧に準備していた。

兄の夢であり、今でも情報の世界を漂っている人が夢にまで見た景色だった。それをより完璧に近づける為の準備は裏で進んでいた。

この事は詩乃や和人はもちろん、菊岡や比嘉はおろか藤吉や真之でも知り得ぬ事だった。

 

ただ茅場晶彦と言う男の為に、かつての偉人、人生の目標だった人物が夢見た景色を彼に捧げるために……。

狂信的とも言える彼への崇拝は修也にとっては最も最優先されるべき事であった。

 

すでに軍事利用を目的として開発が進んでいるこのアンダーワールドの世界。初期実験のこれが終わればいよいよ次は戦場を模した世界が構築され、戦場の教育が行われる。そして完璧に近い、機械情報で出来た兵士を増産する事になるだろう。そこに個人の感情はない。

 

和人がバイトでSTLを介したアンダーワールドに入ったことによる外部刺激による急激な成長はこちらでも観測しており、そして何より気になるのが……

 

「公理協会と整合騎士の存在……」

 

どのような理由があってそのような組織が生まれたのか、そしてそれら支配に対する反抗が一切ないというのも恐ろしい話だ。少なくとも、裏で何かがあったと言う事しか考えられなかった。前者に関しては完全に予想できたが、後者に関しては本当に意味が分からなかった。

 

公理協会はアンダーワールドの人物が作ったと言うのなら、原因はおそらく人口フラクトライトそのものにあるだろう。

 

「アンダーワールドの人口フラクトライトは全てモニタリングされ、異変を感じるとすぐに報告が上がる。それなのに……」

 

その異変が実験を始めてからと言うもの、それは一例しか確認されていない。それは明らかに異常だ。

FLAによって中では時間加速が行われており、中では何百年と起こっている。菊岡や比嘉はそのことに違和感を覚えないのかと甚だ思ってしまった。

いや、むしろあの二人の場合は日和見だし、比嘉に関しては自分のプログラムに絶対的な信頼を持っていた。あと元々試作の実験空間だからどこか適当なのだろう。

だからこそ、変化のないアンダーワールドに和人と言う外部からの刺激を与える事でそれを起爆剤にしようとし、そこで運よくA.L.I.C.Eが生まれてしまった。それ故に二人は外部の人間を入れる事によって新たなA.L.I.C.Eができると思ってしまっていたのだ。

 

「だが最初からバグを打ち込まれていたら元も子もないぞ……」

 

最初から毒されていた果実は熟れても毒は残っている。菊岡達は何百年と経っているのに、革命や暴動と言った兆候が一切見られないアンダーワールドそのものに違和感を覚えなければならなかった。

人口フラクトライトは、元はと言えば無垢な生まれたばかりの赤ん坊の魂をコピーして生まれたクローン人間のような存在。つまり人間と同じような行動をすると思って良い。

事実、人口フラクトライトの初期育成を行なったのは人間なのだから、その性格は映ると言って良いだろう。

 

「……あった」

 

そして無数のプログラムを確認していた修也はその違和感を見つけた。そして徐に彼は衛星電話を取り出すと、ある場所に電話をかけた。

 

「……もしもし?」

 

電話を掛けたのは祖父の真之だ。防衛省を退役した元自衛官とはいえ、その影響力は修也も計り知れないものがある。色々とコネクションが多い人間だった。

事実、アリシゼーションに際し半官半民とは言え。民間出資者は全員が真之の息が掛かった人物だった。

 

『おおう、どうした?』

「ちょっと緊急で調べて欲しいことがあるんだけど」

『ほほうお前からとは珍しい……で、何を調べて欲しい?』

 

真之の問いかけに修也は目の前に映っている予定されていないプログラムを見ながら聞く。

 

「ラースの職員の中に外部に違法な連絡をとっている人がいるかもしれない」

『……』

 

途端、電話口でもわかる空気の変化に修也は祖父の偉大さを感じる。

 

『分かった、知り合いに調べさせよう』

「お願い」

『何、可愛い孫の頼みだ。断る訳なかろう』

 

そう言うと衛星電話は切れ、修也はそのプログラムの《コード871》と言う単語に首を傾げていた。

 

「いったい誰がこんなコードを……」

 

調べてみると、このコードは主従関係を強固な物とし、向こうの聖書のような禁忌目録を違反させない……つまり、A.L.I.C.Eの顕現を妨害するシステムだった。

 

「よりにもよって妨害工作か……」

 

修也は驚いた後に菊岡に愚痴りたくなった。この人口フラクトライトは既に毒に侵されていた。それもかなり深層まで侵食を受けており。それが何者かの意思によって引き起こされた妨害というのは目に見えていた。

 

「菊岡さん…アンタ危機管理能力が低すぎますよ……」

 

自分も言えた事ではないが、このプロジェクトはほぼ無制限で外患誘致を行なっていた。元々こう言う研究者は日本はあまり多くないしな。

どちらかというと自分の場合は親がプロジェクト参画者だからと言う、縁故雇用といった方が正しいのかもしれないが……。

 

兎も角、人口フラクトライトそのものに猛毒が知らぬ間に撃ち込まれていた事実に修也は眉間に手を当てていた、そして全てが繋がった。

 

「(安易に公表できないぞ。これは……)」

 

そもそもの基礎システムに混ざっていたこのプログラムを除去するにはアンダーワールドで得た実績すらも消去する必要があった。そう、完全なゼロからのやり直しだ。

当然混乱が起こるし、これを仕込んだ犯人を捕らえるためにもおそらく菊岡さんや、ここにいるラース職員全員にこのことは伏せられる事だろう。

 

「(後は父さん達に任せるしかないか……)」

 

天を仰いで修也は疲れていると、持っていた無線機が繋がり。修也は呼び出しを受けた。

 

『修也君、ちょっと制御室に来てくれ』

「?分かりました」

 

パソコンを片付け、修也は制御室を後にするとそのまま下の集中管理室に戻って行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「もう一回あの世界に?」

「そうだ、修也君にはもう一回行って欲しいだが。頼めるかい?」

 

第一制御室で菊岡に言われた話に修也はやや驚いていた。まさかこんなにも早くもう一度入る事になるのは予想外だった。

 

「分かりました……じゃあ、準備しますね」

「助かるよ。じゃあ頼んだ」

「目的は?」

 

菊岡にそう聞くと、彼は訳を教えてくれた。

 

「ん?アンダーワールドにこの世界の住人が入った時の観測をね」

「なるほど、和人と同じと言う事ですか」

「そうだね」

 

和人は自分がここにいると言うことは知らない。それ故に修也は知ったらきっと驚くだろうなと予想していた。

そして修也が部屋からいなくなると、比嘉が聞いた。

 

「それで、二回目も同じ結果だったらどうするんッス?」

「その時は和人君と同じ処置を始めてみようと思っているさ」

「本気っすか?」

 

その問いに菊岡は真面目な様子で答える。

 

「ああ、二時間後に和人君はここに到着する。二人の治療を始める準備をしてくれ」

「うひゃあ、大仕事っすよ」

 

彼はそう言うと修也の使う二号機を動かす準備を始めていた。

 

 

 

 

 

『良いっすか?』

「はい、よろしくお願いします」

 

病院着に着替え、修也はSTLの台に横になると窓越しに見ていた比嘉が言って機械を起動させた。そして修也はアンダーワールドの世界に旅立って行き。比嘉はそこで見た修也の結果に落胆した。

これで比嘉は二人の状況を見なければならないからだ。

 

「スゥ…やっぱり観測できないっすか……」

 

真っ黒なフラクトライトを見て軽く絶望をして、菊岡に報告に行こうと思った時、

 

「……ん?」

 

ふとSTL二号機の制御盤に違和感を感じていた。

 

 

 

目線の先には機械から突き出たように小さな赤色のカセットのような物がかなり無理に装着されていたのだ。

 

 

 

和人がオーシャンタートルに運ばれてくる、少し前の出来事だった。




大学生編書けるのかなぁ
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