ソードアート・オンライン 赤色の記録   作:Aa_おにぎり

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数日前にランキングに載ってて驚いたけど、あざマス!!


間話#23 今後の戦略

九月中頃

神楽坂の料亭

 

その日、菊岡はある人に呼び出されてこの料亭を訪れていた。

 

「ラースの方はどうだ。菊岡()()()

「はっ、今のところ問題なく……」

 

そう言い、彼は低い腰で答えると反対に座る真之を見る。

代表を神代博士にして自分はとっとと雲隠れをしようとしていた所を目の前の人間に首元を掴まれていた。

そしてそこからはとんとん拍子に菊岡は代表として防衛省を追い払われ、ラースの代表として菊岡誠二郎の()()()()が残った。

 

自衛官として責任を取らせるために割と真面目に命の危機に会った誠二郎はオーシャン・タートル襲撃犯によって瀕死の重傷を負い、都内の病院で意識不明の重体と()()()()()。目覚める予定はない。

 

「お前は昔から詰めが甘いところがある。しかし今回のはちと規模が大きいぞ」

「はい、分かっております」

 

菊岡は命の恩人に頭が上がらなかった。

この時、菊岡の新たな戸籍を作るときに『誠死郎』にでもしてやろうかなどと冗談めいて言っており、それに関しては申し訳ないが全力で拒否をさせてもらっていた。

 

「まぁ、これからお前はラースを陰から支える事になるだろうがな」

「いえ、生きているだけでも儲け物です」

 

菊岡はそう答え、真之に頭を下げた。

 

藤吉が外に強いコネクションがあるとすれば、目の前の御仁は国内に幅広いコネクションがあった。

元より自衛隊を除隊まで生涯務めていたお方だ。最終階級は陸将とは言え、定年後も自衛隊に与えた影響は大きいし、何より愛国者の代表を長年勤めていた。

戦後の大政翼賛会などと好き勝手言う連中もいるが、そんな事など屁でも無い程この組織は大きいと今更になって思い知らされた。

 

「菊岡誠二郎は事実上の死亡、これから探りを入れてくる連中もいるだろうが。まあまず暴露る事はない」

 

そう断言出来てしまうほど真之には自信があった。

菊岡に日本酒を注がれながら嘗ての教官は言う。

 

「今のラースは世界から注目される一大企業だ。既に、ラースの株を狙って多くの投資家が札束を握りながら株価の画面を見ている事だろう」

「はい……」

「しかし、半官半民の企業とは言え民間出資者は全員日本人。国外に売る予定は今後もないがな」

 

そう言うと、真之は軽い笑いを出して一杯やる。終始話に付き合っている菊岡としては内心震えていた。

何せ目の前に座る御仁は下手しなくとも総理大臣に首をすげかえる事はできるほどの権力を持っているだろう。そしてその事は恐らく孫すら知らないだろう。

 

「しかし笑ったぞ。お前から直に孫に勧誘しても良いかと聞かれた時は」

「流石に教官殿の愛孫にいきなり勧誘を取るほどの勇気は私にはありません」

 

菊岡はそう答えると、真之も納得した様子で菊岡に徳利を傾ける。

 

「はっはっはっ、お前ほど肝の座った男もおるまい」

「もったい無いお言葉です」

 

有り難く酒を受け取りながらついでに料理を嗜んでいると、真之は言う。

 

「だが、AIに戦争を教育する事は世界中で行われている。その点であの二人の成功は世界に大きな衝撃をもたらした」

 

そう言うと真之は藤吉から聞いたことを菊岡にも言う。

 

「米国ではNSAの役員の更迭や大規模な異動があったそうだ。奴さん、余程悔しいらしい。おまけに今回の事件でCIAは驚いててんてこ舞いだそうだ」

「そうですか……」

「まあ訓練させた非正規部隊を送ったのにほとんど何も結果を得られずに帰ったんだ。まともな未来がある訳がなかろう」

 

元々の日米安保を危険に晒してまで繋がりのあった部隊を動かした事実に真之は今の大統領はだいぶ強気らしいと言って猪口を傾けた。

 

「数年前に世界で初めて日本が電磁加速砲の開発と洋上射撃に成功し、九年後には次期戦闘機が配備予定だ。海自と空自が目玉となる新技術を出したのなら陸自としてもA.L.I.C.Eの成功は急務だった」

 

世界的に見ても珍しいと言われる内部の歪み合いが少ないとされる自衛隊。しかし既に冷戦の時代が終わり、新たな時代に入った今となってはアメリカとの関係も大きく見直す時期となっていた。

国防方針として常に人的資源に乏しい自衛隊は、有事の際に徴兵を行うことも憲法で禁止されている。この方針が変わらない以上、自衛隊は人員の面で存続の危機にすらあった。

アメリカから自国すらも守れないのかと背中を突かれ、『誰のせいでこうなった』と怒鳴りたい言葉を辛うじて飲み込んで反撃の意図も込めて極秘裏に始めたのがプロジェクト・アリシゼーションだった。

 

「しかし、そのA.L.I.C.E自身が予想外な方向になってしまったな」

「はい……」

 

少なくとも迂闊に彼らを軍事利用に強制できなくなってしまった。それは大きな痛手だった。

 

「菊岡はこれからアンダーワールドの為に動くのか?」

「はい、それが私の生涯をかけた仕事ですので」

 

菊岡はそう答えると、真之は軽くため息を吐いた。

 

「……そうだな、あの世界は修也が言うには想定外の成長をしているそうだ」

「はぁ……」

「アンダーワールドは急激な成長を受け、一つの国家としての枠組みを全て備えていると言う」

「……」

 

そこで菊岡は少し考えると納得できてしまった。

 

「領土、住民、主権……国を定義する三つがあの場所には揃っている。総人口約十万人強、領土はオーシャン・タートル全域、主権は民主主義」

「それは……」

「恐らく桐ヶ谷和人君がその概念をアンダーワールドに持ち込んだのだろう。修也から聞いた話だと、今のアンダーワールドは一部の技術では我々の知見を超えた物を持っているそうだ」

 

実際に二百年と言う長い歳月を経て産業革命を起こしたアンダーワールドは驚異的な進化をしていた。

 

「仮想世界だからでしょうか?」

「かもしれんな。だが事実として、アンダーワールドの人口フラクトライトは最早我々の範疇を超えた存在となっている」

 

そう言うと真之は女将に熱燗を頼んでから続けた。

 

「本当は自衛隊を上げてオーシャン・タートルの解体を考えていたのだが……菊岡、ここから先の俺の話を聞くか?」

「……お願いします」

 

菊岡は真之の問い掛けにそう答えると、彼は良しと言った様子で話す。

 

「菊岡、もし我々と同等の技術力を持ち、我々と対等に話せるAIが存在するインターネット上の世界が国家として認められた場合。世界はどのように動くと思う?」

「……世界経済に大きな影響が出るかと」

「そうだ、情報のみで構築された世界と言うのは電気を切っただけで崩れる酷く脆い存在だ。だがそんな国家に国防の力を与え、代わりに労働力を求めればどう思う?」

「…教官、もしや……」

 

そこで真之は笑う、とても悪い笑みだ。

 

「インターネット国家と対等な立場を持ち、国交を結ぶ。今まで誰も想像したことがない、想定したことがない事だ。

どこかの寓話などでも考えられた事の無い、本当の意味で未知の領域の話だ。だが、もし実現できれば日本は世界に強烈な印象を与えられる」

「…想像しただけで恐ろしい話です。第一、国際的に認められるかどうか……」

「だろうな。だが既にアンダーワールドは核動力すらも満足に扱えるほどの基礎技術力を有している可能性大だそうだ」

「それは余程ですね」

 

真之はアンダーワールドに入った修也から聞いた話に初めは耳を疑ったという。

 

「ああ、どうも桐ヶ谷和人と結城明日奈の二人は仕方ないとは言え、アンダーワールドの社会的立ち位置を大幅に変えてしまった。おかげで容易にアンダーワールドの情報を削除出来無くなった……」

 

余計な事をしてくれたと言い、真之は出てきた熱燗を頂く。

真之や藤吉などのプロジェクト・アリシゼーションを行うに際し、国を守るために中のデータを消す用意をしていた。極秘裏に行われていた開発は内部の裏切り者の所為でアメリカに繋がり、それが社会を揺るがす大事件に発展した。

 

「菊岡、お前はの二人を見た時にどう感じた?」

 

真之のその問いに菊岡はラースでのアリス達の行動を思い出しながら答える。

 

「私は…まるで人間だと思いました。思わず同年代の和人君や修也君と同じように接してしまうほどには……」

「そうか……俺は正直二人を見て禁忌に触れた気分だ」

「教官も見られたのですか?」

 

菊岡が聞くと真之は頷いた。

 

「ああ、あの記者会見だけだがな。今度直接会ってみたいものだ」

「その時になれば連絡をください、すぐに手配いたします」

「ああ、その時はよろしく頼むよ」

 

そう言った後に真之はその映像で見たアリス達の並べた言葉を思い出していた。

 

「あれを見た時に俺はまるでクローン人間を作ったような印象になった。流石にあの二人は殺せんよ」

「…カンボジアでゲリラを射殺した教官とは思えぬ発言ですな」

「おい、その話を聞かれたらどうするんだ」

「おっと」

 

軽い冗談のつもりで言った菊岡は失言だったと慌てて訂正すると、真之はそのまま話続けた。

 

「世間的に見れば未だ二人の立場やアンダーワールドの存続は危うい。だが二人のパーティに参加し、直接会話を交わした者達の中で少しずつだが変化が現れている」

「それはどう言う……」

「AIにも人権があると言う風潮だ。限りなく人に近い、機械で出来た二人は我々と同様に悲しみ、笑い、己の意志で行動している。思わずAIである事を忘れてしまいそうな程だったと言っていた」

 

友人から聞いた話を彼は言うと、少し疲れた様子で菊岡に言う。

 

「魂の箱庭として開発されたアンダーワールドで育ったとしても、人間の赤ん坊の魂をコピーした人である事に変わり無い。ましてや育てたのが我々人間というのなら……な」

「はい……」

 

そこで彼は熱燗を菊岡に渡しながら言う。

 

「菊岡、これからこの国は厳しい戦いを強いられるぞ。敵は米国だけではない、世界中が水面下で争い合う事になる。あの記者会見は米国の参入を許さないのと同時に外に敵を作る要因でもある」

「わかっています」

 

そう言い、菊岡はそれを受け取った。

 

「敗戦国となった日本はアメリカからの脱却をようやく前向きに始めた。今回のオーシャン・タートルの一件で、野党の阿呆共もアメリカが完全な味方では無くなった事を思い知らされたからな」

「戦後日本は常にアメリカの属国でしたからね」

「ああ、だが冷戦が終わり。アメリカが守って来た核の傘は戦争の形態が変わる影響で薄れている。

しかし未だに資源に頼る生活をしている中国とロシアがいる限り、この国は外敵に晒されている。戦争はいずれ起こってしまうだろう」

「はい……」

 

今日は無礼講と言うことで菊岡も真之とこうして酒を酌み交わす。

 

「戦争とは管理しずらいものだ。平和の方が儲かると言うのなら、そっちの方が管理は楽だな」

 

真之はそう言うと、菊岡を見て言う。

 

「ラース、並びにアンダーワールドの存在は日本の技術力の誇示。並びに人類の禁忌を示した極めて重要な施設だ。あとは頼むぞ」

「はっ」

 

真之の言葉に菊岡は頭を小さく下げて答えていた。




何か面白そうなネタがないかなぁ……
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