某スーツを仕立てたくなるスパイ映画を見た影響がゴリゴリ出ています。
二〇二五年 六月
その日、修也は帰還者学校にて授業を受けていた。
「えぇ、1789年にフランスで発表されたフランス人権宣言は……」
今受けている授業は公民。元々選択制の授業というまるで大学のような制度の高校……それが帰還者学校だ。
SAO事件を生き延びた中高生を主に集めた…言っちゃうと隔離施設だ。二年間を精神的な負荷のかかった極限世界で、暮らしてきた彼らには大なり小なりの精神的ストレスを感じてしまっている。
ここは病院にも近く、何か異常な事があればすぐに医者が飛んでくる。学生寮もほぼタダのような物で、国内にいくつか設置されていた。
ただし、専修高等学校と言う特殊な立ち位置故に今度から編入制度が追加されると言う。主な理由は他の学校に入らなかったSAO帰還者をいつでも受け入れるようにするためだ。
管轄は文科省ではなく、インターネット事件関連の施設ということで総務省が管轄する事となった。一応、今度から高校受験のコード表にも番号が載ると父から聞いている。
ただ文科省管轄の学校ではないので、今までの習慣に縛られない極めて意欲的なカリキュラムとなっている。その一つがこの単位制だ。
自由に授業を選択できる大学生のような生活を高校から始めることができた。自分のしたい勉学を高校からできると言う画期的なこの制度は意外にも注目を浴びていた。
帰還者学校はそのまま生徒がいなくなれば解体するのかと考えていたが、どうやらそのまま新たな学校の形のテストベットとして使用する方向らしい。
学年はあってないようなもので、必須で取らなければならない共通授業を和人と明日奈はほぼ同じ時間で受けていた。
現在高校二年生、実年齢十八歳と一年のずれをしている修也は明日奈や里香と同様、来年でここを卒業だ。
そして和人と同じメカトロニクスコースを選んでいる修也は自然と和人と顔を合わせることは多い。
「修也?」
「ん?」
学校では眼鏡を普段はつけていることの多い修也は教室の自分の席で座っていた所を和人に話しかけられた。
「何だ、明日奈の所にいないのか?」
「ああ…いやぁ、授業が被らなくてな」
修也はこの前十八になったばかりで、和人は十七。一歳差の二人はこの後の放課後の部活の話をする。
「放課後は頼んだぞ」
「ああ、分かった」
修也と和人は一応同じ部活に所属しており、和人は友人達と共に視聴覚双方向通信プローブの開発に勤しんでいた。修也はそんな和人のグループに協力していた。ただ本格的に参加しているわけではなかった。なぜなら修也は個人で別の論文を書いていたからだ。
「ってか修也、お前眼鏡変えたか?」
「?気づいたか……昨日新調してな」
そう言い、その眼鏡はやや縁が太く、丁番の部分は花粉眼鏡のようにやや大きくなっていた。
「この前変えたばかりじゃなかったか?」
「それは気分さ」
そう答えると、若干だが和人はその眼鏡の
「ん?」
「?」
そのレンズはやや茶色く、そして修也の瞳には動画サイトの画面が映し出されていた。
「っ!!お前!」
「……」
速攻で逃げようとした所を数とは逃すもんかと全力で腕を握った。
「逃すかぁ!!逃げたら先生にチクってやる」
「言うがいいさ」
そこで腕をがっしり握られた修也ははぁを軽くため息をついた。そのやけに自信のある回答に和人は問い詰める。
「どう言うことだよ」
「ほら、ただの眼鏡だからな」
そう言い、彼は掛けていた黒縁眼鏡を一人に見せると、彼はそれを掛けてみるもやや茶色いだけの眼鏡だった。
「?でもさっき俺は見たぞ。お前が動画を見ていたのを」
「そうか?」
とぼけている様子の修也に数とはどう攻略しようか考えていると、先ほどの修也の眼鏡を手渡すまでの行動をよく思い返していた。
「(確か修也は智を触って俺に手渡していた。それにこの眼鏡はヒンジの場所がおかしい……)とすると」
そこで和人はどこか試している目線の修也の反応を見ながら眼鏡を掛けた後に智の部分を触る。
すると眼鏡のレンズにいくつかのサイトが浮かんだ、その事に和人は思わず声に出る。
「よっしゃあ!」
「おお、流石だな」
修也はそう答えると、早速和人は聞いた。
「これはなんだ?」
「悠那さんの父親からプレゼントしてくれたものだ。来年発売のオーグマーの先行量産品だ」
「マジかよっ!すっげえ倍率高いやつじゃん」
和人はやや驚きながらそれを手に取る。抽選応募で和人も得られなかった新型のウェアラブル・マルテデバイスだ。少し前まではあの重村教授が代表を務めていたが。ちょっとした理由でカムラ社に会社を売却していたので今は別の人物が代表していたはずだ。
まあ売却理由はオーグマー開発の資金が危うかったと言う理由なはずだった……。
「ってかそんな物を改造したのか?お前まさか」
そんなオーグマーの写真で見てみたものとはかけ離れた見た目に思わず和人は突っ込む。
「こっちの方が格好良くないか?」
「お前にあげた悠那さんに失礼だろう。これ」
和人は思わずそうツッコミを入れてしまうと、修也はそうでもないと言って答えた。
「いや?むしろ笑っていたぞ『スパイ映画みたい』だと言ってな」
「Oh……」
まさかの本人公認だった。その事に半ば唖然となると修也は眼鏡を受け取りながら言う。
「オーグマーのインターネット接続の機能を移植して作った一品だ。バッテリーはつるの部分、通信機と電源は智と顔の隙間だ」
「おお、俺も欲しい……」
「授業中に動画か?」
「あったりめえよ、それ以外に何の存在意義がある」
和人は至極当然と言わんばかりに授業中に動画を見る気であった。ただ言わせてもらおう、
「今まで眼鏡を掛けなかった人間がいきなり予兆もなしに眼鏡を掛けたら怪しむし、お前は明日奈にバレるだろうな」
「あっ……」
そこで和人は修也の指摘に気付き、そして絶望した。
「畜生、ならば死なば諸共……」
「生憎と、この眼鏡はロックがかけられるんだ。だから抜き打ちでもバレない」
「……畜生めぇ!!」
「お疲れ様だな」
高みの見物をして、ただ和人を遊ばせていた事に和人はorzとなってガックリしていた。
「オーグマーが出れば、時期に解決する」
「そう言う問題じゃねえよ」
和人はそう言うと、修也の眼鏡を見ながら悔しげに言う。
「そう言うさ、スパイみたいな物を作れるお前が羨ましいって話だよ」
「ああ、そう言う」
和人の意見に納得した様子の修也はそこで和人に言う。
「だったら他にも似たようなコンセプトで面白いものはあるぞ」
「…マジかよ」
目をやや輝かせながら修也を見る。
「前にある面白そうな映画を見た影響でな……放課後、誰にも言わないなら見せてやろう」
「おう!見たい見たい!!」
そんなわけで和人は修也の言う面白い物を楽しみにしていた。
そんな訳で放課後、空き教室にて和人と修也、そして明日奈や里香、珪子まで訪れた通称キリト・ファミリーが勢揃いしていた。
「……何でお前らがいるんだ…」
「和人君が面白いもの見せてくれるって聞いたから」
「で、私達はその話を明日奈から聞いたの」
「修也さん、普段から変なもの持ち歩いていると聞いて」
どこかキラキラさせた様子で修也を見る四人。それを見て軽くため息を吐きながら和人を軽く睨んだ後に机の上に幾つかの物を出した。
「これ?」
「ああ、変な物なのはこう言うのだな」
「おお、どれがどう言うのなんだ?」
そこにはタブレットや長傘と、至って普通の装備が置いてあった。
「色々と改造して作ったのは眼鏡を含めてこの三つだけだ」
「はえー」
「ぱっと見わからないですね」
「それがロマンだろ」
和人はそう言うと、珪子がタブレットを手に取る。
「見た目は普通ですね」
「ああ、それは中身は普通だからな」
そう言うとタブレットのケースを外すと、そのケース自体が変わっていた。
「ケースに軽量のセラミック装甲を貼り付けている。落としても壊れないし、小さな拳銃弾程度は防げる……多分」
「「「おお!」」」
予想外な見た目に驚いていた。ただのタブレットケースにそんなの必要ないが、趣味の一言で片付けられる。
「これは……傘?」
最後に紺色の細巻き長傘を手に取りながら明日奈が聞くと、修也は一番張り切った様子でその傘を明日奈から取る。
「ああ、これは少々特殊な傘でな」
そう言い、傘の手元の金具を回すと閉じたままの状態で石突きを和人の顔に向ける。その中棒は普通の傘よりもやや太かった。
「っ?!」
「明日奈すまん」
そして手元の小さなボタンを押すと、石突きの先端から一発の小さなBB弾が飛び出して和人の額に命中した。
「痛ってぇ!!」
デコに命中した和人はその痛みで思わず反応してしまうと、修也は和人に当たった小さなBB弾を手に取りながら話す。
「一発しか撃てないが、こうやって小さいBB弾を撃てる。あとは……」
そしてそのまま和人のくるぶしを軽く傘で叩くと和人はまた悲鳴をあげた。
「中棒が耐食ニッケル合金となっていて、こうして警棒としても使える。恐ろしく頑丈に作ってある」
「だからって俺で試すな!!」
和人がそう叫ぶと、それを見ていたアスナ達は唖然となった後に溢す。
「「「男って馬鹿みたい」」」
マジもののスパイ映画とか出てそうなギミックを持っていたその傘に三人は呆れていた。
修也はそんな三人の反応に思わず反論する。
「馬鹿だと?馬鹿を全力でするのが男だ」
「修也さんが言う?」
「そうだぞーお前が言うなー」
和人が反論すると、傘から飛び出たBB弾を見ながら色々と聞く。
「どうなってんだ?」
「手元部分にCO2カートリッジを入れる場所がある。BB弾もそこから入れる」
「ああ、だから太いんだ」
「ソフトスキン相手には効果抜群だ」
「ああそうだな。こうなるくらいだもんな」
そう言い、和人は軽く赤くなったデコを修也に見せつけた。
「ってか銃刀法に引っかかりそう」
「問題ない。発射パワーは0.9J、法定範囲内だ」
「持ってて怒られないの?」
「あくまでも傘だ。ぱっと見では分からん」
そう答えると、修也は傘の石突の部分を閉じる。
「よくこんなん作ったな」
「ああ、護身と趣味でな」
「傘作れるのが異常よ」
「趣味の為なら傘の張り方くらいは学べる」
そう答えると里香は呆れた様子で言う。
「男ってほんとこう言うの好きね」
「だがロマンがある。俺は修也に共感だ」
「とか言いつつ、本当は作ってもらおうとか考えているんでしょう?」
「言っておくと、二つ目は作りたくない。幾分面倒だからな」
「まあでしょうね」
前々から何かを作るのが得意というのはSAOの時からここにいる面々は知っていた。それ故に変な物を持っている修也に特段違和感を持つことはなかった。
「じゃあ別のもので何か良い物とか……」
和人は手を合わせて頼み込むと、修也は一考した後に答えた。
「……考えておこう」
「あざっす!」
この約束が翌々月にユイタンクの原型へと繋がるのだった。
誤字報告いつもありがとうございます。