二〇二四年 十一月七日 七十五層 迷宮区前広場
広場にはハイレベルと思われるプレイヤーが集結しており、その中には見知った顔もいた。
「おっ!ブレイドじゃねえか!無事だったんだなぁ!」
「ああ……そっちも元気そうだなクライン」
「お?武者震いか?」
「まぁ……そんな所だ」
するとまた見たことある顔が近づいてきた。
「エギル…来ていたのか……」
「今回は苦戦しそうだって聞いたから商売投げ出して加勢に来たんだよ。この無私無欲の精神を理解して欲しいもんだ」
「……そうか」
「元気ねえな?何かあったのか?」
「いや、ボス戦前の武者震いみたいなものだ」
「そうか……まあ、お互い生き残ろうぜ!」
「あぁ」
そう言ってエギル達と別れると今度は別の知り合いと出会った。
「ブレイド!」
「っ…キリトか……」
「ん?……武者震いか?珍しいなブレイドにしては」
「そう…だな……(もう決めたことだ。今更意志を変えるつもりは無い……!!)」
ブレイドは心の中で緊張をほぐそうとしているとヒースクリフの演説が始まった。
「欠員はないようだな。よく集まってくれた。状況は既に知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君らの力なら切り抜けられるだろう。ーー解放の日のために!」
そう言うとヒースクリフは懐から《回廊結晶》を取り出した。
「コリドー・オープン」
そう発すると彼の目の前に光の渦が出現した。
「さあ、行こうか」
続々とプレイヤーが入っていく中、ブレイドはパランジャをを見て神妙な面をしていた。
「(やるしかない……)」
そうしてボス部屋の前に到着した攻略組は剣を構えた。
「死ぬなよ」
「へっ、お前こそ」
「今日の戦利品で一儲けするまでくたばる気はないぜ」
横でキリト達が太々しく話している横でブレイドはパランジャを手に持った。
そして重々しい扉が開き、全員が一斉に突入をした。
「戦闘開始!」
そしてボス部屋に突入したプレイヤー達が入り込むと情報通り扉が閉まり、脱出不可能となった。
そしてボスの姿が見当たらず。ジリジリと警戒が焦らされ、ブレイドが索敵スキルを最大限に発動したとき、ブレイドはボスを見つけた。
「っ!上だ!端まで走れ!!」
そう叫び、上にはボス《ザ・スカル・リーパー》と言う骨ムカデが天井に張り付いていた。そして攻略組を見つけ、急落下してきた。
「固まるな!距離を取れ!」
ヒースクリフの叫び声が響き、プレイヤーは端に逃げて難を逃れたが……
『GYAAAAAAAA!!!』
ボスの鎌がプレイヤーを襲い、容赦なくポリゴン片へと変えた。
パリンッ……
「こんなの…無茶苦茶だわ……」
一瞬でハイレベルプレイヤーをポリゴンに変えた衝撃は大きく、動揺を呼んでいた。だが、そんなことを気にもせずにボスは獲物を定め、その鎌を容赦なく振った。
だが、そこをヒースクリフが盾で鎌を防いでいた。攻撃を防がれたボスは持っているもう一つの鎌でプレイヤーに襲いにかかった。
「させるか!」
ブレイドが飛び出し、パランジャを地面に突き刺して鎌の攻撃を抑える。
「(一撃が重い……っ!!)」
ブレイドが抑えているところにキリトとアスナが援護に入り鎌を弾き飛ばした。
「これなら……」
「行ける……」
「キリト、アスナ……」
ブレイドは二人を見るとヒースクリフに叫んだ。
「ヒースクリフ!盾で左の鎌の攻撃を防げ!タンクは固まって右の鎌!奴の攻撃は一撃で死ぬぞ!残りは攻撃を抑えている間に横から攻撃しろ!!」
ブレイドの指示に全員が動き、それぞれの役目を全うていた。
攻撃を始めてから数十分。ボスの体力バーも残り少しとなり、ブレイドは鎌の攻撃を受けていた。
「キリト!」
「ハァッ!!」
『GYAA……』
パリンッ!
ガラスの割れるような音と共にボスの体は霧散し、『Congratulations‼︎』と言う文字が浮かんだ。
しかし、ほとんどのプレイヤーがその場にへたり込み、息を吐いていた。
「……何人死んだ?」
「……六人だ」
「…嘘だろう……まだ二十五層も残ってんだぞ……!?」
エギルやクライン達が唖然とし、絶望をしている中、ヒースクリフだけは体力がイエローにならずに、グリーンのままだった。
そして自分はパランジャを手に取ると彼の喉元めがけて両手剣ソードスキル《アバランシュ》を叩き込む。しかし、その攻撃は塞がれてしまったが……
パァァァァアアアンッ!!
キリトがヒースクリフの背後から同じようなソードスキルを発動していた。
そして、その剣の先には紫の障壁……『破壊不能オブジェクト』の表示が浮かんでいた。
一連のことに全員が唖然としていた。
「どう言うつもりかな?」
「こっちは腹を括らせてもらったさ……」
「…やっぱりアンタだったか……」
その攻撃を見てキリトも確信した様子でヒースクリフを見て叫んだ。
「「茅場晶彦!!」」
キリトとブレイドの声が重なり、そこでようやく皆の思考が回転していた。
「……何故気付くことができたのか参考までに教えてくれるかね?」
ヒースクリフが落ち着いた様子でキリトに聞いた。
「あんたのことを疑い始めたのは、あのコロシアムでデュエルをした時だ。最後の一瞬だけ、明らかに速すぎたよ」
「……やはりか。あの時は痛恨にもシステムのオーバーアシストを使用してしまった」
ヒースクリフは頷くとほのかな苦情を浮かばせ、堂々と宣言した。
「本来ならば第九十五層に到達すると同時に明かすつもりだったのだが……。確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君達を迎える筈だったこのゲームのラスボスでもある。」
「相変わらず趣味悪いよ……。最強と謳われるプレイヤーの片割れが一転してラスボスとは……」
「だが、面白いだろう?」
ブレイドにそう言うと茅場晶彦は薄い笑みを浮かべた。
「まさかキリトくんにも気づかれていたとは……いや、これもRPGの醍醐味……と言うべきかな?」
その時、凍りついたように動きを止めていたプレイヤーがゆっくりと立ち上がった。
「貴様…よくも……俺たちの忠誠心を…希望を…よくも……よくもぉぉぉぉおおお!!!」
『血盟騎士団』の一人が斧槍を持って絶叫しながら地を蹴った。
しかし、ヒースクリフは左手を振ってGM権限のウィンドウを操作すると男の体が空中で止まり、音を立てて落下すると麻痺状態になっていた。
ヒースクリフはさらにウィンドウを触るとキリトとブレイド、ヒースクリフ以外のこの場にいる全員が麻痺で不自然な格好で倒れていた。
「……この場で全員を抹殺するつもりか?」
「まさか、そんな理不尽はしないさ」
キリトの問いかけにヒースクリフは首を左右に振った。
「しかし私は先に紅玉宮にて待たせてもらおう…と言いたいが………」
ヒースクリフはそう言うと剣を地面に突き立てた。甲高い音が響き渡り、空気を切り裂いた。
「キリト君、ブレイド君。君達には私の正体を見破った報奨を与えなくてはな。
チャンスをあげよう。
今ここで私は不死属性を解除する。そして一対一で勝負しよう。私に勝てばゲームクリアはされる。
……どうかな?」
茅場の提案に麻痺状態のアスナが首を振っていた。
「だめよ、二人とも!あなた達を排除する気だわ…今は引きましょう……」
「…………そんな事、出来ると思うかい?」
「ああ…ここで決着をつける……!!」
そう言いブレイドとキリトは剣を持つ。
「成程……やはり君達は素晴らしいな…………さて、最初はどちらから来るのかな?」
茅場の誘いに先に出たのはブレイドだった。
「私から行かせてもらう」
「っ、ブレイド!?」
キリトは驚く横で自分は剣を構えた。
「私には…責任がある……。私は…このゲームの一端を作ってしまった男だ……だからここで決着をつけさせてもらう」
「……強くなったな…ブレイド……」
ヒースクリフのその小さなささやきはキリトにしか聞こえておらず、驚いた様子でブレイドを見ると、彼の表情は人を殺せそうなほど重い雰囲気だった。
周りのプレイヤー達もブレイドの呟きに驚愕した様子で見ていた。
「さて……始めようか」
「ええ……ここでケリをつけますよ」
ブレイドとヒースクリフがお互いに剣を持ち、ゲームクリアを賭けたデスゲームが始まろうとしていた。
「ブレイド……」
「キリト、任せろ……やってやるさ……。君には大事な人がいるだろう…大事にするんだな……」
ブレイドはまるで遺言のようにそう言うとヒースクリフと間合いをとって重々しい鉄と鉄の擦れる音が聞こえた。
ギィンッ!!
ブレイドの両手剣とヒースクリフの細剣がお互いにソードスキルと発動して、攻め合った。
隙があれば攻撃をしてくるヒースクリフの細剣は徐々に体力を消耗させていた。
「ゲームも上手くなったな。ブレイド、この攻撃も防ぐか」
「貴方にはよくハメ技でやられましたからね。これでも学んだ方です」
「ふっ、ならば!!」
ブレイドは雷装剣のソードスキル《迅雷》を発動するとヒースクリフの体にうまく刺さり、一瞬だけヒースクリフが麻痺になるもすぐさま回復をしていた。
「ゲーム内で最も攻撃力の重いプレイヤーに送られる《雷装剣》…幻のユニークスキルは強力だな……」
「麻痺からすぐに回復している時点でもうめちゃくちゃだ……」
今の体力は半分ほど、茅場の方が半分より少し多いと言ったところか。だが……
「ハァァァァアアア!!」
「フンッ!!」
ソードスキル《雷刀》によって幻の大剣となったパランジャを思い切り振り、攻撃を止める事なく剣を無我夢中で振っていた。
ブレイドとヒースクリフの戦いを見ているクラインはブレイドの変化に疑問を抱いていた。
「なんで…あいつは泣いているんだ……?」
麻痺で動けないクラインはかろうじて首を動かして戦いを見ていたとき、ブレイドから数滴の水のような物が流れている事に気づいた。
クラインの囁きが聞こえたキリトは今のブレイドの気持ちが痛いほどにわかる気がした。
自分にも妹がいるが、今のブレイドがしている事はその妹を殺そうとしているようなものだ。とてもじゃないがそんな事は自分には出来ないと思っていた。
現実世界での彼の出生を聞いた自分はそのブレイドの心の強さに一種の尊敬があった。
「(ブレイド…今はお前が俺は恐ろしい……とても俺にあんな事はできない……)」
そして二人とも残り数ドットになった所でブレイドはパランジャを振った。
「これで…終わりです……!!」
最後にソードスキル《雷電》を持って回転しながら急接近したブレイドはヒースクリフにトドメを刺すべくソードスキルを発動……
しようとした。
ザシュッ!!
「……え?」
気づいた時には自分の胸のところに剣が刺さっていた。ヒースクリフは不敵な笑みを浮かべると。
「驚いたよ。まさかここまで私を追い詰めるとは……」
「何を…した……?」
「君のソードスキルを中止させてもらったよ。私の《スキル破壊》でね」
するとブレイドは悔しげな表情を見せる。
「…成程、また私は負けてしまったわけですか……」
「そのようだな……いい戦いだったよ、ブレイド君」
「そうか……」
ブレイドは悔しそうにするとキリトが叫んでいた。
「ブレイド!」
「キリト…悪い、後を……頼むぞ……」
そしてHPがゼロとなってアバターは砕けていた。