二〇二五年 一月二十日 午前一一時頃
家に戻った修也は徹夜でパソコンの画面を見ていた。
「うーむ、やはりSAOのようなグラフィックは難しいな……」
コーヒー片手に渋い顔をしながらパソコン画面を見る。そこには異世界風の景色が浮かび上がっていた。
修也が試しているのは通常のVR世界の設計であった。SAOは茅場晶彦が持てる限りの力を持って作り上げたいわば彼の最高傑作と言えるようなものである。
彼の作ったSAOのデータは一種の芸術作品とも言える品で、自分でも完全に再現することは無理だった。
「(やっぱりあの人の技術はすごい……)」
そう言って、修也はSAOでの出来事を思い出していた。
「でもあれやった時は怒られたなぁ……」
そう呟きながら修也は二週間ほど前のことを思い出していた。
彼は二週間前、ナーヴギアを使ってアルブヘイム・オンラインを買っていた。
そしてアルブヘイム・オンラインにログインした時、修也はSAOの時の装備がそっくりそのまま使われていた事に驚きを隠せなかった。
なお、ログアウトした時に母にナーヴギアを使っていることがバレ、盛大に怒られた後にナーヴギアの後継機であるアミュスフィアを買わされた。
その為今はアミュスフィアを使ってアルブヘイム・オンラインにログインをしている。
ログインする時に適当に種族を選んだ事に今は後悔をしている。
「……」
修也は試作で作ったゲームを閉じると部屋にマキナが入ってきた。
「マスター、母上が料理できたって」
「ああ、分かった」
ピコン!
修也の持つ携帯に連絡が入り、修也はメールと共に添付されたデータを見た。メールにはキリトがALOに行くことが書かれていた。
「キリトからか…これは……っ!」
データを見た修也は驚いた様子と納得した表情でデータを見ていた。するとマキナが修也の携帯を覗き込んでそこに映る写真を見て羨ましそうにしていた。
「わぁ…凄い綺麗な人……」
「…アスナ……」
写真に添付されたデータを見て修也は懐かしい名前を呟くとマキナは修也に聞いた。
「マスター。私もこんな風になりたいです」
「無理だろう」
「即答!?酷い、マスター酷い」
「当たり前だ。第一いつもどんなけ苦労させられていると思っている……」
「ムキーッ!マスターの鬼!悪魔!」
「なんとでも言ってろ。大体の問題はお前が作っているんだからな」
マキナがブーブー言いながら隣で文句を言う中、修也は添付されたデータを眺めていた。すると、
『修也!早く来なさい』
「あ、今行きます」
母の声で一旦思考を中断し、一階に戻ると昼食を取る事になった。
昼食を終え、先ほどの映像を見ていた修也はそれを元に情報収集を始めた。
「…マキナ」
「はい!」
彼女を呼び出した修也は命じた。
「仕事だ。今日は容量無制限で情報を集めろ」
「…分かりました。内容はなんですか?」
その瞬間、目つきを変えてマキナは主人に聞く。
「レクトVR技術研究部に関する情報。それと、須郷伸之に関する怪しいものは全て洗い出せ。違法行為でも構わん。ただし、証拠は残すな。できるか?」
「お任せください。完璧にこなして見せます。……ところでマスターは如何なさいますか?」
「私は向こうでキリトと合流しようと思う。マキナ、情報を集めたらまとめてパソコンに入れておいてくれ」
「了解」
余裕の表情を見せるマキナは紙を受け取ると部屋の隅にある椅子に座り、目を閉じると修也はそれを確認してからアミュスフィアを使い、ALOにログインをした。
白い光が今度は薄暗いランプの光に照らされる光景へと変わり、赤い装備を身に纏った一瞬サラマンダーの様に見える自身を確認した。
「……とりあえずはキリトと合流だな。彼が来るとすれば…恐らく央都アルンだろうか……?」
そう呟き、今自分のいる現在位置を確認していた。
今いる場所は自分が適当に選んだケットシー領の首都フリーリア。央都アルンまでおよそ五〇キロ、飛行時間はおよそ八時間のフライトである。
「すぐに出よう……」
感覚的にできるようになった随意飛行でブレイドは一気にフリーリアから出るとアルンに向けて出発をした。
フリーリアを出て三時間ほど、途中休憩を挟みながらブレイドは半分の蝶の谷まで飛翔を終えた。
「ここまで三時間……案外早く着きそ……う?」
蝶の洞窟を両手剣で進みながら出口に出た時、風妖精と猫妖精の妖精達が多く集まっており、何やら騒がしかった。
「何があるんだ……?」
そう疑問に思っていると近くにいた同じ猫妖精のプレイヤーに思わず聞いた。
「すみません……」
「っ!びっくりした……サラマンダーかと思ったぞ」
「……」
彼がそう驚くのも無理はない、なぜなら今の自分の格好は赤色を基調としており、赤は火妖精を象徴するような色であるからだ。
「俺と同じ猫妖精ならまあいい……それで、何だ?」
「えっと、この騒ぎは何があるんだ?」
「何だ、知らないのか?」
「ええ、さっき入ったものですから」
そう話すと彼は納得した様子を見せた。
「そうか……じゃあ説明するさ」
そうして彼が話してくれたのは明日ここで猫妖精と風妖精の首領会談が行われる予定らしい。
「それで、俺はここで会場の護衛というわけだ」
「成程……」
ある程度の情報を理解したブレイドに男性プレイヤーはある提案をしてきた。
「あ、そうだ。よかったら君もこの護衛を手伝ってくれるかい?」
「は?」
思わず目が点になってしまった。
「いやぁ、実を言うと人手が足りなくて困っていたんだ。君、見た感じ実力もありそうだから丁度いいや」
その男性プレイヤーの提案にブレイドは一考した。ここからアルンまで最長でも五時間。キリトとの合流が最優先だが、居場所がわからない以上どうしようもない。この会談というものにも俄然興味が湧いてきた。
「(キリトに後で連絡とって居場所確認するか……)いいですよ。私は何をすればよろしいですか?」
「おお!手伝ってくれるか。じゃあ、こっち来てくれ。色々と説明をするから」
そう言われ、男性プレイヤーから色々とレクチャーをされたブレイドは両手剣を背に、渡された地図を元に巡回場所を見ていた。
「まさかこんな事になるとはな…時間は……七時…か」
時間を見て、ブレイドは同じケットシーに近くの中立都市の場所を教えてもらい、一旦そこでログアウトをした。
現実世界に戻ったブレイドはマキナが覗き込んでいるのを確認するとアミュスフィアを取った。
「どうだった?」
そう聞くと、マキナは怒った様子で叫ぶ。
「カラスよりも真っ黒な情報がゴロゴロ出てきました」
「そうか……」
修也はマキナの一言で全てを理解すると修也はメールでキリトの今の居場所を聞くメッセージを送ると、マキナがまとめてくれた情報を眺めていた。
「ーー脳の感覚処理以外の機能を制御する実験……。おまけにこの情報をアメリカに売りつけようとしているか……」
そこに書かれていたのはあまりにも非人道的な実験を行っていると言う証拠の書類だった。
「正直これを読んで私は胸糞悪くなりました。世の中にこんなクソな奴が居るとは思わなかったです」
「それは同感だな……兄さんでも流石にこれはやらないだろうよ」
資料を読んでいく中、修也が呆れたようにそう呟くとふとある考えが思いついた。その横で気分を悪くしているマキナが修也に聞いた。
「マスター、運営に乗り込みますか?」
「……いや、もっと面白いこと思いついた」
その瞬間、修也は滅多に見せない笑みを浮かべた。明らかに悪い顔をしている。
「……何をする気ですか?」
「なぁに、徹底的に追い詰めるだけよ」
修也の表情にマキナがドン引いていると修也のパソコンに一件のメールが入った。
ピコンッ!
「ん?キリトか?」
そうして開いたメールの送り主を見て修也はフッ、と口角を小さく上げるとメッセージを送り返した。
横で一連のことを見ていたマキナは驚きながら懐かしそうにメッセージ画面を見ていた。そこに添付されたデータを修也は確認し、そしてメッセージを送り返した修也はマキナに指示をした。添付されたデータはあるサーバーから持ってきた特別なIDだった。
「マ……キナ、今からレクトの偽装パス作れるか?」
「勿論。私を誰だと思っているんですか?」
彼女は胸を張ってそう答える。
「じゃあ、それを後で私のALOでのデータに入れてくれ。この資料を見る限り、ALOはSAOのデータをまるパクリしている……基本システムが同じならすぐに出来るだろう」
「分かりました十分で終わらせます。早くあのクズをとっちめて下さい!」
「その前にまずはこの情報を全て読ませてくれ。まだ半分しか読んでいない」
そう言い、修也は残りの資料をさっさと読み終えると母に呼ばれて一階の食堂に向かった。
食堂に入るとそこには母と今日は珍しく父が帰ってきていた。
「父さん……今日は早かったんだね」
「ああ、今日は仕事を切り上げて帰って来た」
「そう……」
あの事件以降……いや、そもそもそれ以前から父赤羽藤吉とはほとんど接点がなく、正直父親との接し方がいまいち分からなかった。母赤羽由美子とは二回目のアメリカ生活の時について来てくれた影響である程度接せられるようになったが、それでも普通の母親との接し方とは違う気がしていた。
そのため、自分と両親はどこかずれているような感覚を覚えていた。
そして母が料理を持ってきて机に置き、家族全員が席に座ると夕食が始まった。
「修也」
夕食の途中、父が聞いてきた。
「進路、どうするんだ?」
「え?うーん……取り敢えず
「帰還者学校か……」
帰還者学校。SAOに囚われた中高生を対象に今まで遅れている分の学力を補うための臨時学校でSAO帰還者は入試なしで入れて、卒業すれば大学受験資格まで取れると言う少々美味しすぎるような学校だ。
実際その通りで父が言うには二年間も殺伐とした空間で過ごした自分達がどんな心理状況なのか政府としては不安なのだ。
そのため目の届く範囲に纏めておきたいと言う考えだった。
また学校となる場所の近くに帰還者学校に通う生徒のための学生寮を借りるというかなりの本気度が伺えた。
「一応修也でも入れるのか……」
「正直まだ悩んでいるさ」
「お前ならてっきり大学に行くと思っていたんだがな」
「そうね、修也だったら大学に行くと思っていたから驚いちゃったわ」
修也の横で母がそう言って驚いた様子で修也を見ていた。実際、進路で悩んでいる自分も驚いていた。
だが、原因は何となく想像がついた。おそらくキリト達が居るからだろう。もし大学に行けばキリト達と会う時間は必然的に減ってしまう。そうすると寂しくなってしまうと思っているからだ。
「まあ……色々あったからね」
その様子を見て二人は色々と察した様子で少し嬉しげにしていた。
「じゃあ、帰還者学校に通うなら家を探さんとな」
「そうね、どうせならセキュリティーの高い部屋を……」
「そんな…学生寮でいいよ……」
「いいや。あんな安くて、危険な場所に息子を入れる訳にはいかん」
安いて言っちゃったよ、この人……一応最低限のセキュリティーはあるはずなのに……。
と、そんな他愛も無い話をしながら夕食を終えた修也は再び自室に戻り、アミュスフィアを頭に装着した。