三回戦は市街地で、廃ビルにクライミングで登ったフリューゲルはビルの上から道路を観察してそこを歩く一人のプレイヤーを見た。
フリューゲルは内心南無阿弥陀をしながらスコープを覗き込んで上から射撃をする。
上にいることに驚愕しながら相手は銃を撃つことなく脳天を上から下まで貫通してしまっていた。
そしてロビーに戻るとそこではキリトが顔を青くして震えていた。
「何、亡霊見たような顔しているんだ」
「っ!?ブレイドか…亡霊の方がマシだったよ……」
ブレイドはここではフリューゲルだと注意しようとしたが、直後背後に近づいた気配に思わず呟く。
「背後して近づくな。気色悪い」
「なぜ分かった」
するとヌッと影から一人のプレイヤーが顔を出し、キリトは心底驚いた目をしていた。
「足音がした。で、用事は何だ?こっちは忙しいんだ」
「フリューゲル、お前も標的だ」
「何をだ、理由は?あいにくと既に戦う予定があるんだ。その後にしてくれ」
しかしそんなフリューゲルの言葉を気にもとめない様子でそのプレイヤーは続ける。
「お前は、強い、だから殺す」
「無視か……《死銃》がわざわざ来るとは光栄だな」
「……本戦で、待っている」
そう言うと幽霊のようなプレイヤーは腕を少しまくり、西洋風の棺桶の蓋にニタニタ笑う不気味な顔、そして中からは骨が出ているマークを見せた。
「(《ラフィン・コフィン》か……)」
表情ひとつ変えずにそれを見たフリューゲルを見て、幽霊のようなプレイヤーはその場を音もなく消えるとフリューゲルはため息をついた。
「はぁ…有名人は辛いな……」
「よ、よくそんなことが言えるな」
キリトが怯えるようにしているのを見てフリューゲルはキリトの肩を叩いた。
「キリト、お前は帰れ。後は一人でやる」
「っ!?何故だ」
かろうじて反論できたキリトにフリューゲルは彼のややすくんだ足を見て呆れた様子で少し強めの口調で彼の胸ぐらを掴んだ。
「そんな状態で戦えると思うか?これは遊びじゃないんだ。戦えるかどうかはその剣で示せ。もし出来ないなら私はお前をログインさせない」
「……」
「じゃあ私はこれから試合だ。それまでに私の期待を裏切らない結果を残せ。いいな」
フリューゲルはキツイ言葉でキリトを一喝するとフィールドに飛ばされ、次の試合に向かった。
準決勝、決勝共に密林地帯での戦闘で、木々を避けながら戦闘をするフリューゲルはさながら彗星であった。
決勝も順調に勝ち、ブロック優勝でロビーに戻ったフリューゲルはキリト達のいるFブロックの試合を観戦していた。
「(あっちも決勝か……)」
観戦していると映像に衝撃的なものが映った。
「(アイツ…試合をしないつもりか……!?)」
フリューゲル視線の先に見えたのは高速道路の上でただ呆然と歩くキリトの姿だった。
試合をまともにやる気は無いのかと思ったが、どうも様子が違った。
「(あの目は…覚悟を決めた顔だな……)」
フリューゲルはホッとして観戦をしていた。
キリトは光剣を振って自分にできる最大限の事をやろうと決めた。
SAOの時、自分の代わりに罪を背負ってくれたのはブレイドだ。明日奈と同い年なのにずっと大人に見えるブレイドは自分の目標でもあった。
そのフリューゲルに認められる為にも自分は自分なりの方法で彼に意思を示そうと決意をした。
「(勝負と行こう…ブレイドに認められる為にも……)」
キリトは光剣を視線の先にいるシノンに向けて振った。
私は、苛立っていた。そのわけはスコープに映るキリトに対してだ。逃げることもせず、ただ呆然と道路を一直線に歩いていた。
ふざけるな!と叫びたい気持ちを抑えこみ、銃口を彼に向ける。
この距離でも避けられる自信でもあるのだろうか。
シノンは昂ぶる心を感じながら着弾予想円をキリトの頭に向ける。
もしここで彼を倒すことができればーーー私は強くなれる。
そうすれば私はーーーあの人に会えるかもしれない。
あの時、私が下手に銃なんかを撃ってしまったから、罪を着せてしまった。
私がもっと強ければ、彼に罪を着せる事なくもっと別の方法があったかもしれないのに……。
修也さんに、顔向けできないーーー
そんな盲目的な望みが彼女を奮い立たせ、ヘカートⅡをキリトに向けて、銃弾を発射させた。
しかし……
ドォンッ!キィンッ!
キリトは発射された銃弾を真っ二つに切ってしまった。
「(そんな!?あり得ない!?)」
そして真っ二つに割れた銃弾が道路で倒れていたバスにあたり、爆炎に包まれた。
シノンが驚愕し、固まっている隙にキリトは爆炎を利用して急接近してシノンの首にフォトンソードを当てていた。
「どうして、私の照準が予測できたの……?」
キリトに思わず聞いてしまったシノンはしまったと言う表情をしたが、キリトはシノンの問いに答えた。
「スコープ越しに君の目を見た」
「っ!?」
ーーこの人は、とても強い
直感的にそう感じた私はキリトに疑問が浮かんでしまった。
それは一回戦が終わった後、怯えていた彼だった。冷たい手で私の手をすがっていたのか。
「それほどの強さがあって、貴方は何に怯えるの」
「こんなの強さじゃない。ただの技術だ」
「嘘、嘘よ!テクニックだけでヘカートの弾を切れるはずがない!あなたは、どうやって……、その強さを手に入れたの……?それを、それを知るために「ならば聞こう!」っ!?」
キリトは低く、しかし蒼い炎のような熱量を秘めた声で囁いた。
「もし、その銃の弾丸が現実世界のプレイヤーをも本当に殺すとしたら…そして殺さなければ自分が、あるいは誰か大切な人が殺されるとしたら……その状況で、それでも君は引き金を引けるか?」
「……!!」
呼吸も忘れ、シノンは両眼を開いた。まるでか今の自分を知っているかのような話し方だったが、それは違うと判断した。
「(この人も、昔私と同じようなことがあった……?)」
「…俺は何もできなかった。あの時、アイツがいなければ……アイツが全部罪を負ってくれたから……俺はその罪に悩まされずに済んだんだ……俺はとんだ罪人だ」
シノンの予感は当たり、キリトの思い詰めるような呟きに思わずMP7を地面に落としてしまった。そしてその指先がキリトの頬に触れる寸前、キリトは苦笑いを浮かべながらシノンの事を見た。
「それじゃあ、試合は俺の勝ちでいいかな?」
「え…?あ、ええと……」
「なら降参してくれないかな。女の子を斬りたくないんだ」
その言葉に、シノンは自分の状況を再度認識して……羞恥から顔を真っ赤にした。この情けない有様がGGOの至る所で生中継されているという事にようやく気付いたのだ。
シノンは後ろに一歩下がると空に向かって
リザイン!
と叫んでいた。
試合後、待機ドームで座っていたフリューゲルにキリトは近づいた。
「あ、あの……ブレイド?」
「……何だ?」
フリューゲルに恐る恐るキリトは声をかけるとフリューゲルは少し重めの声でキリトに聞き返した。
「あ、えっと……「さっきの試合か?」あ、あぁ……」
思わず緊張してしまうとフリューゲルはため息を吐きながらキリトに言った。
「覚悟はよくわかった。あとは明日の試合だ。残りは向こうで話す」
「わ、分かった」
「ログアウトは私の借りている宿でする。こっちに来い」
そう言って帰りはキリトとバギーに乗り込んでフリューゲルの借りている宿に向かった。
宿に着き、お互いにログアウトした二人は病院を出て、近くの公園のベンチに座った。
「ほらよ。今日は冷える、それで温めておけ」
「あ、ごめん……」
キリトの手に入るように投げられたコーヒー缶は冷える体にはちょうどいい温かみを持っていた。
修也は一人の横に座り、好きだと言うおしるこ缶を飲んでいた。
「和人」
「っ!?何だ?」
そこで徐に修也は口を開いて、重く呟く。
「私は少し……人を学んだ気がする」
「?」
突拍子もない言葉に和人は疑問符が浮かんでいたが、そんなことも気にせずに修也は話し始めた。
「今日自分達が会った亡霊は《ラフィン・コフィン》のメンバーだった。恐らくSAO時代の奴らの誰かだろう」
「……」
その名を聞くだけでキリトは後悔とトラウマが蘇る。するとそんなキリトとは裏腹に修也は驚きの発言をする。
「和人……私は正直、あのとき何人殺したのか正確に覚えていない」
「っ!」
目を見開いて和人は驚いた。しかし修也は飲み干した缶の中身を見ながら呟く。
「私は、奴らに殺された人達の仇討ちをしたつもりで居る……私は彼らが死んだ影響で生き残ることができた人を思い浮かべながら、あの時の事を思い出す」
「……」
思わず修也の話を深く聞いてしまった。その時の修也はどこか茅場晶彦に似たようなナニカを感じた。
「私は、ラフィン・コフィンの討伐、残党の討伐で命を救われた人に感謝をされた。
私はその事を胸に留めながら毎日を生きるようにした。
死人に口なし、それはラフィン・コフィンや彼らに殺された人たちも同じだ。
ただ、私が出来るのはどこかで殺された人たちが成仏している事を祈るだけだ」
そう言うと修也は空になった缶をゴミ箱に投げ入れると公園を後にした。
「明日もちゃんと来いよ。逃げるんじゃないぞ」
そう言い残すと修也はバイクに乗って家に帰って行った。
その時の彼は陽気を装っていたが、その裏でどこか無理をしているようにも感じ取れたように見えた。
ちなみに、シノンが修也と思っていたのは一瞬の出来事で、試合後は完全に忘れています。